東方空雲華【完結】   作:船長は活動停止

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前回の続きで天子の一人称視点です。

ではではどうぞ。


第七十話 天界の異変

衣玖は羽衣をドリル状にして構えた。

「貴方ですかシヴァ。丁度貴方のところに行こうとしていたところです」

「お、だったら入れ違いにならなくて良かったな。それより龍神はどうなった?」

「………今龍神様はお休みになられてます」

「あぁ死んだのか」

「ッ………」

「まぁよくあの技を跳ね返したと讃えられべきだな」

「あんた何様よ!」

耐えきれず私はそう叫んでいた。相手が神だと知っているにも関わらず。

「何様って………破壊神様だが」

「ッッ……ふざけるな!!」

緋想の剣を抜くとシヴァ目掛けて駆け出す。

「ッ!総領娘様!」

衣玖が叫んだ気がするが知ったことか。

「まだやられ足りないのか?……相当なマゾだな貴様」

呆れながらシヴァは手にカリブルヌスを顕現させた。

だが常に相手の弱点属性に変化する圧倒的なアドバンテージを誇る緋想の剣に敵うわけない!

「馬鹿ね!貫きなさい、緋想の剣!!」

降り下ろされるカリブルヌスの刀身に突きを放つ。

しかし、緋想の剣はカリブルヌスを貫く事無く弾かれた。

「え…………」

「残念だったな。俺の能力は〈破壊する程度の能力〉と〈創造する程度の能力〉。…大方その剣は敵の弱点属性を附与させる事が出来るんだろ?だから俺の能力で弱点属性を補うものをカリブルヌスの刀身に創造させてもらった」

「そんなのアリなの……!?」

「チート能力は神の特権だ」

そのまま自分の身に迫るカリブルヌスを横に跳んで何とか避ける。そして目の前に広がる壁に足を掛けてシヴァに跳ぶ。

そっちが能力で押してくるなら………!

「私は力で押し切るまでよ!!」

「やってみやがれ……!」

緋想の剣をカリブルヌスで受け取られると刀身が分厚いカリブルヌスを蹴り飛ばす。

「おっと、そうきたか」

シヴァは宙で体勢を整えると虚空に立つ。

「魚符〈龍魚ドリル〉!!」

シヴァの背後からドリル状になった羽衣がシヴァ目掛けて穿たれた。

「中々面白い技じゃないか!!」

そう言ってシヴァは衣玖の技をカリブルヌスで相殺させた。

「ッ!?」

「龍神代理がこんなんじゃさぞかし龍神も気の毒だな!」

「どういう意味ですか…!」

「そのままの意味だよ!そんなに理解力が足りなくて良いのか龍神代理ィ!」

怒号一閃。それだけで龍神の間がさらに崩壊していく。

「なんて馬鹿力……!」

私は慌てて宙に飛んで体勢を整える。そして衣玖に注意が向いたことを判断すると宙に浮かんで一気に接近する。

その事にシヴァは気付いていない。

 

まずは一撃、貰った――――!!

 

と思ったのは衣玖も同じだろう。シヴァの注意は完全に依久に向いている。その上に音を出さずに接近したのだ。

しかしその策は私の首を掴んだシヴァによって阻まれる。

「かぁ……!?」

「狙いは良かったんだけどなぁ……気圧の乱れでバレバレだ。残念だったな天人くずれ!」

次の瞬間床に叩き付けられて肺の中にある空気が全て吐き出される。

「ゴハ……!」

「貴様は面倒だな。先に殺しておくか」

「………ッ!殺されるのは……あんたの方よ!!」

斬り上げながら宙に飛び上がって着地する。

その動きにシヴァは少し驚いた表情をした。

「ほぉ、まだそんな動きが出来たのか。前言撤回だ。貴様は少し面白そうだ」

「勝手に言ってなさい!霊想〈大地を鎮める石〉」

シヴァの下に巨大な影が出来る。

「ん、これは……」

「潰れなさい!!」

叫ぶと同時に手を振り下ろしてそれに続くようにシヴァに要石が墜落した。

それと同時に膝から崩れ落ちた。それほどさっきの攻撃は効いた。

「ハァ、ハァ……これでどうなのよ……」

「――――甘いな」

「………え」

要石が持ち上げられる。

「ったく。意外と重いんだなこの石は」

そう言いながら片手で要石を持ち上げるシヴァはこちら目掛けて投げ付けてきた。いつかの人間みたく。

それを避けると依久の隣に並んだ。

「…………………衣玖、お父様によろしく伝えて頂戴」

「総領娘様?」

訝しげにこちらを向く衣玖に微笑んでみせる。

元は私のスペルによって龍神が死んでしまったのだ。だったら私自らやらなくてどうする。

「………あんたは天界を守ってなさい。あの駄神は私が殺る」

「な……!馬鹿言わないでください!だったら私が……」

「あんたは龍神代理なんでしょう!?それこそあんたが殺られたら天界が終わりよ!」

「何をこそこそ話してるんだ?俺も入れてくれよ」

シヴァがカリブルヌスを片手に歩み寄ってくる。

それに答えるように口の端を吊り上げながら緋想の剣を真っ直ぐシヴァに向けた。

「何だ?また〈全人類の緋想天〉でも撃つ気か?」

「まさか、そのスペルはあんたに真似されちゃったからね」

「へぇ………じゃあどうするんだ?」

「それを今から見せてやるわ!!」

「まさか……止めてください!総領娘様!」

衣玖が慌てて止めに来るがもう遅い。

「喰らいなさい!〈全妖怪の緋想天〉!!」

〈全人類の緋想天〉を越える威力を持つレーザーが飛んでいく。

「偽式〈全人類の緋想天〉!」

対抗するようにシヴァもカリブルヌスを構えてレーザーを放ってきた。

激突して衝撃波を撒き散らすが拮抗したのは数秒。私のスペルがシヴァのスペルを飲み込んだ。

「なに――――」

「吹っ飛べええぇぇぇぇぇぇ!!」

出力を増してレーザーがシヴァを吹き飛ばして龍神の時と同様龍神の間から押し出した。

「ッつぅ!痛いな天人くずれが!!」

「私を嘗めるからよ破壊神!」

龍神の間を飛び出てシヴァを追いかける。もちろん床も何もない虚空だが空を飛べる事くらいは出来る。緋想の剣を構えて一気に接近する。

カリブルヌスを上段に構えると振り下ろす。そこから斬撃が飛んでくる。

「ッ!」

「まだ行くぞ!」

次いで振り上げられるカリブルヌスを緋想の剣で受け止めて押し切る。寸前にシヴァが力を抜いて身体が前のめりになる。

「しま……」

「もらった!!」

無理矢理身体を捻って何とかカリブルヌスを受け止めるが威力を殺せず吹き飛ばされた。

「グ………!」

回転しながら体勢を整えて緋想の剣をシヴァに向ける。

「〈全妖怪の――――」

「偽造〈全妖怪の緋想天〉!!」

私がスペルの宣誓をする前にシヴァがカリブルヌスを構えてレーザーに放ってきた。

「ッ!」

慌てて〈全妖怪の緋想天〉を放つが当然敵うはずない。

「馬鹿が、一度見たスペルは通じねぇよ!」

「…………!」

悔しいがシヴァが言ってることは本当だ。当に〈全人類の緋想天〉と〈全妖怪の緋想天〉が真似されている。

私には他にスペルはあるがさっきの二つがシヴァに唯一対抗出来るスペルだった。

「だったら………!」

剣術で勝るしかない。いくら神でも武器の得意不得意はあるはずだ。そこを叩く!

接近すると緋想の剣を振り下ろす。

「剣術で挑んでくるか……!面白い!!」

シヴァはカリブルヌスを両手持ちにして弾き返した。

そこから一気に上空に飛び上がり、急降下して運動エネルギーを掛けてシヴァに迫る。

「なるほど、エネルギーそのものを味方につけたか。だがそれで破れるほど神は甘くないぞ!!〈全妖怪の緋想天〉」

「あんたのそのコピー能力は分かったわ。瞬時に力の圧縮さ、スペルの型を把握してる。そしてそれをすぐに上回るものを創造する」

だがそれだけだ。オリジナルのコピーは所詮コピーなのだ。オリジナルにはほど遠い。

「つまり、私のいつも放つスペルの避け方をすればいいだけの事!」

放たれたレーザーを沿うようにシヴァに迫る。

「チィ!」

すぐにスペルを解除したがその時にはすでに懐に潜っている。

シヴァが始めて苦悶の表情を浮かべた。

「覚悟なさい、破壊神シヴァ――――!!」

至近距離から緋想の剣を突き出した。

直撃は免れない――――

しかしシヴァの身体を貫く寸前に緋想の剣が止められた。

「………え?」

何が起きたと視線を落としてみると緋想の剣がシヴァの手によって掴まれていた。

「うそ………」

まさかあの苦悶の表情は……。

「演技だったのね………」

「だぁい正解。どうだ?希望が一瞬にして絶望に変わった感想はよぉ!!」

急にシヴァの方へ引っ張られてカリブルヌスで深々と斬り裂かれた。

「ガァ……!グ……ァ………」

崩れ落ちそうになるが要石を顕現させてその上に乗って落下を免れる。

「ハァ……ハァ………」

フラつきながら立ち上がり、シヴァを睨み付ける。

「まだ死なないんだな。頑丈なもんだ」

私の血が付いたカリブルヌスを一薙ぎすると追い撃ちをかけるためか私目掛けて飛んできた。大量出血のせいか朦朧とする意識の中で緋想の剣を中段に構える。

「おらよ!」

目の前に迫ったシヴァは容赦なくカリブルヌスを横から振り抜いてくる。それを受け止めて再び吹き飛ばされた。

「う……!」

「忘れもんだぞ!」

投げられた要石が視界を覆い尽くすが勢いを殺しながら乗り込んだ。

「掛かったな!」

「ッ!」

丁度乗り込んだ時に目の前にカリブルヌスの先があった。

この構えは――――

「偽造〈全妖怪の緋想天〉」

真っ赤なレーザーが私を飲み込んだ

 

 

 

「総領娘様!!」

 

 

 

はずだった。衣玖が横から私が乗っている要石を吹き飛ばしたりしなければ。

「い、依久……!?」

「逃げてください総領娘様!」

そう言うや否やシヴァに弾幕を放った。

「ん、次は龍神代理か?」

「えぇ、そうさせて頂きます。龍神代理の力、その目に焼き付かせなさい!!」

「衣玖!止めなさい!あんたじゃ勝てないわ…!」

「承知の上です。私がシヴァを引き付けている内に地上に逃げてください」

「ふざけんじゃないわよ!あんたを置いて行けるわけ―――――」

瞬間要石にドリル状になった羽衣が激突して再び吹き飛ばされた。

「貴方の事情なんて知ったことですか!邪魔なんです!」

「~~~~~~ッ!」

頭の中で必死に行くなと自身に訴えかけるが依久の言っている事は正しい。奥歯を噛み締めて踵を返すと飛翔を止めて落下する。

「ッ!逃がすか!」

その事に気付いたシヴァは追おうとするが衣玖が間に割り込む。

「貴方の相手は私ですよ。シヴァ!」

衣玖がスペルカードを掲げるのを最後に私の視界は雲によって遮られた。

そして雲を突き抜けた後目に映ったのは、元退治屋の姿だった。

 

 

 

『邪魔よ!退きなさい!!』

 

 

 

 




えーと、次回はメリーを描こうと思ってます。


では次回までバイバイです!

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