理由はとにかくひとつの物語が短いためです、、
そしていつも通りのグダグタな話。
ではではどうぞ。
―――死戦前夜
脳裏に浮かぶは愛しい者の死顔。それがこびりついて離れない。
「…………………」
神界で空を見上げていたシヴァはひとつ、ため息を吐いた。
彼は破壊と創造を司る神。神群の中ではかなり上位に座している。能力が能力が故に、だが。
そんな彼にひとつの令が下された。地上では大陸続きになっているが、結界で囲まれたひとつの小さな郷、幻想郷を潰してこいとの事だった。
「………さすがにあの人から直々の命だからな……。断るわけにもいかないし……やるしかないか」
重い腰を上げて立つ。そこでひとつの影がシヴァの背後に現れる。
「やぁシヴァ。元気かい?」
顔半分を仮面で覆ったカラフルな色の服を着た男がゆっくりと歩んできた。
「…………何のようだロキ」
嫌そうな顔をして再び座り直す。
「酷いなぁ、せっかくキミを応援してあげようとしているのに」
「お前に心配されるようじゃ俺もまだまだだな」
「逆に考えなよ。キミはボクという心強い味方がいるんだ。これ以上に頼もしいものはないだろ?」
「黙れ、そして野垂れ死ね」
「随分と嫌われたものだねボクは」
「知ってての行動だろ」
実質シヴァはロキのことを嫌っていた。神々の頂点である最高神ゼウスの命に忠実に従うシヴァに対してあまり命には従わずに自由奔放にしているロキ。全くの正反対なはずなのに、いや、だからであろうか。彼はシヴァに突っかかることが多くなっていた。
まったく性格の腐りきっている神だ。
「で、俺に何か言うことでも?」
「そうそう、忘れるところだったよ。シヴァ。キミは確か幻想郷を破壊しに行くんだよね?」
「………そうだが」
「幻想郷には近々外来人が来ているらしい」
「知ってるさ。……東雲橙矢だろ?あの世界から忘れ去られたっていう」
「そうそう。キミには幻想郷を破壊するという命が下された。それは表向きのね」
「……表向き?」
「そう、表向き。本当は東雲橙矢を現世へと戻す作業だ」
「………けどそしたら辻褄が合わない。それと幻想郷を破壊するという命とは関係ないじゃないか」
「キミは何も分かってないだけさ。東雲橙矢はすでに妖怪となっている。そして幻想郷から出るには少なくとも妖怪が持つ妖力を無くさなければいけない」
「………まさか、そのためだけにか?」
「残念だけどそんなことで済むような話じゃないんだよもう。東雲橙矢が幻想郷に入ってから次々とイレギュラーが起こっている。それをボク達神群が無理矢理でも直さなきゃならない」
「………その話は本当か?」
「勿論。ボクが嘘をついたことあるかい?」
「星の数ほどな」
「じゃあ今すぐに全て壊さなくちゃね」
「馬鹿言え。お前なんぞに壊せるか」
「あぁそうだよね。ボクは感情ひとつで星をひとつ壊せる力は持ってないよ」
ロキの言葉にピクリと反応するがあえて何も言わずに睨み付ける。
「今ここで同じ運命にさせてやろうか」
「おっとごめんよ。キミの悪口を言ったわけじゃないんだ」
「……………………」
「けどあれからもう百年経つか………。早いものだね。あの時はほんとに死ぬかと思ったよ」
「…………………悪かったな」
「キミが気にすることじゃないよ。あんなことがあれば誰だってそうなる」
「…………珍しいな。お前が誰かに同情するなんて」
「そりゃあボクは神様ではあるけどそれ以前に生物だ。情くらいはある。……ほんとあの時のキミは見ていられなかった」
「……………」
再び空を見上げてそのまま瞳を閉じようとする。
「―――――誰だってあんな迷惑な女が隣にいれば同情するよ」
「―――――――ッ!!」
条件反射で跳ね起きるとロキの胸ぐらを掴んで壁に叩き付ける。
「おいお前………。今なんて言った……」
「あれ、急に怒ってどうしたんだい?ボクはありのままのことを言っただけだよ」
「サティーを馬鹿にするな……!あいつは……あいつは………!」
「彼女が死んだのは他でもないキミのせいだろう?キミが彼女の命と繋ぐから……」
「……………………!」
神なる剣、カリブルヌスを抜くとロキの首もとに突き付ける。
「少し口が滑りやすすぎるな、縫い止めてやろうか?」
「おっと御免よ。あとで接着剤で止めておく」
「……………………次からは気を付けろ」
手からカリブルヌスを霧散させるとロキから手を放す。
「俺はもう行く。とっとと終わらせてやる」
「あ、ひとつ言い忘れていたよ。これはキミにとってかなり朗報だよ」
「………悲報じゃなければ話せ」
「では遠慮なく。キミの最愛の妃、サティーの生まれ変わりがどうやら地上にいるらしい」
「何だと?」
思わず目を見開く。
「これはほんとのことだよ。信じる信じないはキミの勝手だけど」
「………何処からその話を聞いた?」
シヴァが問うとロキは上を指差した。
「上からだよ」
「―――――ッ!」
「キミにはバラすな、なんて言われたけどそこまであの女を愛しているのなら仕方無い。教えないわけにはいかないだろう?」
ロキは意地悪そうな笑みを浮かべるとシヴァに背を向けて歩いていく。
「せいぜい期待してるよ。破壊神♪」
「………………黙れ」
冷たい一言と共にシヴァはその場から消えた。残されたロキは口を三日月に歪めると何もないところから机と椅子を出現させてそこに腰かける。すると卓上にチェス盤が出てくる。
「さ、これからどうなるかな。楽しませてもらうよ。シヴァ、それに東雲橙矢クン♪」
全ては手筈通り。シヴァや幻想郷は全てボクの駒。後は皆が抗うところを見ているだけ。
忙しなくひとりでに動き出すチェスの駒達を頬をついて見る。
――――――さぁ、ゲームを始めようか。
―――――――――――――――――――
――――君のいない世界
全てが憎い、消えろ、消え失せろ。二度と俺の前に顔を出すな。さもないと、
コロス
▼
シヴァが死んだ翌日、橙矢はずっと家の中で踞っていた。
「新郷……………」
新郷神奈。
突然この幻想郷に迷い込んだひとつ年下の少女。そしてシヴァの最愛の妃、サティーの生まれ変わりである現人神。
橙矢が最も護りたかった人。
それがもういない。シヴァから橙矢を庇って心臓を貫かれて死んだ。
最後に見た血まみれの顔が脳裏にこびりついて離れない。
「……俺の、せいで…………」
幻想郷に神奈の手配状がバラ撒かれて状況は一変した。シヴァと命が繋がっているだけという理由で命が狙われた。
「………お前らのせいで…………」
橙矢の身体はいまや憎しみと復讐心で出来ていた。
護るべきものを失って橙矢は放心状態に陥っていた。それほど彼にとって新郷神奈という存在が大きかったかが分かる。
天叢雲剣が潰れるほど握り締めてゆっくりと立ち上がる。それはまさに幽鬼そのもの。
すると戸がコンコン、と叩かれる。
「……………………」
ゆらゆらと身体を揺らしながら玄関へと向かう。
「…………………」
少しだけ開けると見覚えのあるメイド服が見れた。それだけで全身の血が沸騰した。
「…………」
あの時、博麗神社に向かう途中神奈を狙っていたメイド。
「と、橙矢………」
メイド、十六夜咲夜は何処か心配そうな顔で橙矢を見つめていた。
しかし橙矢はそれどころではなかった。
「咲夜さん…………貴方でしたか」
瞬間戸が咲夜ごと吹き飛んだ。
「………ッゥ!橙矢!」
「……………………………」
何も言わずに橙矢は咲夜を睨み付ける。ただ無情に。
「……手荒な歓迎ね。けど私は貴方とこうするために来たわけじゃないわよ」
「………………返せ」
「………は?何を言ってるの?」
「返せ。新郷を、新郷神奈を返せ」
冷たく低く言う。それだけで咲夜は一気に冷や汗が出てくる。
「お前ら幻想郷が殺した新郷神奈を……返せ。返せよ!お前らのせいであいつは死んだんだ!お前らが殺したんだ!」
「………違うわ橙矢。確かに私達は新郷神奈を狙ったわ。けど殺したのはシヴァじゃない」
「ふざけるな!!そんなのてめぇらの勝手な解釈だろうが!あいつはな、お前らに追い詰められて、追い詰められて。……そして孤独の中で死んだんだ!……馬鹿な俺を庇ってな………ッ!なんであいつが死ななきゃいけないんだよ!!!」
「橙矢………」
「……………咲夜さん。残念だけどここまでだ。もう俺はお前ら幻想郷との縁を切らせてもらう」
「…………貴方何言ってるか分かってるの?」
「あぁ分かってるさ。全て終わらせてやる」
のらりくらりと咲夜に歩み寄りながら刀をゆっくり上段に構える。
「選べ。俺に今殺されるか、それとも俺にはもう二度関わらないようにするか」
「…………」
「俺はどっちでもいいんだぞ。どっちにしろ俺と咲夜さんの関係はそこで終わるんだからな」
そう言って刀を一気に振り下ろす。すると咲夜を除く左右の森林が消し飛んだ。
「…………ッ!」
「俺は逃げるのを推奨する」
腕をさらに強化して振り下ろした状態から振り上げる。斬痕が橙矢と咲夜の間に出来る。まるで二人の関係を断つかのように。
「どうした?逃げないのか?」
モノクロの瞳に咲夜が映り、眼孔を鋭くする。
「………ハッキリしやがれ」
苛立ったのか橙矢が続ける。
「お前らとはもう関係なんて戻せないんだよ。どれほどお前らが謝ろうが俺は許す気はない。……人一人の命がなくなったんだ。謝って済むんだったら………今すぐにでも新郷をここに連れてこいよ!!」
目の端に涙を溜めながら咲夜に真っ直ぐ刀を向ける。
「早く決めろ……。猶予は十秒だ。それを過ぎたら咲夜さん。あんたを殺す」
そう言うと咲夜は身を震わせる。
「……………ッ」
痛いほど手を握ると立ち上がって一歩。後ろに下がる。
「………分かった。今回は帰るとするわ」
「……今回は、か」
「けど橙矢。これだけは覚えておいてちょうだい。何も私達は貴方との縁を切る、なんてことは絶対にしないわ………。必ず、必ず私達はやり直せるわ」
「………………」
咲夜の言葉に何も反応せずに咲夜に背を向けて歩いていく。
「分かったならとっとと帰れ」
咲夜が消えるのを確認してから橙矢はその場に崩れ落ちた。
数日後。
東雲橙矢が住んでいたであろう箇所にひとつの死体があった。
心臓に刀が突き刺さっている。端から見れば他殺のように見える。しかし橙矢のことを知っている者は口を揃えてこういう。
「………あいつは自殺した」
と。
確かに滅多に彼の家には客は来ない。
だから皆は自殺したと言うのだろう。
それと同時に幻想郷にしばらく活力がなくなったそうな。……………幻想郷にとって東雲橙矢とはどんな存在だったのか。
ただ、それでも橙矢の死に顔は自殺する者の顔とは見えないほど清々しいものだった。
今ごろ橙矢は新郷神奈と会えたのだろうか。………それもまた然り。
所詮人間はあまりにも他人には余所余所し過ぎて厳しい。自分さえよければなんだっていい生き物なのか。
たった一人、それを覆そうとした少年が一人――――――――
しかしそれは儚く散った。
……………それからと言うものの、東雲橙矢と新郷神奈という者の歴史がこの世から消された。
それが幻想郷の望みか、はたまた妖怪の賢者の目論みなのか。
泡沫へと消えた二人を、知るものは誰もいない。まるで二人の存在がなかったかのように。薄々と、そしてゆっくりと消えていった。
後の話はbadendです。
橙矢君も死んでそして忘れ去られる。そんな感じです。
リクエスト通りのものとは少し違いますが……。自分の駄文さを痛感できます。
今回のリクエストを下さったのは
前者の話は Feiさん
後者の話は 山崎まささん
です。ありがとうございました。
あ、それとリクエストはその時その時の気分で書いてるので遅くなることがありますがそこはご了承下さいm(__)m
感想、評価お待ちしております。
では次回までバイバイです。