今回は他のものとは違って分岐点が116話です。
つまり橙矢君が起こした異変のすぐ後ですね。
ではではどうぞ。
東雲橙矢はいつまで経っても眠ったままだった。幻想郷を破壊へと陥れ、またはその破壊を止めた少年。しかしそれまでに多大な攻撃を受け、さらに白狼天狗である犬走椛が元々彼が使っていた天叢雲剣で心臓を貫いた。それが決定打となったのか、別れの言葉を残して彼は逝ってしまった。
遺体となった彼は直ぐ様永遠亭へと運び込まれた。そこで彼を止めた者達は驚くものを見た。
逝ってしまったと思っていた彼は一命を取り留めていた。確かに天叢雲剣は心臓に突き刺さりはしたがそれは端の方だったらしく機能的には支障はきたしてないと医師は言っていた。だが連戦の疲れとそれまで強力な攻撃を受け続けていたことにより致死量を越える出血をしていた。先程の心臓の件よりもこちらの方が危険だったらしい。
話は戻る。現在異変が解決されてから二ヶ月が経った。だが東雲橙矢は依然として起きない。ほとんど毎日、天狗の領地である妖怪の山に住んでいる白狼天狗、犬走椛は暇を見付けては自身の能力である千里眼を使って起きるのを今か今かと待っていた。
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仕事が一段落して椛はひとつため息をついた。あの異変が起こってからというもの、幻想郷の各地がある一人の少年と一人の悪戯好きの神様によって潰されていた。幸い妖怪の山は被害が少く、復興するのにそこまで時間がかからなかった。だがそれでも白狼天狗は被害を受けた土地を直すために今日まで必死で働いていた。しかしその仕事も終わり、普通の哨戒の仕事に専念できる。
「これで終わりですかね」
千里眼を使って妖怪の山を一通り見透す。特に変わっているところはない。
「隊長、こっちはもう終わりました」
一人の白狼天狗が報告しに椛のところへと来る。椛は家柄が白狼天狗の中でも名家なため元々小隊を纏める役についていたが、さらに先日の異変の解決に大きく貢献したためさらに位が高い隊の隊長を任されていた。
「終わりましたか。ご苦労様です。では貴女のところの隊は……今日は非番でしたね。休んで次の哨戒の時に備えてください」
「了解です。……しかし犬走隊長。……えらく疲れてませんか?顔色があまりよろしくないですよ」
顔を覗き込んでくる。しかしすぐに戻した。
「……そうですね。ここ二ヶ月近くは忙しかったですから仕方ないですよ。……それにしても二ヶ月ですか。もうそんなに経つんですね。あの異変から」
橙矢が起こした異変は幻想郷に住む生き物全てに恐怖を与えた。椛も例外ではない。もしあの時橙矢がスペルを発動していなければ全てが終わっていた。
さらに目の前にいる白狼天狗は椛が初めて橙矢と出会った時に同じ隊に属していた者だ。だから彼に対しては少しだけ思いやりがあるのかもしれない。
「…………彼はまだ起きませんか?」
「……はい。まだ起きてません。……いつになったら起きるのでしょうね」
寂しそうな笑みを浮かべながら永遠亭のある方へと視線を向ける。
「…………………隊長」
「…………私は彼から大切な物を託されました」
腰に提げている鞘に収まっている天叢雲剣を握り締める。
「橙矢さんが帰ってくるまで幻想郷は私が護ると」
「……東雲橙矢に、ですか。………余程信頼されているんですね隊長は」
「えぇ。だから私も橙矢さんを信じています。必ず帰ってくると」
「…………きっと起きますよ彼は。なんてったって隊長が惚れた男ですもんね」
からかい気味にそう言うと椛の顔が一気に真っ赤に染まる。
「な、ば……何言ってるんですか!それとこれとは話は違うでしょう!!」
「あれー、否定はしないんですね」
「うるさいですよ!いいから帰りなさい!」
「分かってますよー。ひゃー退散退散」
逃げるように離れていく白狼天狗に吠える。しかしその姿が見えなくなると力なく両腕を下ろした。
「……………………橙矢さん」
名を呼んで眼に集中力を集めて永遠亭を覗く。その中からいつも通り橙矢が寝ている寝室へと場所を移す。
―――しかし椛の眼に映ったのは誰もいない寝室だった。
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数時間前
――――――ぅや……ん……
何かが聞こえてきてそれまで浮き上がってこなかった意識が浮上してくる。
(何だ………?今のは………)
―――――と……ぅや……ん
聞き覚えのある声だった。とても懐かしく、だがつい先程聞いたような。変な感覚だった。
―――――とうや……さん……
誰かが自分の名前を呼んでいる。覚醒しかけている意識の中で必死に手を伸ばした。
(誰だ、俺の名前を呼んでるのは……)
―――とうやさんッ
白い………毛?………懐かしい。確か知り合いに白い毛の奴がいたな。
―――橙矢さん!
確か名前は…………。
「――――橙矢さん!!」
――――――犬走椛
「―――――椛!!」
上半身を跳ね起こして完全に意識を覚醒させた。
「ハァ……ハァ………」
辺りを見渡すが椛の姿は見当たらず、逆に和風な寝室が広がるだけだった。
「………あれ………、ここは………なんでこんなところに………」
混乱してるとその部屋の戸が開かれた。月の頭脳である八意永琳が立っていた。
「東雲さん、起きたのね」
「……あぁあんたか医者………どうやらまた世話になったらしいな」
「………………貴方が起こした異変の後急に例の子達が貴方を運んできてね。地縛霊の子と白狼天狗の子がなんか泣きながら『橙矢を助けてください』って言ってきたのよ」
「……そうか」
「………感謝しなさい。けど今回は長く寝たわね。記録更新よ。二ヶ月寝てたわ」
「二ヶ月……?まぁ普通なら死んでいたところだし早いもんだろうな。今回も助かったよ。ありがとうな医者」
「お礼なら例の子達にいいなさい」
「…………あぁ。……じゃ俺はそろそろ」
布団を退かして立ち上がろうとした、その時足に力が入らずに崩れ落ちる。
「………ッ!?」
「………無理よそんな足では。歩くことは不可能よ」
医者が冷酷に言い下した。
「ッ!どういうことだよ!!」
「そのままの意味よ。貴方はあの異変の際にかなりの量の攻撃を受けたでしょう?その時に足の神経が全て切れたのよ。最善の手は尽くしたわ。……けど私でもお手上げよ」
「……何だよそれ………もう歩けないのかよ………!」
拳を握り締めて床を何度も殴り付ける。それを永琳が止める。
「ひとまず落ち着きなさい!もう手はないとは言ってないでしょう!?まだ他に手があるわ!………まずは落ち着きなさい」
「ッ……………!……わかっ…………た」
奥歯をギリッとなるほど強く食い縛る。永琳はそれを聞きながらあるひとつの椅子を取り出した。タイヤ付きの。
「……特別に河童に作ってもらったものよ。これに乗りなさい。………これなら足が使えなくても移動は出来るわ」
「…………………………あぁ」
手伝ってもらいながら何とか車椅子に座る。すると永遠亭の中が急に騒がしくなる。それを聞くと永琳がやや苦い顔をする。
「変なタイミングで来たわね………」
「……………」
段々と足音が近付いてくる。やがて橙矢達がいる部屋の前まで来ると永琳が来たときにあけた隙間より派手に戸が開かれた。
もんぺが特徴的な女性、藤原妹紅だった。
「…………妹紅」
「橙矢………。ッ!橙矢!起きたんだな!良かった……!橙矢!!」
駆け寄ってきて妹紅が橙矢を抱き締める。
「妹紅!?おま、何してんだよ!」
「本物だ、本物の橙矢だ……!」
「ッ…………。……悪かったな妹紅。心配かけたみたいで」
「心配なんてもんじゃないさ!ずっと橙矢のことが心配で心配で……」
「……………そうか。けどすまん。もう二度とお前と里を歩くことは無理そうだ」
「………は?」
「足の神経が全て切れたんだと。………ここの医者もお手上げ状態だそうだ」
「………な、んだよそれ」
「…………先に言っておきたくてな。……それより医者」
妹紅から視線を外して永琳へと向く。
「……久し振りに外の空気を吸いたい。良いよな?」
「えぇどうぞ、ついでにもう二度と来てくれなければなおさら助かるわ」
「普段から気を付けてるんだけどな」
「嘘おっしゃい。顔にまた来ますよって書いてあるわよ」
「筆を取った覚えはありませんが」
「いいから早く行きなさい」
へいへい、と軽い返事をすると器用に車椅子を動かして玄関へと向かう。
「………妹紅。少しだけ付き合ってくれるか?」
「…………里か?」
「いや、全然違う。ちと遠くなるが久々に会いにいきたくなって。………妖怪の山に」
はい、椛ルートはまだ続きます。
それと、なのですが神奈ルートが中々にご要望があったため椛ルートが終わり次第投稿させていただきます。
そして口内炎恐ろロシア。
それとですね、なんとこの東方空雲華のお気に入りが200件突破しますた!いやいや、ほんとお気に入り登録をしてくださる皆様、評価、感想をくださった方々、本当にありがとうございます。これからも何卒どうかよろしくお願いします!
感想、評価お待ちしております。
では次回までバイバイです。