ではではどうぞ。
妹紅の一言で頭の中が真っ白になる。
「お、俺が?馬鹿言うなよ!俺がいつやったってんだよ!!」
「私は身を持って体験してるんだよ!これ以上にない証拠だろうが!!」
「当の本人が記憶にねぇんだよ!そもそも俺がお前らと対峙したのは里の中でのことだぞ!」
「だったら私達が見た橙矢は何だったんだよ!」
「知らねぇよ……そんな事」
呆れからなのか諦めからなのかため息をつく。
「……………何だそのため息」
しかしその行動がしてはいけない事だと気付いたのは次の瞬間。
「慧音を傷付けておいてその態度はなんだアアァァァァァ!!」
箍が外れたのか一心不乱に橙矢目掛けて弾幕を放ってきた。
「ちょっ、ここ何処か分かってるのか!?」
後ろに跳んで強化した腕を振り上げると地に叩き付けてその衝撃で相殺させた。
「そんなの……知ったことかァ!」
舞い上がる煙幕の中を妹紅が突っ切ってきて足を真上から振り下ろす。
「ッ!」
腕で受け止めると同時に焼き付くような痛みが奔る。もちろん比喩ではない。本当に焼けているのだ。
「ッゥ!」
腹を蹴り上げて距離を開ける。
「グ……!」
獣のようなギラつく瞳で橙矢を睨み付けると不死鳥を模した弾幕を放つ。
「それはもう見飽きた!」
「これもか!?」
妹紅が叫ぶと同時に不死鳥が爆散して橙矢の視界を遮る。
橙矢は舌打ちすると刀を横に振って煙を裂く、と同時に妹紅が目の前に迫ってきていた。
「何……!?」
顔を掴もうとしてくる腕を横から掴んで止める。横回転して妹紅を地に叩き付けて強化した拳を振り下ろす。
それを首だけを動かして避けると腹を蹴り飛ばされて橙矢は宙へ上げられる。
「ッ!」
「燃えろ!不死〈凱風快晴‐フジワラヴォルケイノ‐〉!!」
「冗談だろ……!?」
妹紅のスペルカードの中でも最大威力を持つ技を放たれる。
周りで爆発が起こり、注意が逸らされる。その隙に弾幕を容赦なく橙矢に浴びせる。
「――――!」
弾幕が四肢に直撃して橙矢を吹き飛ばし、地へと叩き付ける。何とか受け身を取りながら地を転がって着地した時の威力を流した。
尤も、弾幕が直撃した威力は流せるわけないが。
「そういえばアンタはこの技苦手だったな橙矢!」
「勝手に決めつけるんじゃねぇぞ蓬莱人形!」
「吠え面かくな殺人鬼風情が――!」
「かいてねぇよアホんだら―――!」
殴り付けた拳は妹紅にいとも簡単に止められて逆に殴り返される。それを耐えて足を強化して地を蹴ると下から顎を蹴り上げた。そのままバック宙すると流れる動きで首を掴み上げて近くの家屋に投げ付ける。
「うぉあ!?」
壁を壊しながら転がる妹紅に追い付くと今度は目の前で弾幕を放たれる。
素早く反応して間一髪で避けると蹴り飛ばしてさらに奥へと追いやる。
「クソがァ!」
宙に留まってから橙矢に飛んでくる。
「…………」
横にある柱に飛び付いて手をかけると勢いをつけて身体を床と平行に回転させて飛んできた妹紅に合わせて蹴り飛ばした。
「ッ!」
吹っ飛んだ妹紅に追い撃ちをかけようと駆け出す。
妹紅が吹っ飛んだ先が定食屋か飯屋だったのか長机が飛んできた。
「ッうぉッ!」
跳んで手を机に添えると勢いを受け流して避ける。が、次いで飛んできた机に吹き飛ばされる。
「ガ……!?」
肘を強化して机を打つと真っ二つに割る。
「中々効いたぞ妹紅……!」
刀を抜いて後ろに振るうと衝撃が地を削り取り、橙矢を吹き飛ばしていた威力を消す。
「……相変わらずな力技だな」
「お褒めいただき光栄です……っと!」
前に体重をゆっくり乗せていくと一気に加速して距離を詰めた。
「ッ!」
気付いた時にはすでに橙矢は懐の中。妹紅は高速で最善の手を考え出すと四方八方に焔を撒き散らす。
それを予測していた橙矢は後ろに跳んで回避し、着地すると同時に真横に駆け出す。
「何を………ッ!しま―――」
未だ家屋の中にいる妹紅からしたら壁などが邪魔で橙矢の姿を失う。
丁度妹紅から見えなくなる位置まで来ると腕を強化して振るって斬撃を放った。家屋を支える柱を斬り裂きながら煙幕を散らせながら妹紅がいる場所を通り過ぎ、その後に血が舞った。
(直撃した………!)
追い撃ちをかけるべく屋根に登って跳ぶと妹紅がいるであろう場所に踵を叩きつける。さらに回転しての踵落しなのでかなりの威力を持っている。
「脳天砕けやがれ!」
「――――それは無理な話だな」
急に凛とした声が聞こえて橙矢の踵落しを止めた。
「ッ!?」
煙が晴れるとまず目についたのが金色の九つの尻尾だった。次いで道士が着るような服が見れた。
「八雲………藍……!?」
八雲紫の式神だった。
「痴話喧嘩の最中すまないな。……だが東雲橙矢、些か貴様はやり過ぎだ」
「…………………ッゥ!」
不意に藍の姿が消える。
(マズい――――)
「遅いな東雲橙矢」
気付いた時には鋭利な爪で全身を裂かれていた。
「……ッ!」
吹き出す血を抑えながら距離を取る。
「……さすがは九尾の狐。そんじょそこらの妖怪とは比べ物にならないな……!だが何でこんな所に……?」
「紫様についさっき召喚されてな。それで貴様を止めろと」
「…………………」
無言で刀を中段に構える。
「………止めておけ。今の貴様では話にならん」
「知ったことかよ……!」
「………………そうか、なら……手加減はいらないな!」
「おっとそこまでだ」
二人の間に魔力で生成された剣が振り下ろされた。
「ッ!誰だ!」
「ボクだ」
楽しそうな声が聞こえるとその者の姿を現した。
「やぁ東雲クン。大丈夫だった?」
「……ロキ……!?」
▼
霊夢と紫は始まった東雲橙矢と藤原妹紅の戦闘を遠目に見ながら避難を急いでいた。
「紫!アンタはあっち行ってきなさい!」
「分かったわ。っとそれよりも……式神〈藍〉」
スキマを開かせるとその中から式神を呼び寄せた。
「紫様。お呼びでしょうか」
「藍、貴方は東雲さんの相手をしてなさい」
「御意」
藍は承諾すると橙矢と妹紅の方へ飛んでいった。
「これで東雲さんは大人しくなるでしょう」
「……式神程度で橙矢を止められるとでも考えているの?」
「……見たところ東雲さんはあの蓬莱人と同等よ。そこに蓬莱人よりも力が上な藍を投入すれば間違いなく落ちる」
「え、私ギャルゲーやってないわよ」
「そっちのオトすじゃないわよ。てかよく今の状況でそんなこと言えるわね」
「………確かに」
「それよりも、大方避難は終わってるわ。あ、霊夢。里の守護者様を安全な場所へ」
「はいはい」
言われた通りに慧音の元に歩み寄る。瞬間、
霊夢目掛けて雪崩のような弾幕が降り注いだ。
「――――――!!」
「霊夢!」
スキマを展開させると霊夢と慧音を引っ張る。
「……危なかったわね」
「ッ………!何なの今の……!」
「いやー、外したねェ」
「誰!?」
弾幕の中から一人の男が紫と霊夢に歩んでくる。
「さすがは妖怪の賢者。あれだけじゃ動揺しないか」
男が姿を確認すると紫は眉を眉間に寄せる。
無理もないだろう。なにしろ幻想郷には無いようなカラフルな色の服を着ていたからだ。
「……外来人かしら?」
「半分正解半分外れ。………まぁ無理もないか」
顔の半分を仮面で覆っている男は肩を揺らして笑う。
「アンタ!この騒ぎはアンタがやったの!?」
「人をそんな簡単に疑わないでよ博麗の巫女。第一にボクだって証拠は何処にある?」
「それは………」
「人を簡単に疑うのは良くないね。少し躾をした方がいいかな?」
「ッ………」
「そこで黙らないでくれるかな。もう少し話そうよ」
「な、何をよ……」
すると男はため息を吐いてやれやれと首を振るう。
「キミ達と話していてもつまらないな。やっぱり東雲クンを探しにいこう」
パチンと指を鳴らすと地から錆びた鉄の鎖が出てきて二人を瞬く間に拘束した。
「ッ!」
「何、これ……!」
「悪いケドキミ達を放し飼いにしてるわけにはいかない。東雲クンが揺らいでるからね」
そう言うと足早に霊夢と紫の間を通り過ぎていった。
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では次回までバイバイです!