東方空雲華【完結】   作:船長は活動停止

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第二十七話 終焉の闇

 

 

ベキッ、と音が響いた。

「アガ……!?」

何がなんだか分からず地に倒れ伏せる。自身の足を見てみると唖然とした。

強化した足で距離を詰めようとしたところ足に限界が来て、耐えきれなくなり、折れた。

利き脚である右足があらぬ方向に折れていた。

「くそ……ここまでかよ………」

歩み寄ってくるルーミアを見上げる。

「……やっぱり人間ていうのは脆いものね。心臓を貫けば死ぬ、呼吸が出来なくなれば死ぬ、ちょっと無理をしただけで骨が折れる…………哀れにしか思えないわ」

「あんたの同情なんざ嬉しくねぇんだよ」

挑発的に中指だけを立ててルーミアに見せた。震える手を見ればただの強がりにしか見えない。

「……話にならないわね」

「奇遇だな。俺も丁度同じことを考えてた」

「………それにしても分からないわね。貴方、そんな傷を負ってまで戦う理由なんてあるのかしら?」

「………戦う理由……ねぇ。……お前人喰うつもりならどうせ里に降りてくだろ?まぁ別に俺としては里がどうなろうがどうだっていいんだけどな」

といって片足だけで立つ。

「………なら」

「ただなぁ……そこにいる馬鹿が里が好きすぎてな………あいつとはまぁまぁな付き合いの長さだからな。仕方なく守ってんのさ」

顎で倒れている妹紅を示す。

「俺はちゃんと決めた事はちゃんとやり遂げるタイプだからな。今回も、これからもそうだ」

「………ふっ」

するとルーミアは急に笑い始めた。

「ふふふ……は、あははははは!」

「………今の話の何処が面白いんだよ」

「はは……あぁごめんなさいね。ちょっとおかしかったもので」

「………まぁそんな事どうでもいいや。それより…………」

橙矢はそこで一旦言葉を区切ると横に跳んだ。

橙矢の背後には妹紅が再生し終えていた。

「遅ぇんだよ!」

橙矢が叫ぶと同時に妹紅が焔を巻き上げ、ルーミアに放つ。

「怪我人が叫ぶんじゃないよ!傷に響くだろ!」

「うるせぇ蓬莱人形!いいからやれ!」

「言われなくても……!」

地に手を着けるとそこから焔を再び巻き上げて妹紅自身がルーミアに突撃する。

「惜命〈不死身の捨て身〉!」

それをルーミアは軽々と避ける。

「惜しい惜しい」

「――――と思うだろ?」

「――――――!!」

避けた先から声がする。

そこには足を折りながらも刀を上段に構えた橙矢がいた。

「悪いが殺らせてもらうぞ!」

一気に刀を振り抜く。

だがさすがと言うべきかルーミアはギリギリで避ける。

「ッ……!諦めが悪いな……!妹紅!」

「分かってるよ!」

向こうも同じことを考えてたのかすでに焔を顕現させる。

「後ろにいると危険だからな……とにかく避難しろ!」

言い終えると同時に焔を放つ。

「だとしてもどうせ同じ事の繰り返しだろ!」

妹紅の方へ注意を向けたルーミアを後ろから羽交い締めにする。

「ッ!貴方……!」

「バッ……!何して―――――」

妹紅が慌てて焔を消そうとするが無意味だった。

「ハッ、残念だったな。常闇の主さんよォ……。一緒に地獄へ逝こうぜ……!」

「………!」

ルーミアが初めて焦りの表情を浮かべた。その事を歓喜に思いながら絞める腕に力を込める。

焔の弾が目の前にまで迫っている。ここから避けようにも避けれない筈だ。

………元から避けるつもりはないのだが。

ルーミアの身体を焔が灼き始めた時、その光景が嫌にゆっくりに見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

再びスキマを通って先程の森へと戻る。

「…………静かね」

辺りを警戒しながら霊夢が先に進む。

霊夢に続くようにして魔理沙がスキマから出てくる。

紫は少し用事があると言って霊夢達を送ってから消えた。

「………そうだな。さっきと比べて静か過ぎるぜ」

「それより早く馬鹿を捜しましょう。あんな傷で動かれちゃ下手したら死ぬわよ」

「……………ルーミアの事はどうするんだ?」

不意に魔理沙が話題を変える。

もうその話は聞きたくない、ということだろう。

「……適当に封印でもしとくわ」

「適当ってお前……まぁ霊夢らしいけどさ」

「確かさっきいた場所が………あっちね」

「――――あら、霊夢じゃない」

前方からルーミアの声が聞こえた。

「「ッ!」」

すぐさま霊夢は札と祓い棒を、魔理沙はミニ八卦炉を構えた。

「…………さっきぶりねルーミア……。橙矢を見なかったかしら?」

油断なくルーミアの様子を窺う。

「……橙矢?あぁあのしつこい人間の事ね。あまりにもしつこすぎるから少し気絶してもらったわ」

「ッそれって………」

「魔砲〈ファイナルスパーク〉!!」

魔理沙がルーミアに向けてミニ八卦炉から光の奔流が奔る。

闇が展開して相殺した。

「境界〈二重弾幕結界〉」

ルーミアの周りに二重の結界が作られる。

「これは……久し振りに見たわね」

腕を一振り、それだけで砕け散る。

「――――オオオオォォォォォォ!!不死〈凱風快晴飛翔蹴〉!」

「――――ッ!」

ルーミアの背後から雄叫びが聞こえ、直後吹き飛んできた。

「チッ、まだ動けたの……?」

地に着地すると乱入してきた妹紅に闇を放つ。

「不死〈火の鳥‐鳳翼天翔‐〉!」

火の鳥が闇を灼いていく。火の鳥に続いてルーミアに突撃する。

「まだ来るか……!」

「お前だけは……絶対に!!」

妹紅が殴り付け、その拳を闇で防ぐ。が溶けることをかいもせず殴り飛ばした。

「さて、これで終わると思うなよ!」

追い討ちをかけるように焔を連続して撃つ。

「ッ!」

森ごとルーミアを灼き尽くした。

「何やってんのよあの蓬莱人……!」

悪態をつきながらホーミング弾を撃つ霊夢。

「私達も行くぜ霊夢!」

「やってるわよ!」

「博麗の巫女!お前は隙があればとにかく封印させろ!」

妹紅がルーミアの放つ闇を灼きながら叫ぶ。

「分かってるわよ!」

「彗星〈ブレイジングスター〉!」

ミニ八卦炉を箒の後ろに付けるとそこから光の奔流が奔り、高速でルーミアに向かって飛んでいく。

「早――――ゴッ!?」

反応出来ずに箒の先がルーミアに突き刺さる。

「妹紅!」

「あぁ……〈パゼストバイフェニックス〉」

瞬間妹紅の姿が消える。

「!何処へ――――」

代わりに一匹の不死鳥が顕現する。それもさっきとは違い、大きさが桁違いだ。

その不死鳥の周りに大きい弾が出てくると一気に爆散し、ルーミアに迫る。

「………!」

闇を自身の周りに展開させ、防御を図る。

「オオオオォォォォォォォ!!!」

不死鳥が雄叫びを上げて闇の障壁に激突した。

ガンガン、と障壁を殴打する音が響き、障壁が軋む。

「あの鳥が………!」

罅が入り、その罅が広がっていき、闇が吹き飛ぶ。

舌打ちすると闇の触手で不死鳥を吹き飛ばす。

「――――――ッァ」

焔で出来た不死鳥が消え、妹紅が墜ちていく。が、その背後で魔理沙がミニ八卦炉を構えていた。

「恋符〈マスタースパーク〉!!」

光の奔流がルーミアに迫る。

「こんなもの………!」

闇で相殺させる。しかしすぐに二発目が飛んできてまともに喰らう。

「………ッ!」

「悪いわね。また封印させてもらうわよ」

「霊夢……ッ!?」

真上を見ると霊夢が月を背に一枚のカードを掲げていた。

「霊符〈夢想封印〉!」

ルーミアの周りに結界が形成され、閉じ込める。

「また結界!?なら……」

破壊しようとするが壊せなかった。強度が先程の比ではない。

「終わりよルーミア!」

七色に輝く弾幕を放つ。

それがルーミアを囲むように飛び交い、一気に押し潰した。

「言い忘れてたわ。霊符〈夢想封印 集〉」

再び静寂が訪れるとカードを投げ捨てた。

そのカードは一瞬にして消え去った。

ルーミアがいた場所には小さくなったルーミアが気絶していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

気絶しているルーミアを背負って森の中を飛ぶ。

「それで蓬莱人。橙矢は何処にいるの?」

「知らないよ…!それに見付けてたらとっくに避難させてある!」

霊夢と魔理沙は上空から、妹紅は下から橙矢を捜していた。

「何処だ……橙矢!」

森の隅々まで捜したが一向に見当たらない。

「………蓬莱人、あんたが橙矢を見たときどんな格好してた?」

「格好……?服の下を包帯で巻かれてた……けど」

「…!その時何処で戦ってたの?」

「確か………あ」

妹紅が唐突に何か思い出したかのように弾かれたように走り出す。

「おい妹紅!何処行くんだ!?」

魔理沙が追いかける。

「おい霊夢!私と妹紅は橙矢を捜しとくからお前はルーミアを連れて行け!」

そう言うと猛スピードで妹紅を追う。

「ちょっと!何で私がこんな奴のお守りなんか………ってもう行っちゃったし……仕様がないわね」

とりあえず神社に放って結界で囲っとけばいいだろう。

 

 

 

 

 

橙矢は未だに燃えている森の中で倒れている姿で発見された。

「橙矢!」

「何!橙矢が!?」

魔理沙が地に降り立ち、妹紅に駆け寄る。

「橙矢ッ、橙矢ッ!」

橙矢の身体を揺らしているが橙矢が意識を取り戻すにはあたらない。

「おい妹紅!それより橙矢を医者のところへ連れてくぞ!!」

橙矢の身体を揺らす妹紅を止めて担ぐと妹紅の手を取り、迷いの竹林へと目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、どうなんだ医者」

数十分後、橙矢を連れて医者のところまで運び、軽く治療してもらったところで魔理沙と妹紅の下に永琳が戻ってきた。

「………今はまだ気を失ってるわ。………ただはっきり言って異常よ」

「何がだよ?」

「貴方も見たでしょう?彼の傷の深さを。………焔での灼け傷にそれ以外に溶けた皮膚や肉………。一体何があったのかしら?」

「…………………それは………」

「ルーミア……常闇の妖怪にやられたんだ」

黙りこむ妹紅に代わり、魔理沙が説明する。

「常闇の妖怪?……私の記憶に間違いがなければそこまで危険があるような妖怪ではなかったはずだけど………」

「まぁ詳しい話は気が向いたら話す。それより橙矢は無事なのか?」

「今の時点では何も言えないわ……後は彼の生命力に賭けるしかないわ」

すると妹紅は弾けるように顔を上げる。

「!そうだ、不死……蓬莱の薬を飲ませて蓬莱人にすればいいんだ!そしたら傷も――――ゴッ!?」

瞬間、妹紅の首に矢が放たれる。

撃ったのは………八意永琳。

「…………妹紅。それは何があってもやってはならない事、いわば禁忌よ」

「……………ッ!」

「たった……と言っては駄目かもしれないのだけれど……。たったあれだけの傷を治すためだけに死なないという永遠の罪を着させるって言うの?……馬鹿な事は言わないでちょうだい」

「…………………」

「………後は私が診ておくから今日は貴方帰りなさい」

半ば命令口調で言うと建物の奥へ歩いていった。

「……………」

「……………妹紅、帰ろうぜ」

無言で矢を抜く妹紅に優しく声をかける。

「……………魔理沙」

不意に魔理沙の名前を呼ぶ。

「ん、どうしたんだぜ?」

「………私、間違った事言ってたかな……」

「……………あぁ、言ってたな」

「……………そうか」

肩を落として歩いていく妹紅を魔理沙は少し複雑な気持ちで見ていた。




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