東方空雲華【完結】   作:船長は活動停止

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はい、今回からほんとの新章です

ではではどうぞ。



第五章
第六十七話 新しい退治屋


崩れゆく龍神の間を再興させたシヴァは天界を納め、龍神代理である永江依久を下して龍神の位に着いていた。

「つまんねぇな……。とっとと破壊しても良いけどそれじゃあゼウス様に説教くらうからなぁ」

数千年前に暇潰しにある国を潰したがその時ゼウスに一ヶ月に渡る説教をくらった記憶がある。さすがのシヴァでももう二度と御免だ。

ゼウスの命は『次の指示があるまで幻想郷を治めておけ』というもので大半は為せたようなものだ。

「ったくなんで俺に頼むかなァ。……北欧神辺りに頼めばいいのに……っとこれは失言だな」

神の世界にも序列というものが存在する。シヴァはその中でもかなり上位の方に座している。北欧神は彼より少し下だ。だが彼が属するヒンドゥー教の神群は北欧神より格は下。それ故に好き勝手に文句が言えないのだ。

「まったく………俺一人が上位にいても仕方ねぇのに……」

そもそもシヴァは北欧神の事を嫌っていた。いや、それだと少し語弊がある。北欧神の一人であるロキを嫌っていた。

ロキ、悪戯好きの神。神々の敵であるヨトゥンの血を引く神の中でも屈指のトリックスターである。

「チッ、あのトリック野郎いつか殺す」

顔を思い出したと同時に殺気が沸いてきた。

「おっといけね。危うく壊すとこだった」

シヴァの力は強大過ぎるが故に時たま感情によって力が発動してしまう場合がある。その為マインドコントロールが必要になる。

しかも感情によって力が発動する場合その対象がランダムになる。

「まぁあんな奴置いといて……。この世界で言うと俺の能力は〈破壊する程度の能力〉と〈創造する程度の能力〉か?でも確か前者は似た奴……というかまんまだな」

殺り逃した吸血鬼を思い浮かべて腕を組んだ。

「しかしなぁ……まさかあの龍神がいるなんてな。しかも龍神の分際で俺に歯向かうとは……少し面白かったな」

そう言うシヴァの瞳には憂いが含まれていた。

「にしてもゼウス様は何で今頃幻想郷を破壊しようとしたんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シヴァとの交戦から五日が過ぎた。自宅で横になっていた橙矢は不意に起き上がった。

「八雲紫。いるんだろ」

その時橙矢の背後の虚空にスキマが開いた。

「よく分かったわねー。貴方には付いているのかしら。妖怪アンテ―――」

「おい馬鹿止めろ」

「分かってるわよ」

「自重しろババ………お姉さん」

危なかった。もう一瞬遅かったら首が宙に飛んでいたかもしれない。

「ん、よろしい」

スキマを展開しようとしていた紫はその手を止めた。

「………紫お姉さんや。あんた確かシヴァにやられたろ?その傷は大丈夫なのか?」

「一番の重傷者が何を言うのよ」

「そんなにも酷かったか俺」

「毎回よく生きてられるってほど酷いわ」

「……………」

「そんな顔しないの」

「それより今幻想郷はどうなってんだ」

「正直言って混乱してるわ。皆悟られないように平穏を装っているけれどバレバレね」

「だろうな。なんせかの破壊神がこの幻想郷を破壊しに来たってんだからな」

「………そうね。それと貴方には悪い報告よ」

「んだよ」

「五日前のフランドールとこいしが起こした異変。貴方が起こした事になってるわ」

「……ふーん、あっそ」

「……………貴方少しは悲しまないの?」

「悲しむ要素が何処にあんだよ」

「…まぁいいわ。それでこれからの事なのだけど」

「…………まさかあの吸血鬼に神を操る力があったなんて予想外もいいとこだ」

「それもそうね。けど過ぎた話よ」

「シヴァをどうするかだろ?いやまず第一に勝てるのか?」

「ほぼ無理よ」

「でしょうな」

「じゃあ何で聞くのよ」

「俺が無理でも紫さんなら殺れると思って」

「あのねぇ……私にも無理な事くらいあるわ」

呆れた表情で橙矢を見る。

「はいはい。それは悪いござんした」

「けど可能性が零というわけではない。まだやれる事はある」

「例えば?」

「それを今から考えるのよ。貴方と私で」

「俺もなのか?」

「えぇ。貴方は頭の回転が早いからいい策士になれるわ」

「それはどうも、だけどいい案が浮かばないな。相手は神だ。それにかなり上位の」

「貴方が考える打つ手は?」

「皆無に等しい」

「………等しいって事はまだあるって事よね?」

「………………あぁ。けど………」

そこで橙矢は言葉を句切って俯いた。それだけで何が言いたいか紫に伝わった。

「………成程ね。多大な犠牲が出るってこと……」

「そうだ……。少なくとも幻想郷の実力者が十人くらいは死ぬ」

「因みに死因は?」

「神による刑罰」

「……シヴァによって殺されるって事ね」

「………絶対それはやっては駄目だ」

「そうね。私としてもそれは避けたい」

「霊夢とあんたとの相性なら少し可能性があるんだが………」

「貴方はどうするの?」

「悪いが単独で動かさせてもらう」

「そう言うと思ったわ」

「………なぁ、もう霊夢達にも話したらどうなんだ?」

「結界の事かしら?」

紫の言葉に視線だけで答える。

「………分かったわ。私の方から話しておくわ」

紫はふとスキマを展開させた。

「急にどうした?」

「ごめんなさいね。貴方に来客よ。精々気を付けてね」

「いや気を付けるも何も……まぁいいや。どうも」

「それと……………死なないように頑張りなさい」

「……どういうことだよそりゃぁ……」

軽く手をあげると紫がスキマの中に入っていった。それと同時に戸が叩かれた。

「ほんとにかよ……てっきりあいつが逃げるための建前かと。はいはい」

面倒くさそうに歩いて立ち上がって戸を開けた。

 

 

瞬間目の前に刀先が迫っていた。

 

 

「ッ!?」

ギリギリで上半身を寝かせて避けた。次いで横から蹴り飛ばされる。

「ッだよ一体!」

居間に転がり込むと刀を掴む。

一気に引き抜いて振り下ろされた刀を受け止めた。

「誰だ…………!」

橙矢が顔をあげる寸前下から顎を膝でカチ上げられた。そのせいで脳が揺れて一瞬思考が止まる。その隙に侵入者は橙矢を吹き飛ばした。

「ッうお……!」

壁を突き破って外に出た。

「いってぇ……修理費は出してくれるんだろうな!」

こちらに突っ込んでくる侵入者に合わせて強化した拳を叩き付けた。

「何……!?」

侵入者は吹っ飛んで橙矢の家に激突した。

「………誰だ」

油断なく刀を構えて問いを投げ掛けた。

「お前の代役だ」

無愛想にそう答えた侵入者は橙矢を睨み付けた。

「俺は………退治屋だ!!」

「ッ!」

怒りのまま橙矢に斬りかかる。

「落ち着け!」

「落ち着けるか!俺の人生を滅茶苦茶にしやがって!」

「んなこと知るか!文句なら里の奴等に言え!」

「言えたらこんな事してねぇよ!!」

共に刀を弾き合いながら叫ぶ。

「だが何でお前がもう依頼を受けている!?退治屋としてはまだ未熟だから俺に回ってくるはずじゃ――――ガッ!?」

空いた腹を蹴り抜かれて距離が離れる。退治屋は札を取り出した。

「……!チッ」

駆け出して一気に距離を詰める。

「爆ぜろ……!」

札を投げ付けてくるがそれを切り裂いた。

それと同時に退治屋の口元が歪んだ。

「掛かったな!」

「なん――――」

直後札が爆発して橙矢を巻き込む。

「う…ぁ…!」

「まだ行くぞ!」

刀を振り下ろして橙矢の身体を深く抉る。

「………!」

「これで終わりだ――!」

「――――止めなさい!!」

止めを刺そうとした退治屋を何者かが横から吹き飛ばした。

「……!誰だ邪魔をするのは……!」

退治屋が顔をあげると白狼天狗が目に入った。

「も……椛?」

「………どういう理由で庇った」

「人が殺されるのを見るのは好きではないので」

「人だと!?ふざけるな!奴は妖怪!人でも何でも無い!!」

「どうしても退けないのですか?でしたら私も参戦しましょう。私も貴方の言う妖怪の一匹なのですから」

鋭い眼光に照らされてか退治屋は刀を鞘に収めた。

「……………チッ、分かった。白狼天狗、今回はお前の顔を立ててやる。次は無いからな」

「そっくりそのまま返します。貴方程度に私白狼天狗が遅れを取るわけないでしょう?身の程を弁えなさい。橙矢さんとは比べ物にならないほど落ちぶれましたね、退治屋というものは」

「何だと……!俺がその逃げ腰野郎に負けているって言うのか!?」

「当たり前です。橙矢さんは感情的に妖怪を殺した事はないです」

「五日前そいつが里を潰してたって聞いてもそう言えるのか!?」

「えぇ聞きましたよ。文さんからね」

だったら、と口篭もる退治屋に刀身が分厚い剣を取り出す。

「それをふまえての言動です。どうぞ好きなだけ言えば良いじゃないですか」

「…………!」

「おい椛。止めておけよ」

それ以上はまずいと椛の肩を掴んで止めた。しかし椛はそれを振り解く。

「どうして止めなきゃいけないんですか?この人は貴方を殺そうとしていたんですよ?」

「それは分かってる。お前が俺の為に怒ってくれるのもな。それは嬉しい。けど少々過剰表現過ぎだ」

椛の頭にポンと手を乗せると大人しく剣を下ろした。

「…………橙矢さんがそこまで言うなら仕方無いですね」

椛が落ち着いた事に胸を撫で下ろすがまだ退治屋がいた事を忘れていた。

しかし件の退治屋は戦意が喪失したのか刀を下ろしていた。

「………東雲橙矢。お前は既にこの幻想郷の敵となっているんだ。よくその事を覚えておくんだな」

「あっそ、脳の片隅にでも置いとくよ」

「お前……!どんな事態か分かってないらしいな!」

「知らないのはお前の方だろ。……いや、お前等、か」

哀れに思い、見下す。

「ふざけるのも大概にしろよ東雲橙矢!」

「その言葉は何回目だ」

「ッ!」

同じやり取りに啖呵を切らしたのか退治屋が踵を返した。

「何だ?俺を殺すのはもういいのか?」

「………ふん、今回は天狗に助けられたな東雲橙矢。だが次は……必ず殺しにかかる」

そう言って退治屋は一枚の紙を宙に舞わせた。その紙は宙をさ迷うようにヒラヒラと舞うと橙矢の手に収まった。

「……これは?」

「元々お前が承っていたものだ」

退治屋は足早に去っていってしまった。

「………何だよ。付き合いの悪い奴」

「橙矢さん!何呑気な事言ってるんですか!」

先程の凛とした表情から一変して椛が橙矢を服を掴んで前後に揺らした。

「あー、頭が揺れるから止めてくれ」

「あ………すみません」

「まぁでもありがとな。助けてくれて」

「いえ………それよりもその紙。何なんですか?」

「ん?あぁそういや見てなかったな。………えぇと何々……」

紙に目を落とすと予想通りの事が記されてあった。

 

 

 

『――退治依頼

先日の里襲撃異変の首謀者だと思われる東雲橙矢の退治を依頼。かなりの力の持ち主が故気を付けるように』

 

 

 

 




故意的な仲間外れって怖い。

では次回までバイバイです!

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