魔法の森を抜けた橙矢はその足で紅魔館へと訪れていた。
否、正確に言えば強襲しに来たと言った方が自然だろうか。
門番をしていた美鈴は戦闘中にも関わらずそんな事を考えていた。
放たれる拳を避けて空いた腹に膝蹴りを入れる。
「ゴフッ………!?」
「いきなり何してるんですか橙矢さん!」
距離を置いていきなり襲ってきた橙矢に問いかける。しかし返ってきたのは言葉ではなく斬撃だった。
「うぇ!?」
慌てて横に跳んで回避する。それを読んでいたのか避けた先に橙矢が刀を構えていた。
「…………」
地に足を着けて無理矢理止まると振り抜かれた刀を上半身を寝かせて避けた。そのまま地に手を着くと足を地に平行に回すと橙矢の足を払う。
「……ッ」
「隙ありです!」
全身をバネにして跳ね上がる勢いで空いた橙矢の腹を蹴り飛ばした。
「………どういう事ですか」
かなり強めにいったというのに橙矢は平然としていた。
「………………美鈴。本気で殺しに来い」
一言だけ言うと美鈴目掛けて駆け出した。
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一通り仕事を終えた咲夜は美鈴の様子を見に行こうと思い、玄関へ向かっていた。恐らく寝ていると思うのだが。もしそうだった場合今回はスカートの裏に仕込んである一スタックあるナイフ全てを刺してやろうか。
「橙矢がいれば監視させておけるのだけれど………」
(今何をしてるんでしょうね貴方は……)
咲夜は先日起こったシヴァの異変の時にシヴァの妃であるサティーの生まれ変わりである新郷神奈を殺しかけている。そのため今橙矢が帰ってきたところで合わせられる顔が無い。………まぁ橙矢が帰ってくることは万が一もないが。
「……そう考えると少し寂しくなるわね」
いつからだろうか。あの少年がこの紅魔館で大きな存在となったのは。
「………いえ、過ぎたことは忘れましょう」
そんなこんなで玄関へ着いた。
――――瞬間玄関の扉が吹き飛んだ。
「ッ!?」
飛び退いて飛んでくる扉を避けた。
次いで玄関の壁にひとつの人影が激突した。
「………ッう……」
それは普段寝ているはずの門番である紅美鈴。
「美鈴貴方………寝惚けて扉を壊すかしら?」
「咲夜さん!?ち、違いますこれは――」
と、外から何者かが侵入してきて美鈴に追撃をと飛び蹴りを腹に叩き込んだ。
「――――――ッ!」
壁にさらにめり込んで嘔吐いた。
「美鈴!」
「大丈夫……ですよ……ッ」
煙幕が晴れて美鈴と侵入者が姿を現す。
そこには………
「橙矢!?どうしてここに……!」
橙矢はたった今咲夜の存在に気が付いたのか美鈴に追撃しようとしていた手を止めて視線を咲夜の方へ向ける。
「あぁ咲夜さんでしたか……邪魔しないでください」
「邪魔?何の邪魔よ」
「…………………さもないと」
目を細めると橙矢は姿を消す。
「何処に―――――」
後ろから殺気を感じて頭を下げると咲夜の元々頭があった場所に刀が振り抜かれた。
「殺しますよ」
冷たい一言と共に刀を振り抜いた状態から回し蹴りを入れる。
「………ッ!」
あまりの蹴りの重さに目を見開くが耐えるようなことはせずに衝撃を後ろに流す。
その時横から美鈴が橙矢を殴り飛ばして館の外へと追い出す。
「オオオォォォォ!」
立て続けに腹に蹴りを入れて殴り付けて地に叩き付ける。さらにそこから蹴り上げて掌底を肋骨に叩き込んだ。
ミシミシッと骨に皹が入る音が聞こえると地に転がっていく。
「ッ…………!」
橙矢は指の力で身体を止めると一瞬で美鈴に迫って刀を振り下ろす。
が、刀の刃が美鈴の首を裂く寸前大量のナイフが橙矢に突き刺さった。
「ガ……!?」
「咲夜さん!」
「退きなさい美鈴!」
「邪魔……するなッ!」
ナイフを弾いて刀を地に突き刺して地盤ごと斬撃を放つ。
「………ッ」
美鈴が地を殴り付けて地盤を捲り上げて防ぐ。
その隙に橙矢は懐深く潜り込んで刀の峰で殴り付けるとナイフを指の間に挟んで突撃してきた咲夜の腕を蹴り上げる。
同時に目の前にナイフが迫っていた。
「―――――――」
避けられることも出来ずに橙矢の右眼に突き刺さった。
「ァ……ガァ………!?」
橙矢はナイフを掴むと眼球ごと抉り取った。
「「……!?」」
これには美鈴や咲夜も驚きを隠せなかった。
「……慣れないはしないもんだな……痛みには大分慣れたつもりだったんだが……」
「…………美鈴。いち早く片付けるわ」
「えぇ、分かってます」
咲夜の言葉に頷くと美鈴は一歩で接近して飛び蹴りを顔面に放つ。それを首の動きだけで避ける。
「甘いですね!」
避けられた足をそのまま振り下ろすと左の肩口に叩き付ける。
「ッゥ!」
橙矢の身体が僅かに傾く。
「咲夜さん!」
「よくやったわ美鈴」
ナイフの逆手に持った咲夜は橙矢右側へと移動すると深々と脇腹に突き刺した。
「――――――ッ!」
刀を咲夜に振り下ろすが美鈴に止められる。
「邪魔をするなァ!」
腕を強化して力任せに振り抜いた。しかしそこには咲夜はおろか美鈴もいなかった。
「何処へ………!」
橙矢の肩口にナイフが突き刺さる。
「鬱陶しい……!」
「隙ありです」
不意に美鈴が橙矢の目の前に現れる。
「……!」
「喰らいなさい。東雲橙矢!」
美鈴が放った拳が先程脇腹に刺さったナイフの柄を殴り付けてさらに深く突き込んで貫通した。
「美鈴……!テメェ…!」
「あら、貴方の相手は美鈴だけじゃなくてよ」
真横から煌めいたものが飛んでくる。それを上半身を寝かせると目の前にナイフが通り過ぎた。
「え………」
まさか避けられるとは思わなかったのだろうナイフが美鈴の腕に突き刺さる。
「ッ………」
美鈴が怯むと横から蹴り飛ばす。
足を強化し、バックステップして距離を取る。
「……………残念でしたね咲夜さん。決定打を逃して」
「……馬鹿言わないで頂戴。あんなもの決定打でもなんでもないわ」
「……………言ってくれますね。ならこっちは……」
そう言うと橙矢は空いた右眼に力を集中させた。
「少々狡をさせてもらう」
手を右眼に沿わせて数秒後、払い除けるように手を払った。
………そこには
抉り取ったはずの橙矢の眼があった。
「「ッ!」」
美鈴と咲夜は驚愕して目を見開いた。
「………おいおい、何驚いてんだよ」
さも当然のように呆れた顔でため息を吐いた。
「再生能力を強化してやればいいだけの事だ」
「冗談じゃないですよ橙矢さん……!確か貴方の能力は物理的なものしか強化出来なかったはず……」
「………俺がそう言ったから何でもかんでも鵜呑みにするのか?」
「まさか……嘘をついたんですか!?」
「さぁ……………どうだろうな」
「それだけではないわ美鈴。橙矢は先日の異変の時よりもはるかに身体能力が倍近くに跳ね上がっているわ」
咲夜が油断なく橙矢を睨み付けた。
「彼はもう………人間を超越している」
考査も近くなってる、ということで次回の投稿がもしかしたら金曜日になるかもしれません。もしそうなった場合のため先に謝っておきます。すみません。
感想、評価お待ちしております。
では次回までバイバイです!