投稿遅くなってすみません。
ではではどうぞ。
神奈が目を開けると近くには誰もいなかった。だが新郷は笑みを浮かべながら掛け布団を抱き締める。
幸いにも今は家主である橙矢はいない。つまり好き勝手してもいいということだ。
………ひと通り惰眠を貪った後に身体を起こす。立ち上がって戸を開けると目の前に橙矢がいた。
「し、東雲さん。…おはようございます」
「ん、新郷か。早かったな。もう少し遅くても良かったのに」
「健全な高校生ですから」
「だったら俺もだな」
「そうですね」
「まぁ起きたことだし早めに出るか。俺はもう準備出来てるから新郷もしてきてくれ」
「……………準備ですか?」
「あぁ、外の世界に還る準備をな」
そういうばそうだった。
「………おい、まさか忘れていた、なんて馬鹿なこと言わねぇだろうな」
「………言いませんよ」
「………………そうか、ならいいんだが」
「それじゃあ準備してきますね」
「あぁ……そんなに急がなくていいからな」
橙矢がそう言うが神奈は駆け足で家へと駆けていった。
再び家の中に戻ると神奈は少し複雑そうな顔をしていた。
「……今日で」
幻想郷から逃れられるの喜び半面、それと同時に橙矢と別れる悲しさ半面。
けどそんなことで橙矢を困らせるわけにはいかなかった。
「……………もう決めたんだ。帰るって」
そう、決めたんだ。………。
決めた、つもりだったんだ。
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「お待たせしました東雲さん」
家の前で佇んでいる橙矢に声をかけると振り向く。
「ん、以外に早かったな」
「特にすることはありませんでしたから」
「そうか、だったら行くか」
「……はい」
橙矢が歩き出すと隣に神奈も並ぶ。
ふと橙矢が何か思い出したのか神奈に視線を向ける。
「………?東雲さん?どうかしましたか?」
「あぁいや、特に気にすることでもないんだが………。気にしてるなら答えなくていいからな。………君の眼についてだ」
「………私の?」
神奈の言葉にひとつ小さく頷く。
「……オッドアイってのは虹彩異色症って言ってな、稀に見るもんなんだよ。まぁ異色つっても大方色は近いんだけどな。………けど新郷。君は見たところ黒と緋だ。まるで違う。これは虹彩異色症ではないとすぐに判断した。まぁ仮にそうだとしよう。だとしたらどうして左右と眼の色が違うんだ?」
「………さぁ、それは私には分かりかねます」
「まぁ普通の人だったらそういう反応するだろうな。悪い、変なこと聞いて」
「い、いえ特に気にしてませんので」
「……………」
橙矢はその言葉が嘘であると見逃さなかったがあえて何も言わなかった。
「……そうだな。昨日今日出会った奴にはそうそうに話してくれないか」
「え?何か言いましたか?」
「……いや、何でもない」
誤魔化すように苦笑いする。
「………さて、帰ろうか、君が元いた世界に」
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長い階段を上るとひとつの社が目に入る。
「さ、着いたぞ」
「東雲さん?けどここ神社じゃ……」
「あぁ神社だ。ここにいる巫女にやってもらうんだよ。ほら、噂をすればだ」
橙矢が指差す先には一人の女性……いや、神奈とそれほど年齢が変わらない少女がこちらに歩いてきていた。
「あら橙矢、久しいわね。紅魔館以来ね」
「確かにな…………」
「それはともかく何の用かしら?あんたがここに来るなんて珍し………………あぁそういうこと」
神奈を見るや否や納得した表情になる。
「外来人ね。その子を外の世界に帰せってことでしょう?」
その台詞に橙矢は明らかな疑問を抱いていた。
(新郷のことを知らないのか……?いや、けど昨日の西行寺ってやつは霊夢と八雲さんが神奈の殺害を目論んでいた、て言ってたよな。だとしたら目論んでいるのは八雲さんだけ………?)
悟られないように平穏を装いながら様子を伺う。しかし本当に神奈のことを知らないようだ。
「……まぁそういうことだ。頼まれてくれるか?」
「分かったわよ。けど少しだけ待っててくれるかしら?」
「はいはい、待つから」
すると霊夢は社へと戻っていく。それを横目に橙矢はひとつ息を吐いた。
「帰れるな」
「……はい」
「外の世界に帰ったなら幻想郷にあったことは忘れろ」
「え?」
「………ここの世界はお前が思ってるほど優しくない。……辛いことばかりだ。だから忘れる方を推奨する」
「……………考えておきます」
「………考えておく、か」
普通だったら命を狙われている記憶はいち早く忘れたいに決まっている。だがどうして神奈は躊躇しているのか。今の橙矢には到底理解が出来なかった。
「……………」
「待たせたわね」
その時霊夢が一瞬で橙矢の目の前に現れる。
「………咲夜さんの真似事は止してくれるか」
「残念だけど私はあんなインチキ臭い能力は持ち合わせていないわ。私の場合空間転移よ」
「どのみちインチキじゃねぇか」
「うるさい、それよりもそこのあんた……ほんとにいいのよね?」
霊夢が神奈を指差して少々重い声を出す。それに神奈はゆっくりと頷いた。
「なら結構。すぐに結界を開かせるわ」
すると何かを唱え始める。
「………詠唱か何か必要なのか?てっきりすぐに開かれると思ってたんだが」
「それはあんたの勝手な解釈でしょうが。いいから黙ってなさい」
「へいへい、すみません」
「……………」
何か不服に思ったのか不機嫌そうな顔になる。
「………悪かったよ。これが終わったら何処か飯でも奢ってやるよ」
「―――――――それ、ほんと?」
急に霊夢の目が希望に満ちた、気がした。
「…あぁほんとだ。だからもう少し早く……」
「開けたわ」
「……………は?」
「だから開けたって」
霊夢が橙矢の方を見ると霊夢の背後の空間が裂けて、見覚えのある世界が広がる。
「………相変わらず食いもんが絡むと恐ろしいな」
「生きるためには食べることは必需よ」
「いやそうだけどさ………。まぁいいや」
最悪餓死寸前になったら幻想郷全ての食物を食い散らかすんじゃないかと半ば本気で心配しながらもこれが終わったらどれだけ金を使わされるのだろうとため息をつく。
「それよりも、ほら。さっさと潜っちゃいなさい。ずっと開いてると面倒だから」
「これほんとに外に通じてるのか?」
「あら失礼ね。ちゃんと通じてるわよ。……けどね」
すると霊夢は橙矢の背後に空間転移すると橙矢を裂け目に向けて押す。
「え……。ちょっ、馬鹿、やろォ!?」
橙矢が裂け目に触れた瞬間見えない何かによって阻まれ、そのまま後ろに押し返される。
「……ってぇ……。何なんだよ」
「完璧な人間でない限り出られない」
「あー……なるほど。それで俺は弾き飛ばされたのか」
「そういうことよ。外の世界に行っても達者にね」
不意に神奈に話を振って軽く手をあげる。
「…………はい」
神奈は少し悲しそうな顔をしたがすぐに覚悟を決めた。
「……では私はもう行きます」
「あぁ、短い間だったが……。元気でな」
「東雲さんもですよ」
「俺はいつでも元気でやってるよ」
「ふふ、そうですね。では……」
裂け目に足を一歩、踏み出して――――――神奈の身体は弾かれた。
自らの身で起こったことに神奈は目を見開いていた。それは背後に控える二人も同じことだ。
「…………何が」
「……あんた、ちょっとじっとしてなさい」
霊夢が神奈に歩みより、その額に手をあてる。すると霊夢は何かに気付いたように納得した。
「……神力が宿ってるわね。それはそうとあんた、名前は?」
「………。ッ!」
橙矢が慌てて二人の間に割って入ろうとしたが遅かった。
「私ですか……?に、新郷………神奈です」
「―――――――クロね」
瞬間神奈に向けて鋭く尖った針が投げつけられた。
突然ですが私夜桜ただいま絶賛受験期間中ということで11月の中旬まで投稿を停止させて頂きます。
時間があったらその前に投稿するかもです。
感想、評価お待ちしております。
では次回までバイバイです。