東方空雲華【完結】   作:船長は活動停止

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今回は執事服の橙矢君を描かせて頂きました。


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ではではどうぞ。


其のⅣ

翌朝、橙矢をまたメイド服を着ながら外に出た。

「あー眩しいな…………」

鬱陶しげに手を翳して日光を遮る。未だに女化が解けてないため咲夜さんにまた睨まれる羽目に。

そういえば咲夜さんと通り過ぎたときに「私もあの薬飲めばなるのかしら」と言っていたが………咲夜さん、飲んだら立派な胸板になりますよ。

俺だってなりたくてなってるわけじゃないんだし………。

そうしているうちに目的の場所に着いた。紅魔館の敷地内と敷地外を隔てる門だ。確か今日はここで一日門番をしていろと言われていた。

「あれ、でも門番って美鈴の仕事じゃ……」

と言ったのだが咲夜さんが

「中国はすぐ寝るからね。その監視をしててちょうだい。それと……もうひとつの用があるのだけれどそれは美鈴から聞きなさい」

だって。どんだけ信用してないんだよ。

美鈴乙。

欠伸をひとつすると美鈴が館から出てきた。

「橙矢さん?どうしてここに?」

「サボり癖のある門番の監視だとよ」

「………………」

「ま、いつも通りやればいいさ」

壁にもたれ掛かると空を見上げた。空には雲ひとつなく、蒼く澄み渡っていた。

「おぉ快晴だ。………けどお嬢様からしたら最悪な天気だろうな」

「そうですねー。吸血鬼は夜が私達の朝みたいなものですから」

「いやいや、妖怪である美鈴も夜型じゃないのか?」

「あー……確かに基本的に妖怪は大体が夜型なんですが私は昼型ですよ」

「見てれば分かるよそれは」

「ですけどぶっちゃけ門番といっても何もすることないんですよね」

「それ言ったら駄目だろ」

「駄目ですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

「……………………」

仕事を始めて一時間後、いきなり話すことが無くなった。

「……ほんとにやることないな」

「私の気持ち分かりましたか?」

「すげー分かった」

「けど寝てはいけませんからね」

「それはお前な」

「うぅ………。それよりも橙矢さん」

「ん、どうしたよ」

「橙矢さん元々女だった、っていう事実はないんですか?」

そう言いながら橙矢を見てくる美鈴。すぐさま橙矢は自身の身体を手で隠そうとする。

「断じてそれはねぇよ」

「そうですか………それは残念ですねぇ」

「残念ってなんだよ。もし俺が元々女だとしたら?」

「聞きたいですか?」

急に獲物を狩るような目になって橙矢は恐怖を感じた。

「………………いや、やめておく」

「そうですか……。まぁ橙矢さんが女化してる時はいつでも出来ますしね」

「…………………」

「冗談ですってー」

「じゃあ近付いてくるのやめてもらえますか」

「けど橙矢さん中々女々しいですよ?なんか強気な少女、的な感じですね」

「やめてくれ、いや……やめてください」

「仕方無いですねー。そういえば橙矢さん、四日前の宴会の時に橙矢さんいましたよね?」

「四日前?……あー、確か博麗神社でやってたやつだろ?ならいたぞ」

「いやー、あの時橙矢さんをチラッと見ましてねー………いやいや、かなり怖かったです」

「怖い?俺がか?」

「えぇ。どうしてか全てを親の仇のように見ている、そんな感じでした」

「そんな目付き悪かったかな俺……。まぁ次の日は殺されそうになったけどな」

「アハハ……」

何か気まずかったのか苦笑いして頬をかいた。

「けどそんなこんなで今があるじゃないですか」

「確かにな。お嬢様の気前の良さに感謝しねぇと」

「それはそうと橙矢さん」

「なんだい美鈴どん」

「なんですかその呼び方………。まぁいいですけど。暇なので少し手合わせしませんか?」

「手なら美鈴どんと同じくらいだぞ」

「そういうことじゃないですよ」

美鈴は橙矢と距離を取ると構える。

「おいおい……俺ただの人間だぞ」

「昨日お嬢様から頼まれましてね。橙矢さんの戦闘技術を見てあげろと」

「何でまた……」

「自分の身は自分で護る。………それに私達は最悪お嬢様を護る盾にならなければいけない。ま、そんな事にはならないと思いますが。今ではなくともいつか橙矢さんに大切な人が出来てその人を護る力が必要になるときがあります」

「………護る力」

「そうです。ですから貴方を徹底的に鍛えさせて頂きます」

「………………頼むよ」

三日前に自身の〈触れたものを強化させる程度の能力〉についてはある程度分かった。それをいかに駆使するかが問題だ。

「………………」

しかも橙矢は能力を使えるといってもつい五日前まではただの高校生なのだ。戦闘技術なんて皆無です。

(さて困った………どうするか……)

恐らくだが美鈴は接近に関してはこの世界でもかなり上位の方だと考えられる。

「………もちろん手加減はしてもらえるよな?」

「そりゃあしますよ。と言いたいところですが貴方次第です」

「俺次第?」

「そうです。………行きますよ!」

地を蹴って橙矢に迫ってきた。

「いきなりかよ………!」

身体を横に投げ出すと放たれた拳を避ける。

「攻撃ひとつを避けるだけに大袈裟過ぎます!これくらい首を傾けるだけで避けなさい!」

「段取りってのを知らねぇのかお前は……!」

美鈴は地に手を着くと足を地に水平に回す。

「うお……!」

慌てて能力を使って腕を強化し、受け止める。

が、

(重………!?)

ラグビー選手に全力でタックルしてきたかのような衝撃が橙矢を貫いて吹き飛ばした。

「グァ……!」

意識が吹き飛びそうになるがなんとか耐えて受け身を取る。

「確かに受け止めるとした貴方の判断は正しいです。避けられていたら追撃してるところでしたよ」

「………普通は攻撃を当てた奴に追撃を加えるんじゃ………?」

「これだけ吹き飛ばしてしまっては先に相手が体勢を整えてしまうでしょう?」

「………なるほど」

「さぁ橙矢さん。守りにばかり回ってばかりではいけませんよ!!」

「分かってるよ!」

地を踏み締めると同時に駆け出す。美鈴に比べたら……いや、比べるほどもなく遅いが人間の中ではまぁまぁ速い方だ。

一拍置いて美鈴の懐に潜り込む。しかしその時にはすでに美鈴は拳を振り上げていた。

「冗談……だろッ!?」

突き出された拳を器用に受け流すと横から廻し蹴りを入れた。が、威力が足りないのか美鈴を後退させることすら出来なかった。

「甘いですよ橙矢さん!」

裏拳で弾き飛ばされた橙矢は舌打ちして勢いを止めるために地を滑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠目に美鈴と橙矢の組み手を見ながらレミリアは紅茶を飲んでいた。

「ふぅん………素質はあるみたいね」

傍らに佇む咲夜にチラと視線を向ける。

「素質?橙矢がですか?」

「橙矢は確かに普通の人間よ。けれど他の人間よりはるかに反射神経が優れている」

見定めるように目を細めながら笑みを作った。

「ほんと、いい拾い物をしたわね」

「あれでちゃんとした言葉使いが出来ればいいのですけれど」

「……………そこは大目に見てあげなさい」

「かなり大目に見てるつもりなのですが………いやはやあんなに口が悪いとは思いませんでした」

「まぁそこに関しては私も思ってるわ」

「でしたらお嬢様自ら………」

「けどそんなに強制することないじゃない。ありのままの自分を出してくれればいいわ」

「……橙矢は出しすぎな気がしますけど」

「貴方が出さなすぎなだけよ」

「………………」

「…………――――――」

不意にレミリアは目線を上げた。

「お嬢様?如何なされましたか?」

「…………咲夜、侵入者が来るわ」

「今すぐに退治してきます」

ナイフを構えた咲夜を手で制す。

「まぁ待ちなさい。相手はちょっとした妖怪。しかも正面から攻めてくる。だったらその相手は橙矢に任せましょう。デビュー戦としてはこれ以上にない相手よ」

「………………」

「これで橙矢が敗けるような事があれば所詮そこまでの人間ってこと……それとだけど咲夜――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一時間くらい経った頃だろうか、身体に限界がきたのか橙矢は片膝を地に着いてしまう。

「ゲホッ!ゴホッ!」

「もうお仕舞いですか橙矢さん?」

「まだ………!」

「………いえ、やはり止めておきましょう。これ以上は危険です」

「なんだと?」

美鈴は橙矢に近付くと立ち上がらせた。

「一度館に戻りましょう。………大方ですが橙矢さんの癖が分かった気がします」

「癖?」

「えぇ。橙矢さんは相手に合わせて動くタイプ。つまり合気道が得意なんだと思います」

「………俺にはよく分からんが……」

「まぁそれはこれから教えていきます。今日は休みましょう」

「――――美鈴、ちょっといいかしら」

門の中から主人の声がした。その隣には日傘をさしている咲夜が。

「お嬢様………何の用ですか?」

「美鈴、とりあえずお疲れ様。貴方には今から二時間の休みを与えるわ」

「え?………あ、ありがとうございます」

美鈴は急の休憩時間を与えられて戸惑ったのか曖昧な返事をする。

「では橙矢さん。戻りましょうか」

美鈴の肩を借りて門の中へと入ろうとする。がレミリアがそれよりも早く口を開いた。

「橙矢、貴方は引き続き門番をしてなさい」

「お嬢様……しかし橙矢さんは」

「黙りなさい」

美鈴を目で黙らせると橙矢に歩み寄って妖艶な笑みをする。

「貴方の事情なんて知らないわ。そうでしょう?貴方達は私の従者なのだから主人の言うことは絶対よ?」

「……………えぇ分かりました。続けます」

壁にもたれて座り込む。

「橙矢さん………」

「俺の事は気にすんなよ美鈴。休んでこい」

「………………分かりました」

「行くわよ」

レミリアは咲夜と美鈴を連れて行って館に戻っていった。

「…………ハァ」

橙矢はため息を吐くと美鈴との手合わせで一回も抜かなかった刀を抜いた。

「……………なんでも斬れそうだなおい」

苦笑してふと顔を上げた。瞬間―――

壁に叩き付けられた。

「――――――!!?」

急な出来事に頭が真っ白になり、何も考えられなくなる。

「ガァ………!?」

崩れ落ちるが手を着くと腕を強化させて横に全力で身体を投げ出した。

着地すると橙矢がいたところに大木のような巨腕が振り下ろされた。

「…………」

腕を沿って見ていくとそこには四メートルを越す歪な形をしたモノがいた。

「おいおい何なんだよ………ッ妖怪か!?」

再び振り下ろされる腕を後ろに跳んで避ける。

「何か言ったらどうだ!」

『――――――――――』

雄叫びを上げて橙矢に迫ってくる。

「冗談だろ……!?」

手の指先を強化させると横の壁に突き刺して思いっきり振り下ろし、足を振り上げると壁に張り付いてやり過ごす。

そのまま壁の上へ登ると妖怪の頭に跳び移り、刀を抜いて躊躇なく肩に突き刺した。

『――――――!?』

苦しそうに悶えると橙矢を掴み、地に叩き付けた。

「……ッ!」

肺にある空気が全て抜けていく。休む暇なく橙矢に妖怪の影が覆い被さる。

「くそ…ッ!」

腕を強化して地を殴り付けると衝撃波が生まれ、その衝撃で自身の身体を飛ばす。

「なんでこんな時に妖怪が……!?」

地を転がりながら距離を離し、立ち上がると同時に駆け出す。

「まぁどんな理由だろうが……潰させてもらう」

どんな風に攻め立てるか頭の中で策を張り巡らせる。

妖怪の一メートル前で横に跳んで切り返し、刀を振り下ろす。しかし浅かったのか僅かに切り裂き、血飛沫が少し舞っただけだった。

「……くそ!っと、どわッ!?」

頭を下げると真上を巨大な腕が振るわれた。

「話しにならねぇ……!今すぐ咲夜さんやお嬢様に連絡を――――」

 

 

 

 

―――最悪私達はお嬢様の盾にならなければいけないのです。

―――護るための力が必要になるときがあります。

 

 

 

 

 

「ッ!」

脳裏に美鈴の言葉がよぎり、先程の考えを中断させる。

「………護るための力……」

……そうだ、俺はもうレミリアお嬢様に忠誠を誓った身。だとしたらこの命お嬢様のために使い果たす―――――!

気力だけで立ち上がり、刀を構える。

「……確か相手に合わせる……とか言ってたな」

突っ込んでくる妖怪に対して悠然と歩み出す。

(…………体重は前方に傾いて右腕を後ろに引いてるから右から拳を突き出してくる……だとしたら)

予測通り橙矢に右腕を振り下ろしてくる。それに橙矢は身体を左回転しながら右に一歩踏み出す。拳が橙矢の身体を掠り、回転に勢いを付ける。

「ッオオオォォォォ!!」

回転の勢いのまま懐に潜り込み、刀を横に構えて腹を斬り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妖怪の腹を斬り裂いた橙矢を見るとレミリアは目を輝かせた。

「ほら見なさい咲夜、美鈴。やはり彼には素質があったのよ」

「……………お嬢様」

「ん?どうかしたかしら美鈴」

「あの妖怪………まさかお嬢様が仕組んだもので?」

「………何を根拠に言ってるのかしら」

「い、いえ……私を連れて行くタイミングが良すぎましたし………見た目的にそこまで強くない妖怪です……ちょうど橙矢さんが倒せるくらいの」

「……………まぁ普通考えれば分かることよね。確かにこうなる事は分かってたわ」

「…………!」

「けど貴方言ったわよね。私達はお嬢様を護る盾にならなければいけない、と」

「え…………」

「彼にその覚悟があるかどうかをね」

「貴様……!」

美鈴がレミリアを睨み付ける。

レミリアは自分で雇った橙矢をわざわざ殺しにかけている。

「咲夜さんは……、咲夜さんはそれでいいんですか!?」

咲夜に目線を向けるが目を附せただけだった。

「……お嬢様とはもう話し合って決めたことよ」

「…………………ッ」

踵を返して外へ出ようとする。

「行かせないわ」

咲夜が前方に立ちはだかる。

「貴方もゆっくりしていきなさい。……間違ってもこの部屋から出ないように。それよりも話を聞きなさい。私だって―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――――――!!』

苦悶の声を上げて足を振り上げると橙矢を踏み潰そうと試みる。

「だったら……!」

橙矢は前転してさらに懐に潜り込む。真後ろに妖怪の足が振り下ろされた。

それと同時に足を強化させて体重が乗っている振り下ろされた足を蹴り飛ばした。

『――――――!?』

巨体が宙を浮いて、その背が地に着いた。

「一気にいかせてもらうぞ……!」

巨体に飛び乗ると心臓部分にあたる箇所に刀を振り下ろす。さらに腕を強化させてそこを殴り付ける。

血飛沫が大量に舞って橙矢に降り注ぐ。

「………きたねぇ!」

首もとを足で踏みつけて刀で突き刺すとそのまま横に薙いだ。

『…………!』

手を止めることなく回転して右腕、右足を切り落とした。

最後の抵抗と妖怪は残った左足で橙矢を掴むと紅魔館の壁に投げつけた。

「カ………ッ!」

壁に叩き付けられて皹が入る。壁にも骨にも。そこでハッと気が付いた。

「…………!」

今にも崩れそうな四肢に力をいれて倒れている妖怪に歩み寄る。

「………これが俺を……?」

周りを見渡すが他に誰もいない。

「………………」

と、妖怪は僅かに指先を動かした。

『オ……オオ…………』

「…………!」

『コロ……スノ……カ……?』

「ころ――――!?」

妖怪に言葉に思わず刀を落としそうになる。

「……………」

俯いて視線を逸らすがすぐに妖怪に向ける。

「…………お前が紅魔館を襲うことがなけりゃあ殺さずにすんだかもな………」

刀をゆっくりと振り上げる。

『……コロ……ス……ノ?』

「……………」

どれだけ命を乞われようがこの紅魔館に仇なした。それは事実だ。……だから。

「俺は……お前を………殺す」

震える手を押さえて刀を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

――鮮血が舞い、その瞬間、橙矢は初めて生物を殺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何か身体がくすぐったくなって橙矢は目を覚ました。

「……………………」

ぼんやりとする意識の中で身体を起こす。しかしその際に痛みが走る。

「ッ…?何処だここ…………。あー、確か妖怪……と殺り合って……殺………して」

「目は覚めたかしら橙矢」

声のした方に首を向けると橙矢の主人が近くの椅子に腰かけていた。

「…………お嬢様」

「まずは御苦労様、と言うべきかしら。それともありがとうと言うべきかしら」

「御苦労様、ですね……してお嬢様、俺は何分くらい寝てましたか?」

「…………二日よ」

「二分?」

「二日よ」

「はー、二日ですか……………二日!?」

「えぇ、二日も眠ってたのよ。しかも今は夜」

レミリアが指差す方には窓があり、そこからは月が輝いていた。

「………悪いけどこの前の戦いは見させてもらったわ」

「………はぁ」

「……美鈴には反感を買ってしまったようだけれど」

「……美鈴が?」

「えぇ、確かに私はあの時貴方がもしあの妖怪に敗けるようなことがあれば貴方はそこまでの人間だと見捨てていたわ。……ごめんなさい。けど私は貴方がこの世界で生きていくための力を付けてほしかったの……」

頭を下げるレミリアを少し冷ややかな目で見ていたがひとつため息を吐くと寝かされているベッドに再び横になった。

「そうなら俺に自ら言ってくださればよかったですのに………」

「………ごめんなさい」

「別にお嬢様が謝ることじゃないですよ」

レミリアが驚いて顔を上げると橙矢は微笑んでいた。

「俺はすでにお嬢様に忠誠を誓った身。ですから俺の命は貴方の掌にあります。それをどう放そうと、どのように使おうとお嬢様の自由です」

「………橙矢……」

「…………………俺の方こそ心配をおかけしてすみません」

「何言ってるのよ……!」

レミリアが椅子から下りると橙矢のベッドに飛び込んできた。

「お、お嬢様……?」

「………………橙矢、貴方には渡すものがあるわ」

「渡すもの?」

レミリアはひとつ頷くと懐からチェーンのついたペンダント的なものを取り出した。

「これよ」

「……これは……ペンダント、ですか?」

「いいえ………懐中時計よ」

どうやら橙矢は裏を見ていたようで表返してみると時計だった。

「それは私に忠誠を誓った証よ。これで貴方は私の本当の従者として私に従うこと」

「………えぇ、分かりました」

「……それでだけど橙矢」

「はい。如何なさいましたか」

「今日は何だか人肌が恋しくて眠れないのよ………このまま一緒に寝てもいいかしら」

「……咲夜さんとは」

するとレミリアの華奢な腕が橙矢に巻き付いた。

「………今日は貴方じゃなきゃ嫌よ」

「………俺は男なんですからそういう発言は控えたほうがよろしいかと」

「今の貴方は女でしょう?問題ないわ」

「……忘れてました。……それより美鈴とは大丈夫なんですか?」

「えぇ。昨日ようやく和解したわ」

「………そうですか」

「………橙矢」

「はい」

「………貴方も咲夜と同じ人間。私達よりも早くこの世を後にするのよね」

「……はい」

「……それまで貴方も咲夜もわたしが出来る限りのことをして貴方達を護るわ」

「……それは違いますよ」

「………………橙矢?」

「少なくとも俺はレミリア様を護るためにここにいます。……これを受け取ってそう決めました」

先程レミリアから受け取った懐中時計を握り締めて心臓部分に当てる。

「俺の存在意義は貴方を護ること。それ以外はありません」

「…………………ふふ、橙矢、貴方やっぱり面白いわ」

「そうかもしれませんね」

「………改めてこれからもよろしくね。東雲橙矢」

「えぇ、こちらこそです。レミリアお嬢様」

差し出された手を軽く握り、二人は目を閉じた。

 

 

 

 

 

かくして東雲橙矢は紅魔館の執事となった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝男に戻っていた橙矢はレミリアを抱き枕としてしまっていて、それに気付かれた後、殴り飛ばされたのはまた別のお話。

 




はい、今回は本当に長くなってしまってすみません。二つに分けようとしたのですが……。

一旦「紅魔館での日常」はこれで区切りにしたいと思います。
次回は本編を投稿させて頂きます。

では次回までバイバイです!

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