東方空雲華【完結】   作:船長は活動停止

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どうもどうも、受験が終わりましたので投稿を再開しようと思います。

それとですね、とみこさんから神奈ちゃんと東雲君のイラストを頂きました。
ありがとうございました。


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ではではどうぞ。




第七話

 

 

 

 

「し、東雲さん!?大丈夫ですか!?」

 必死に呼び掛けるが反応がなかった。余程強い衝撃を受けたと予測できる。

 橙矢の腕を自身の肩に回させると担ぎ上げて寺の門の下まで行く。

「すみません!誰かいませんか!?」

「…………んー?誰だい?」

 門の上から気だるそうな声がすると次いでひとつの影が神奈の前に降りてくる。

「よ……っと、あれ、始めて見る顔だね」

 水兵服を着、水兵帽を被った神奈とあまり歳が変わらない容姿の少女は眠たげに神奈を見る。

「あ、あの……この人を……」

「うん?あぁちょっと待っててね………って……え」

 少女が橙矢の顔を覗き込むと表情が一変した。

「と、橙矢!?何で橙矢が!?」

 少女の口から血まみれの少年の名前が出た。どうやら橙矢のことを知っているようだ。

「とにかく寺の中にまで運んで寝かせておいて」

 神奈を寺の敷地に入れると少女は寺の中に駆け込んでいった。

「聖ー!橙矢が怪我したから手当てするよー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 他の部屋で待機していた神奈は忙しなく視線をあちらこちらへ向けていた。

 その部屋の襖が開いて一人の女性が姿を見せる。

「失礼します。こちらが来訪した方がいらしたと小耳に入れまして………っと合っていたようですね」

 襖を開けて入ってきた人物は「失礼しますね」と言い、神奈の前に歩んできた。

「はじめまして、ですね。新郷神奈さん」

「え、えぇ……。ってどうして私の名前を………?」

「今の貴方……と東雲さんを知らない人はこの幻想郷にはいませんよ」

「……………」

 無駄だと知りながらも無意識に少々身構える。しかし女性は眉ひとつ動かさず微笑んでいた。まるでそういう態度を取ることが分かっていたかのように。

「………ですが安心してください。私含めこの命蓮寺では貴方を殺すような馬鹿な真似をする者はいませんよ」

「………え?」

 衝撃的な一言に神奈は言葉を失った。それもそうだろう。幻想郷は総力を持って自身を殺しに来ている。味方など橙矢くらいしかいないと思っていた。

 騙そうとしているのか、と考えたがその考えはすぐに霧散した。もし殺そうとするならば厄介者の橙矢が気絶していない今を狙うはずだ。橙矢を知っているくらいだからどれほど彼が敵に回せば厄介であるか分かるはずだ。それをしないということはこの女性が言っていることは本当なのだろう。

「その様子だとかなり狙われていたようですね。……外へ出ましょう。貴方とは少しお話がしたいです」

「え、あ………はい」

「……あぁ申し遅れました。私はこの寺、命蓮寺の僧侶の聖白蓮と申します」

「……よろしくお願いします」

「では参りましょうか」

 部屋を出ると少し広い庭園へと出た。

「さて、何処から話せばいいでしょうか。貴方がこの世界を破壊しようとするシヴァ神と命が繋がっていることはすでに存じています。そしてそのシヴァ神が数日前、人里で暴虐の限りを尽くし、妖怪退治という名目でその場にいた東雲さんや博麗の巫女さらには妖怪の賢者を追い詰めたことも」

「東雲さんが……?」

「えぇそうです。尤もその時の東雲さんは吸血鬼の妹と何度も死闘を演じた後でしたから無理もないかと推測します。それを果てた今、この幻想郷にシヴァ神が敵う者はいないと考えた妖怪の賢者が命を繋げてあるサティーの生まれ変わりである貴方に目を向けた。……後は分かりますよね?」

 白蓮の言葉に神奈はひとつ頷く。

「そういうことです。つまり貴方は今理不尽な理由で殺されようとしている。……それを黙って見過ごすわけにはいきません。私達は貴方を見殺しになんかさせません」

「聖さん……」

 橙矢以来の味方に神奈の瞳に涙が浮かぶ。

「…………それに東雲さんの――――」

 

 

 

 

「――――新郷!!」

 

 

 

 

 聖が何か言いかけたところで久々に聞いた声が耳に入る。

「……東雲、さん」

 橙矢が姿を見せると向こうも神奈を見付けたのかすぐに駆け寄ってくる。

「新郷!無事だったか!?」

「は、はい。何とか」

「そうか……それなら良かった……」

 安堵するとそこでようやく白蓮の存在に気付いたのか神奈を庇うように白蓮に向き直る。

「………いたんですか、聖さん」

「起きたんですか、無事で何よりです東雲さん。それはそうとどうしたんですか?」

「……………」

「橙矢!急にどうしたのさ!」

 寺から村紗とナズーリン、それに星が出てくる。

「………まぁ落ち着け船長。橙矢にもそれなりの理由があるんだろう。……大抵は分かるが」

 ナズーリンが橙矢の背後に立つ神奈に視線を向けるとその間に橙矢が割り込む。

「君も落ち着いたらどうだ橙矢?その傷を見る様じゃあここまで来るのに相当酷くやられたんだろう?」

「だとしたら何なんだ」

「別に私達は君達と対立するつもりはない。したってメリットはないだろう?あいにくだが私自身にメリットがない取引はしない。聖やご主人はどうだか知らないけど。けどそんな私ですらこう言っているんだ。少しは信頼してもらえないか?」

 すると後ろに控えている星がナズーリンの前に出てくる。

「ご主人?」

「……結構ですよナズーリン。こう言っては何なんですが……、東雲さんはもう腹を決めている様子です」

「俺が?……何を根拠に」

「ではひとつ、質問をします。何故貴方は我々に対し構えているのですか?」

「え…………」

 何のことかと思い、自身が身構えていることに愕然とした。

「……………橙矢?これは……」

「村紗。これはその……ち、ちが――――」

「何も違いはありません」

 星が槍の柄の先で地を一度強く叩いて橙矢を黙らせる。

「ッ…………星さん………」

「…………結局貴方はその程度しか私達のことを信頼してはいなかったのですね。……非常に残念です」

「違う………違うんだ……」

「もう貴方の顔は見たくないです。今すぐ立ち去りなさい」

 助けを求めるように村紗に視線を向ける。

「橙矢……、星さんの言う通りなの……?」

 橙矢を信じられないようなものを見るような目で見ていた。

「むら……さ………」

「橙矢…………」

 精神的に相当効いたのか膝が折れて崩れ落ちる。

「東雲さん!」

 それを神奈が支えてとどまる。

「……………悪い……新郷……」

 橙矢が何とか視線を上げて命蓮寺の面子を見渡す。

 早かれ遅かれ衝突するのは時間の問題かもしれない。

「………………ッくそ!」

 痛いほど奥歯を噛み締めると神奈の腕を掴んで足を強化させると命蓮寺の外へ向けて跳んだ。

「逃げた……!?逃がしてはなりません!」

「法灯〈隙間の無い法の独鈷杵〉」

 星が突如スペルを放ってきた。

「………ッ!」

 足への強化を中断して腕を強化させると地に叩き付けて地を無理矢理盛り上げさせて弾幕を弾き返すと同時に視界を奪う。

「今のうちに……!」

「待ちなさい!」

 盛り上げられた地を砕いて聖が橙矢と神奈に迫る。しかし橙矢は迫ってきた勢いをそのまま殺さず受け流すと地に叩き付けた。

「悪く思わないでくださいよ」

 一言呟くと神奈の手を取って寺の外まで全力で跳んだ。

「逃げさせてもらうぞ……!」

 呆気に取られる命蓮寺の面々を余所に森の中へと駆け出した。………その時神奈は見ていた。橙矢の顔が苦渋の表情をしていたことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どれほど外傷を治しても心の傷はいつまで経っても在り続ける。それが深ければ深いほど残り続ける。

 

 

 

 

 

 

「ッ!」

 橙矢の身体が崩れ落ちてバランスが定まらず不安定に着地する。

「………悪い新郷」

「……東雲さん………」

 心配そうに橙矢を見るがそんな視線を煩わしげに思ったのかすぐに立ち上がると歩き始めた。

「………………俺のことなんて心配するな。はっきり言って迷惑だ」

 先程の表情とは一変して神奈を睨み付ける。

「…………ッ」

「………良いんだ俺の心配なんざ。……新郷はただ還ることだけを考えていろ。俺を視界に入れるな。人だと思うな。………単なる道具だと思ってくれ」

 不器用な少年の不器用な優しさ。それを感じながらも神奈は少しだけ悲しくなった。

(東雲さん………。今の私より辛いはずなのに…………)

「…………東雲さん。……無理なさってはいけませんよ」

「……無理?……誰が無理してるってんだ」

 何ともないように振る舞っているがその疲労さは隠しようがなく駄々漏れである。

「………………明日、朝イチで出る。これからは暗くなる。そうなれば妖怪共の餌食になるものと同じだ」

 フラリフラリと危なっかしく歩いていく。

「………………………」

 ふと空を見上げると空は茜色に染まり始めていた。

「………俺がいて新郷、お前もいる。それだけで良いんだ。今はな………」

 橙矢は覚悟を決めたような目付きをしていた。

 

 

 

 




結局橙矢君の早とちり。

感想、評価お待ちしております。

では次回までバイバイです。

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