東方空雲華【完結】   作:船長は活動停止

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ではではどうぞ。



第百十話 護るための犠牲

 

 

「犠牲を選べ、と?橙矢さん。貴方はそう言うのですね」

椛の問いに軽くあぁ、と返す。

「こう言っちゃあ何なんだが俺は今まで護る、なんて戯れ言を吐いていた。けどな、所詮全部護れるなんてただの空言に過ぎない。ほんとに護りたいものがあるなら何かを犠牲にしろ。そしてその犠牲を糧に護りたいものを護ってみせろ」

迷いなく刀を椛達に向けた。

(……おかしい。どう考えても今の発言は橙矢さんが私達を釣っているようにしか聞こえない……。それにもし橙矢さんが幻想郷を破壊しようとしているのだったら問答無用で襲いかかってくるはず……。だとしたら橙矢さんには考えが……?いや、橙矢さんは私達に何を気付かせようとしている?)

そこで椛の頭の中にあるひとつの答えが浮かんだ。

「…と、橙矢さん………まさか……」

震える声で橙矢に問う。

その答えが通じたのか橙矢は悲しそうに微笑んだ。しかしそれはすぐに消えて気を引き締める。

「さ、お前らは何を犠牲にするつもりだ」

構えると姿を消す。

「全員構えなさい、来るわよ!」

幽香が地を蹴って前方に駆け出すと傘を真横に振るう。同時に金属音が響き渡って傘と橙矢が持つ刀が激突する。

「ッ………!」

拮抗したのは数秒だけ。すぐさま幽香の腕を掴むと引き寄せて腹を蹴りあげる。

しかしそれを易々と受ける幽香ではない。

身体を回転させて受け流すと腕を放させて回転する勢いのまま傘を叩き付けた。

刀を立てて受け止めるがそれをいいことに幽香は傘の先端に光を凝縮させていく。

(マズいこれは―――――)

避けようとするものの身体が反応することが出来ずに直撃にしてそのまま後方にある木を貫通して吹き飛ばした。

「グ……ぁ………」

魔理沙もこれに近いスペルを持っていたが威力が桁違いだ。

痛む全身を持ち上げて立ち上がると幽香を睨み付ける。

「ふぅん……さすが橙矢ね」

「……口だけの評価なんて嬉しくねぇよ」

「あら、私は本気で言ってるのよ?」

幽香は傘の先端に再び光を凝縮させて放った。しかしそれは橙矢に当たることなく頬を掠めて地に着弾した。

着弾したところは吹き飛んでその勢いは衰えずその場から後方約一キロにかけて焦土と化する。

「これをまともに受けたのよ。……普通だったら五臓六腑も残らないわ」

「ケッ、俺の身体が頑丈だっただけだ」

「………私が丹精込めて育ててあげた花達を焼いたこと、私は許さないわ」

幽香の全身から可視出来るほど濃密な魔力が放たれる。

「…………………」

「非想〈非想非非想の剣〉」

天子の声が聞こえると同時に橙矢の背を何かが貫いた。

「―――――――ゥ!」

かと思えば抜けて血が飛び散る。

「くそ……何が……!?」

「非想〈非想非非想の剣〉。あんたには到底理解し難いスペルよ。これは緋想の剣の能力〈気質を見極める程度の能力〉で土の気質を調べ、そして私の能力である〈大地を操る能力〉で気質に合わせて操ってあなたを貫いた、それだけよ」

「へぇ……なるほど、分かりにくすぎるな天子。お前説明が下手すぎるんじゃないのか?」

「な、何言ってくれてるのよアンタ!」

「それが何だ」

「……ッ!全人類の緋想天!!」

レーザーを斜め前に跳んで避け、手で着地すると腕を強化させて跳び、天子の上から強襲をかける。

振り下ろした刀は、霊夢が投げ付けた陰陽玉によって弾かれた。

「うざったい…ッ!」

刀を振りかぶると第三宇宙の速さで霊夢に投げる。

「こんな程度で………ッ!?」

結界を展開させて防ぐが神の刀を前にはそれはあまりに無意味だった。簡単に結界が破壊されて霊夢の肩口に突き刺さる。

「ぐ……ぅ………!!」

天子を避けて着地すると同時に霊夢に接近して刀を抜いた。その勢いで回転して霊夢を斬りつけるが、祓い棒に止められる。

「なら……!」

神力を刀に込めると至近距離で斬撃を放つ。

寸前横から村紗が跳び蹴りを浴びせてきて斬撃が僅かに逸れる。

舌打ちすると村紗へ注意が向く。すると反対側からナイフが翔んできて頬を掠め、太股に刺さる。

「………ッ!」

崩れ落ちそうになるが耐えて全方向に神力を込めた斬撃を乱発した。

「出鱈目な……」

「そう思うならそうなんだろうな。ただしお前の中では、な」

不意に橙矢が放った斬撃が向きを変えて全員に襲いかかる。

『な……!?』

斬撃ひとつひとつが辺りを焦土化させることが出来るほどの威力を持っている。そんなものをまともに受けたら想像もしたくない。

だが風見幽香はあえて傘をバットのように振り上げるとスイングして激突させた。

拮抗するなか火花が散り、空間が歪み始める。

「……ッこれは中々厳しいわね……!!」

腰を捻る力に腕力、さらに踏み出した足の勢いを使って橙矢に弾き返した。

「―――――――」

弾き返されるとは思わなかったのだろう。驚愕するが斬撃を放って相殺させる。

「――――甘いわね」

閃光が橙矢を貫いた。

「カハ………!?」

口から血を吐いて後ろによろめく。それを好機と見たのか斬撃を避けた村紗が錨を投げ付ける。

肘と膝でへし折るが次いで椛に背を斬り裂かれる。

「……ッ!」

素早く椛の剣の刀身を握ると椛ごと地に叩き付けて村紗へと跳ぶ。

「拉致が空かねぇ!とっとと片付ける!」

「それはこっちの台詞だよ橙矢!」

「ハッ、ほざけ――――!!」

刀を振るうが避けられる。だがそれは想定済み。手首を返すと村紗に突き刺した。

「……ッゥ!」

「しゃらくせぇ!!」

横から蹴り抜いてさらに吹き飛ばすと幽香に駆け出す。

腕を強化して振り抜くと傘で受けられるが幽香は大きく後退した。

「チ……!!」

傘を振るうとその直線上から弾幕がばら蒔かれる。

「そんなの俺には通じねぇよ!!」

腕を振り抜いて弾幕を逸らさせる。

「そんなの分かってるわよ。……それは囮、だからね。霊夢!」

「分かってるわよ!宝具〈陰陽鬼神玉〉」

「時効〈月のいはかさの呪い〉」

周りに弾幕が囲い、橙矢の上空から巨大な陰陽玉が落ちてくる。

「…………デカすぎるな」

ボソリと呟いた橙矢は、拳を握り締めると

 

 

 

 

 

思いっきりその拳を陰陽玉に叩き付けた。

 

 

 

 

 

そしてついには橙矢の拳が陰陽玉の貫いて砕いた。

「じょ、冗談でしょ!?」

これはさすがの霊夢も驚愕した。

「別に驚くことでもないだろ?」

橙矢は傲ることなく刀を掴んで振るう。すると橙矢の周りに斬痕がついた。

「お前の陰陽玉より俺の方が強かった。ただそれだけじゃないか」

ごく当たり前なように言い放つと見下す。

「………この世界の破壊を止めたきゃ俺を殺しな。……それだけがお前らに出来る唯一のことだ」

 

 





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では次回までバイバイです!

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