東方空雲華【完結】   作:船長は活動停止

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今回は殆ど戦闘シーンです。
同じ表現が多々あると思いますが……。
自分の表現力の無さが情けない……。


あ、それと今更主人公のプロフ紹介するのもあれなのですが……………プロフを見たい、と言いってくださる方がいれば紹介しようかな、と思います。



第三十二話 宝船の船長

「試させてもらうよ!!」

 

 

飛んできた蹴りを腕で何とか受け止める。

しかし衝撃は受け止められずに吹き飛ぶ。

「ッ……!」

地を何回か転がり、立ち上がる。

「……いきなりなんだ」

五メートル先でステップを踏む村紗に不満そうな視線を向けた。

「いやー、最近ちょっとごぶさ……じゃなくて元退治屋なんでしょ?どれくらい出来るのかなーって思って」

「おい今ご無沙汰って言おうとしただろ」

「気のせいじゃない?」

今度は前から距離を詰めてきて拳を下から放たれる。

顔を後ろに傾けて避ける。

「まだいくよ!」

バック転する勢いで足を振り上げ、顎を蹴り飛ばされ、身体が宙に舞う。

「――――ァ!」

一瞬意識が混濁するがすぐに整理し終える。が目の前には村紗。

「ッそが!」

突き出された拳を紙一重で避け、カウンター気味に横から蹴り飛ばした。

「ッやるね!」

「ハッ、伊達に退治屋やってるわけじゃねぇんだ!」

着地すると上半身を寝かせるほど倒す。

次の瞬間橙矢の上半身があった場所に蹴りが通る。

続けて足払いをバック宙でなんとか回避し、更に距離を取る。

空いた距離が、しかし一瞬で潰される。

舌打ちして強化した拳を地に叩き付けた。地がめくれ上がり、村紗の進行を阻む。

続くようにめくれ上がった地を村紗ごと吹き飛ばす。

「うわッ!」

「あー、後で整地しなきゃな……」

軽く後悔したのも束の間、すぐ村紗に意識を向けて距離を削る。

「ッ!早……!」

人間とは思えない速度に目を見開く。

「……ハハッ、いいね。久々に本気で遊べそうだよ!」

村紗は口を三日月に歪める。

「……!」

何か危険なものを察知して急ブレーキをかけて後ろへ飛ぶ。

「逃がさないよ!」

気付いた時にはすでに顔を掴まれていた。そのまま地に顔面を叩き付けられる。

「ッガハ……!?」

「次ッ!」

頭から手を離して軽く跳ぶと橙矢向けて踵落しをする。

慌てて腕を強化して防御の構えを取った。

瞬間大岩もかくやという衝撃が腕に伝わってくる。

「重ぇな………!」

「女にその言葉は禁句って知ってた!?」

「知ったことかよ!」

「そうか!なら痛みで分からせて………ッ!?」

村紗が橙矢と目線を合わせたと同時に飛び退いた。

(何今の………)

橙矢の瞳を見たとき生きてきた中で最も危険信号が鳴り響いた。

「……………痛ぇな村紗よぉ……」

ゆっくりと立ち上がる橙矢を見て身体が震え上がる。

……これが本来の橙矢の殺気。

……これが本来の橙矢の退治屋としての姿。

……これが本来の橙矢という人間の本性。

村紗を映す橙矢の瞳にはかつて退治屋だった頃の熱があった。

「さて、覚悟は出来てんだろうな」

ゆらりゆらりと身体を揺らす橙矢は先程とは違い、まったくの隙がない。

「……参ったね。まさかあんたがそこまで短気だとは思わなかったよ」

「ほぉ?急に飯後に呼び出してその上訳の分からねぇ理由付けられてこの様だ怒るなっていうほうが無理な話だ」

「………………」

「まぁ刀は無いが……いや、無くても充分だ。ほんとの退治屋の仕事ってのを見せてやるよ」

「ッ!転覆〈撃沈アンカー〉!!」

村紗が一枚のカードを取りだし、錨を放つ。

「………………」

最大まで拳を強化すると真っ正面から錨を殴り付け、吹き飛ばした。

「ッ!アンカーを……!?」

驚愕する村紗に接近すると腕を掴み、圧力をかける。

「せめて水辺なら……!」

「水辺ならどうなるって!?舟幽霊!」

「……いや、何でもないよ!」

不意に村紗が手を上に翳す。

すると手には先程橙矢が吹き飛ばした錨が収まる。

「本気でいくから死なないように頑張ってね!」

力任せに降り下ろす。

さすがにこれを受け止める気はせず、横へ飛んで避けた。

「アッハハ!惜しい惜しい!」

箍が外れたように笑いながら錨を振り回す。

「チッ、面倒だな!」

上横上下、と次々に振るってくる凶器を身体を少し動かすだけで避ける。

「それなら……!」

ふと、橙矢の足元に影が出来る。

それを何か確認する前に後ろへ跳ぶ。

村紗と橙矢の間に巨大な錨が落ちてきて、視界を遮る。

が、橙矢に激しい衝撃が襲った。

「な………―――――ッ!」

横から鈍器みたいなもので殴られ、命蓮寺に突っ込む。

「くっそ!やっちまった!」

「どんどんいくよー!」

「!」

顔を上げると目の前に錨を振りかぶった村紗が。

「マジかよ!」

一瞬で自身のいる場所を把握して自分の部屋として使っていた部屋の方へと駆け出す。錨に対向出来るのは刀以外では無理だ。

(確か部屋は……)

襖を開けると部屋の奥に刀が横にしてあった。

「あった……!」

「何がだい?」

「……!」

振り向こうとしたが無理矢理止めて刀に飛び付く。

「砕け散れ!」

「お断りだ!」

刀を掴むと同時に後ろを見ずにすぐ背後にまで迫っていた錨を受け止めた。

「ッ!止めた!」

「………危なかった」

腕を強化させて押し返す。

「グゥ!?」

部屋から外へ出ると屋根に飛び乗る。追うように村紗も屋根へ上ってきた。

「誰ですかこんなに騒いでいるのは!」

寺の中から命蓮寺の面子が出てきた。

「………おいクソキャプテン村紗」

「………なんだい退治屋」

「隠れよう」

「無理。おーい、こっちだよー!」

急に村紗が手を降りながら大声を出す。

「……村紗!何してるんですか!……って東雲さんまで……」

聖が大きくため息をつく。

「ちょっと手合わせしてもらってるだけだよ」

「それは錨をしまってからいった方がいいと思うよ」

村紗の言い訳を切り捨てるナズーリン。

「別に東雲さんの迷惑でなければ良いのですけれど」

「大丈夫だよ、ちゃんと許可は取ったから。それより橙矢は私だけじゃ物足りないらしいけどね。そうだ星さん、手伝ってよ」

「は?私がですが?」

「そうそう。私一人じゃちと厳しいからさ」

「おい村紗!なんで私じゃないんだ!」

背中から何か変なものを生やした少女が村紗に文句を言う。

「えー?やだよ、あんたとは一緒に戦いたくない、ぬえ」

「ひとつ聞きますが………何で私?」

「別になんでも良いじゃん」

「……私は別にいいのですが……東雲さんがよければ、ですけど」

「良いよね橙矢?」

錨を肩に担いで橙矢に視線を向けた。

「…………勝手にしろ……が、やるなら徹底的にやるからな」

先程まで隠してあった殺気を一気に解放する。

『………………!!』

村紗が距離を取り、下にいた連中は一瞬で構える。

「………かの毘沙門天の弟子との手合わせだ。少しは楽しませろよ………!」

村紗との距離を一歩で消す。

「ッ村紗!」

「遅ぇよ!」

「ッァ!」

下から突き上げられて上空へ吹き飛ぶ。

追撃をしようとするが放たれた光の奔流に遮られる。

「………っとメインはそっちだったな」

「ッ………!」

矛先が自身に向いたと感じると星は槍と宝塔を構える。

懐に何者かの気配を感じた。

……そんな事するのは一人しかいない!

槍を横に払う。

それを跳んで避けられるがそれは想定内。

宝塔を真っ直ぐに橙矢へと向ける。

「……いくら力がある貴方でも宙ではなにも出来ないでしょう?」

「ッ!」

放たれる光の奔流。

それを刀で器用に受け流す。

「簡単な話だ……ようは受けなければいいだけの事ッ!」

「中々面倒な相手ですね!」

槍を真っ直ぐに突き出す。

「効くかよ!」

刀を降り下ろし、槍をはたき落とし、柄の上を駆ける。

「させません!」

槍を振り上げて橙矢を宙へ打ち上げた。

「今です村紗!」

「あいよ!」

橙矢の背後から先程吹き飛ばしたはずの村紗がいた。

手にはカードが。

「これなら受け止めようも無い!転覆〈沈没アンカー〉!」

村紗の背後から巨大な錨が橙矢目掛けて翔んでくる。

(この威力はさすがに…………!)

避けることも叶わず限界まで腕を強化して刀で受け止めた。しかし、

(重い………!!)

吹っ飛ばされ、屋根に激突し、瓦を巻き上げる。

「ガ………ァ」

更に巻き上げた瓦が橙矢の身体に傷を付ける。

「くっそ……がアァァ!」

衝撃波だけで瓦礫を吹き飛ばし、一瞬で星の懐に潜り込んだ。

「まだ来ますか……!」

刀を槍の柄で受け止めるが次いで足を踏まれ、固定される。

放たれた拳を宝塔の出す衝撃によって拮抗させるが押し負け、後ろに後退させられる。

その際に手から宝塔が飛んでいった。

「宝塔がぁ!?」

橙矢の視界の端に錨が見えた。

刀を返して錨を受け止める。

刀を錨の側面に滑らして横から裏拳を放つ。

村紗は拳を腕で防御して更に握り締める。

「星さん!合わせて!」

「承知!」

橙矢を片手で持ち上げると星に向けて投げつける。

橙矢と星の距離が三メートルを切ったところで槍を横に薙いだ。

「……ッ!」

横に回転して刀で槍を弾く。

「な――――」

肩を掴むと地に組伏せ、顔の真横に刀を刺す。

「これで一人は無力化し―――」

「―――隙あり!」

横から錨で殴り付けられた。

「ゴ……ッ!?」

吹き飛ばされ、命蓮寺を囲っている囲いに激突する。

「痛ぇな……」

大して痛そうな素振りもせず立ち上がり、地を蹴った。

 

 

 

 

 

 

 

「………彼、ほんとに人間なのかしら?」

少し離れて見ていた白蓮はナズーリンに問う。

「それを私に聞くかい?……でもそうだね。ブン屋の新聞には人間と書いてあったが……」

「どう見ても人間とは思えない身体能力ですね」

言葉に詰まったナズーリンに代わって入道使いの雲居一輪が口を開く。

「……彼が半分妖怪、なら分からなくもないですが」

「………………確かにね。だがそれは容易に聞くものじゃないよ」

白蓮や一輪はともかくぬえが口を滑らす可能性があるため、一応釘を刺しておく。

その時星がナズーリンの元へ駆けてくる。

「ナズーリン!宝塔が吹き飛ばされたから見付けに行ってくれないか!?」

その一言で今までの思考が一気に爆散した。

「ハァ!?何言ってるんだご主人!さっきまで持ってたじゃないか!」

「東雲さんに飛ばされたんですよ!いいから頼みますよ!」

そう言うと剣撃をする二人に向かって駆け出した。

「まったく何してるんだご主人は………」

愚痴を吐きながらダウンジングロッドを取りだし、飛んでいったであろう方へと足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

錨と刀が何度も打ち合い、甲高い音を響く。

「これなら……どうッ!?」

少し押して、橙矢が微かにバランスを崩したところで懐に潜り込む。

拳を叩き付け――――られず腰から抜いた鞘によって阻まれた。

「あんたの変則防御は厄介だね……!」

「ただ単に鞘で受け止めただけだろ?」

下から蹴りあげる。

「まだくたばってくれるなよ!」

浮いた村紗の身体に鞘で殴り付けた。

「ガ……ッ!」

「まずは………一人!」

地に伏した村紗に刀を降り下ろし、しかし錨に止められる。

「……………しぶといな」

「なに……あんた程じゃないよ……」

肩で息をしている辺りもう少しで倒れるだろう。

一旦離れ……たのも束の間、すぐに村紗に迫ると刀の先を突き出す。それを紙一重で避け、横から錨で殴り付ける。

「………ッァ!」

強化して何とかダメージを減らそうしたがとクリーンヒットし、骨が何本か折れた音がした。

しかし耐え抜くと錨をへし折る。

「アンカーが………」

「…………………死ね」

得物が砕け、戦意が喪失した村紗に向けて一切の躊躇なく刀を降り下ろし、

 

 

 

切り裂いた音が響いた。

 

 

 

 


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