ベート・ローガ? の眷族の物語   作:カラス

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ほんとすみませんでした。
色々と言い訳はあるのですが、文字通り言い訳なのですみませんでしたとしか言えません。
まだ覚えて下さっていたなら、ご一読下さい。
あ、オリキャラの情報が少し出ます。


終戦の三?

  ――神はここにおわします

  ――好奇に満ちて、我らを見守り、一欠片の奇跡(恩恵)をお恵み下さる

  ――神はここにおわします

  ――隣人として、友人として、愛する者として、親として

  ――神はここにおわします

  ――万能を封じ、零能となりて、我らと共に

  ――神は地上(ここ)に、おわします……

 

 

 ▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 だぁああああああああ、と訳も分からぬまま声を上げればこうなるだろうという、見本のような絶叫を響かせながら、体の半分ほどをミノタウロスの血液で染めた人影が脱兎の如く駆けていく。

 助けてもらったにも関わらず礼もないのはどうかと思うが、そもそもの原因はロキ・ファミリア(こちら)の不手際であるし、悪態をついてくる輩も多い冒険者としてはまだマシな手合いでもある。見た限りいかにも駆け出しといった風貌だった。それがいきなりミノタウロスに襲われればあぁもなるかと納得もする。

 

 匂いを探った感じからして、最後の一体だった個体を倒したようなので、これでやっとミノタウロスとの楽しくもない鬼ごっこは終わりというわけだ。

 

「戻って団長たちへの報告頼む。俺はこのまま上ってギルドに事のあらましを伝える」

「あ」

 

 差し出して、しかし取られることのなかった手を見つめていたアイズの横を通り抜ける。

 

 (さて、どういう感じで誤魔化すか)

 

 コキリと首を鳴らし、雑多に現れるモンスターを、片手間どころか特に意識も向けずに殺しながら進む。

 考えるのは管理機関(ギルド)への報告内容(言い訳)だ。人的被害――ミノタウロスに驚いて転倒位はあるかもしれないが――はなかったのだからそのまま言っても問題はないだろうが、突っつかれる弱みを素直に出す必要もない。こういうのは団長の十八番なんだが、と呟きながらベートは考えを纏めに掛かる。

 

 こういう報告は余人の証言が入る前、とっととに済ませるに限る。この後、恐らくミノタウロスに追いかけられた下級冒険者がギルドに押し寄せるだろう。何であんな上層にミノタウロスが居るんだ、話が違うと。その時に原因を調べています、と言うのと事情を説明出来るのではその後の対応に大きな違いがある。

 迅速に原因究明が出来る頼れるギルドと、原因はまだ分かりませんと答える普段偉そうなだけで役に立たないギルド。どちらが印象が良いかなんて比べるべくもない。

 

 もし後者の意見が多数の状態になった場合、スケープゴートとしてロキ・ファミリアが槍玉に挙げられることになるだろう。ロキ・ファミリアがミノタウロスを駆除して回っていたのは多数の冒険者に見られている。そして、イレギュラー(ミノタウロスの集団逃走)があったとはいえ原因を作ったのは確かにこちらだ。弁解の余地はほとんどない。

 

 逆にギルドがその意見を甘んじて受け、ギルドが当たり障りなく穏便に事を運んだ場合、ロキ・ファミリアがギルドに()()を作ってしまう。そうなればギルドは喜々として色々と面倒を押し付けてくるだろう。

 オラリオトップのファミリアをある程度自由に動かせるというのは、多少の汚名を被ったとしても十分なリターンがある。

 まぁ今回の件はそこまで大事にはならないだろうし、押し付けられるとしても、精々がダンジョンの掃除当番(スウィーパー)作業だろうから、気にする必要もないと言えばないが、遠征後なだけに余計な問題を抱え込みたくないのも事実だ。

 

 

 だから――

 

 

「では、17階層で興奮状態にあったミノタウロスの集団と遠征からの帰還途中に邂逅し、戦闘。最中に集団でミノタウロスが逃走、それを追跡しつつ駆逐していった、ということでよろしいですか?」

「あぁ。事前に冒険者とやりあったのか、縄張り争いでもしていて興奮していたのかは知らねぇがな」

「17階層から5階層まで最短ルートで上がってきた、と」

「頭の回る強化種がいた感じはなかったが、バラけながら上がられたせいで手間が掛かっちまった」

 

 強化種、という単語を聞いた瞬間にギルドの職員は顔を顰めた。当然だろう。過去現れた強化種のせいでギルドはかなりの被害を受けたのだから。恐らく居なかった、と言われても緊張しない方がおかしい。

 

「過去に同じような事例は?」

「いえ、逃げた冒険者を追って上層まで来たことや、はぐれのモンスターが迷い込むように来る例はありますが、モンスターが先を走る形での例は、すぐに探れる範囲ではありません」

「……そうか。取りあえず分かる範囲でのバラけたミノタウロスと上ってきた奴らの逃走ルートはこれだけだ。必要なら後日、遠征の成果と今回の件を他の団員の話も纏めて報告書を出すが、問題ないか?」

「はい。すでに十分な資料ですが、出来れば頂きたいと思います」

「あぁ。――もし、何か分かるようならロキ・ファミリアにも情報が欲しい。たまたまならそれでいいが、遠征帰りを狙った横やりなら()()()()()をしないとならねぇ」

「――ッ、はい。分かりました。お疲れのところ申し訳ありませんでした」

 

 ギルド職員が頭を下げたのを契機に、一声だけかけて受付を後にする。

 はぁ、というため息を口の中で転がしながら、壁に背を預け、ダンジョンの入り口を見る。ひそひそとこちらを見て何事か囁く声がその内容まで聞こえるが、努めて無視する。獣人かつ一級冒険者の聴覚をもってすれば、この程度の距離で囁かれる言葉など、普通に話しているのと変わりはない。

 注目されることには慣れている。オラリオトップのファミリア、その一級冒険者ともなれば目立つのは当たり前だからだ。

 羨望、嫉妬、憧憬、嫌悪、好奇、畏敬、敵意、その他諸々。一々気にしていたらキリがない。

 今回の件は取りあえず原因不明、他派閥の手出しならこちらで落とし前をつける――という感じに落ち着けた。

 余計な火種を生みたくないギルドとしてはしっかりと調査して、こちらに教えてくれるだろう。協力的な姿勢は見せた。今回の遠征もギルドにせっつかれた面もある。これだけ材料があればまぁ、大丈夫だろう。

 遠征は相変わらず素直に終わらねぇな、とベートは一人ごち、壁から背を離す。

 

「うぉ、ロキ・ファミリアだ」

「遠征から戻って来たのか!」

 

 ダンジョンに続く出入り口から現れた集団に、その場の人間は目を奪われる。ベートが来たときは気付かなかった者達も、何だ何だと騒ぎ出す。

 にわかに活気づいた空気に辟易しながら、先頭を悠々と歩く団長の元にベートは歩み寄った。

 

「やぁ、ベート。アイズから大まかに聞いているけど、手間をかけさせたね」

「問題ない。ギルドへの報告はある程度済んでる。後日遠征の報告と一緒に詳細を上げれば終いだ」

 

 ロキ・ファミリアの行進に加わり、小声でフィンに説明を済ますと「仕事が早くて助かるよ」と軽い笑みと共にベートへ向けていた視線が切られる。

 ベートもフィンの横から隊列をずらし、後ろに控える。

 この集団の頭はフィン・ディムナだ。

 遠征から戻り、オラリオに()()したならば、先頭を歩くことを許されるのは、彼ただ一人なのだから――

 

 

 

 (──ところで、俺の罰はどうなったんだろうか? 出来れば有耶無耶になってると良いんだが)

 

 

 

 

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

 

「おっっっかえりぃいいぃぃいいいッ!!」

 

 ロキ・ファミリア本拠(ホーム)、黄昏の館の門が開かれると同時に、館の入り口から影が飛び出て来る。先頭に固まっていた男性団員達の横をすり抜けて、女性団員の集団に渾身のダイブを敢行。

 

「みんな無事やったか―っ!? うおーっ、寂しかったー!」

 

 言葉と共に、おおよそ受け身の事など何一つ考えず行動に移したあろう飛び込みは、最も近い距離にいたアイズが避け、ティオネが躱し、ティオナがズレて――反応の遅れたレフィーヤが犠牲になった。

 後衛とはいえLv.3の冒険者であるレフィーヤならば耐えられたであろう突撃は、受け身を考えない渾身の飛び込みと哀れな犠牲者(レフィーヤ)が予期せぬ事態に硬直していたこともあり、あっさりと地面に獲物を引きずり倒した。

 

「遠征の残った物資は食料、衛生用品、アイテムといつものように分類分けして倉庫に。ドロップアイテムは深層、下層のものはより分けて、それ以外は固めておいてくれ。消費した武器防具の数はラウルに報告書を渡しておいてくれ。あとでそれを纏めた資料を作って僕に提出するように、期限は――そうだね。今日を除いて二日以内だ。「二日っすか!?」アキとアリシア、ラクタはラウルの補佐をしながら今回の遠征で起きた50層の異常事態(イレギュラー)と新種の被害以外での、物資の不備と問題点を洗い出して、自分達なりの改善案と一緒に報告。後日全員に伝えるからしっかりと纏めておくように。勿論、自分達だけでする必要はないし、必要であれば団長()副団長(リヴェリア)に質問しに来てくれても構わない。これに関しては全員協力するように。団長命令だからね?『はい!!』 それから――」

 

 え、ちょ、きゃあーと体を弄られる犠牲者の悲鳴と、ぎゃあーと短い期間での仕事を申し付けられた青年が上げる叫びをを効果音にテキパキと指示を出す団長に従い各々が一様に晴れやかな顔でホームへと帰っていく。

 

「と、そうだ、ロキ。今回の遠征での犠牲者は無しだ。到達階層も増やせなかったけどね。詳細は追って報告するよ」

「んんぅー……了解や。おかえりぃ、フィン」

「ああ。ただいま、ロキ」

 

  神らしく整った容貌をへらりと崩し、暖かな声を掛けるロキ・ファミリアの主神ことロキ。未だに己の眷族(子供)の身体をまさぐっていなければ、それはそれは絵になる場面だったであろう。

 その横を通り過ぎようとしたベートに、ロキが声をかけた。

 

「あ、そやベートぉ。悪いんやけど、軽く身支度だけ整えたらディアンケヒトんとこの冒険者依頼(クエスト)の品、届けてくれへん?」

「…明日まとめてやった方が分かりやすくねぇか?」

「そやねんけど、こういうのは早め早めにしといた方が印象いいやん? 元々向こうがこっちの足元見てふっかけてきためんどくさーい依頼やし。それを遠征から帰ったばっかりの第一級冒険者に、その足で納品されるとぉ。ディアンケヒトはともかく、アミッドたんは多少なりとも負い目を感じると思うし。そら団長としての判断を間違えるような子じゃないけど、お得意様に配慮する程度の良識はあるはずやろ? こっちも遠征で色々入り用やから、こんなんで色付けて貰えるなら万々歳ーってな?」

 

 言葉と共にレフィーヤの両手を持ち上げ、一緒に万歳させるロキ。振り解きたいが派閥に関わる事柄を話しているため、気を使っておとなしく流されるレフィーヤが不憫だった。

 

 

「フィン、ガレス、リヴェリアはいろんな報告纏めなあかんし、アイズとティオナはディアンケヒトに会った時また余計な注文付けられそうやし。……ティオネはフィンのためーって何するか分からんし」

 

 最後の件だけ微妙に顔が煤けているあたり、いかなロキといえども苦労している所もあるのだろう。食糧庫全損事件(珍味使えばいいってもんじゃねえ)ヨルムガンド出禁騒動(交渉に拳を前提とするな)血の粛清事変(お前が言うな)等々。

 

 眉根を寄せていたベートは、依然レフィーヤに抱きついたままのロキの言葉を飲み込んだ。普段はふざけているが、この主神は誰よりも眷族のことを考えている。その神が言うのだから、()()()()()()()()のが結果的にいいことなんだろう。

 

「──ハァ。分かった」

「おおきに。疲れてるのにごめんなぁ。代わりに浴場は一番に使っていーから。ぱぱっと汗とか汚れとか落としてきてな。というわけで、フィンー頼むなー?」

「分かったよ。依頼の品は用意しておくから、ベートは荷物を片付けたらそのまま浴場に向かってくれ。上がってくる頃には諸々の準備は整えておくから」

 

 軽く首肯だけして、ベートは自室に向けて歩き出す。その足取りは少しだけ重そうであった。

 

「で、中々無理がある理由をこじつけてまでベートに行かせる意味はなんだい?」

「えー、さっき言った通りやけど?」

「遠征直後に行かせる理由としては弱いんじゃないかな? それこそ後日行ったとしてもそこまで対応は変わらないだろう」

 

 ペラペラと羊皮紙を捲り目を通しながら、フィンはロキに問いかける。ベートが歩き去って行く時に解放したレフィーヤは側に居らず、地べたに座り込む主神と報告を読む団長のみが居た。

 

「まぁそやね。ディアンケヒトに何か頼まれても、受けるかどうかは後にしたらいいし。別に誰でも冒険者依頼(クエスト)の品の受領なんか出来るもんな。多少の色が付けられるかはともかく。あ、でもティオネのことはホンマやで?」

「それは知ってるよ。だからこそ、何でわざわざベートを行かせたのかを――」

聖母(マリア)の痕跡が見つかった」

 

 羊皮紙を捲る手が止まり、サッと視線が向けられる。胡座をかいて座るロキは作業を続ける団員達に目を向けたままだ。

 

「痕跡って言っても相変わらず大したもんでもない。が、まぁ今までの件も合わせて情報の擦り合わせがしたかったみたいやな」

「……そうか」

「後日に他の皆と行って、ベートだけディアンケヒト・ファミリアに残って話すのも不自然になるから、多少強引でも行かせたってわけや」

聖母(マリア)、か。痕跡の具体的な内容は?」

「ん、いつも通りのダンジョンで聖母様に助けられたーってだけの話や……けど」

「けど?」

「その聖母様に助けられた周辺で、怪しいローブの集団を見掛けたって情報があったんや。頭まですっぽりローブを被ってて、出てるのは目元だけ。その階層の前後でそんな格好する必要のあるモンスターは基本おらん。かといって、それより下の階層で同じ格好した奴らの目撃情報は全くない。途中で脱いだんか。脱ぐ位ならそこでそんな格好してる意味もない、最初から着んと堂々としてりゃそっちのが目立たん」

 

 しごく真面目な表情で地面スレスレにまで顔を近付けて、前方の女性団員のスカートを全力で覗こうとする主神の姿に気を止めず、話の続きを待つ。

 視線を感じたのかサッとスカートの裾を抑えて振り向いた女性団員の姿に、手を地面に叩きつけ本気で悔しがったあと、何事もなかったかのように言葉を続ける。

 

 

「怪しい集団と聖母の関連性があるのか、ないのか。いや、あるものだと考えて動くしかないか。聖母の動向は掴むことが難しいからね」

「怪我を治療して貰った。命を助けて貰った。自分の無事を涙ながらに喜んでくれた。そんな相手を突き出す事が出来るヤツがどれだけおるかって話やからなー。しかも対価を求めず、無償でときたら意地汚いリヴィラの町に居る住人でも口をつぐむ奴らが多いやろ」

 

 おまけに美人で気立ても良いときたらもうお手上げやー、と肩をすくめたロキが立ち上がる。パンパンとズボンに付いた汚れをはたき落として黄昏の館に向かって行く。眷族(子供)の無事を確認したし、伝えるべき事も伝えた。後はステイタスの更新やら明日の宴会の準備だと足取り軽く戻っていった。

 

 フィンはその様子を見送ってから作業に戻る。色々と問題は山積みだが、まずは皆が無事本拠地(ホーム)に帰れた事を喜ぼう。冒険者はいつ死ぬとも分からない。だからこそ、喜ぶべき時には精一杯喜ぼう。それが明日への活力に、生への執着に、ひいては生存率の向上に繋がるから……

 

「いや、違うな」

 

 ワイワイと騒ぎながら作業を続ける仲間達を見て考え直す。

 

「そっちの方が、楽しいからね」

 

 フィンはクスリと笑みをこぼし、ロキの奔放さが移ったかな? と呟いた。存外自分も本拠地に戻ってこれて浮かれてるのかもしれない。

 団長室に向かう道のりは、遠征の疲労を差し引いても、中々どうして悪くなかった。




久々過ぎて話がコロコロ転がってしまった。
次回はもっと早く上げたいって前も言ってた気がしますねこれ…

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