ベート・ローガ? の眷族の物語   作:カラス

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小説八巻のベートの活躍に心躍り、アニメのソード・オラトリアで心を折られ、ダンメモで一発目のチュートリアルガチャでベートが出た事に一念発起しました。書き方などが変わっているかもしれません。
待っていて下さった方々はすみません。
初めての方はどうかよろしくお願いします。
よろしければどうぞ


終戦の三

「アイズ、あのモンスターを討て」

 

 一人でだ、と小人族(パルゥム)の少年は彼女の顔を見上げながら言った。

 

「待ってください、団長!?」

 

 その言葉を聞いて、誰よりも早く、レフィーヤが悲鳴を上げるように叫ぶ。ティオナ達も―すぐに詰め寄ろうとするが――爆撃。先ほど殲滅した芋虫型のモンスターが進化したような上半身が人型で階層主クラスの規格外の大きさを持つモンスターによる攻撃。線の細さからどこか女性を思わせるモンスターが動いた。

 扁平状の腕を広げ、そして蠢くように多脚を動かし進行を開始した。

 

「……時間がない。ラウル、リヴェリア達に撤退の合図を出せ!」

「ねぇ、ちょっと、フィン!? 何でアイズ一人だけなの!? あたしもいくよ!」

「団長、私からもお願いします。ご再考を」

 

 吹き飛ばされかけてもなお、しつこく食い下がろうとしたティオナ達に、フィンが団長としての言葉(命令)を発しようとして――

 

 ドンッ、と空気を震わせる音と共に閃光が打ち上げられる。全員が音の発生源に目を向けると、使い切りの信号弾を捨てるベートの姿があった。ベートは視線が自分に集まっていることに気付くと怪訝そうな顔をした。

 

「……撤退だろ? 早く動くぞ」

「ベートは良いの! アイズ一人を残すなんて、心配じゃないの!?」

「そ、そうですッ、せめて援護だけでも」

「いらねェよ」

 

 噛みつかんばかりに言い募ろうとしてくるティオナとレフィーヤの言葉を、ベートはピシャリと切り捨てた。

 冷たく感じる声音に、ビクッと肩を震わせたレフィーヤ。その姿を一瞥し、ベートは手早く物資を纏める。

 

「別にレフィーヤ(Lv.3)だからって訳じゃねェ。ラウル(Lv.4)だろうがティオネ(Lv.5)だろうが、リヴェリア(Lv.6)だったとしても、団長の指示は変わらなかっただろうよ」

 

 モンスターの腐食液を浴びたせいでエリクサー(万能薬)によって傷は癒えていても、服を羽織る暇がなかったため、未だ晒されたままの上半身に物資を背負うベート。

 

「それと、レフィーヤ(こいつ)はともかくヒリュテ姉妹(お前ら)は分かってんだろ。()()()()()を使わせるなよ」

「な――」

 

 あまりにも厳しい言い方に、レフィーヤは立場(上下関係)を忘れてカッと頭に血を登らせる。ふざけないで下さい、と感情のまま口をついて出ようとした声は、苛立ちを滲ませるベートの声によって止められ、舌先で解れて消えた。

 

「――ロキ・ファミリアでダンジョンにいるんだ。()()()()()()()()()()()()()で判断を間違えるんじゃねェよ」

 

 ──殺したいのか

 怜悧な声が、一切の反論を封じ込める。

 

「……ッ、分かってるわよ。悪かったわ、手間かけたわね」

「うん、ごめん、ベート。わがままだった」

 

 怒鳴りそうになる自分を抑え込んで、ティオネは詫び、意気消沈したティオナも謝った。これ以上の反論は派閥の幹部として、してはいけないラインだった。個ではなく群として動いている中で、上の者が独断を許されるのは、それに見合うだけの能力、実績、強さを持っていて、その判断が群に利益を与える場合だ。

 そして今回はその条件を満たさない。ならば、トップの言葉に従うべきだ。

 

「わ、私は、残ります。――残らせてくださいッ!!」

 

 目を瞑り、魔法杖をギュッと握り締めながらレフィーヤは声を上げた。

 

「ちょ、レフィーヤ!?」

「お願いしますッ、離れた位置からの援護だけでもいいんです、少しでも力になりたいんです。お願いしますっ――お願いします!!」

 

 敵が迫る中、本来ならここで()()を言っているレフィーヤを怒鳴りつけるか、張り倒してでも速やかに後退すべきだ。

 だが――

 

()()()()()()()()()()()、ね。レフィーヤ、君にはそれがやれると?」

「はい、やります。やらせてください団長!!」

 

 つ、と細められたフィンの眼差しがレフィーヤを射抜く。レフィーヤはその視線に怯むことなく肯定した。

 

「アイズ」

「うん、()()()だよ、フィン」

「……そうか。なら許可しよう」

「だ、団長!? なら私も」

「ただしッ! ――残るのはレフィーヤだけだ。他の誰も護衛には付けない」

「な、無茶だよ!? レフィーヤを一人で残すって」

「それでも残るかい? レフィーヤ」

 

 フィンは傍で抗議を繰り返す姉妹に目もくれず、レフィーヤへと問かける。

 

「はい、やります。私もロキ・ファミリアの一員なんです、やってみせます!!」

「却下だ」

 

 熱を灯した瞳で力強く言い切ったレフィーヤの頭部が(はた)かれた。ぐわんと視界が揺れて、不意を突かれたレフィーヤはあっさりと意識を飛ばした。

 崩れ落ちるレフィーヤを、わわと慌ててティオナが抱き留める。

 

「ベートぉ」

「時間がない」

「そうだけどさー」

「えっと、どういう……?」

 

 ラウルが首を傾げながら疑問の声を漏らすが、それは移動しながらだ、とフィンはアイズを残し後退を始める。

 

「遠征は(しま)いだ。早く終わらせて帰るぞ」

「うん、ごめんなさい」

「それはリヴェリアにでも言いな」

 

 嘆息と共にベートはフィン達に続いて後退して行った。

 愛剣(デスペレート)を構え新種のモンスターに向き合う。この程度の敵に手古摺ってはいられない。もっともっと強くなるために。

 

「行くよ」

 

 風と共に、剣姫は飛ぶ。己が宿願を果たす為、より高みに上る為に。

 

 

 

 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 リヴェリア達待機組と合流したフィン達は全体の被害を確認しつつ、高レベル冒険者の優れた視力で、一人戦闘を続けるアイズを見守っていた。

 

「ベート」

 

 団員たちがアイズの奮闘を見守る中、黙々と武器の整備をするベートの横に立ったリヴェリアが、視線はアイズへと向けたまま声をかけた。

 

「すまないな。損な役目をさせてしまった」

「……ああ、さっきの事か」

「ああ。フィンから聞いたが、あれはお前の判断が正しい。今あのモンスターの戦い方を見れば、レフィーヤも理解するだろうが……」

 

 口と頭部の管からから放たれる腐食液、アイズの攻撃に追随する反応速度、爆発する粒子。どれを取っても距離を離した程度では対策にならない。未だ並行詠唱を習得できていないレフィーヤでは、足手まといにしかならなかっただろう。

 

「それじゃ遅い」

「そうだ。窮地に陥ってから対策を考えるようでは遅い。どうもレフィーヤは、ことアイズが関わるとなると、無茶をしようとする」

「――ハ」

 

 ため息のような声が、ベートの口から洩れる。モンスターに弾き飛ばされたアイズの姿に、周りの団員達が声を上げる中で、その声は近くに居るリヴェリアだけに届いた。

 

「……何か言いたげだな」

「いや――先は長そうだな、副団長」

 

 ベートは苦い表情をしたリヴェリアに目を向けずに、淡々と身支度を整えていく。

 

 

「ただ砲台になって魔法をぶっ放せばいいって訳じゃない。全体を見て判断を下せないと話にならねェ」

「随分評価が厳しいな」

「オラリオ最強の魔導士の後継なんだ、求められる能力が高いのも仕方ないだろ。それに、副団長(リヴェリア)ほどじゃねぇよ」

 

 ワッ!! と歓声が上がる。周りの団員達が拳を突き上げ勝利を祝っていた。大型モンスターがアイズに討ち取られたのだ。一通り準備の整ったベートが立ち上がる。

 

「行かねぇのか?」

「……そうだな。私はアイズの様子を見に行ってくる。ベートもあまり無理をするな」

 

 リヴェリアは念を押すようにベートに一声かけると、戻って来たもう一人の問題児へと歩み寄っていく。

 

 今回の遠征はここまでだ。

 新種のモンスターの事や、自分を含め、全体の課題や問題点も色々と浮き彫りになった。新階層へと挑戦出来なかったこと、受けた被害を考えれば厳しい結果になったと言わざるを得ないが、今回の件で浮ついていた気持ちも引き締められるだろう。未踏破階層だけでなく、ダンジョンとはどのような場所においても死の危険があること。それを未踏破階層へと向かう前に再認識出来たのはファミリアとしてプラスになった。

 

 地上に戻るまでは油断出来ないが、大規模なイレギュラーと言うべきこの事態を死者無く乗り切れたのは大きい。ここで死者が出てしまえば、次回の遠征に暗い影を落とすことになっていただろう。

 

 

 

 ──ベートは出会った当初よりも強くなった。判断力も知識も技量も、何もかも比べものにはならない。

 ──だが、それでも。その眼だけは、その瞳の奥にある感情だけは……

 

 

 

 歩を進めていたリヴェリアの視界に、おずおずと近付いてくるエルフの姿が入ってくる。

 

「リヴェリア様」

「レフィーヤ、目が覚めたのか」

「……はい。あの、私」

「頭は冷えたか?」

「ぁ…」

「確信も根拠も無く、フィンの指示に従わず行動しようとした。その上一人でという条件を付けられてもなお、意見を翻さなかった。自分で無茶だと思わなかったか?」

 

 レフィーヤは目を伏せ、魔法杖を持つ手も微かに震えている。

 

「お前があの子(アイズ)の力になりたいと思っているのは知っている。その為の努力をしていることもだ。だからといって、無茶をしようとすることが正当化される訳ではない」

「はい」

「歯痒くても、堪えなければいけないことは多い。レフィーヤ、お前はまだまだ弱い。それを自覚しろ」

 

 リヴェリアの厳しい言葉が、レフィーヤの心に突き刺さる。どれも正しく、自覚している……いや、()()()()()()()()()()()()ことだからだ。

 

 ──私は弱い/でも役に立てるかもしれない

 ──私は足を引っ張ってばかりだ/でも皆が褒めてくれる魔法がある

 

 言葉の裏にある期待、それはこうであって欲しいという希望的観測で、誰でも持ちうる自分は出来るんだという考えだ。その考え方自体は恥すべき物では無いが、他人に指摘されなければ顧みないものでもある。分かっていると思っていることを他人に言われると羞恥心が湧くものだ。

 尊敬しているリヴェリアにそういった心持ちを見抜かれたという思いもあり、余計にレフィーヤは落ち込んでいた。

 

「……は、い」

「一足飛びに強くなることは出来ない。もどかしく思っても、一歩ずつ着実に経験を積み重ねる事が大事だ。他人と比べるのではなく、自分のペースで強くなっていけ。無理をして足を踏み外せば、それは自分の身だけではなく、仲間の命にも関わるかもしれない。そんな事はお前も望んでいないだろう?」

 

 ギュッと握りしめた手が白くなっている。己の足りなさ、先走った事に対する羞恥がレフィーヤを苛んでいた。

 

「だが、今回は一概にレフィーヤだけが悪いわけじゃない」

 

 え、と声を漏らしながらレフィーヤが顔をあげた。リヴェリアの横顔には、手の掛かる子供を見るような表情が浮かんでいた。

 

「レフィーヤが一度やれると言ったとき、フィンはアイズに確認したのだろう? そこで断らなかったのだから、非はアイズにもある」

「そんな、アイズさんは!」

「事実だ。大方、自分が何とかすれば問題ないと考えていたのだろうが……まったく、相変わらずアイズはレフィーヤ達に甘いな」

「アイズさんが?」

「ああ。ティオネとティオナ、それにレフィーヤには大分甘い。それだけ心を許してるのだろう」

 

 先ほどまで青かった表情にポッと朱が色付いた。現金なものだと、リヴェリアは内心で思う。

 

「だからこそ、レフィーヤ。これからもあの子(アイズ)を支えて、力になってやってくれ。強さを求めて、無茶をして足を踏み外すことが無いように」

「──ッ、はい!! ありがとうごさいました!」

 

 先程とは打って変わって、満面の笑みを浮かべたレフィーヤは、リヴェリアにお辞儀をするとアイズの元に走っていった。

 

「お主も充分にレフィーヤに甘いと思うが?」

「ガレス……盗み聞きとは趣味が悪いぞ」

「気を遣って待っていてやったというのに、随分な言い草じゃな」

 

 先程までレフィーヤを見ていた時と打って変わり、責めるような目つきで戦斧を担いだガレスを見やる。その様子にフンと鼻を鳴らして、ガレスは悪びれた様子も無く話を続ける。

 

 

「それで? わざわざそんな事を言いに来たのではないだろう。要件はなんだ」

「当たり前じゃ。──前衛は死者こそ居ないが、盾や防具をかなりの数をやられておる。防壁(タンク)としての機能が落ちるのは確実じゃな。後衛(うしろ)に負担が掛かることになるが、どうだ?」

 

 連れ立って歩きながら後の問題点を突き詰めていく。異常事態(イレギュラー)を乗り越えたからこそ、その直後や帰還までには殊更に慎重にならなければならない。

 

「そうか……後でフィンも交えて話すが、後衛組(私達)としてはアイズ、ティオネ、フィンはこちらに欲しい。ラウルには悪いが、中衛の統率は任せる形が望ましい」

「下層まではフィンが中衛に控えなければ難しいと思うがのう…」

「ティオナを遊撃ではなく、完全に前衛に組み込んだらどうだ?」

「ベート一人に遊撃をさせるつもりか? 流石に無理があるじゃろう」

「そうだな──」

 

 周りをそれとなく見回しながら、小声で会話する。隠すような事でも無いが、今は怪我の治療と陣の立て直しを優先すべきだ。余計な情報で不安にさせる必要もない。

 

「ところで、何故高等回復薬(そんなもの)を持ち歩いているんだ。負傷したなら、早く使えば良いだろう」

「む? ああこれか。儂が怪我をした訳ではない。返す、だそうだ」

「返す?」

五十層(ここ)に来るまでに貰ったらしいの」

「ガレス、わざと誤魔化しているのか?」

 

 一々会話を区切るガレスに対して、リヴェリアはその柳眉を顰める。冗談を好まない訳ではないが、まどろっこしい話し方をされて気分が良くなる筈もない。

 

「せっかちじゃのぅ。もう少し情緒「ガレス」あぁ分かった分かったわい」

 

 流石に引っ張りすぎたかと思いながら、ガレスは肩を竦めた。

 

「自分には今必要ではないからと言って、ベートの奴が渡してきた。全く、自分で渡せば良いものを」

「……」

「と、おい。何するんじゃ!」

 

 ほっそりとした指を口元に添えたリヴェリアは、急に顔を顰めると、ガレスの手から高等回復薬(ハイ・ポーション)をひったくるように取り上げ、足早に進んで行く。

 

「あ、リヴェリア様」

「ホントだ、どーしたの? そんなに―」

 

 バシャッと、ヒリュテ姉妹とレフィーヤに囲まれていたアイズに問答無用とばかりに高等回復薬(ハイ・ポーション)がぶちまけられた。パチパチと何をされたか理解が追いつかないアイズは瞬きをする。

 

「まだ痛むか?」

「ううん、もう大丈……あ」

 

 あ、と口をついて出てきた言葉に気付いた時にはもう遅かった。恐る恐る、悪戯がばれた子供のようにアイズはリヴェリアの方を向いた。怒っている。とても怒っている。今までの経験からプルプルと体が震える。

 リヴェリアが眦を吊り上げ口を開こうとした瞬間に、反射的にきゅっと目を閉じたが――想像していた(説教)が来ない。疑問に思い、ちらっと見てみると、リヴェリアは大きくため息を吐いていた。

 

「フィンからの指示とはいえ、あまり無茶をするんじゃない。心配するだろう」

「…リヴェリア」

「それに物資を大きく失ったとはいえ、お前一人分程度の回復薬ならあるんだ。全体が疲弊している分、地上への帰還にはお前にも無理をさせることになるだろう。だからこそ、お前が万全な方が、結果として皆を助けることになるんだ」

 

 さっきも似たようなことを言ったなと思いながら、しかし言わずにはいられないのだ。上を見続けると足下が疎かになる。口うるさいと思われようと経験者(先達)として、伝えなければならないことがある。知らなかったせいで後悔しないように。

 

「うん」

「それと」

「?」

「一人でよくやってくれた、ありがとう。皆が助かった」

「――うんッ」

 

 綻ぶようなアイズの笑顔。たまたまそれを目視した団員たちが膝から崩れ落ちた。

 ――ちょ、どうしたの! まさかあのモンスターの腐食液に遅効性の毒がッ!?

 ――幻覚系かッ? 気持ち悪いにやけ面で倒れてるぞ!

 一部で大騒ぎが起きていたが、そんなことは関係ないとこちらでも騒ぎだした。

 

「アイズ、どっか怪我してたの!?」

「アンタ、そうならそうと早く言いなさいよ!」

「わわ私エリクサー貰ってきます?!」

「待って、レフィーヤ、もう大丈夫だから――」

 

 あーだこーだと言い合いながら移動していく姦しい集団を見送る。あの分なら大丈夫だろう。

 

魔法(エアリエル)、か」

「ああ。あの子のあれは強力な反面、出力を上げると反動も大きい」

エアリエル(あれ)を纏ったことのない儂らには分からんことじゃな」

「全力ではないが、フロスヴェルトを介して、疑似的に使ったことのあるベートだからこそだろう。強くなるにつれ、痛みを隠すことが上手くなってしまったアイズの事だ。言われなければ地上に戻るまで誰にも気づかれず、黙っていただろう」

 

 よく見ている、というべきか。そこまで気を回せるなら自身のことも気遣えと怒るべきなのか。

 

「まったく、困ったものだ」

「過保護が過ぎると鬱陶しがられるぞ。まだまだとは言え、あやつらも一級冒険者じゃ。自分のことは自分で何とかするわい」

「お前は放任が過ぎるんだ。お互いが切磋琢磨するのはいいが、誰かが歯止めをかけなければ、競争心は焦燥に変わり、無茶をすることになる」

「教育方針の対立かい? 保護者は大変だねぇ」

「フィン、茶化すんじゃない。被害状況はまとめられたのか」

「ああ。君達がじゃれ合っている間に健気な団長はしっかりと働かせて頂いたよ」

 

 両手を軽く広げ、やれやれといった声が聞こえそうな仕草とともにフィンが被害状況をまとめた紙を渡してくる。視線で撫でるように紙を見た後、リヴェリアはそれをガレスに手渡す。

 

「やはり、武器防具の損耗が激しいな」

「そうだね。クエスト組は撤退出来たけど、キャンプ側は防衛戦だった事もあって大分消耗してる。けど物品の損耗に比べて人員の負傷は少ない。前衛が踏みとどまってくれたのと、腐食液を受けた物の破棄の判断が早かったためだ。リヴェリアの現場の指示のおかげかな?」

「いや、私が指示を出す前に前衛がよく耐えていた。陣営を立て直す間を作ってくれたから、ここまで被害を抑えられた。よく鍛えられている」

「指示があったとはいえ、しっかりと仕事を熟したということじゃな。あやつらには本拠(ホーム)に戻ったら一杯奢ってやるか」

 

 口論、とまでは行かないがお互いにやや棘のある会話になっていた自覚のあるリヴェリアとガレスを、フィンが適度な落とし所(お互いの功績)を持って話を落ち着けた。そつなくそれをやってのけた団長は、そのまま報告と帰還までの方針について話を続けた。

 

「~~と、これくらいかな。後はその場の判断に任せるよ」

「ああ。あまり事細かに決めるよりもそちらの方が動きやすい」

「何事も無く終われば良いが、そうもいかんだろう。何せここは迷宮(ダンジョン)じゃからな」

 

 程なくして、ロキ・ファミリアは帰還を始める。まだまだ暴れ足りないと言う者、今回も生き残れたと安堵する者、自身の課題を見つけ克服を目指す者とそれぞれが様々な思いを抱きながら歩みを進める。

 

 ガレスが零した不吉な予感が的中するのは、帰還も間近な上層でのこと。片手間で片付けられるモンスターのせいで、最後の最後に要らぬ心労を掛けさせられる事になる。どこに居ても気が抜けない、侮れないのがダンジョンなのだと戒められた

 そこであった出会いこそが、白い少年の眷族の物語(ファミリア・ミィス)の始まりであり、既に始まっていた金の少女の剣姫の神聖譚(ソード・オラトリア)との交差点でもあった。

 

 しかして、ここで語られるのはそのどちらでもなく、一人の灰色の狼人(ウェアウルフ)が紡ぎ出す──喰い違う物語(ウルフ・ヒストリア)である。




読了ありがとうございます!
ダンメモ、敵強くないですか? ガチャで当たらないのはいつもの事なんですが、カウンターで技を使ってくるのはズルいと思うんです。後敵の気絶攻撃の頻度と成功率は頭がおかしい。

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