ifstoryへと入っていきます。
ここではもし橙矢君が生きていたら、という話です。
まずは本編では触れることのなかった月に関することです。
あ、絵の英語の綴り間違えました。
【挿絵表示】
ではではどうぞ。
永遠の罪 ~Oblivion Eternal Crime~
月の裏側にある都。
それは穢れを知らない玉兎達が住まうところ。かつて二度に渡って地上からの襲撃を受けたものの都自体には何の被害もない。その科学力は地上のどの場所よりも群を抜いており、地上の物では太刀打ち出来ないほど。
そしてその都の城に住み、さらに都を守る訓練を受けている兎達を纏めあげているのは月人の綿月豊姫、綿月依姫の二人である。
この二人は相当の実力者であり、豊姫は参謀に、依姫は戦闘に長けていた。それぞれに右に出るものはいないほどである。ただ豊姫の頭脳に敵うものがいるとしたら、それは気が遠くなるほど大昔に蓬莱の薬を作るという大罪を犯し、地上へ逃げていったある人物だけだろう。
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日差しが俺の顔を灼いて意識を覚醒させる。
「うー………あぁ――」
だらしない声をあげて軽く身体を伸ばして脱力する。これほど気を抜いたのはいつぶりだろうか。いや俺の意識が戻ったのが昨日だから……。
「あー伸びるって素晴らしい」
寝かせられているベッドの上で寝返りをうって再び眠りにつこうとする。
「こら、起きたのなら早くベッドから退きなさい」
横からベッドの外から人を起こすには強すぎる蹴りが入り、吹き飛ぶ。そのままベッドから落ち、脳に衝撃が奔る。
「……!」
「第一になんでまだ貴方がここにいるのかしら?」
頭を手で押さえながら顔をあげると青と赤をベースとした服が目に入った。
「んだよ医者。患者は大切に扱うもんだぞ」
「うるさいわね。貴方みたいな野蛮な人がいると変なオーラが出てて患者さんも落ち着いて診断を受けにこなくなるわ」
「来ないに越したことはないだろ。それほど里の奴等は健康的ってことで。そうだろ八意永琳」
医者、八意永琳は不敵な笑みを作って俺を見下してくる。
「あら、一ヶ月前に馬鹿な神様と手を組んだ挙げ句幻想郷の勢力の殆どを潰して結界を壊そうとした貴方に言われたくないわ」
そう、俺は約一ヶ月前に異変を起こした。それもかなり大掛かりな、だ。それまでは様々な異変が起きていたらしいが一番俺が起こした異変が危なかったらしい。俺は異変を解決する寸前白狼天狗である犬走椛に胸を貫かれて死んだはずだった。しかし永遠亭の適切過ぎる手術により俺はこうして生きていられる。
「にしても貴方がまさか生きているとはね、さすがの私も驚きだわ」
「本人である俺もそうだよ。さすがにあれは死んだと思った」
「いや普通だったら死んでるわ」
「あんだけ強力なスペルを何回も喰らったんだ。生きてる方がおかしい」
「…………それよりも貴方、これからどうするの?」
不意に医者が瞳を細くして俺を見つめてくる。
「これからは………特に考えてない」
「だろうと思ったわ。……少しは考えなさいよ。いつまでもここにいるわけではないのでしょう?というか早く出ていってくれるかしら、というより出ていけ」
「おぉう厳しいですね。ですが俺もまだ療養中なんで頼みますよ」
確かに俺は白いシャツを着ているもののその中には包帯が巻かれていた。少しでも身動ぎすれば傷口に包帯が擦れて痛みが生じる。
だがそんなことどうだっていい。痛みを感じるということは生きている証拠なのだから。
「にしても俺はまた元の生活に戻るだけですよ」
「――――あら、それは無理よ」
ふと俺と永琳の間にスキマが広がる。
同時に苦虫を噛み潰したような顔になる。
「何しにきた八雲紫」
妖怪の賢者、八雲紫。境界を操る能力を持ち、この幻想郷の設郷者の一人。幻想郷で彼女を知らない者などいないだろう。
「お見舞いしてきた人に対してかなり冷たいのね。見損なっちゃうわ」
「勝手に見損なってください。俺はもう会いたくないですから愛想を尽かせて何処ぞへ行くことを推奨しますよ」
「相変わらずな口減らずね」
「そりゃどうも」
「褒めてないわよ………」
「で、俺の何が無理だって?」
「今まで通りには生活出来ないわ」
「………………………ほぉ、冗談にしては笑えねぇな」
「事実だもの、仕方無いわ」
「………だったら理由くらいは語れるんだろうな?何事にも根拠ってもんがあるんだ」
「えぇもちろんありますわ。ただし二人だけで、ですけれど」
「……………………」
チラと永琳の方に視線を向けると意図を察したのか戸に向けて歩き出す。
「……ごゆっくりと」
一言、それだけ言うと戸を閉めた。
「……………さて、紫さんや。訳を話してもらおうか」
「…………その前にひとつ注意事項がありますわ」
「……んだよ」
「公では貴方は死んでいることになってます」
「…………………だろうな。あんだけのことをしでかしたんだ。仕方ないだろ」
「…………確かに貴方はそれ相応のことをしたわ。それと同時に貴方は今幻想郷の勢力の一角を担っている。……そんな危険な人物を易々と放っておくわけにはいかないわ」
「それで公には出るな、か」
「それにあの異変で貴方を恐れる者が多くなり、幻想郷全体の動きが鈍っている」
「はぁ?んなこと俺に言ったって仕方ねぇだろ」
なるほど。そこで合点が付いた。只でさえ恐れられてる俺が公に出ればそれこそ混乱になる。
「………あいつらに会うのも駄目なのか?」
あいつらというのは他でもない俺が幻想郷に来てからよくしてもらっている人達だ。
「………ほんとは会わせたいわ」
「その言い種だと無理そうだな」
そんなことだろうと思っていた。
「…………ごめんなさいね。貴方も会いたいでしょうに」
「………あぁまったくだ」
正直言うと一途な希望は持っていた。だが自身が望むことが幻想郷にとって驚異になるならば仕方無い。
「…………」
「そんな顔なさらないで。確かに貴方にとっては辛いかもしれないわ」
「………いいんだよ。俺が公に出ればいけないってことはな」
「……………大人になったわね」
「ふん、俺はいつまでも子供じゃねぇんだ。………それで、そこまで言うんだからちゃんと住む場所くらいは確保してくれるんだろうな?」
「えぇ、私の家でなら引き取ってあげるわ」
「………他の場所は」
「ありません♪」
とてもいい笑顔で言われてしまった。……ですよねー。
「ほんとは他の場所も探そうとしたわ。だけど何処も少し探せば見付かるようなところなの。それに比べれば私が住むマヨヒガは幻想郷にはないから見付かることはないわ」
「へぇ………外の世界にあるのか?」
「そう思ってくれればいいわ」
「あいさー」
「じゃあ行きましょうか」
そう言うと紫さんはスキマを開いて俺の腕を掴むとその中へ連れて行く。抵抗はせずに俺はスキマの中へ自ら歩いていった。
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スキマを抜けると和風の家の中にいた。
「…………ここがマヨヒガ?」
「えぇ、そうよ」
「随分と立派だな」
「そうでしょう?このマヨヒガは白玉楼に負けず劣らずの面積を誇るわ」
「それは凄いな。……………と言っても白玉楼は行ったことないから分からない」
「あら………あぁ。あの時はロキが貴方に化けてたんだったわね」
「?何のことだか知らんが」
「何でもないわ。こっちの話よ」
「そうか……あ、俺の着替えとかって……は言い過ぎか。さすがに」
「あるわよ」
「あるのか」
紫さんがスキマを展開させるとその中から俺の着ていた服が落ちてくる。
「………これは何処に?」
「貴方の家の奥の方にあったわ」
「俺はあんたがやったと思うが?」
「あらバレてたの」
「別にいいけどさ」
「紫様、昼食の準備が出来まし………」
九つの尾を生やした狐がふと姿を現した。紫さんの式神である……えぇと……あぁそうそう確か八雲…………藍、だったっけ。
「ん、貴方は……」
「どうも、八雲藍さん、だったよな?」
「あぁいつぞやの退治屋じゃないか。紫様に連れてこられたのか」
「ちょっと藍。それじゃあ私が拉致してきたような感じじゃない」
「……と、紫様は仰ってるが退治屋。どうなんだ?」
「拉致られました」
「……………紫様」
「ちょっと貴方?何ありもしないことを言ってるのよ」
「すみません、少し遊んだだけですよ」
「では紫様、食事は四人分用意しときます」
「よろしく頼むわ」
「え?俺もいいんですか?」
「えぇもちろんよ。少しばかり話したいこともあるしね」
「………話したいこと?」
……何か嫌な予感しかしないが……。
「…………聞くだけなら」
「そう、聞くだけなら、ね」
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食事もある程度進んできたところで藍の式神である橙の向かい側に座る紫が口を開いた。
「ところで先程の件なのだけれども」
遂に来たか、と緊張感を高めながらも耳を傾けた。
「………何ですか」
「そうだわ、藍も橙もよく聞いておきなさい」
「私達もですか?」
紫さんは笑顔のまま頷くと続けた。
「さて、何処から話そうかしら。………貴方は数ヵ月前に起きた第二次月面戦争のことは知ってるかしら?」
月面戦争?……聞いたことない。
「いや、聞いたことないな。少なくとも俺が生きている間の会話の中で出てきたことはない」
「では簡単に月面戦争についてお話ししますわ。月面戦争というのはまぁ想像できるように月での戦争のことです」
「それは人間と………何だ?」
「玉兎、月人と妖怪の大規模な戦争、と言えるほど立派ではないわね。……月には広大な更地が広がっている。しかしそれは仮初めの姿。外の世界ではその仮初めの姿しか確認できないでしょう。月には裏側というものがあります。そしてそこには都があるのです」
「……都?それに月の裏側?ちょっと待てよ。月はどれくらいの周期か忘れたが一回転するはずだ。それだったら普通月の裏側まで見えるんじゃ………?」
「物理的な裏側じゃないわ。……月の都へ行くには手段は二つあるわ」
「……………………」
「ひとつ目は私の能力で。ふたつ目は幻想郷でロケットを作り、それで行く」
「……幻想郷でロケットなんて作れるのか?」
「実際やった者がいるからね」
「………河童か?発明が得意あいつらなら」
「紅魔館メンバーよ」
「お嬢様達が?」
「正直驚いたわ。ほんとに作るなんて。行くよう仕向けたのは私だけど」
「何か色々と話が逸れてるな」
「あぁごめんなさいね。それで月の都は今の科学力では到底真似できないほど文明が発達してね。その情報をちょっと頂こうと強行策に出たの」
「……それが月面戦争の始まり、ということか。発端はあんたか」
「あはは……お願いだから犯罪者を見るような目で私を見るのはやめてちょうだい」
「……で、結果は?」
「……………………完全敗北よ」
「………………は?」
今この人は何て言った?完全敗北?境界を操る程度の能力というチート能力を持っている八雲紫が?
「それほど月人の力は強大ということよ。気性の荒い妖怪共を連れて行ってきたのだけれど玉兎にいいように殺されたの」
「……あー、数十年前だからその時はスペルカードルールがなかったのか。……それでも殺されたのか」
「私も命からがら逃げてきたわ。なんといっても私の能力と似た能力を持っている奴がいたから」
「……………そんなチート能力持っている奴がいるのか」
「第一次はそれで終息したわ」
「一次ってことは二次もあるのか?」
「それは戦争、というよりも頭脳戦。と言った方が自然かしら。ねぇ藍?」
俺の向かい側に座る藍に視線を向ける。
「そうですね。あの時ほど頭を使ったことはないです」
「その時の勝敗は?」
「一応勝ちよ。古くから眠っていた超々古酒を盗ってきたわ」
「盗ってきたんですか……。しかしその言い方だと……」
第三次月面戦争。その単語が頭を過る。だがそこで疑問が浮かんだ。
「……なんでそれを俺に話すんでか?まさか俺にそれを手伝えと?嫌ですよ」
「そんな訳ないでしょう?今回私達からは攻め込む意味はないわ。あくまでこれは私の仮定よ。話半分で聞きなさい。月人達は酷く地上を嫌ってるわ。何故だか分かる?」
「……地上は穢れまみれだから」
「そう、だから彼等は私達の接触を拒む。穢れが移るせいでしょうね。それに滅多なことがない限り月人は地上に下りてこない。次に来るとしたら……その穢れまみれの地上を壊滅させるもしくは偵察に来るか」
「つーことは……迎え撃つ?」
「月の都の動きが少々慌ただしいわ。それに玉兎達の指導も厳しくなっている」
「………それだけで?」
「…これまで何回もこういう慌ただしい様子はあった。だけど今回は……その期間が長い。それまでは約一ヶ月近くで済んだわ。けれど今回は三ヶ月経っても未だに収まる様子がないわ」
「………」
「第一次のこともあってか残念だけど下等妖怪共の手は借りられない」
「そこで俺に白羽の矢が立ったのか」
「………理由は分からないのだけれど……最悪幻想郷全土を巻き込まれる可能性があるわ。だからこそ貴方に頼みたいの。………どうかしら」
紫さんが隣に座る俺の目を真っ直ぐに見つめる。
「影で幻想郷を護る。……護りたいのでしょう?貴方は幻想郷を」
「…………まぁな。もしそれが本当なら、だけど」
「……起きないことを望みますわ。だけどもしその時になったら頼みますわよ。貴方が護った幻想郷をもう一度護ってください
…………東雲橙矢さん」
久々に聞いた自らの名に俺、東雲橙矢は笑みを溢した。
まだ続きます。えぇと、一応儚月抄は読んだことあるのですが少々自分の世界にねじ曲げてしまいました。
感想、評価お待ちしております。
では次回までバイバイです!