いち早く光の奔流に気付いた橙矢は足を止めて後ろに跳んだ。
「チッ!誰だ!」
「私だぜ橙矢。少女を襲うなんて随分と変態になったなぁ」
箒に乗った白黒の魔法使いが降りてきた。
「魔理沙………。お前も邪魔するのか」
「それはこっちの台詞だぜ橙矢。何か面白そうな戦いをしてたから乱入したまでだぜ。まぁもちろん私だけじゃないが」
「…………まさか」
「……えぇそうよ。やっと追い付いたわ。この叛逆者」
楽園の巫女が祓い棒を橙矢に向けた。
「おーおー酷い言われようだな。俺はただ新郷を護りたかっただけなのにな」
「それが叛逆行為なのよ」
「ハッ、馬鹿言え」
刀を上段に構える。
「俺は俺のやりたいようにやる。それだけだ!」
一気に振り下ろす。そこから斬撃が飛んでいく。
「マジかよ!」
魔理沙と霊夢が左右に分かれて飛び、空中に浮かぶ。
橙矢が放った斬撃は勢いを衰えず、先のシヴァに向かっていく。
「狙いがバレバレだ!」
紫を弾き飛ばして斬撃を避けた。
「シヴァ!?それに紫も!」
「引っ込んでろ霊夢!お前の出る幕じゃねぇ!」
シヴァに駆け出すと刀を突き出す。
「また貴様か」
「悪いか駄神!」
手の甲で刀を弾かれると弾かれた方へと回転して斬りつける。
それもカリブルヌスに阻まれる。
「何でもガードしやがるなこの野郎…!」
「神だからな。それなりの力が無いとやっていけないのさ」
「言ってくれるな!」
強化した拳でカリブルヌスの上から殴り付けて弾くとその勢いで回転して回し蹴りを横っ腹に叩き付ける。
「うぐッ!?」
苦悶の声をシヴァが初めてあげた。
「俳優並みの演技だなァ!」
グラついた身体に更に追撃をかける。蹴った足を地に着いた瞬間身体を捻って顔面を蹴り抜き、次いで刀で斬り上げた。
それと同時に橙矢は首を傾げた。シヴァの身体を今間違いなく斬り裂いたはずだ。なのに血が出ない。それ以前に肉を斬った感覚が無いのだ。まるで空振りしたような……。
「どうしたんだ東雲橙矢?何かあったのか?」
シヴァが平然と立って口の端を吊り上げながら橙矢を見下ろしていた。
(何でだ…!?今間違いなく斬り裂いたはず……この距離で外すとは考えにくい……!)
考えられる事はひとつ。
「まさかすり抜けたのか……!?」
「外れだ。悪いが俺の身体は普通の武器じゃ殺せない。ましてやただの鋼が鋭くなったものなんかな!」
下から突き上げられるカリブルヌスを刀で受け止めるが次の瞬間甲高い音を立てて砕けた。
「―――――ッ!?」
「当たり前の結果だ。ただの鋼なんだ。聖剣と何度も衝突し合えば砕けるに決まってる!」
「くそ……!」
砕けた刀を放り捨てて徒手空拳でシヴァに挑む。
「橙矢!下がりなさい!」
霊夢の声が聞こえるが今の橙矢にはどうでも良いことだ。
「霊夢!東雲さんとシヴァまとめてやりなさい!」
「ッ!何馬鹿なこと言ってんのよ!」
「仕方無いわ!早く!」
「でも………」
「もういい!私がやるぜ!恋符〈ファイナルスパーク〉!!」
霊夢を押し退けて魔理沙が橙矢とシヴァ向けて八卦炉からファイナルスパークを撃ちだした。
「何………!?馬鹿かあいつ!」
シヴァは驚いたように目を見開いたがすぐに飛び退いた。橙矢も足を強化して後ろに全力で跳んだ。
「外した……!」
「充分よ。次は……霊夢!貴方はシヴァを狙ってちょうだ――――」
「偽造〈全妖怪の緋想天〉」
シヴァがカリブルヌスの先から紅い光線を放った。
「この技……!」
「そうだ…!こいつ人のスペルを真似するんだ!」
「真似とは………あぁまぁ確かにそうだが。だからこれも使えるぞ。紫奥義〈弾幕結界〉」
宣誓すると紫や霊夢の回りに結界が張られた。
「邪魔なんだよ…!恋符〈マスタースパーク〉!」
結界に光線を直撃させて破壊した。
「おう、さすがにまだ扱いに慣れないか」
「下手したら幻想郷の実力者全てのスペルを使えるわよ……」
「退け、俺がやる!」
地を蹴り、シヴァに拳を放つ。しかし橙矢の拳はシヴァの手によって止められた。
「なら……!」
腹を蹴り上げて腕を捻り、地に叩き付ける。叩き付けた勢いで前宙し、踵落しをした。
「ハァ、ハァ………」
一連の動きだけで息が切れた。思わず動きを止めてしまう。
「なんだよ、もう終わりか」
「何だと……!?」
「ほら行くぞ」
「な……!」
カリブルヌスを限界まで引き絞り、一気に振り抜いてきた。それを直撃する箇所を限界まで強化させて受け止めた。
「グ………!」
「ん、これを受け止めるか。なら……!」
シヴァがカリブルヌスに力を込めたと思うと、瞬間橙矢に身体がバラバラになるほどの衝撃が襲った。
「カ…………!?」
橙矢の身体は吹き飛び、木々を薙ぎ倒してなお勢いは止まらなかった。
「………さて、一番厄介なのが消えた。あとは楽しもうじゃないか」
橙矢を吹き飛ばした破壊神はゆっくりとカリブルヌスを肩に掛けた。
駆けていた神奈は息を吐いて足を止めた。
「東雲さん…………大丈夫でしょうか」
橙矢が神奈を逃がしてから早くも三十分が経とうとしていた。それなのにも関わらず橙矢は一向に姿を現せない。
「まさか………いやいや、東雲さんに限ってそんな事は………」
神奈を助けた時もあったように橙矢は妖怪を圧倒してそして何事も無かったかのように戻ってくるだろう。
そんな事を考えていると森を抜けて空けたところに出た。
少し離れた所には……神社、ではなく寺があった。
一度行こうとしたが足を止めた。確か八雲紫は神奈とシヴァの命は繋がっていると言っていた。つまりその事がこの世界に広まっていたなら何処にいても危険なのでは……?
引き返そうと踵を返すと森の中から何かが飛んできた。
「え?うわッ!」
転がってきた何かは寺の囲いにぶつかって止まった。
「な……何なの……?」
恐る恐る近付いてみると驚愕した。
「し、東雲さん!?」
間違いなかった。何故か刃の折れた刀を持っているが橙矢だった。
心なしか息をしていないような気がする。
慌てて背負うと寺に駆け込んだ。
自分の顔がどれだけ広がっているか知らないが人の命には代えられない。
門をくぐって声をあげる。
「すみません!誰かいませんか!?」
「ん、誰だい?」
門の上から怠そうなくぐもった声が聞こえた。声の主は降りてきて神奈の前に立った。セーラー服だか水兵服を来ている少女だった。
「あれ、あんたどっかで見たような……」
「そ、それよりこの人を助けてあげてください!」
背中に背負う橙矢の見せると少女は目を見開いた。
「と、橙矢!?どうしてこんな……。分かったよ。今すぐ応急処置をするからひとまず寺の中へ!」
どうやらこの少女は橙矢の事を知っていたようだ。少女の言葉の通りに寺の中へ入っていく。
「あの……。貴方は東雲さんのご知り合いで?」
「ん?あぁそんな感じかな。それよりも早く橙矢を中へ!」
神奈の手を掴んで寺の中へ入っていく。そして裏側へ回るとひとつの襖を開けて部屋の中へと誘導する。
「ここだよ!ここに橙矢を!」
少女の言葉で神奈は床に橙矢を寝かせた。
「あとは私達に任せて!あんたはえぇと……外で待ってて!」
「で、でも……」
「いいから!」
「……は、はい」
鬼気迫る表情で言われて従って外へ出る。
「おーい聖!橙矢が怪我してるから全員呼んできてー!応急処置をするよー!」
それと同時に少女は寺にさらに奥へと入っていった。
普通の人間だったらマスタースパークを喰らったら間違いなく即死だと思う。
そう考えると橙矢くんとても頑丈。あ、人間じゃないのか。
では次回までバイバイです!