ただ愛されたかった
彼らの願いはただそれだけだった
リビングへと続く扉を開けて入ると2人の少年がいた。
1人は黒子のような服装に隈取をした少年、カンクロウ。
もう1人は赤い髪に愛という刺青、目の周りはクマがありどこか睨みつけるような目付きの我愛羅。
2人はこちらを見てぽかんと口を開けている。
最初に言葉を発したのは
「そいつ誰じゃん?テマリ」
カンクロウだった。
カンクロウはナルトを指差しながらテマリに答えを求める。
「こいつはうずまきナルト、ナルト、こいつらはあたしの、そしてあんたの家族になる。こいつらにだけは本当のことを教えておきたい、とくに我愛羅にはね、それでもいいか?」
ナルトはテマリの声に一瞬ためらったが頷いた。
「俺はうずまきナルト、木の葉の里から逃げて来た。なぜ木の葉の里から逃げてきたか聞いてもらってもいいか?」
ナルトが震える声で言うとカンクロウは頷くのみだったが我愛羅は何も反応せずただ座ったままだった。
「まず俺は九尾の化け狐の人柱力だってばよ」
この言葉を聞いたカンクロウは驚愕した。
自分の弟と同じような人間がいるとは思ってもいなかったからだ。
そして我愛羅は目を見開き、ナルトを見つめた。
先ほどまでは微塵も興味を示していなかった我愛羅が初めてナルトに興味を示した。
「そして俺は迫害を受け続けた。暴力、暴言、住むところも里の中の僻地に追いやられて、それでも里が大好きだから、我慢してきたんだ」
歯を食いしばり悔しさをあらわにするナルト。
その目は怒りと悲しみに支配されていた。
全てのことの顛末を話したナルト。
静かに目を閉じたまま話を聞いていた我愛羅。
驚愕と動揺、さらには凄惨な過去を聞き彼の弟となんら変わらぬ状態に陥っていたナルトを憐れむカンクロウ。
最初に口を開いたのはやはりテマリだった。
「あたしと父上はナルトに今日からこの家で暮らしてもらおうと考えている。ナルトを家族として迎えたい。カンクロウ、我愛羅、2人の意見を聞かせてくれ」
2人を交互に見つめ問いかけるテマリ。
なんと言われようがナルトを迎え入れるつもりではあるが一応了承を得るためだ。
「別にいいんじゃん?1人増えたところで負担になるわけでもない、ましてやこいつは…」
「ナルト、お前は俺と同じだ」
カンクロウの話を遮るように我愛羅が口を開いた。
「俺も生まれながらに守鶴という砂の化け物を体に宿している。そして俺もお前と同じように幾度となく命を狙われ続けている、今はこの里に俺の居場所ができたがな。俺は心から信じた人間に命を狙われ、返り討ちにしたあの時から周りの人間など信じていない。今のお前と同じようにな」
我愛羅はナルトを睨みつけながら話を続ける。
「お前は俺と同じ、俺もお前と同じだ。
体に宿したこの力の忌々しい呪縛を、
里を守るために犠牲になった俺たちを疎む存在を、
俺は許せない、許すつもりはない」
ナルトは我愛羅の言葉に頷きをみせる。
「お前がもしここで過ごしたいなら好きにしろ。
だがこれからもここで暮らすと言うのならうずまきナルト、お前は砂隠れの里の忍
になれ、俺たち三人のように、自分の身を守るためにもだ」
我愛羅は静かにこう告げた後に話を続ける。
「俺は今まで自分の境遇を打ち明けたものはいない。テマリにしろカンクロウにしろ血のつながりはあってもそれ以外に何もないと思っていた。今ではこの二人を心から信じているし、この二人のためなら命もかける。思い返してみると俺もお前と同じでつながりがほしかっただけなのかもしれないな」
どこか遠い目をした我愛羅は何か考えるように瞳を閉じる。
「我愛羅、これからよろしくだってばよ!」
ナルトはいつの間にか笑顔を見せ我愛羅に声をかけた。
我愛羅は瞳を閉じたまま、静かにこくんとうなずいた。
おもむろにカンクロウが口を開いた。
「ま、一応今日から俺たちは兄弟じゃん、テマリが13歳、俺が12歳、で我愛羅が10歳じゃん。お前はいくつなんだ?」
「俺ってば今年で10歳だってばよ」
両手を広げて告げるとテマリもカンクロウも笑う。
「じゃぁお前は今日から俺たちの弟だ。遠慮することはないじゃん」
カンクロウがナルトに告げる。
「そうだぞ、あっ、大切なことを忘れてたけど今日からナルトは自分の名を捨てることになる。今日から陽光になるんだ。だからカンクロウも我愛羅もこいつのことは陽光と呼んでやってくれ。それと時が来るまで人柱力というのも内緒にしておいてくれ」
テマリは肝心なことを思い出し2人に忠告すると二人はとりあえずうなずいた。
「じゃぁ今日はもうこんな時間だからご飯を食べて寝ようじゃないか。陽光の歓迎会も含めてパーッとやろうじゃない」
テマリはそそくさとキッチンに行くと料理を始めた。
「準備ができたら教えてくれ。傀儡の調整してくる」
カンクロウも部屋から出て行くと必然的にナルトと我愛羅が残る。
ナルトは周りをきょろきょろ見回している。はじめてくるところだからか落ち着かない。
「陽光、お前は木の葉のアカデミーに通っていたのか?」
我愛羅が口を開きナルトにたずねる。
「行ってたには行ってたけど俺ってば落ちこぼれでさ、なーんもできなかったってばよ、でも体力には自信あるってばよ」
にかっと笑いかけるも我愛羅は無表情である。
「俺がお前を鍛えてやる。一般的な忍術、体術なら教えてやれる。裏の修行場に行くぞ」
立ち上がり裏ドアから出て行く我愛羅をナルトは追いかける。
テマリはそれを見て優しく微笑むのであった。