幻想郷全土へ向けた刀を引き寄せる。限界まで引き絞ると一気に虚空に叩き付けた。それは大気を殴り付け、暴風へと化する。
「ッ!なんだいその力……!」
「私がやる……!魔砲〈ファイナルスパーク〉!」
ミニ八卦炉を拾い上げると光の奔流を放った。
「邪魔だ」
天叢雲剣によって裂くと斬撃を放つ。
「さっきからスペルが無効化させられる……!」
「……知らないのなら教えてやる。確かに速さはピカイチだ。だが光は水よりも斬りやすい。それ故に鋭利なものを直線上に置いておけば勝手に斬れる」
「だったら斬れないようにするまでだぜ!」
マスタースパークを再び放つ。
「………くどいな」
「恋心〈ダブルスパーク〉!!」
「ダブル…?増えただけか」
魔理沙が横へスクロールしてもうひとつの奔流を発射させた。
「紛らわしい!!」
煩わしげに地を殴り付けると地盤が捲れ上がる。それがダブルスパークを妨害する。
「これも防ぐか………!」
「お前のスペルはそんなもんかよ!」
神奈の通り過ぎたところに着地して辺りを見渡す。
「…………なんだ、まだ他の奴等がいるのか。……死骸に集る蝿か」
「………仕方無い。たのむ――――」
「……やっとね。待ちくたびれたわ」
瞬間橙矢の太股にナイフが突き刺さる。
「――――ッ!」
次いで暴風の塊が橙矢の四肢を叩いた。瞬時にその攻撃が誰からなのかを判断する。
「咲夜さんと……射命丸か……!」
「正解。よく分かったわね」
「あややや、さすがに橙矢さんは分かってしまいますか」
「逆に分からない方がおかしい」
一瞬で橙矢の前方に二人が現れる。
「…………距離を操る死神に時を止めるメイド、さらには幻想郷最速の鴉天狗…………いやはや困った。勝てる要素が見当たらねぇ」
「……その余裕は諦めからなのかしら、それともまだ何か策でも?」
ナイフを構える咲夜に向けて口を歪める。
「んなもんねぇよ!!」
目の前にナイフが迫る。
「ッ!」
身体を寝かせて避けると文に駆け出す。
「初めはお前だ射命丸!」
「私の事を忘れるなよ橙矢!」
横から妹紅が弾を放ってくるが全て斬り裂く。
「この隙に……!」
文と咲夜が橙矢の脇を駆け抜けて行く。
「行かせるか!」
回転して足を強化させると一気に追い抜いて神奈のすぐ後ろに着く。
「これで全員なのか妹紅……!」
ナイフと風を受け流しながら妹紅に叫ぶ。
「いや、あと一人いる」
手を翳すと焔を橙矢に放った。
「熱ッ!」
巧く文の風と衝突させて防ぐが次の瞬間目を見開いた。
巨人が腕を振り上げていた。それも橙矢と神奈目掛けて。
「萃香……!?」
「幻想郷を護る為だ。殺らせてもらうよ東雲!」
振り下ろされる拳。受け止めるという判断はすでに橙矢の頭の中には無かった。
「マズい…!避けろォ!」
神奈を抱いて前方へ跳んで倒れ込む。拳が橙矢を掠り、吹き飛ばす。
「ッ!」
地を転がるがすぐに立ち上がり、神奈の安否を確認する。
何とか立ち上がろうとしている神奈の背後にナイフを構えた咲夜が。
「止めろオォォォ!」
一瞬で咲夜の背後を取ると刀を振り下ろす。
「ッ!」
咲夜は時を止めると範囲外へ逃れる。そしてナイフを投げ付けてから時を動かす。
「そこか!」
ナイフをはたき落として咲夜に足を向けた、と同時に小町が距離を潰して橙矢を蹴り飛ばした。
「死神ィ!邪魔するな!」
「あんたこそ邪魔だ元退治屋!」
手で地を引っ掻いて無理矢理止めると斬撃を小町と咲夜に翔ばす。
しかし小町は距離を操って避け、咲夜は横に跳んで避ける。
「避ける事に関しては一級品だな!」
咲夜がナイフを投げると一瞬で橙矢の腹に突き刺さる。
「グ……ァ!」
立て続けに三本四本と色々なヶ所に刺さる。
「くそ!」
勘で後ろに跳ぶと目の前でナイフ同士がぶつかって金属音を奏でる。
「咲夜さんが一番面倒だな…!」
足を強化させるとその場から橙矢は姿を消す。
「ッ!」
瞬間的に咲夜が時を止めて辺りを見渡す。しかし橙矢の姿は何処にもなかった。
(何処に………!)
やはり時を動かして動きを見るか……。そして解除した、瞬間橙矢が目の前に現れて押し倒される。
「終わりだ咲夜さん……!」
「させるかよ!」
妹紅が横から頭を地に叩き付けた。
「妹紅……!お前が一番鬱陶しいんだよ!」
腕を掴んで身体を捻って位置を逆にして妹紅の上に乗ると腕を折った。
「―――――ッゥ!」
悶える妹紅から離れると小町と咲夜が橙矢を挟むようにして前後から迫る。
「そう来るか……!」
身体ごと回転させてナイフを受け流してその勢いで鎌を弾いた。腹を蹴り飛ばすと萃香が拳を振り下ろしてくる。
「ラアァ!!」
刀を振り抜いて斬撃を飛ばすと萃香を裂いた。
「グ……ガ……!?」
小さくなっていく萃香に追い付くと蹴り飛ばした。
「皆さん……!」
「……………どうしたよ。こんなもんか?」
混濁する文の前に来ると肩に刀を突き刺した。
「…ァ………!」
崩れ落ちる文を一瞥すると倒れている幻想郷の実力者達を見下す。
「………こんなものか」
踵を返すと神奈を追いかけていく。
「待ちやがれ………!」
裂かれた傷口を押さえながら箒に跨がり、神奈の前へと移動する。同時に二人の間に橙矢が割って入る。
「………!」
「いい加減諦めたらどうだ!」
刀を振り下ろす寸前視界の端に慧音が映る。
「退け慧音!私がやる!」
妹紅が慧音を手で制して焔を巻き上げた。魔理沙を押し退けて橙矢は神奈の背を押して避けさせた。
「外した…!」
「妹紅!もう一度やれ!」
「させるか!」
慧音を突き飛ばし、妹紅の首を後ろから絞める。
「こんなことしたって……!」
「無駄だろうな!」
腕を強化させると後ろに倒れ込むように投げ飛ばした。
「うわ……!」
背中を蹴りつけてさらに飛ばした。
「ここまでだ。これ以上お前らの相手はしてられないからな……!」
斬撃を真下に放って煙幕を張ると神奈の手を掴んで跳んでいく。
「ッ!何処に行きました!?」
文が羽団扇で煙幕を晴らす。
しかしそこには橙矢と神奈の姿はなかった。
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「………危なかったな」
先程とはうって変わって息を激しく切らした橙矢はひとつの木にもたれ掛かって座り込んだ。
「東雲さん大丈夫ですか!?」
「あ、あぁ大丈夫だ横になればすぐよくなる」
「………ですが」
「分かってる。見付かるのも時間の問題だ。……はっきり言って運が良いと思う。その気になればいつでも殺されたからな。俺も君も」
「……………ッ」
「さて……見付かる前に移動しとくか」
大分息が整ってきた橙矢は立ち上がって神奈を立ち上がらせる。
「博麗神社まであと少しだ。頑張れよ」
道を指差して神奈が走り出すと橙矢は踵を返した。
その時、橙矢の横に何かが落ちてきた。
「……………?」
「う………あ…………」
苦悶の声の主に近付くと目を見開いた。巫女服を着込んでいる幻想郷の博麗神社の巫女。博麗霊夢だった。
では次回までバイバイです!