ではではどうぞ。
少年に流れる力は三つ。
―――ひとつ
綴られし人の力、霊力
―――ふたつ
穢れし妖怪の力、妖力
―――みっつ
禁忌の神の力、神力
パチュリーから放たれた言葉にレミリアは驚きを隠せなかった。
「何故人間である橙矢が三つの力を有しているの?」
「それが分からないから混乱してるのよ。ただ神力は無尽蔵に生成出来るわけではないらしいわ」
「………つまり?」
「察しが悪いわね。つまり東雲は何者かに神力を与えられている、ということよ」
「え………?」
「だって東雲は人間であり元々妖怪だったのよ?だとしたら霊力も妖力もあるのは不思議ではない。けれどその二つの力は恐らく神力を与えられたときに沸き上がった、と考える方が自然でしょ。まぁあくまで私の仮定に過ぎないけどね」
「………恐らくそれで合ってるわ」
「あら珍しい。普段の貴方なら速攻で否定してるのに」
「状況が状況よ。そんな悠長なこと言ってられないわ」
「ふふ、今の貴方は紅魔館の主として立派よ」
「何よ、それいつもの私がだらしないって言ってるのと同じよ」
「そうね。………それよりも東雲は何故神力を持っているのか。それが疑問よ」
「橙矢は……まさか神、だったとか?」
「それは間違いなくあり得ないわ。正真正銘純粋潔白の人間よ」
「だったら……」
「今その話は置いておきましょ。まずは東雲を止めることよ」
「………………そうね」
腑に落ちない顔をしていたがすぐに気を引き締めると手にグングニルを顕現させる。
「話は当人から訊問するとしましょう」
そう言ってレミリアはグングニルを投げ放った。
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力無く立ち上がる橙矢を睨み付けながらレミリアは油断なく口を開く。
「橙矢、貴方は人間の身でありながら神が持つ力、神力を持っている。………何故人間の貴方がそんな力を持っているの?」
「……………………ッ」
橙矢の顔が僅かに歪む。
「答えなさい橙矢!貴方は……どうやってその禁忌の力を手に入れたの……!?」
「―――ボクが与えたのさ」
不意に橙矢の目の前に霞のように仮面をつけた男が現れる。
「…………ロキ」
橙矢が迷惑そうに仮面の男の名を呼んだ。
「やぁ東雲クン、大変そうだね。手伝ってあげようか?」
「………ッ邪魔するなよ……。これは俺の問題だ」
「………駄目だよ東雲クン。キミが死んだら何もかも台無しだ」
「貴方!何者ですか!」
さとりが声をあげるとロキは人懐っこい笑顔を向ける。
「ボクかい?ボクはロキ。ただのトリック好きの神様さ」
「神様……!?あんた、橙矢と何の関係よ!」
「ボクと東雲クンの関係?大事な仲間同士だよ」
そうだよね?と肩を組ながら橙矢に問うが手の甲で弾かれた。
「俺とお前は一時的に協力してるだけだろうが」
「分かったよ。そういうことにしておこうか」
「橙矢!貴方その男と手を組んでるの!?」
「一時的に、ですけどね」
「それじゃあ神力を与えたのも……」
「ん、キミ達は気付いていたのか?そうだよ、ボクは東雲クンの悲願を叶えさせる為に与えた」
「何の為にだ!」
「理由なんていらないだろう?ボクがそうしたいからそうした。それだけだよ」
「…………………」
「いやぁ嫉妬しちゃうね。東雲クンを大切に思ってる人がこんなにもいるなんて」
チラ、と横目で橙矢を見る。しかし橙矢の視線はレミリア達に向けたままだった。
「さてさて、ここにいる意味はもうないからね。早く片付けさせてもらうよ」
レーヴァテイン・レプリカを手にロキは微笑む。
「レーヴァテイン…!?」
「あー違う違う。レプリカだよ」
そう言って薙ぐと焔が巻き起こり八人を取り囲む。
「マズい…!」
「大丈夫だよお姉様。所詮あいつが持っているのはレプリカ。私が持っているのは本物のレーヴァテインよ。オリジンがレプリカに敗けるはずないでしょう?―――禁忌〈レーヴァテイン〉!!」
フランが燃え盛る剣を握り締めると取り囲む焔を打ち消した。
「ふぅん、これを消すか………。だったら」
ロキは姿を消すとフランの目の前に現れる。
「直接やり合おうか!!」
振り下ろされるレーヴァテイン・レプリカを受け止める。が、レーヴァテインが甲高い音を立てて砕けた。
「え…………」
「残念だったな」
無防備のフランに容赦なく斬撃を浴びせた。
「ぁ…………」
崩れ落ちてその場に倒れる。
「――――――――」
その光景を橙矢は冷たい目で見ていた。
「貴様ァ!妹様を!!」
咲夜が時を止めるとロキの四方八方にナイフを投げ付けて時を動かした。
「消えなさい!」
「それはこっちの台詞だ」
「ッ!?」
いつの間にか背後に回っていたロキに背を蹴りつけられて地に叩き付けられた。
「爆符〈ペタフレア〉!!」
「呪符〈厄病神の山雪崩〉」
ロキが手を真上に翳すと雪崩のように弾幕が空が放った弾を空と隣にいた燐ごと呑み込んで壁に激突させた。
「紅色の幻想郷!」
「想起〈テリブルスーヴニール〉」
辺りを真っ赤に染めるほどの弾幕をレミリアが放ち、さとりがロキの心を読んでトラウマを呼び起こす弾幕を撃つ。
しかし橙矢が斬撃を放って妨害する。
「橙矢……!」
一瞬気が橙矢に向いた瞬間ロキは接近して二人まとめて裂いた。
「グァ……!」
「レミィ!」
「お姉ちゃん!!」
「無駄だよお二人さん♪」
斬撃を放つ。だが直撃する寸前にパチュリーが防御壁を張って防いだ。次いでロキが防御壁の目の前に来るとレーヴァテイン・レプリカを振り下ろして破壊した。
「まだまだだね」
「貴方もね!」
横からこいしが蹴りつけた。
「……だからまだまだだって」
直撃はしていたものの威力が弱すぎた。こいしは元々接近戦は得意ではないため威力は並の妖怪程度しか出ない。
ロキは足を掴むとパチュリーに叩き付けて壁に放り、斬撃を放って直撃させた。
「さて………東雲クン、終わったから行こうか」
「……………………あぁ」
着地して手招きするロキに向けて歩き出す。倒れている家族や友人には目もくれず。
……あるいは見ないようにしていただけかもしれないが。
「………………」
「さて、次は何処へ行くんだい?」
「……………命蓮寺だ」
「お、意外だね」
「………………」
必要最低限しか話さない橙矢にやれやれとため息をつくロキ。
「………なさ……い………や」
不意に背後から呻き声が聞こえた。
「?誰だい?」
振り返るとレミリアが大量の血を流しながらも立ち上がろうとしていた。
「待ちな……さい………橙矢…………」
「…………お嬢様」
フラフラと力無く橙矢へと歩み寄る。
「……東雲クン行こう。時間の無駄だよ」
「……………………」
橙矢も何かに操られたようにレミリアへと歩み寄る。
「東雲クン!?」
「………悪いロキ。少し席を外してろ」
圧力のある声音で頼むとロキは少々符に落ちなさそうな顔をするがその場から消えた。
「……………お嬢様」
手を伸ばせば届く距離になった時レミリアが倒れそうになる。
「お嬢様!」
倒れ込んでくるレミリアを抱き止める。
「……………意外ね………てっきり止めを刺されるとばかり……思ってたわ」
「……馬鹿言わないでください。今貴方に止めを刺しても俺にメリットはありませんよ」
「………お願い橙矢」
急にレミリアが橙矢の服を掴んだ。
「お嬢様?」
「お願い、これ以上はもうやめて……!」
「……………………」
「貴方が……何かを壊すのはもう……見たくないの……」
「……………………」
「橙矢…………――――――」
そこで意識が途切れたのか力が抜けていく。しかし橙矢の服は未だに掴んだままだった。
「レミリア様……………すみません」
手を解かせると横にさせる。
「…………もう貴方の顔は見れないかもしれませんね」
少し悲しそうな笑顔を作ると立ち上がって笑みを消す。
「………………行くか」
残る勢力はあと三つ。命蓮寺、神霊廟、妖怪の山。
天界は………元から壊滅的だから放っておいてもいいだろう。
「……待ってろよ、新郷……」
少年の復讐は始まったばかり―――
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では次回までバイバイです!