次回は多々良小傘を描こうと思ってます。
そういえばこの前友人に読んでもらったのですが一言、主人公口悪すぎワロタって感想頂きました。えーと、わ、ワカッテルヨソンナコトー。
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ではではどうぞ。
一通り話終えた天子は自嘲気味に苦笑いした。
「どう?これがここまでに至る経緯よ」
「ふーむ………それで、その龍神代理?の依久さんってのはどうなったか………あぁ知らないんだったな」
「えぇ……ねぇ」
「断る」
「早いわよ」
「天人で総領の娘である天子様のお守りなど嫌ですー」
「皮肉しか言えないのかしら」
まぁな、と返して座り直す。
「大方俺に助けを求めようとしたんだろうが……残念だけど俺もあの野郎に敗けた。それに正直言って勝てる見込みはない。頼むのだったら俺より適してる奴がいくらでもいるだろ?」
「………けどあんたしか頼める人がいないのよ」
「なんで俺だけなんだ?俺なんて今や所詮妖怪の一端なんだぞ」
「………あんただからよ」
「は?」
「あんただからこそ頼めるのよ」
「その理由は?」
呆れ半分興味半分で聞くと天子が軽く橙矢の頭を小突いた。
「察しなさいよ。あんたを信用してるからに決まってるじゃない」
「………お前は信者か何かか。元々俺とお前は対立してたんだぞ」
「分かってるわそれくらい。けど逆に戦った事があるあんただから頼めるの」
「やれやれ、お前のその変な感覚には付いていけねぇや」
「あぁもう!焦れったいわね!」
「いやまず落ち着けよ」
「落ち着けないわよ!その……あ、あんたが……近くにいるのに……」
「あ?何か言ったか?」
「な、何も言ってないわよ!」
慌てた様子でシラを切る。その行動に橙矢は片眉を上げた。
「………そうか、何も言ってないのか。ならいいや」
立ち上がると一応台所として使っているところへ歩いていき、湯呑みに茶を入れて天子を近くに置いた。
「話してくれたお返し」
「は?」
「いや、は?じゃなくてこれがお返しだ」
そう言って湯呑みを天子に押し付ける。
「…………呆れた。あんたがそこまで屑野郎だとは思わなかったわ」
「仕方ない。こんな性格だから」
「いや胸張ってそう言われても困るんだけど」
「勿論冗談に決まってるだろ」
「真顔でそう言われても説得力無いわよ」
「………確かに」
「あら意外。素直に認めるのね」
「………意外ってなんだよ意外って」
「だってあんたってどんな屁理屈もねじ曲げて自分の都合の良いようにするじゃない?」
「え、お前の中の俺ってそんな屑野郎なのか?」
「違うの?」
「あのなぁ……いくら俺でも傷付く時はあるんだっつーの」
「てかあんたそんなキャラじゃないでしょ」
「まぁそうなんだけど」
「それよりこんなものがお返しだなんて……緋想の剣で貫くわよ」
そう言いながら緋想の剣を抜き放つ天子の額に指を一本付けた。
「……あれ、立ち上がれない……?」
「少し大人しくしろってのそれにさっき冗談だって言っただろ」
「…………つまり何かお返ししてくれるの?」
「…………あ」
口が滑ったとは言えずに大きくため息をついた。
「………分かったよ。言っちまったもんは仕方ねぇ。一回分の首輪くれてやる」
「じゃあ東雲。あんた――――」
「おっと言い忘れてたが今後俺の生活を変化させるようなお願いは嫌だからな」
「…………むぅ」
「……お前、どんな事言おうとしたんだ?」
「え?……私の下僕になりなさ―――」
「あぁいややっぱり言わなくていい」
何やら下僕が云々聞こえた気がするが気のせいだ。気のせい。
「まったく何なのよ。聞いといて途中で放棄するなんて。横暴よ」
「人を縛ろうとしてる奴には言われたくないな」
「何よ!あんたが何でも言えって……」
立ち上がろうとした天子の身体を肩を掴んで押さえつけた。
「怪我人が暴れるな。傷に響く」
「う………」
橙矢の正論に言葉を詰まらせる天子を横にさせた。
「まだ寝てろ。いくら天人のお前とはいえその傷じゃ満足に歩く事すら無理だろ?」
邪魔になっているであろう帽子を取ると自身の横に置いた。そして橙矢は立ち上がった。
「さてと……じゃあ俺は外でもブラブラしてるよ。椛が帰ってくるまでな。俺がいたら安心して寝れないだろ」
出ていこうとしたがその服の裾を天子が掴んだ。
「ん?どうした?」
「…………やよ」
「あ?」
「い、嫌よ……。い、一緒にいて……頂戴」
頬を染めながら服を引っ張った。
「……………ハァ、お前がしおらしくしてると何か調子狂うな」
「うっさいわよ」
仕方無いなと持ち上げた腰を落とした。
「分かったから放してくれ」
「ん……」
素直に放してもらうとそのまま後ろに倒れた。
「俺も寝ようかな……………っと」
不意に橙矢が起き上がった。
「東雲?どうかしたの?」
「今日は客が多いな。ちょっと待ってろ」
刀を手に取ると戸へと向かっていく。
「それ来客に対する対応じゃないわよね」
「前例があるから仕方無い」
「それは仕方無いのかしら……?」
「分かった、分かったから待ってろ」
どうどうと天子を静めると戸が叩かれた。
「はいはい。どちら様で」
戸を開けると少し目を見開いた。
目の前には見覚えがある外界の制服を着た橙矢とそう歳が変わらない少女がいた。
橙矢の姿を確認した少女は安堵した表情を浮かべた。
(……なんだ、外来人か)
「す、すみません。ちょっと道に迷って……」
「道に、ねぇ……それはそれはご愁傷さまで」
「つかぬことをお訊きしますが……ここが何県か分かりますか?」
「…………」
一番困る質問が来た。嘘をついて適当に流すか。
「………なぁあんた。俺が今ここは異世界だ、って言ったら信じるか?」
すると少女は怪訝そうな目で橙矢を見てきた。
想像通りの反応したな、と肩を竦めた。
(さて……どうやってここを幻想郷と教えるか………)
視線を上げると口の端を吊り上げた。
「今からその証拠を見せてやるよ」
そう言って刀を抜くと柄を引き寄せて突きの構えを取る。
「え?か、刀?まさか貴方………殺人鬼!?」
「勝手に人を殺人鬼呼ばわりするな」
一気に力を開放して突きを放つ。しかしそれは少女の頬を掠めた。
「え?」
少女の背後に迫っていた妖怪の頭を貫いた。
「里を出たら周りを常に警戒してろ」
次いで少女の背後から血が吹き出た。もっとも、血を出しているのは妖怪だが。
「ひ………」
腰を抜かした少女を一瞥して手を差し伸べる。
「大丈夫か?」
「触らないで!!」
手を弾かれて呆然としていると少女は橙矢とは反対方向へ駆け出していく。
「ばっ……待て!」
能力を使って追おうとするが彼女に何か怪我をされてしまっては後に面倒な事になる。すぐに強化を止めて普通に追いかけようとする。が、
「橙矢さん!買ってきました!」
タイミング悪く椛がその時に帰ってきた。
「ん、椛か。ご苦労だったな」
「いえいえ。………それよりさっき誰かと話していたようですが……って」
橙矢の足元に転がる妖怪の死体が。
「あぁそれが何でか助けたのに急に逃げちまって……」
椛は夕焼けに染まっていく空を見ながら少し焦った様子で口を開いた。
「その妖怪を殺したところを見て逃げたって事は………外来人ですよね?だとしたらマズくないですか?そろそろ妖怪の活動が活発になる時刻ですよ」
「あー確かにな。……しゃあねぇな。椛、天子の手当てをしてやってくれ。そのあとは……まぁ博麗神社にでも押し付けとけ」
「橙矢さんは?」
「俺はあの外来人を探して保護する。死なれちゃ困るからな」
「分かりました。お気をつけて」
「あぁ、ありがとな」
そう言って頭を撫でると気持ち良さそうに目を細めた。
「じゃああの天人の事は任せたからな」
言い残すと足を強化させて跳んでいった。
「さてと………一応金額はそんなにかからなかったですからね……かなり助かりました」
手一杯に持った医療品を落とさないようにしながら橙矢の家に入った。
そこには少しつまらなさそうにしている天子がいた。
「天人様。気分はどうですか?」
天子の身体を起き上がらせて怪我をしている箇所を包帯で巻いていく。
「………あぁあんたなのね天狗。別に大したこと無いわよ。まったく……東雲もお人好しよね。本気で殺し合った私を保護してくれるなんて」
「けどそこが橙矢さんの良いところですよ」
「知ってるわよ」
「にしても殺し合った?かなり野蛮ですね」
「野蛮で悪かったわね。仕方無いわ。あの時は外に行くことしか考えてなかったから」
「あぁあの邪仙が起こした異変の事ですね。覚えてますよ。私花妖怪にやられて橙矢さんにお世話になりましたからね」
「ちょっと待ちなさい。貴方がやられた事は分かったとしてどうして東雲が出てくるのよ」
「おかしいですか?ただ私の家に橙矢さんが来ていただけですけど」
「その時点でおかしいのよ。何で東雲があんたの家にいるの?」
「それは知りません。橙矢さんに聞いてください」
「いないからあんたに聞いてるのよ」
「橙矢さんの事は多少は知ってますがその事に関しては知りません」
「多少の事はって。…………あんた、橙矢とどういう関係なの?」
「橙矢さんと私ですか?……橙矢さんは私の事をどう思ってるかは知りません」
でも、と椛は頬を染めながら続けた。
「私は橙矢さんの事好きですよ」
―――――ファ!?急展開!?
正直書いてた自分も今更驚いてます。
では次回までバイバイです!