東方空雲華【完結】   作:船長は活動停止

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前回の続きです。

あの人の登場っすよ………人?
そういえば神奈のことなのですがひとつ、このキャラのモデルはありません。

ではではどうぞ。




現人神の頁其の弍

 

 

 

 

 

『まだ、駄目だよシヴァ』

 

 

 

 

 

 

「ッ!誰だ!」

 反射的に起き上がり辺りを見渡す。シヴァも同様。だが橙矢以上にその表情は焦燥に染まっていた。

「構えろ東雲橙矢!来るぞ!」

「ハァ!?来るって何がだよ!」

「良いから構えろ!その娘を護ってろ!」

 すると前方の空間が歪んで一人の男が歩んでくる。道化師のような仮面で顔半分を覆った男は口を三日月に歪めた。

「やぁシヴァ、お勤めごくろうさま。けど駄目じゃないか仕事の邪魔をする者は何人たりとも潰す、それがキミの信条じゃない」

 途端にシヴァが苦虫を噛み潰したような顔になる。

「あいにくと俺にも人間の心が残ってるみたいでな」

「ふーん、まぁ何だっていいよ今更。……残念だけどタイムアップ。遅かったね。キミはここでお仕舞い」

「ッ!いや待てよ。俺はまだ次の命を受けてねぇぞ!なんで勝手に決められるんだよ!」

「捨てられたんだよ、きっと。……命令違反だ。キミの使命は東雲橙矢をこの世界から排除すること。だったら手っ取り早く殺すのが妥当だよ。……それで不甲斐ないキミに代わってボクが駆り出されたわけだ」

「……どの口がほざいているロキ」

「ようやくボクの名前を呼んでくれたね破壊神!嬉しいよ!」

「その口を閉じろ道化師!」

「………おいシヴァ、今ロキっていったか?」

「あぁ、そうだよ。奴が本物の神。その中でも群を抜いてのトリックスターだ」

「……そのくらいは知ってる。ロキ、この世の始まりと終わりの始まりである神々の戦い、ラグナロク。それを引き起こした張本人」

「………よく知ってるな」

 ロキがシヴァから橙矢と神奈に視線を飛ばした。

「キミ達が東雲橙矢と新郷神奈……だね。じゃあ早速だけど」

 ロキの姿がブレて消える。それと同時に神奈の背後にロキが現れ、炎で生成された剣を振り上げていた。

「死んでもらうよ」

「何しやがる!」

 シヴァが割り込んで受け止めた。

「シヴァ……?どうしてキミがその娘を護る。命が繋がっているからかな?」

「んな訳ねぇだろ!こいつと俺は無関係だ」

「だったら尚更、ボク達神が人間を庇う理由なんて無い」

 突如、ロキを橙矢が横から蹴り飛ばした。

「俺も忘れんなよロキ!」

「ロキ……これ以上のこいつらへの蛮行は許さねぇぞ。こいつらは俺が責任を持って外へ返す。お前は邪魔するんじゃねぇよ……!」

「………ボクに逆らうかい?……それは即ちボク達神群を敵に回すことになると一緒だよ?……先代のようになりたいのかい?」

「………………ッ!」

 シヴァの顔が苦痛に染まる。だがすぐに笑みを作った。

「今の俺は現人神だ。お前ら神とは違うんだよ。神と人間、二つの血を引く俺は二つの種族の架け橋になるんだよ」

「…………これでも?」

 瞬間、龍神の間が大きく揺れ出した。

「いや違う……!?これは天界全体……いや、まだ広がる!まさか……幻想郷全土に!?」

「残念だけど博麗大結界に皹を入れた。さぁ取引だシヴァ。キミがボクと共に来て東雲クンと新郷神奈を殺すなら博麗大結界を直してあげよう。だけど……このまま抵抗するならキミの愛するサティーの生まれ変わり、新郷神奈を殺して幻想郷を破壊する。そして東雲クンも殺して遊びは終了」

「…………ッ!」

 橙矢が天叢雲剣を、シヴァがカリブルヌスをそれぞれ構える。

「おやおや、満身創痍のキミ達にボクが殺せるかな?」

「唾棄すべきロキ!貴様は神群に必要ない!」

「誰を殺すって堕神様よォ!!」

 駆け出して先に橙矢が刀を突き出してロキが防ぐと次いでシヴァがカリブルヌスを振り抜く。それを天叢雲剣を防いでいる炎の剣を回転させて弾く。

「チッ!」

「しゃらくせぇんだよ!」

 弾かれた状態からシヴァが振り下ろして回転している剣を地に叩き付け、空いたところに橙矢が突きを放つ。

「甘い甘い、そんなんじゃいつまでも届かないっての!!」

 地に落ちてる剣を蹴りあげて橙矢に当てると掴んで橙矢を深々と斬り裂く。

「………………ァ……!!」

「東雲さん!!」

 倒れそうになる橙矢の腕をシヴァが掴んで立ち上がらせる。

「しっかりしろ東雲橙矢!俺達が負けたらあの娘も幻想郷も護れない!貴様言っただろ!護る、と。だったらそれをここで証明してみせろ!!」

「言われなくても……!」

 橙矢を中心に独楽みたく回り、シヴァをロキ目掛けて投げつけ、自身は奥の壁向けて跳んで着地すると壁を砕く勢いでロキへと跳んだ。

 先にシヴァのカリブルヌスが金属音を響いて止められる、その上から強化させた足で蹴り抜いて体勢を崩すと次いで腕を強化して刀を投げ付けて肩口を抉り取った。

「――――――ッ!」

「シヴァ!やれ!」

「命令すんな東雲橙矢!」

 そう言いつつもシヴァがカリブルヌスで肩を消し飛ばした。

「ガァッ!?」

「次いで貴様だ東雲橙矢!」

「分かってるよ!」

 天叢雲剣を掴んで橙矢に投げつけ、それを掴むと袈裟懸けに斬り裂き、怯んだところに蹴りあげ、シヴァが殴り飛ばした。

「………ッ」

 相当な痛手だったのかロキの片膝が崩れた。

「今のは……さすがに効いたね………」

「手を休めるな!一気に畳み掛ける!」

「っくぞ堕神!」

 飛び上がると上空から踵落としをする。それを後ろに跳んで避けると追うようにさらに跳んで追撃する。

「キミ達しつこいな!」

「早く終わりたかったら死にな道化師!この幻想郷にお前の居場所なんざねぇんだよ!」

 橙矢の影からシヴァが姿を見せて殴りあげて仰け反らせる。背後に橙矢が回ると腰辺り掴んでそのまま後ろに倒れてロキを頭から叩き付け、バックドロップを決めた。

「この……馬鹿………力……」

「神のテメェに言われちゃお仕舞いだな。決めろシヴァ!」

 倒れているロキにシヴァがカリブルヌスを力任せに叩き付けた。

「――――――――」

 地面に皹が蜘蛛の巣のように入ってすり鉢状に凹んだ。

 これを喰らえばいくらロキといえど致命的な痛手になるはず。

「……ッハァ……ハァ………さすがに……」

「……これで終わっただろ………」

 二人して息を整えながら立ち上がる。そしてロキを見下ろす。息はしていたが意識を失っていた。

「…………護……れた…………」

 フラフラと神奈のところへと歩んでいき、倒れ込むように抱き締めた。

「……終わった………終わったよ新郷……」

「東雲さん………」

「やっとこれで還れるんだ……新郷が元いた世界に………」

「………………………ッ、破壊神シヴァ!」

 急に神奈が叫んだ。シヴァの名を。

「な、何だよ新郷。急に……」

「ロキが……ッ!」

 振り向くと呆然と立ち尽くしているシヴァの背後にロキが炎の剣を振りかざしていた。

「――――シヴァ後ろだ!!」

 しかしすでに時遅く振り抜かれるとシヴァの背より血飛沫が舞った。

「――――――…………」

 反応することすら出来ずに地に伏せた。

「よくも……よくもやってくれたね半妖と現人神如きが……ッ!」

 すぐさま天叢雲剣を握り締めて構える。

「テメェ……まだ生きていやがったか!」

「…………キミとシヴァとの連携は素晴らしいものだ。それはいずれボク達神群の脅威となりうるかもしれない。だから…………ハハハ!ここで潰させてもらうよ!まず手始めに現人神からだ!!」

 倒れているシヴァに対して彼が使っていたカリブルヌスを振り下ろす。が橙矢が受け止めた。

「………ッ!殺させるかよ……!こいつは新郷を外へ還すための大事な人材だ……!」

「ハハッ、元人同士で仲間ごっこかな?片腹痛い!」

 炎の剣で横から斬り飛ばす。

「っざけんな!」

 飛ばされながらも何とか着地して足が地に埋まるほどの体重を全て刀に乗せて斬撃を放った。

「キミ一人なんざ相手にするまでもない!」

 躱すと橙矢に駆け出す。対し橙矢も駆け出して激突する。

「アアアアァァァァァァ!!」

「オオオオォォォォォォ!!」

 共に全力で押し合い、その果てにロキが押し勝ち、橙矢を吹き飛ばす。上手く着地すると足を強化させてロキに迫る。

 金属音が響き渡って弾き合う。次にロキが橙矢に剣を振り下ろした。紙一重で避けると懐に潜り込んだ。

「吹っ飛べェェェェェ!!」

 腕を強化し、刀を振り上げて吹き飛ばして壁に叩き付けた。そのまま落ちているカリブルヌスを拾うと天叢雲剣とカリブルヌスに僅かな妖力を込める。すると拒絶するかのように電撃が身体中を走る。だがそれを耐えるとロキ目掛けて跳ぶ。

「神如きが俺達の邪魔をするんじゃねぇ!一度死んで閻魔様の元で反省しな!」

 目の前まで来るとカリブルヌスを構えて妖力を込めて突き刺した。

「ガ……ッ!」

 次いで腕を限界まで強化させた上に残り全ての妖力を込めて天叢雲剣を振りかざす。

「終わりだ道化師!――――Blast off!!」

 超至近距離から放たれる巨大な斬撃。それはロキを呑み込んだ後も勢いは衰えずに龍神の間の壁を大きく抉り取った。

「……ッァ!」

 限界を越えていたのか腕から血が大量に吹き出て筋肉がズタボロになる。その事に気を取られたのか落下していることに気が付かなかった。

「……………………ッ」

「東雲ェ!!」

 天子の声が聞こえると共に何者かに受け止められる。見るまでもなかった。

「……てん……し…………」

「東雲!生きてるわよね!」

「あ、あぁ………なんとか………」

「東雲…………東雲ぇ………」

 涙目になりながら抱き締めてくる天子に抵抗する気も起きずになすがままにされていた。

「……………………シヴァは………」

 倒れているシヴァは橙矢の声に反応したのかゆっくりと身体を起き上がらせた。

「くっそ……あの野郎………」

「……何だよ……生きていたのか……しぶといやつだな……」

 天子に肩を借りて何とか立ち上がる。シヴァには神奈が肩を貸して立ち上がった。

「………まさか背後からやられるとは思わなんだ………。けど……やったんだな……東雲橙矢……」

「……あぁ、辛くも、だけどな」

 ――――刹那、より一層揺れが強くなる。

「おわ……ッ。な、何だ………!?」

 倒れそうになるが耐えると辺りを見渡す。すると先程橙矢が空けた穴から見える空に可視出来る博麗大結界が崩れ始めていた。

「……ッ!しまった!道化師に気を取られ過ぎていた……このままじゃあ……!」

「――――――ボクが………どうにかしたかい?」

『ッ!』

 聞こえた声に四人が目を見開いて声のした方に顔を向ける。そしてさらに眼球を開かせた。

 そこには橙矢の放った斬撃に呑み込まれたロキが今にも倒れそうな状態で歩いてきていた。

「………許さないよ………許さない……!神であるこのボクを………!ここまで虚仮にされるなど……!」

 道化師の表情は怒りで歪んでいた。

「何で……お前が………」

「ハ……ハハッ………神だから死なないのさ…………」

「上等だ……!そこまで死神に嫌われてるなら俺が直接送ってやる………!」

 天子から離れて天叢雲剣を構えて駆け出す、が膝が崩れて倒れ込んだ。

「東雲さん!」

「東雲!」

「キミは死神に好かれているようだね。…………さっさと楽になりなよ!!」

 炎で生成された剣を顕現させると振り下ろした。シヴァが蹴り飛ばして剣を弾いた。

「シヴァァァァァ!キミはどれほどボクの邪魔をすれば気が済むんだ!?」

「安心しろ。……これが最後だ」

 顔面を殴り付けると地に叩き付けた。するとシヴァがふと橙矢と神奈に振り向く。

「東雲橙矢、それと新郷神奈。………悪いな、俺が出来るのはここまでだ。……外の世界に還りたきゃ博麗の巫女にでも頼んでろ」

「………ッ!シヴァ……お前………。や、やめ………」

 言葉の意味が分かったのかシヴァへと手を伸ばすが届かない。

「…………東雲橙矢、新郷神奈のことを頼んだぞ」

 瞬間ロキの顔面を掴み上げると上空へと持ち上げ、飛んでいく。

「シヴァ………!駄目だ………!」

「一緒に逝こうかロキ、あの世で死ぬほど後悔させてやるよ……!」

「…………ッ!」

「安心しろよ、俺達は生き続ける。ただし神力だけなァ!」

 可視出来る結界に叩き付けるとそこから崩れていく。

「神の力でこの大結界を直す!ついでに定められている運命もな!」

「キミ………この世界を護るために自らの命を捨てるというのか!馬鹿が、それはボク達神のすることじゃ――――」

「神神うるせぇな!俺は現人神!貴様ら神とは根本的に違うんだよ!そもそも神ってもんは人の世界には手出ししねぇはずだろ!」

「綺麗事もそれまでにしておけよシヴァ!キミは自分の立場が分かってないらしいね!」

「それは貴様も同様!神は神話がある限り何度でも蘇る、何も心配はいらねぇ!」

「ふざけるな!」

「俺の先代が惚れた女の生まれ変わりが愛したこの地。だったら創造神としてその地を護るのが道理ってもんだろ―――――!」

 殴り付けて黙らせると心臓を手刀で貫いた。

「ゴフ……!」

 口から大量の血が吐かれ、手刀を抜く。すると神力の篭っている血が吹き出てき、また、自らの心臓も抉り出す。

「ッァ!……ラスト……スペルだ……」

 心臓を握り潰すと神力が溢れだしてカードを生成する。

「創破〈結界の方舟〉!」

 たった一枚の、されど一枚のスペルカードを発動させた。

「この世界の定められた理を破壊し、新たな大結界を作り出す。俺達は大結界を運ぶ方舟となるんだよロキ!!」

 叫ぶと二人の身体が粒子となって徐々に消えていく。

「あ……あぁ…………ボクが……」

「ハッハ……これまでのようだな……神が死ぬか……まぁこれも一興だろうな」

 もがくロキを押さえ込みながら自らと対等に渡り合った少年を一瞥する。天子に支えられながらシヴァを見上げていた。

「………ふ、久々に楽しめたな。感謝する東雲橙矢。………貴様もなロキ」

「ッ!なんだい急に……!遺言だったら聞かないよ!」

「……先代が惚れた女の生まれ変わりに会わせてくれて、そこだけは感謝する。……けどこれとそれとは話は別だ。……ここで心中させてもらうからな」

 すでに顔から下は消えている。ついには視界が光に包まれる。

「…………先代、これで…………いいんだよな」

 はるか何百年も前に神々に滅ぼされたシヴァに向けて問う。

「さて、そろそろこの世界の包む大結界と成ろうかな」

「くそ……ッ。シヴァ……シヴァァァァァァァ!!」

 絶叫するロキが先に消え、その粒子が大結界を作っていく。

「安心しろよロキ………ずっと俺がいてやるさ。貴様が一番嫌いな俺が……な………」

 瞳を閉じるとシヴァとしての意識が消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 徐々に直っていく大結界を見上げて先程まで殺し合っていた現人神を浮かべる。

「……………やってくれたな……シヴァ」

「……………破壊神シヴァ…………」

 緊張感が途切れたのかふと神奈が倒れ込んだ。無理もない。何度も殺されかけていたのだから。

「…………本当に終わった……んだな……」

 現人神と半妖、天人の三人が見つめる先には消えていった二人の神が残した大結界があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




シヴァさん自身では出したオリキャラの中で二、三番目くらいに好きです。中々いい人ですよね。
一番は断トツで神奈ちゃん。

まだ続きます。

感想、評価お待ちしております。

では次回までバイバイです。

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