カチャッと地下室の扉から橙矢が出てくる。
「つか………れた」
主の妹であるフランがようやく眠り、橙矢が地下室から出れたのは日が昇った時だった。
そこから風呂を借りて、汗(主に冷や汗)を洗い流して風呂を出る。
大きい欠伸をしながらこれからどうするか考えながら館の外に出る。
久しぶりの陽の光に照らされて反射的に手をかざす。
今さら家に帰るにしても何だか気が向かない。
だからと言ってまだ普段橙矢が館に来る時間までちょっとある。
一先ず橙矢が好きに使っていいと言われている部屋に向かい、違う執事服に着替える。
二日も同じ物を着ているのは衛生上悪いだろう。
それに今日は宴会らしいので一応執事らしくしなければいけない………のかな。
「にしても寝てないのはキツいな………」
再度大きな欠伸が出る。
「あら、橙矢今日は早いのね」
後ろから橙矢を呼ぶ声が聞こえた。
「別に好きで来た訳じゃないですけどね」
振り向きながら応える。
そこには苦笑いしながら腕を組んでいる咲夜がいた。
「大体想像はつくけど……何があったの?」
「ご想像の通りフラン様の世話ですよ。さっきまで」
やれやれと手を振りながらため息をつく。
「それはお疲れね。ま、宴会の時はゆっくりと休むといいわ」
「そうさせて貰いますよ」
「それで急で悪いんだけどおつかい行ってきてくれるかしら?」
「こんな時間から買い物ですか?別にいいですけど」
「それじゃあ香霖堂に紅茶の元貰ってきてくれないかしら。銭は多分いらないと思うけど」
「分かりました、香霖堂ですね。すぐに向かいます」
踵を返して館を出ようとする。
「そういえば橙矢。貴方、最近妖精メイドの中で結構話題になってるわよ」
「妖精メイドォ?………別にどうでもいいですけどね」
「くれぐれも面倒事は引き起こさないで頂戴ね」
「りょーかいです」
軽く手をあげて応える。
面倒事………ね。
ほんと、何もなけりゃあ良いけど。
道中は特に何も無く香霖堂に辿り着いた。
「一週間ぶりか?いや、もうちょい経ってるな」
始めて来たときはなんともおかしな店だと思った。
それは二回目も同様だ。
……どうでもいい事だが。
暖簾をくぐって店の中に入る。
「………霖之助いるか?」
「……誰だい?こんな朝早くって君は……」
店の奥から霖之助が顔を出す。
「やぁ、久しぶりじゃないか東雲」
「なんだ、俺の名前を覚えてたのか」
「一応ね」
「ありがたいよ」
「それより何か用があって来たんだろう?何のようだい?」
「あぁ、ちょっと紅茶の元をな」
「ん、君は紅魔館で働いているのかい?」
少々驚いた様子で聞いてきた。
「そうだな。でもなんでわかったんだ?」
「あそこのメイドがたまに紅茶の元を仕入れにきてね」
「それでか」
「それより今日は神社で宴会があるんだってね」
急に話題を百八十度変えてきた。
特に気にする様子もなくあぁ、と答える。
「君は行くのかい?」
「お嬢様の付き添いでな。あんたは?」
「僕はいかないよ。巻き込まれたくないからね。代わりといってはなんだがよくこの店に来る妖怪が行くよ」
「代わりもくそもねぇなそれ……」
「名前は完璧に忘れたけど」
「こーりんいるー!?暇だから来たよ!!」
急に白と濃い青の髪をし、背に鳥のような翼を生やした女の子が入ってきた。
「……………………」
「今すぐ回れ右して帰んな。今すぐにだ」
霖之助が頭を抱え、橙矢が即座に危険信号を察知して今すぐ帰るよう促す。
「はぁ?貴方こそ今すぐ帰りなさいよ。貴方みたいな客見たことないんだけど」
「そりゃそうだろ。ここに来たのは今回で二回目なんだから」
「へー、そんな奴が一体なんの用なの?」
「お前に話したって意味ないだろ」
「霖之助、早く持ってきてくれ、いち早く帰りたい」
「あぁ……ちょっと待ちたまえ」
そう言い残すと店の中に入っていく。
「……………………」
さてどうしたものか、と近くにある椅子に腰を下ろす。
橙矢の視線の先には少女が店の端にある本棚を漁っていた。
「うーん………」
どうやら一番上の棚にある本が取れないらしく苦悩していた。
翼を使えばいいじゃないかと思ったがあえて言わなかった。
「…………おい、手伝ってやろうか?」
放っておくのもなんだか可哀想だったので一応声をかける。
「だ、大丈夫――きゃ!」
言ったそばからバランスを崩し、後ろに倒れかける。
「馬鹿………」
すぐ立ち上がって今まで座っていた椅子を蹴って床の上をスライドさせる。
滑っていく椅子はちょうど少女が倒れる所に止まり、少女が腰をかけた。
「……届かないならなんで翼を使わないんだよ」
橙矢が指摘すると今気づいたようにハッとする。
「……あ、いや、なるべく力を温存してるのよ!」
「あーハイハイすみませんでしたー」
舌打ちして背を壁につけ、もたれる。
「それにしても珍しいね。この香霖堂を知ってるなんてさ。あぁ言い方が悪かったね。よく香霖堂への道を知ってるね」
「一回来たことがあるからな。覚えたよ」
「物好きね」
「わかってることを言うな。にしてもお前こそ珍しいな。見たところ妖怪だろ?本を読むなんてさ」
「別に妖怪でも本を読む奴なんかいくらでもいるよ」
「そんなもんか?」
「貴方の中の妖怪のイメージってもんなのよ」
「ん?面白おかしい奴等」
真顔でそんなことを言う橙矢を前に少女は頭を抱えた。
「貴方、色々と変わってるね」
「自負してるよ」
前にも同じことを誰かに言われた気がするが忘れた。
「そーいえばまだ名乗ってなかったわね。私は朱鷺子っていうの」
「………じゃあ俺も名乗らないと無礼か。東雲橙矢。紅魔館で執事をやってる」
「へぇ、貴方あの吸血鬼んとこで働いてるの。その……大変じゃない?」
「あぁ大変だ」
「あっさり認めるのね……」
「事実を言ったまでだ。……にしても霖之助遅いな」
「呼んだかい?」
すぐに返事が返ってくる。
「…………なんだ、いたのか」
「いやなに会話が盛り上がっていたから邪魔するのも悪いと思ってね」
「俺としては早く邪魔してほしかったけどな」
「そうかい?僕としては楽しそうに見えたが」
「じゃあそうなんじゃねぇか?」
めんどくさそうに投げやりに言う。
「あ、そうだ。これ注文通りのもの」
そう言って箱を橙矢に渡す。
片手で持てる程度の大きさだったが。
「ありがとさん」
「どういたしまして」
「じゃあ俺はこれで」
踵を返して店を出ようとする。
しかし出るとき首だけを朱鷺子の方に向ける。
「そういえば朱鷺子。お前、今日神社の宴会来るんだってな」
「え?あぁ、うん」
「だったらその時面白そうな本を持ってきてくれるか?俺はこの歳だから酒飲まめないし暇だから」
「えぇー。………しょうがないなめんどくさいけど持っていってあげるよ」
嫌々承諾してくれた。
「ありがとよ。じゃあ宴会でな」
それだけ言うと暖簾をくぐって出ていった。
橙矢が見えなくなるまでその背を見ていた朱鷺子は大きくため息をついた。
「はぁ………めんどくさいな」
「だったら断っておけば良かったじゃないか」
独り言に首を突っ込んでくる霖之助。
「うるさいな。霖之助は黙っててよ」
「だったらさっさと家に帰ってもらえるかな。営業妨害だから」
「客……まったく来ないんだけどね」
「それを言わないでくれ」
「持ってきましたよ」
箱を台所にいた咲夜の前に置く。
「助かったわ。それと宴会は昼過ぎからだからそれまで休んでてちょうだい。妹様の世話して疲れているでしょう?」
「えぇ、そうさせてもらいます」
正直言って気を抜いたら今すぐにでも寝れそうだった。
そんな橙矢に気付いたのか咲夜は呆れたように言う。
「貴方、人が良すぎるわよ。少しは断るといる事を覚えなさい」
「わかってます。わかってますよ……」
フラフラと歩きながら台所を後にする。
「まぁ、何かあったら起こしに来てください。事によっては手伝いますから」
「それを人が良すぎるっていうのよ」
「そうですか?」
「自覚してないなら尚更ね」
「はいはい」
咲夜の小言を受け流して廊下に出る。
「やっと寝れる……」
何処へ行こうと歩いている内に数人の妖精メイドとすれ違う。
それぞれに挨拶をしてから、玄関から庭へ出る。
「たまには外で寝るのも悪くないよな」
自分に言い聞かせるようにように花壇の近くにあるベンチで横になる。
「極楽極楽………と言いたいところだが」
ベンチが木で出来ているため頭が、というか全身が痛い。
………別に寝てしまえばどうと言うことはないが。
ゆっくりと瞼を落とす。
――――――おやすみなさい。
橙矢が呟くと同時に誰かの声がしたがさして気にする事が出来なかった。
グラッと頭が揺れて意識が覚醒してきた。
「橙矢、起きなさい」
目を開けると咲夜の顔が近くにあった。
「あぁ、咲夜さん……」
「よく寝てるとこ悪いけどもう宴会の時間よ」
辺りを見渡すと咲夜の他にレミリア、パチュリー、美鈴、小悪魔、それに寝てるはずのフランがいた。
「………冗談よしてくださいよ。今横になったばかりでしょう………」
「何言ってるの?貴方ここで五時間も寝てるのよ」
「……………………………」
「お兄様大丈夫?」
フランが橙矢の目の前に手をかざして振る。
「フラン様………大丈夫ですよ……一応ってあれ?お嬢様、妹様が出てきてもよろしいので?」
確かフランは地下室に幽閉されているはずだ。
それなのにも関わらず外へ出ている。
「どうしてもフランが橙矢と行きたいって言うから仕方無くね」
レミリアがため息をつきながら説明した。
「俺とですか?」
「それじゃお兄様一緒に行こう!」
立ち上がった橙矢の手を取り、引っ張る。
「ちょっ、待ってくださ―――」
反対側の手でベンチを掴もうとする。
が、その手はレミリアが掴んだ。
「へ?お嬢様?一体何を………」
「橙矢、貴方昨日帰りなさいっていったはずよ。それなのにも関わらずフランと朝まで遊んだ罰として宴会場所まで私を連れていきなさい」
「?連れて行く、とは?」
「エスコートしていきなさい。それも執事の役目でしょう?」
「だったら咲夜さんとかに任せればいいじゃないですか」
「あら、淑女は紳士と行動を共にするものよ」
「あーハイハイ。分かりました」
「それで良いのよ」
右手にはレミリア、左手にはフラン。
何かスゲー光景だな。
「日傘はお任せください」
二人分の傘を橙矢の後ろで傘を差す咲夜。
にしても紅魔館の実力者が誰もいなくなっていいのか?
「平気よ。妖精メイドがいるからね」
レミリアが不意に声をかけてきた。
「読心術は止めてくださいよ………」
「ふふっ、何を考えてるか顔に出ていたものでね。それより早く行きましょ」
「そうですね」
重い身体にムチを打って歩き出す。
……願わくば両手を解放してほしい……。
宴会場所である博麗神社に着いた頃にはすでに妖怪、人間等々が酒やら呑み始めていた。
「あら、すでに始めているようね」
「気が早い事で」
「いつも通りだから気にする事ないわ」
「それよりも早く私達も行きましょ」
「では自分はこれで失礼します」
二人の拘束を解いて離れようとする。
「あれ?お兄様何処行くの?」
「ちょっと約束ごとを思い出しまして」
「なんでー行こうよー」
「すみません、外せない用ですので」
何とかフランを離せないかと助けを求めてレミリアの方をチラと見る。
「う~☆」
――――――――ゑ!?
何故かレミリアが上目遣いでこちらを見ている。
次に咲夜の方を見るとそんなレミリアを見て「おぜうさまぁ、あぁ、おぜうさまぁ!」と鼻血を出していた。
「………………………………」
失礼します、と言って素早くその場を後にする。
とにかくいち早くこの場から逃げたい。
そう橙矢の本能が察知していた。
…………そんな橙矢が見えなくなるまで見ていたレミリアは軽く笑った。
「ま、いいわ。今は一人にさせときましょ」
「あら、お嬢様よくて?他の人に盗られるかもしれませんよ」
「………咲夜、それは何の冗談かしら?」
「失礼いたしました」
「それよりほら、早く混じりましょ。いつまでここにいるつもりかしら?」
レミリアが集まりのところへ歩んでいく。
紅魔館民はそれに続いていった。
がその時この神社の巫女が集まりの中にいない事に気が付いた。
レミリア達が宴会の騒ぎに入ってくのを見て橙矢は近くの木にもたれかかる。
「やっぱり貴方も来てたのね」
ふと顔をあげると博麗の巫女がいた。
「霊夢か………。お嬢様の付き添いでな」
「貴方も災難ねぇ。あ、何か飲み物いる?」
「………酒しかないと予想してるが」
「よくわかったわね。超能力者?」
「いらねぇよ酒なんて」
手を振って追い返そうとする。
「そう?なら仕方無いわね」
「ならとっととどっか行ってくれ」
「何よ人が気を利かせて声をかけたってのに」
「余計なお世話だ」
あっそう、と霊夢は輪の中に戻って行く。
「全く……やっぱり人と関わるのは苦手だ」
ちょっと疲れるけど仕方ない……気配を消すか。
気配を消すと言うことはつまり人の視界の中に入らない、と言うことなので常に他人の視界に入らないようにしなければいけない。
トンっと軽く地を蹴って木の上に乗り、横になる。
「……………………」
「あらあら、珍しい人がいるですこと」
何も無い所から声がした後目の前の空間が裂ける。
「…………なんだ、あんたか。妖怪の賢者」
「私の事をご存知で?私も有名になったものねぇ」
空間のスキマから出てきたのは妖怪の賢者こと八雲紫。
「何言ってんだ。幻想郷一有名なあんたを知らねぇ奴なんざいねぇだろ」
「もっともらしいことを言うわね」
紫が扇子を取り出して口元を押さえる。
「うるせぇよ」
「不機嫌ね。それじゃあせっかくの良い顔が台無しよ?」
「うるせぇつってんだろ」
殺気を込めて睨む。
「あぁ怖い怖い。退散しなくちゃ」
再び空間を裂いてその中に入っていった。
「………胡散臭ぇしうぜぇんだよ」
(境界を操る能力か………)
言った後に頭をかく。
(駄目だな。今日は一段と口が悪い。なるべく人と関わるのは避けるか)
「――――こんにちは人間さん」
―――――――神様、貴方を恨みます。
嫌々声がした方に目線を配る。
傘を射している緑髪の女性がいた。
関わりたくないので無視する事に決めた。
「………………」
「あら?寝てるのかしら」
「………………」
「そこの木の上で寝ている人間さーん」
「………………」
「………………朝ですよ」
一瞬何かが光ったあと橙矢の頬を何かが掠めていった。
「ぃ―――」
バランスの崩して木の上から落ちてしまう。
「もしもーし、人間さん、生きてますか?」
「………たった今死にそうになった」
「なんだ、起きてたのね」
「あんな乱暴な起こされ方されれば起きるだろ」
「起きない貴方が悪いんでしょう?」
――――ごもっとも。返す言葉もございません。
「で、あんた何処ぞの妖怪だよ?」
「あら、八雲紫を知ってて私を知らないの?」
「知らねぇもんは知らねぇんだよ」
「そう、それじゃあ私は風見幽香。妖怪の山の反対側の方角にある向日葵畑で住んでいるの」
「それゃどうもご丁寧に」
「貴方中々面白いわね。気に入ったわ。暇な時には遊びに来なさい。もてなしてあげるから」
「行けたらな」
「それはつまり行く気がないと?」
は?とすっとぼけた声をあげる。
「違ったかしら?」
「………………いや、違わないな」
喉でクッと笑う。
「正直でいいわ」
「?」
「いえ、こっちの話よ」
「あっそ……」
急に興味が失せたように目線を逸らす。
「それじゃあごきげんよう」
特に橙矢に声をかけたのには理由が無かったのかすぐに立ち去ってった。
「……よくわかんねぇな……妖怪ってのは」
「あんな人達と同じにしないで欲しいです」
声だけで誰かが分かった。
「また妖怪かよ。……あぁ、化け犬か?」
「あー!また犬って言いましたね!」
「近くで叫ぶんじゃねぇよ椛」
ため息混じりに名前を呼ぶと哨戒役の白狼天狗はまったくと言った後に感じで腕を組んでいた。
「そんなカッカすんなよ」
立ち上がると椛の頭を撫でる。
すると気持ち良さそうに目を閉じる。
しかしすぐにハッと我に返った。
「な、何するんですか!?」
「何ってただ頭を撫でてるだけじゃないか」
「ば、馬鹿にしてるんですか!?」
「なんで頭撫でただけで馬鹿にすんだよ」
それに、と橙矢は続ける。
「お前毛の触り心地がいいんだよ」
少々調子に乗って尻尾を触る。
「ひゃッ!?」
「ひゃ?」
椛は橙矢から飛び上がるように距離を空けた。
「?おい椛どうしたよ」
「……………んです」
「は?何だって?」
「………ッ!!尻尾は敏感なんです!!」
ワンダフル。
まさかそんな漫画みたいな事があったなんて。
「………別にいいだろ」
「よくないです!」
「悪かった、悪かったから静かにしてくれ」
「貴方が悪いんです」
「悪かったって言ってるだろ……」
それはそうと、と椛は枡を取り出した。
「お前も酒かよ………」
「いえ、橙矢さんはお酒が飲めないだろうと思ったのでお茶を持ってきました」
「枡でか?」
「えぇ、橙矢さんはあの輪の中に入らないと予想して。湯飲みだけだと少々少ないと思いまして」
「別に喉が渇いてるわけじゃないんだがな………。まぁ人の好意を無下には出来ねぇよな。ありがとう、貰うよ」
椛から茶の入ったであろう枡を受け取ってから一口飲む。
「…………なんだこれ、茶じゃないだろ」
飲んだ後すぐに違和感を感じた。
……確かに橙矢が好きな苦い緑茶ではあるがそれ以外に何か別のものが入っている。
「あれ?何か変でしたか?」
「……………おいもみっこ。これ茶以外に何か入ってるな?」
「へ?他に、ですか?」
「あぁ……例えば俺が使う前に誰かがこれで酒を飲んでいたとか」
「あーそうですね。飲んでましたね。私がお酒を」
「…………………おいこの馬鹿」
「ん?何でしょう」
あ、馬鹿って認めるのね。
「俺まだ未成年なんだが」
「そんなもの幻想郷には通じないですよー」
軽く目眩がした。
いや、大丈夫だ。微かに酒が混じっていただけであってアルコールはほぼ入ってないはずだ。
「椛……お前さぁ……人の事を考えろよな……」
「私は橙矢さんの事を思っての行動なんですけど……」
「……お前の頭の中はおめでたいな」
「褒めても何も出ませんよー」
「……お前どっか行け」
枡を宴会の中にぶん投げる。
「あっ!私の枡!」
きゃーと枡を追いかけて宴会の輪の中に突っ込んでいく椛。
「……………馬鹿野郎」
また捕まるのも面倒だと思い、物音を立てずに神社の上に登る。
「未成年に酒なんか飲ませんなよな……」
軽い頭痛を覚えながら横になる。
「ヤッホー!橙矢!持ってきたよ!」
腹の上に鳥の妖怪が落ちてきた。
「―――――ッ!!」
急な衝撃にさっき飲んだ茶(アルコール多少含む)を戻しそうになった。
「朱鷺子てめぇ!いきなり何しやがる!!」
朱鷺子の頭を掴んで引き剥がす。
「何って貴方が言った通り本を持ってきてあげたんだけど」
「そこじゃねぇ!急に腹に落ちてくるアホがいるか!」
「別にいいじゃん橙矢だから」
「なんだよその屁理屈」
「まぁいいからいいから、ほら本」
ヒョイと一冊の本を放ってくる。
「お、さんきゅ」
本を取り、ざっと目を通す。
単なる小説のようだ。
「他にも持ってきたから読み終わったら言ってね」
「わかってるよ」
すでに本の方に意識がいっているためか曖昧な返事をしてしまった。
朱鷺子は別段に気にする様子もなく読書を始めた。
同時刻、紅魔館―――――。
主人やメイド長がいない今、妖精メイド達はやる仕事が全て終わり、館内を歩いて談笑していた。
「今日は一段と疲れたわねー」
「メイド長と東雲さんがいないからじゃないかな?」
「にしても東雲さんって珍しいわよね。ここで働きたいなんてさ」
「でも仕事とかは出来るから羨ましいよね」
「結構お嬢様からは重視されてるらしいわよ」
「それと東雲さんって最近家族として迎えられたんでしょ?だったらあの部屋の事知ってるよね」
「まぁ私達はあの部屋へ向かうことすら禁止されてるんだけどね」
「…………行ってみる?」
「え!?な、何言ってるの!?」
「丁度今いないんだしさ、ちょっと、ちょっと覗くだけよ」
「……大丈夫かしら」
「大丈夫よ!ほら行こ行こ!」
嬉々と一人の妖精メイドはもう一人のメイドの引っ張っていった。
―――それから二人の妖精メイドが消え、その後次々と妖精メイドがいなくなっていった。