…………はぁ。前回よりも甘ったるいです。
あと書いてる私が恥ずかしくなりました。
ではではどうぞ。
死亡したと思われていた東雲橙矢が幻想郷に帰還してから一週間後、普段は妖怪しかおらず妖怪寺とまで呼ばれている命蓮寺に一人の少年が訪れていた。
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夜の寺というものは中々に怖いものだ。ホラーゲームでは廃病院や学校に次いで………あれ、ないね。全然出てこないね。
寺の門を潜ると橙矢がここを襲撃する前の光景があり、それを見るなり少年は安堵の息を吐いた。
「ひとまず安心か……。ま、無事で良かった」
「………ん、その声は………あぁ君か」
寺の中から鼠妖怪が出てきて橙矢を見るなり頬を緩ませた。
「橙矢、随分と久しいじゃないか。して何用だい?まぁ君のことだから船長にでも会いに来たんだろう?」
「大形は合ってるけど少し違うなナズーリン。俺が壊した命蓮寺はちゃんと再興してるかなって思ったからだ」
「命蓮寺を、じゃなくて幻想郷は君が思っている以上に頑丈だ」
「思ってる以上に………ね。いやいや、予想通りだよ。ちゃんと俺がいなくてもやってくれてるんだなって思ってな」
「当たり前じゃないか。君が来る前までもこの幻想郷は成り立っていたんだ」
「……そりゃあ納得だ」
軽く笑むと辺りを見渡す。
「それで、あいつはいるのか?」
「船長ならいるさ。ずっと君のことを待っていたから相当面倒なことになると思うけどね」
何か橙矢が来る以前にあったのだろうかナズーリンは疲れたような笑みを作る。
「中々どうして君の話が止まらなくてね。気が滅入るよ」
「………え、何それ。すっげぇ怖いんだけど」
「君の話をするんだよ。余程君が帰ってきたことが嬉しかったんだろうね。喜びなよ。あれほど君のことを思っている素直な子はそうそういない」
「………底が見えない底無し沼に片足を突っ込んだような感覚だ」
「ハハハ、例えが上手いね。まぁそれが君にとって幸か不幸か。いやはや楽しみだよ」
「楽しみって………俺はお前のお楽しみ道具じゃねぇんだぞ」
「そう言わないでくれ、最近は忙しくてね。娯楽に飢えているんだ。これくらいは許してくれたまえ」
「…………それで、あいつは何処なんだ。いるんだよな。案内してくれ」
「いいよ。ついてきたまえ。元よりそれが私の役目だからね。………船長が君を思うように君も船長を見ていた………ということか」
橙矢に背を向けるとナズーリンが何かを呟いた気がした。
「ナズーリン?どうかしたのか?」
「ん、あぁ何でもない。気にしないでくれ」
「何だよ。……言いたいことがあるなら言えよ」
「……………気にしないでくれ」
「…………あっそ、お前がそこまで言うならなら聞かないことにするよ」
「物分かりがよくて助かるよ」
「他人に深く入り込みすぎるのは良くないってね」
「………じゃあ行こうか」
歩いていくナズーリンの後に続くと寺の中へと入っていく。
「…………なぁナズーリン」
「何だい橙矢」
「…………寺の奴等は俺を恨んでないのか?」
「………というと?」
「とぼけるな。俺が異変の時にこの寺を潰しにかかったろ。だから……」
「…………………だったら君をこうやって案内したりなんかしないよ」
「…………そうか」
「だけどね、ぬえは相当お怒りだったよ。気を付けな。それに君が死亡したと聞いたときは船長と………うちの主人が悲しんでたよ」
「寅丸さんが?」
「あぁ、なんせ君を気にかけていたようだからね。………毘沙門天でもあろうお方がね」
「………後で謝っておくか」
「そうした方がいい。だけどまずは船長からだ」
「俺もそっちの方から頼みたい」
「さてさて、船長の部屋はこの先にある。ここからは一人で行ってきたまえ」
「………ありがとな。………ってここの先の部屋って」
「おや、気付いたかい?そうだよ。君が使っていた部屋だよ」
一度橙矢はこの寺に世話になったことがある。この先にある部屋はその際に橙矢に宛てられた部屋だった。
「……なんの因果かしらねぇが……まぁいい」
さして何も考えずに歩いていく。恐らくここでうだうだ考えていたところで何もならないだろう。
「……船長が終わったら是非にご主人のところに行くがいい」
「分かってるっつーの。ぬえって奴に見つからずに、だろ?まぁ力ずくで追い出そうとして来たら応えるわけにはいかねぇけどな」
口の端を吊り上げて腰に提げてある刀の刀身を少しだけ見せる。が、すぐにしまう。
「おっと勿論冗談だぞ。争い事は嫌いなもんでな」
戯けるように肩を竦めて苦笑いした。
「さて……それじゃあ行くとしますか」
「それと橙矢。君はこの後何か用事はあるかな」
「用事?いや、特にないな。それがどうした」
「なに、一緒に夕食でもどうかなって思ってね」
「いいのか?」
「一応君は客人なんだ。もてなすのが道理だろう?」
「あー……。それなら言葉に甘えるよ」
「はいよ。では聖にはそう伝えておくよ」
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部屋の前まで来ると音を立てずに戸を開ける。
「……………」
部屋は暗くなっていた。明かりもつけずに。だが暗夜に目が慣れている橙矢は目を細めるとこちらに背を向けている久しい少女に声をかけた。
「………こんなところで何してんだよ村紗」
名前を呼ぶと弾けるように少女、村紗水蜜が振り向いた。
「………橙矢………?」
「他に誰がいるんだよ。お前の目は節穴か」
月明かりで多少は見えるのだろうその瞳に橙矢の姿を映す。
「………来てくれたんだ」
「……時間はかかったけどな。どんな顔でお前の前に立てばいいのか解らなくてな」
「……別にどんな顔でも私は橙矢の顔を見れれば良かったんだけどね」
「そうか、それは悪かったな」
「ほんと、橙矢は女誑しなんだから」
「………………いや、誤解されるような言い方はやめてくれると嬉しいな」
「……それで、私に何か用かな」
「お前に会いに来たんだろ。言わせんな」
「他の子達のところにはいいの?」
「………今はお前だ。………けどいずれ行くつもりだ」
「………ほんとに?」
「嘘をつく理由が何処にある」
「そう、なんだ……。私が一番……なんだよね?」
「まぁ……………そういうことだな」
すると村紗は橙矢の胸に飛び込んできた。
「橙矢………!」
「……何だよ急に」
「嬉しい!橙矢が……橙矢が私のところに一番に来てくれたことが……!」
「…………なんだ、そんなことか。……ちょっとした気まぐれだ」
「それでも……それでも……橙矢は」
「あーはいはい分かった分かった。……とにかくだ。今日はもう遅いからここで世話になるから……その、色々と頼む」
村紗をすぐ放して一歩下がると視線を外して廊下を歩いていった。
「………橙矢?」
その時村紗の目には少し顔を赤らめていた橙矢が映っていた。
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夕食と風呂を済ませて前と同じ配備された部屋に横になっていた。
すでに日付は変わっており、良い子は寝るお時間です。だが橙矢は未だに眠れずにいた。
「…………くそ」
寝ようと思っても中々に寝つけれない。
「こんなのいつぶりだ」
寝れないのならいっそのこと自らで気絶させて無理矢理にでも寝ようと思った。その時に戸の外に人影が映る。
「………橙矢、起きてる?」
やはり、というべきか村紗だった。
「あぁ起きてるぞ。……とりあえず入ってこい。外にいたら風邪引くだろ」
「うん、じゃあ失礼するよ」
戸が開かれて村紗が部屋に入ってくる。
「………どうしたんだこんな真夜中に」
「ごめん、ちょっと寝れなくてさ」
「……なんだ、お前もか」
「も?ってことは橙矢も?」
「あぁどうやらな。今から無理矢理気絶させて寝ようと思ったんだが……お前が来たからな」
「そっか、ならそうなる前に来て良かった」
「ん?」
「いや実はさっきまでは寝れてたんだけど夢で生前のことを思い出しちゃってね」
「生前……。なるほど、お前確か地縛霊だったな」
「………それで人肌が恋しくなって………それで橙矢と……その………」
「………なるほどね。だったら早くそう言えよ」
布団を取り出して敷くとそれを指差す。
「それで寝な」
「………いいの?」
「勝手にしろ。地縛霊といえどお前は女の子だ。風邪を引かれちゃ俺が困るんだよ」
「…………ありがと」
村紗が微笑むとそれに対して橙矢も笑む。
「……初めは冷たいかもしれんがまぁ……そこは我慢しろ」
入ると布団に触れて冷たかったのか少しだけぴくっとする。
「……やっぱり冷たいか」
「やっぱり………橙矢、ちょっと近付いてくれる?」
「あ?……別にいい―――がァ!?」
近くに寄った、瞬間腕を村紗に取られて布団の中に引きずり込まれる。
「けどこうすれば温かいね」
「………………お前………」
驚いたもののため息をつく。
「………ふふ、橙矢がこんなにも近くにいる」
「……そうだな。こんなに近くで顔会わせたことないもんな」
「ねぇ橙矢……。少し寒いから近付いていい?」
「いや今だけでもかなり近いんだが………ま、いいか」
「それじゃあ遠慮なく………っと」
一気に近付くと橙矢に抱き付く。
「村紗……!?いや、おま、何して……」
「………いいじゃん。橙矢がいない間……ずっと寂しかったんだから……それとも私じゃ………嫌?」
上目使いで聞いてくる。それはもうあれですね。卑怯ですね。断るわけにはいかない。
「……………分かったよ」
「…………橙矢」
「………ん?」
「…………私……橙矢が暴走して自我がなくなったとき………本当にもう二度と会えないかと思った……」
「……………村紗、俺はちゃんとここにいるよ。お前の前にな」
村紗を胸に抱くと頭を撫でる。
「………うん」
「確かにあの時の俺は完全に自我を失ってたからな。………村紗含め……感謝しないとな」
「ほんとだよ……。けど今は」
より一層強く抱き締める。
「橙矢がこんなに近くにいてくれる………それだけで幸せだよ」
「…………あぁ」
「………それとだけどさ」
ふと村紗の顔に朱が混じる。
「橙矢が天界に行こうとしたとき………あったでしょ?」
「あったな」
「その時に私が言ったこと………覚えてる?」
破壊神であるシヴァがこの幻想郷に現れ、現人神である新郷神奈がそのシヴァに天界に拐われた。その際に橙矢が偶然ながらこの命蓮寺に転がり込み、村紗と会った。その時の出来事。
その前の事件で命蓮寺の面々と決別し、村紗も敵と見ていた。だが村紗は敵ではないと豪語。もちろんのごとく信じられずに橙矢は拒絶。村紗は信じてもらえることに必死であることを口にした。
『どうして信じてくれないの!?』
『どうして信じてるかって!?好きだからだよ!!』
紛れもない告白だった。
「あの答えを…………聞きたいな」
「………………ッ」
突然のことで息がつまる。当然のことと言えば当然だ。いきなり告白されて動揺せずにいられるのはプレイボーイくらいだろう。
「…………俺は……………」
「……橙矢…………」
―――――この世から往ねたものがその地に未練を残し、地縛霊と成る。この少女は恐らく幼く水難事故に巻き込まれたのだろう。そして何百年も前に聖白蓮に助けられ、その数年後にはその聖が封印され。結局その封印は解かれたわけだが。だとしたら何なのだろう、この少女の未練というのは。もしそれが一生解けない無理難題だとしたら、いや、無理難題だとしてもそれが解けるまで生涯添い遂げようと思う。
「…………俺は………村紗、お前が好きだ」
村紗の瞳を真っ直ぐに見つめながら言う。躊躇う必要なんてない。この気持ちは自らのものなのだから。
「そして生涯、お前と共にいることを……約束するよ」
すると村紗の腕が橙矢の首に絡まる。
「…………ッ……私も好きだよ……橙矢」
そしてさらに近付いて唇を重ねた。
「…………!?」
突然のキスに橙矢の頭が真っ白になり、何を言えばいいのか分からなくなる。だが二回ほど深呼吸すると落ち着き、口を開いた。
「………こんな人でなしを好きになってくれて……ありがとう」
「違うよ。橙矢は絶対に人でなしなんかじゃない。だってその証拠にこの幻想郷を救ったじゃん。………橙矢は何も間違ったことはしてない。新郷神奈の時だって………あんなに人を思えるなんて……人でなしだったら出来ないよ」
「…………………ハッ、だったら俺は人としての道を全うしたってか」
「………そうだね。少なくとも私はそう思ってるよ」
村紗が笑みを作ると同時に欠伸をした。
「………何でだろうね、温かくなったから……かな、眠たくなってきた……」
「だったら早く寝ろ。いつまでも起きてると明日が辛いぞ」
「………うん、そうするよ…………ふふ」
不意に村紗が嬉しそうに声をあげる。
「何だ………急に笑いだして」
「いや、そう大したことじゃないよ。……今日寝て、そして明日起きたら目の前に好きな橙矢がいて………一番におはようって言えるんだな……って思うとつい、さ。嬉しくなって……」
「……………」
照れ隠しなのか顔を隠すように橙矢の胸に顔を埋めた。
「これからも………ずっとずっとこうして橙矢と笑って暮らせる日々が続けばいいのに………これからも……このまま変わらずに……何もかも………」
「………馬鹿かお前は。続けさせるんだよいつまでも。……今度こそ護ってみせる。この平穏な日々を」
「……橙矢の言う通りだね」
目を閉じて体重を橙矢に預け、甘えるように胸にすり寄った。
「……………もう限界………。おやすみ……橙矢………」
「……………あぁ、おやすみ村紗」
村紗が寝付いてから橙矢は村紗を少しだけ離して頭を自らの伸ばした腕に乗せ、頬に手をあてた。
「………ん、橙矢……………………」
村紗の口が開いて橙矢の名を呼ぶ。
「………村紗。お前は………お前はほんとに良い奴だよ」
こんな幻想郷を危険に陥れる異変を起こした人でなしを好きになってくれるなんざ、聖者か馬鹿くらいしかいない。その中でこの少女は最初から最後まで信じてくれた。その恩を一生で返さなくてはならない。他の誰でもない村紗水蜜への恩を。
だからこそこの命蓮寺へと足を運んで村紗に会いに来た。
「……………いつかお前を縛る未練、それがこの世界が終わる前になくなるといいな」
目の前にいる村紗は恐らくいつまでも、どこまでも橙矢のことを信じて、信頼してくれるだろう。だとしたら彼は彼女を護る楯となろう。彼女を仇なす者を全て切り捨てる刀となろう。
もう二度と信頼を裏切らないために。
村紗と橙矢君のこの後を書いてみたいですね。時間があれば、ですけれども。
次回は……まぁ分かりますよね。椛です。
感想、評価お待ちしております。
では次回までバイバイです。