咲夜に部屋に送った後に橙矢は主人の部屋へと来ていた。
「……と、まぁそういうことです」
「咲夜が?…………そう」
レミリアはため息をついて椅子に凭れる。
「お嬢様?」
「………あの子頑張ってくれるのは嬉しいのだけれど少し度が過ぎるのよね」
「……それは回想シーンへ行く前置きでしょうか」
「そんなわけないでしょ、馬鹿」
「……………………」
「ま、発端は貴方なのだから……分かるわよね」
「分かりません」
「分かるわよね」
「…………はい」
「私もちょくちょく様子は見に行くようにするわ」
「ですが俺の時は……」
「貴方は男だから別にいいでしょう?あの子は普段仏頂面してるけど………。あぁけどって言ったら咲夜に失礼ね。……まぁ女なのだから近くには頼れる人がいた方がいいでしょ」
「なんで俺なんですか?美鈴やお嬢様の方がいいのでは?」
「………………美鈴は門番。私は色々と忙しいのよ」
あっけらかんに言うレミリアに少し苛立ちを感じた。
「……それが貴方の言う家族、というものですか」
「……私に何か不服でも?」
「えぇありますよ。普通だったらどんな用事であれ第一に家族の心配をするはずです」
「………あら、それだと私が咲夜のことを大事に思ってないみたいじゃない」
「みたい、ではなく確実に、ですよね」
するとレミリアはユラリと立ち上がると姿を消した。
「ッ!何処へ――――」
すると目の前にレミリアが現れて顔を掴まれると壁に叩き付けられる。
「………ッ!」
「私が咲夜を心配してない、ですって?口を慎みなさい橙矢」
鋭い眼孔に睨まれて竦み上がる。
「………家族のことを心配しない奴なんざこの紅魔館にはいないわ」
「……左様ですか」
「………ごめんなさいね。妖精メイド達は……貴方の知るようにまともに家事が出来ないから咲夜を任せられないの。……貴方は家事が出来るからこそ任せれる」
「……何でもは無理ですよ。まぁある程度は」
「それだけで充分よ。咲夜の身の回りさえしてくれればいいわ」
「ですが館の方は……」
「美鈴を使えばいいわ」
「…………そうですか」
今頃くしゃみをしているであろう門番に頭の中で合掌するとレミリアに背を向ける。
「では俺はこれで失礼しますよ」
「………えぇ」
「御用があればいつでも申してくださいね。……俺は貴方の執事なのですから」
それだけ言うと扉をゆっくり閉めた。
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「………ということが先程ありまして」
そう言う椅子に座る橙矢の前にはベッドに横たわる咲夜。
「馬鹿ね貴方。お嬢様の前でその話は禁句なのよ」
「おかげさまで顔が痛いですよ」
「自業自得よ。教訓として受け取りなさい」
「痛すぎますよ」
「だから自業自得。貴方にとってはいい薬よ」
「やめてください。苦すぎます」
それもそうね、と咲夜は微笑むと上半身だけ持ち上げた。
「…………そういえば貴方とこうして落ち着いて話すのは初めてよね」
「え?………あー、言われてみればそうですね。話すといっても仕事の担当場所の確認の時くらい……ですものね」
「……正直言うと貴方とは落ち着いて話をしたかったのよね」
「え?」
意外すぎる言葉に耳を疑った。
「何よその顔は」
「いえ、かなり驚いたといいますかなんというか」
「心外ね、そこまで驚かれると」
「すみません」
「けど驚くのも無理ないわ……。普段は自分で言うのもなんだけど表情を出すことがないから……」
「咲夜さんはもう少し表情を表に出せばいいと思います」
「必要最低限の表情だけよ出すのは」
「あーやだやだそういうの」
「……………それよりもせっかく貴方と私しかいないのだから何か普段から話せないようなことでも話しましょ?」
「別に良いですけど何を話すのですか?」
「…………………………………………」
「考えてないんですね分かります」
「………清々しいほどストレートに言うのね貴方。……絶対友人いなかったでしょ」
「それどころか俺のことを知ってる人すらいませんでしたよ」
「世界そのものから忘れ去られた人間。貴方みたいな人は初めて見たわ」
「でしょうね。人間は必ず人の記憶に残るもの。それが出来ない俺は普通の人間ではありません」
「実際どうなの?忘れ去られるって」
「そんな大したことじゃないですよ。ただまぁ……一言で言うと寂しい、ですね。人は人と支え合い、そして自らの存在を周囲に認められて生きていける。……一人では生きていけないんだ。……………一人では、な」
「じゃあもう貴方は一人ではないわ」
咲夜の一言に身体が固まる。
「……………どういうことです?」
「貴方は私達紅魔館という家族の中の一人じゃない」
「家族………?」
「えぇそうよ。お嬢様から聞いてないの?それを受け取ったら家族の一人として認められたっていうことよ」
ポケットから覗く懐中時計に付いているチェーンを指差す。
「少なくとも俺はお嬢様の本当の従者と認められて、と聞きましたケド」
「あら、そうなの?……けど言われてみればそうね。パチュリー様や美鈴とかは貰ってないわね」
「従者も兼ねて、という意味でしょうか」
「そこまで深くは考えたことないわ。いずれにせよ貴方が紅魔館の一員ということには変わりないわ」
「………それは嬉しいですね。っと、そろそろお時間ですね」
懐中時計の時刻を見て何を思ったか急に椅子から立ち上がる。
「橙矢?」
「そろそろ十二時半、お昼時ですね」
「もうそんな時間?……そうね、お嬢様の昼食を用意しなくちゃ………」
ベッドから起き上がろうとする咲夜を押さえた。
「咲夜さんは休んでてください。……病人なんですから。それに悪化されてしまっては面倒です」
「………何よ、発端は貴方にあるっていうに」
「それについたは重々理解してますよ。ですが今は風邪を治すのが先でしょう?」
「ッ………た、確かにそうだけれど……」
「ですから休んでてください。後は俺と妖精メイド達でやりますから」
「大丈夫なの?」
「俺は大丈夫ですけどね。問題は妖精メイドですよ」
「………貴方のことは何も心配してないわ」
「そうですか……。では行ってきます」
「くれぐれも失礼のないように」
「分かってますよ。先程のようにはなりたくありませんしね」
苦笑いを浮かべて扉を開けた。
「少々お待ちください。すぐに咲夜さんにお持ちしますよ」
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キッチンを顔を出すとそこには意外な面子がいた。
「……美鈴?」
メイド服を着た美鈴が料理を作っていた。
「あれ、橙矢さん。どうしてここに?咲夜さんはいいんですか?」
「あぁ、咲夜さんの昼飯を作ろうと思って」
「でしたら言ってくれれば私が作ったのに」
「お前らには迷惑かけたくないからな」
「いつもの人数分作ってるからそんな手間はかけませんよ」
得意気に中々ある胸を張る美鈴。それより、と意地悪そうな笑みを浮かべる。
「普段強気な女性が見せる弱いところは絶品ですよあれは。特に咲夜さんなんか……あーもうそれだけでお腹が膨れます。さらにその弱気になってる時には男性がいてくれた方が嬉しいに決まってますよ」
「…………すまん、お前が言いたいことがまったく分かんないんだが」
「鈍いですねー。とりあえず橙矢さんは咲夜さんの近くにいてあげてください」
「ん、あぁ……」
いやいや美鈴さんそれよりも。
「病人に普通の飯を出すつもりか?」
「……………へ?」
「いやだからさ、普通軟らかい食いもんとか出すんじゃないのか?」
「……………………………………………あ」
今気付いたのか小さく声をあげた美鈴に不安を感じた。
はて、今回は何を書きたかったのか………。
感想、評価お待ちしております。
では次回までバイバイです!