攻殻機動隊 -ヘリオスの棺-   作:変わり種

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第25話

少佐は9課のオペレーティングルームで、厳しい表情のままモニターを見つめていた。無人機によって戦車を追跡していた自衛軍はまんまと罠に嵌り、ドラム缶と鉄骨を満載したトレーラーを吹き飛ばし、数億円の鉄橋を崩落させたのだった。テロリストたちはおそらく前もって戦車をトレーラーから移し、陽動のためにわざわざ人里離れた奥黒木のダムまでそれを走らせたのだろう。アジトにあった図面とシミュレーションも、それのためのブラフに過ぎなかった。

 

そして、我々がその餌に食い付いている間に、手薄となった新浜とその周辺地域の発電所や変電所を襲撃したわけだ。既に2つの火力発電所が襲撃を受けて設備に甚大な被害を受けたらしい。その上、変電所にも攻撃があり、新浜周辺の電力網は急速に機能不全に陥りつつある。ここまで来ると、ようやく相手の目的も分かってきた。

 

電力不足による大規模停電___ブラックアウトと、それに伴う電脳・通信インフラへの致命的な攻撃である。送電網へのサイバー攻撃や物理的な破壊工作でも停電は起こせるが、それは長くても数日程度と短期間に過ぎない。一方、大元である発電所自体を攻撃目標とすれば、復旧には数ヶ月程度と非常に長期間を要することになる。彼らが爆薬を集めていたのも、タービンやボイラーなどの大型設備を破壊するためだと考えれば納得がいくのだ。

 

ひとたび発電所が破壊されてしまえば、新浜に集中している政府機能や株式、企業活動は麻痺状態となり、天文学的な損失が出るだろう。データセンターなどはバックアップ用の電源が確保されてはいるだろうが、それでも数か月単位の長期停電には耐えられない。ましてや、最先端の電脳技術や医療によって支えられている人々の生活は破綻し、死者が出るのは確実だった。義体化している人間も、メンテナンスが受けられなければ万が一の時には助からない。

 

これが電脳や義体といった技術が存在しなかった前世期であれば、いま予想されるほどの甚大な被害にはならなかっただろう。だが、時代は移り変わる。科学技術への依存が高まれば高まるほど、それらが崩壊する危険も大きくなるのだ。

 

亡国の使者の犯行予告は、このことを主張したかったのかもしれない。確かに、大停電の中でも生身の人間なら水と食べ物さえ確保できれば辛うじては暮らしていけるかもしれない。だが、電脳技術の恩恵を受ける者たちには死の危険さえあるのだ。だが、たとえそのことを主張し、世界を変えたいと思っていようが、このような方法は到底許されるものではない。

 

「新日本電力から入電です。新浜一帯への電力供給がひっ迫し、あと発電所の一カ所が破壊された場合、大規模停電の恐れがあるとのことです」

 

オペレーターの声が室内に響く。少佐はモニターに表示された新浜周辺の地図を食い入るように見つめ続ける。これまで破壊された発電所や変電所が赤く点滅表示され、それに伴い機能を失った送電ラインも赤く染まっていた。生き残っている黒いラインが、赤いラインを避けるように迂回し、新浜を結んでいる。

 

彼女は新浜に最も多くの黒ラインを結んでいる送電線を遡った。中間、一次、高圧と変電所の階級が上がるにつれ、張り巡らされるラインの数が減っていく。最終的に辿り着いたのは、新大浜原発だった。ここを落とされれば、新浜一帯の電力供給は確実に破綻する。

 

「課長、大浜原発周辺の公安網に反応は?」

 

「リアルタイムで監視しているが、反応は出ておらん」

 

「カメラの映像は出せるかしら?」

 

少佐がそう言うと、課長はオペレーターに指示して地図を映しているのとは別のモニターにそれを表示させた。もっとも怪しいのは、原発に直通している専用道路だろう。少佐は自分の電脳内にリアルタイムで専用道路上のカメラの映像を転送させると、動く物すべてを片っ端から検索していく。

 

思ったよりも早く、目的のものは見つかった。ちょうど、それらは県道から専用道の入り口に入り込んだところだったのだ。暗い夜道を疾走する4台ほどの車列が、カメラの視界に捉えられていた。課長もモニターに映ったそれらを見逃してはいないようだ。

 

「課長。バトーとサイトー、パズ、ボーマを連れて原発に向かうわ。フル装備のタチコマ6機も必要よ」

 

「少佐、薄々感じとるだろうが、おそらく…」

 

課長がそう言ったのは、戦車と赤蠍の行方だった。原子力発電所は扱う物の性質上、通常の発電所の警備とは比べ物にならないほど厳重である。だが、あえてそこに狙いを付けたという事は、相手もそれなりの準備をしていると考えた方が自然だった。戦車を使うとするならば、ここ以外には考えられない。

 

「ええ、だから装備の点検は念入りに頼むわ。あと、対戦車兵器も手配して」

 

少佐はそう告げると、足早に部屋を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白い街路灯が照らす道を、4台のバンが疾走していた。間もなくそれらの車列は、差し掛かった交差点を右折し、スピードを上げる。

 

『新大浜地下原子力発電所』

 

交差点の案内標識にはそう書かれていた。この先は地震や大雨などの災害で寸断されないよう周囲の崖をコンクリートの強固な法面で固められ、頑丈な舗装が施されている原発専用道路だった。核燃料の陸上輸送も考慮して、カーブや傾斜も法令で定められた厳密な基準で造られている。

 

そんな道路を突き進むバンの中で、岸田は来るべき時まで過去の記憶を思い返していた。数年前の沖縄沖放射能除去プラントでの戦い。そこで自分は多くの仲間を失い、そして兄も失った。

 

あの時、兄は対戦車ロケット砲を携えてヘリポートへ逃れた敵を追撃したのだ。だが奮戦も虚しく、戻ってきたのは変わり果てた姿だった。頭部にライフル弾を受け、即死だったそうだ。自分自身も頭に裂傷を負い、何本か指も失ったが、それよりも彼を苦しめたのは、心に受けた傷であった。

 

なぜ、何もできなかったのか。何か月もの間、自責の念に駆られ続けた彼は、逃亡のために各地を転々としながら悶え苦しんだ。何のために、自分は今まであれほどの過酷な訓練に耐えてきたのか。そもそも、自分は何のためにこの組織に入り、何のために生きていたのか。

 

それすらも見失ってしまった。だが、時間が経つにつれて自責の念は薄れ、その代わりに芽生えてきたのは、深い憎悪だった。仲間を殺し、兄を奪った日本の公安当局の特殊部隊はもちろん、この世の義体化した人間すべてに憎しみを覚えた。自分の体を機械に置き換え、驚異的な体力と精度で自分たちを襲った彼ら。あんなものは、もはや人間ではない。彼らが連れていた思考戦車と同じく、単なる機械に過ぎないのだ。

 

機械を壊すことには、何も抵抗を感じない。それは、義体化した人間達にも当てはまることだった。義体して生身の体を捨てた段階で、彼らは人間ではなくなったのだ。ならば、それは命を奪うことではなく、破壊に過ぎない。岸田は、単純に兄や仲間を殺した連中を完膚なきまで叩き潰すことができさえすれば、あとはどうでも良かった。これは復讐なのだ。

 

もちろん、そのためには全てを捨てる必要があった。下手をすれば殺されるかもしれない危険を冒して、残った仲間を集めて組織を抜け出したのだ。約束されていた地位を捨ててでも、彼は復讐を果たそうとした。幸いにして、組織からその報いを受けることはなかったものの、彼に立ち塞がったのは数々の困難だった。

 

いかにして、テロを成功させるか。それは難しい問題だった。以前もテロ計画の立案には関わったことはあったが、自分自身で実行したことなど一度もない。しかも、世の中は全て金で動く。新興勢力に過ぎない自分たちに資金力などあるはずもなく、武器の入手経路も未開拓で、武器商人と会う事すらままならなかった。

 

そんな状況を救ってくれたのが、突然アジトに現れた赤蠍と名乗る傭兵だった。彼は計画を進めるのに必要なものすべてを用意してくれた。大量の資金や、武器、情報などである。また、計画自体の立案にも助言し、情報戦を仕掛けることや、大量のダイナマイトを工事現場から強奪して入手することなども彼の提案だった。

 

そのおかげで、ついに計画は最終段階を迎えることができた。ここまで来られたのは、自分についてきてくれた仲間と、赤蠍のおかげでもある。しかし、彼には一つ腑に落ちないことがあった。赤蠍はなぜ、自分たちを支援するのかということだ。

 

赤蠍からの連絡手段は基本的には通信のみで、本人が現れたのは最初の一度と今朝のみだった。しかも、現れたのは果たして本人なのかは分からない。この世にはリモート義体という子供騙しの身代わりも存在するからだ。彼のバックにあるのは、一体何なのか。あれほどの資金を足跡を残さずに用意し、武器商人にも顔が通じるというのは、どう考えてもおかしかった。大企業が関わっているのか、それとも政府が一枚噛んでいるのか。それすらもはっきりとはしない。

 

しかし、非常に注意を払うべき課題ではあるものの、彼はあえて詮索しなかった。利用するまで利用して、後は切り捨てればよい。途中の段階で反抗すれば消されかねないことは把握していたが、最終段階まできた以上、誰も後戻りすることはできないのだ。たとえそれが赤蠍であろうとも。

 

車列はいよいよ発電所の第1ゲートの前に差し掛かった。案の定、鋼鉄製のゲートは完全封鎖され、警備アンドロイド数体が道を塞いでいる。道路に設置されていた監視カメラやNシステムに引っ掛かり、襲撃を察知されてしまったようだ。だが、それも想定の範囲内だった。

 

「これで最後、派手に行くとするか」

 

ゲートの前で停車した車列。だが、突如としてその場に重低音が響き渡る。その音の主の姿は確認できず、想定外のことに警備アンドロイドは下手に動くことはできなかった。SMGを構えたまま、様子を窺い続ける。そんな中、車列の後ろに転がっていた空き缶が突如として押し潰れた。音は徐々に大きくなり、それと同時にまるで恐竜の足音よろしく、ドシンという重い音が轟いて地面が揺れる。

 

ようやく音が止むと、光学迷彩を解いたそれはついに姿を現した。オリーブドラブの森林迷彩に塗装された、キャタピラ付の4本の脚を持つ巨大な物体。陸上自衛軍が制式採用しているそれは、18式戦車に他ならなかった。エンジンが唸りを上げ、轟々と黒煙を噴き上げながらキャタピラが動き出し、ゲートに向かっていく。

 

ゲート前に展開していたアンドロイドは、プログラムに従って戦車相手に躊躇うことなく発砲を始めた。だが、放たれる銃弾は18式戦車の強固な複合装甲の前には無力であり、火花を散らして跳弾する一方だった。間もなく、長砲身の105ミリ榴弾砲がゲート本体に照準を合わせると、凄まじい爆音を轟かせてそれを薙ぎ払う。

 

生き残ったアンドロイドの銃声が虚しく響く中、前に突き出された両腕のマニュピレーターが開いた。2門の20ミリ機関砲から放たれたHEIAP弾は、アンドロイドの残りを一瞬にしてスクラップにすると、監視小屋を跡形もなく破壊する。辺りには濃密な硝煙が漂い、道路上には大量の空薬莢が転がった。

 

戦車はそのまま壊れかけたバリケードに突入すると、重厚なキャタピラでポールを折り砕き、強行突破を果たす。後ろにはバンの車列が続き、戦車は警備システムの中継装置を片っ端から撃ち抜きながら、原発本棟へ侵攻を開始した。

 

原発建屋の方からは、既にけたたましいサイレンの音が聞こえてくる。前方に見える第2ゲートも封鎖され、何台か停まった装甲車両からは増援のアンドロイドが降りているようだった。それは先ほどまでの警備アンドロイドとは違い、設計思想の段階から戦闘任務のみに重点を置いて開発されている完全な戦闘用のものだった。並みの小銃弾はおろか、対物ライフル数発の直撃にも耐えられる性能を持っている。

 

そんなアンドロイドに対し、前進を続けながら行進間射撃を行う戦車。射撃管制システムが各種センサーから得られる射撃諸元を元に驚異的な命中精度を発揮して、次々と第2ゲートに赤黒い爆炎を形作っていた。そんな中、最後尾のバンが停車すると、後部座席から数人の男が降りてきて、道路の中心にあるマンホールにフックを掛ける。

 

フックはワイヤーでバンと繋がっており、車が発進するのと同時にマンホールは飛び、光ファイバーや水道などが通る共同溝の入り口が現れた。彼らはその中に大きなリュックサックを投げ入れると、すぐさま車に乗り込んで退避する。10秒足らずで、強烈な閃光とともに地面が波打ち、吹き飛ばされたアスファルトがその場に四散した。さすがの専用道路も20キロ近い含水爆薬の破壊力には耐え切れず、まるで隕石が衝突したかのような直径10メートルほどの大穴が穿たれた。

 

これで陸路は断った。これから駆け付けるであろう警察の応援部隊も、ここから先は徒歩で移動せざるを得なくなる。それと同時に各種通信回線も破壊したので、発電所側が警察と連絡を取り合うことは不可能となった。

 

放たれた曳光弾が尾を引いて暗闇を切り裂く。再び上がった爆炎が、周囲を赤く染めている。105ミリ多目的対戦車榴弾が間髪入れずに撃ち込まれ、第2ゲートは早くも壊滅状態に等しかった。駆け付けた車両は炎上し、立ち上る黒煙が徐々に大きさを増していく。

 

「時間がない。突撃だ、行け!」

 

岸田の指示のもと、戦車は機銃掃射をしながら第2ゲートに突っ込んだ。金属が折れ曲がって衝撃音が響き渡り、キャタピラがアンドロイドを踏み潰す。ゲートは大破したものの、残骸が障害となって車両の通行が難しかった。そこで、一旦後方へ下がった戦車は105ミリ榴弾を撃ち込んで、大きい残骸を粉砕した。

 

至近距離での着弾ということだけあり、バンの中にいた岸田にも凄絶な衝撃波が伝わる。フロントガラスが震え、爆風が吹き荒んだ。戦車はもう一度ゲートに突入して、完全に障害物を排除する。敷地内から聞こえるサイレンの唸りは高くなり、山々に反響してこだまとなっていた。

 

先陣を切って敷地内に侵入する戦車の後を、バンの車列が追っていった。煌々と輝く無数の水銀灯が、夜空の星々のように闇に満ちた地上を彩っている。だが、そんな光景には目もくれず、岸田は装備の最終確認を行う。強化改造を施したカラシニコフに7.62ミリ高速徹甲弾を装填し、初弾を薬室に送り込んだ。その他、拳銃や手榴弾の確認を終えると、黒い目出し帽を被る。

 

そんな中、突如として戦車のすぐ近くで爆発が起こった。同時に銃撃が浴びせられ、重厚なボディが火花を散らせる。攻撃は左側の屋外駐車場の方からあったらしく、見ると駐車された車の陰に何かが隠れている。左腕のマニュピレーターが火を噴いて、20ミリ弾が掃射される。瞬く間にガラスが砕け散って車は廃車同前に破壊され、白煙が上がった。

 

ところが、再びの銃撃。今度は戦車も素早く反応し、マズルフラッシュが煌めいた方向に105ミリ榴弾を撃ち込む。車に命中した砲弾はそのボディを突き抜けて地面に達したところで炸裂し、木端微塵に吹き飛ばした。だが、目標には命中していない。その寸前に車から飛び出し、砲撃を躱していたのだ。そして、素早い動きを見せる灰色の物体は、20ミリ砲の掃射を回避しつつ、後部の砲塔から火を噴いた。

 

それは走行中だった18式戦車の左前脚に命中し、装甲が大きくへこんだ。しかし、煙は出てはいるもののキャタピラは無事で、駆動系にも損傷はない。間もなく戦車は強力なサーチライトで灰色の物体を照らし、警備用の軽多脚戦車と認識した。

 

岸田は車内で舌打ちを漏らす。国の最重要施設の一つである原子力発電所は、国内でもトップクラスの警備体制が敷かれている。先ほど通過した2重のゲートや、大量に配備された警備・戦闘アンドロイドなどがその好例だ。また、セキュリティ・フォースと呼ばれる私設警備部隊も組織されており、事前に掴んだ情報ではその中に軍から払い下げられた旧式の軽多脚戦車6機が配備されていることが分かっていた。

 

だが、ここまで早い段階で早く現れたのはやや誤算だった。おそらく、巡回中の機体が近くにいたのだろう。しかし、この程度の敵にみすみす時間稼ぎを許すわけにはいかないのだ。

 

「くそったれの戦車め!おい、チャーリー班は配置についているんだろうな?」

 

無線機に怒鳴る彼。警備戦車は18式戦車の周りを一定の距離を取りつつ攻撃してきており、機敏な動きもあって主砲を命中させるのは高度なAIを以てしても難しかった。だが、所詮は軽多脚戦車である。主力戦車として開発された18式戦車に比べれば火力、防御力ともに劣り、胴体中央の50口径ガトリング砲も牽制程度にしかならなかった。唯一脅威なのは後部ポッドの57ミリ榴弾砲だが、一撃で致命打を与えるには至らない。

 

次の瞬間には、20ミリ砲の掃射を躱し切れず、警備戦車はその弾幕に飲まれていた。火花が散って銃弾がはじけ飛び、白煙がもうもうと立ち上る。ところが、被弾箇所は大きくへこんで塗装が剥げたものの、停止するような素振りは見せない。さすがは元軍用戦車といったところで、20ミリ砲の掃射を一度受けた程度では破壊するのは不可能なようだ。だが、戦車には弱点もある。無線を受けた岸田は、目出し帽から白い歯を見せ、一人で笑みを浮かべていた。

 

警備戦車は態勢を立て直すと、今度は後ろの車列に目標を絞る。両腕の7.62ミリチェーンガンがすぐさま照準を合わせ、連続音を轟かせて銃弾を撃ち込み始めたのだ。だが、勿論バンは改造された強化仕様で、弾は防弾処理された内壁に阻まれ、車内へ貫通することはできない。

 

そして、18式戦車の20ミリ砲から逃れるべく、機銃掃射を終えて後方に退避した時、突如として警備戦車が弾き飛んだ。火達磨になりながら横転した戦車は搭載弾薬に引火したのか再び爆発を起こし、無惨にも四散する。吹き飛んできた胴体を容赦なく無限軌道で踏み潰した戦車は、再び侵攻を始めた。

 

攻撃は建屋の屋上から行われていた。赤蠍から提供された光学迷彩と警備システムの配置図のおかげで、支援部隊の侵入も成功裏に完了していたのだ。持ち込まれたのは最新の成形炸薬弾頭を搭載した自衛軍の対戦車ミサイルで、戦車を盗み出したのと同じ倉庫から強奪したものだ。

 

「これで邪魔者は消え去ったな。各自、突入用意を始めろ。気を抜くな、動くものは全て撃ち殺せ。息の根が止まるまで、“念入りに”撃ち殺すんだぞ!」

 

「了解」

 

そう無線に呼び掛けた岸田は、フロントガラスから建屋を見上げた。天高く聳える煙突の背後には三日月が輝き、複雑な発電所のシルエットを浮かび上がらせる。敷地内各所を照らす照明の奥には、無数の変電設備と送電鉄塔が見えていた。張り巡らされた送電線は、山々の峰を越えてどこまでも伸びていく。その先には新浜を中心とする、首都圏があるのだろう。欲望にまみれ、機械に魂を売った哀れな者たちの溢れる、穢れに満ちた街が。

 

ここを押さえれば、そんな都市の息の根を止めることができる。忌々しき科学に支配されたこの世界に、終止符を打つときがついに訪れたのだ。

 




2018/9/22 一部加筆修正

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