そうして、一色いろはは本物を知る   作:達吉

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■4話 にゃー、にゃー、てすてす

「いや、ないだろ」

 

 結衣先輩の提案は、澱んでいるのに慈愛が滲むというなんとも複雑な目をした先輩によって、鮮やかに一蹴された。

 

 彼氏が居ますアピール──

 つまり、漫画やドラマでよく見るあの展開のことですよね?

 

 実はそれ、わたしの頭にも真っ先に浮かんだんですよ。けど、こう言われるのが分かってたんで密かに封印していた禁断かつ最強のテンプレだったりします。こんなのをドヤ顔で提案できる結衣先輩、まじパないです。

 

「なくないよー! あるよ! 超あるよ!」

 

 食い下がる結衣先輩だったが、雪ノ下先輩を見ると、彼女も助け舟を出す様子は無い。

 それはそうだろう。この二人が一番嫌いそうな類の作戦だし…。

「あるもん…」と膨れていた結衣先輩だったけど、理論派の先輩方を納得させるだけの確固とした理由がないわたしに、援護が出来るわけもなく。

 

 まさか、わたしも一度やってみたかったんでー、なんて言える空気じゃないしね…。

 

「ふむ。…ありきたりな案だが、私はまあ悪くないと思うぞ」

 

 なんと、予想だにしない言葉が、意外な人物の口から飛び出した。

 

 思いもよらずこのアイディアに乗って来たのは一番年上──もとい、幼稚さからは最も縁遠いはずの、平塚先生そのひとだった。

 

「は? まじっすか。つかベタすぎでしょ」

 

「しかし奇をてらえば良い、というものでもなかろう。それなりの地力があればこそ、王道と呼ばれているとは考えられないかね。それにそのプランであれば、当事者の承諾のみで事に当たれるのも大きい」

 

「ですよね! ですよね!」

 

 説得するに当たって一番の難関と思われた人物が賛同してくれたことに気を良くした結衣先輩が小躍りし、お団子から垂れた尻尾がピョコピョコと跳ねた。

 

 あれれ? なんかほんとにこの案になっちゃいそう…。

 

 でもいざ真面目に考えると、それって相手が必要なことだよね。彼氏彼女って、何をすればそう見えるんだろう。男の子と一緒にお話したり、出掛けたりすればいい? いやいや、それじゃいつもとおんなじだ…。

 

 うわ…。よく考えたら、わたしってば今までちゃんとした彼氏が居たこと、なかったかも…。

 

「でねでね、彼氏役は隼人くんがいいと思う! みんなでお願いすれば手伝ってくれるんじゃないかな!」

 

 恥ずかしい冗談だと思っていたものが現実味を帯びてきたことに慌てるわたしを置いて、結衣先輩のイチ推しとして挙がった名前は、鉄板中の鉄板である葉山先輩だった。仲のいい彼女の頼みであれば、なるほどやってくれる可能性はありそうだ。

 

「ま、葉山ならそういうのは上手くやるだろうな」

 

 葉山先輩と彼はまるで水と油のように対照的な性格をしているけれど、その言い草は相手の実力を確信しているヒーロー…いや悪者のような響きを含んでいる。そして彼女の提案を肯定してみせた先輩は、目立たないような角度からこちらへ向ってくいっと顎をしゃくって見せた。うまくやるチャンスだと、おそらくそう言いたいのだろう。

 

 確かに少し前のわたしなら、このプランに一も二も無く飛びついたと思う。お芝居でもあの葉山先輩が彼氏になってくれるなら、ストーカーも悪くない──そんな風にさえ、思ったかも。

 

 だけど。

 なぜだか分からないけれど。

 

 今は、葉山先輩と並び立つ光景を想像しても、ちっともときめかないのだ。

 夢の国の夜に、豪快にフラれちゃったからかな。

 もうあのひとのことは諦めちゃったのかな。

 うーん、どうだろ。

 

 あの時、先輩と帰った電車の中では、リベンジする気まんまんだった。これからも頑張ると彼に言って見せた時の気持ちは、少なくとも嘘のつもりはない。だから、諦めたとかいうのとは、ちょっと違うような気がするんだけど…。

 

 しかし、わたしの心中がどんな複雑なことになっていようと、葉山先輩という人物が爽やかイケメンスポーツマンという看板を掲げた適任者であることは疑いようもない。彼が撃退作戦の主力として申し分ないのは明らかなのだ。

 このまま黙っていると、結衣先輩の意見が採用されてしまいかねない。かと言って、それ以外の…例えば誰とは言わないけれど、別の男子を採用してもらえるような説得力のある反論は、わたしの頭では思い浮かびそうに無かった。

 

 そんな時、その抗い難い流れに「待った」を掛けたひとがいた。

 

「それはどうかしら」

 

 このまま決まりそうな場の空気をものともせず、己の意見をぴしゃりと言い放つ。

 その発言に、で背中を刺されたかのような表情になった結衣先輩を見て、雪ノ下先輩は少しだけ申し訳なさそうに眉を下げる。

 

 だって、と彼女は続けた。

 

「彼は人気があるけれど、特定の女性と(ねんご)ろにはならない──それがうちの生徒の間における共通認識なのでしょう? つい先日、そう教えてくれたのは貴女達だったと思うけれど」

 

 葉山先輩が誰かと付き合っているという類の噂は、先日の雪ノ下先輩の時を除けば基本的には全く無いと言っていい。その例外的な噂も、結局はうまく掻き消してしまった。だから、彼に対する周囲の認識は、これまで以上に「みんなの葉山隼人」となっていた。

 なるほど、そんな葉山先輩を恋人役に配置したとしてもストーカーはもちろんのこと、事情を知らない第三者さえ納得しない可能性が高いだろう。

 

 これだ。

 乗るしかない、このビッグウェーブに。

 

「提案していただいた結衣先輩には申し訳ないですけど、それについてはわたしも雪ノ下先輩に賛成です」

 

 降って沸いたチャンスに、ほんのわずかでもと言葉を繋ぐ。

 

「アイドルの一日所長、みたいなカンジっていうんですかね。さすがにちょっとリアルぽくないかなーって。これがわたしじゃなくて雪ノ下先輩なら、お似合いかもしれませんけど」

 

 必死になって主張していたら、わたしの口は要らないことまで漏らしていたようだ。

 「一色さん?」と凍てつく笑みを浮かべる雪ノ下先輩に、なんでもありません気のせいですと、愛想笑いで己の失言をねじ伏せる。

 

「しかし、一日署長…ね。なかなか言いえて妙だわ」

 

 こくこくと頷く雪ノ下先輩。よかった怒ってないや…。

 

「これは葉山くんにも言えるのだけど、そもそも由比ヶ浜さんの案を採用した場合、無関係な男子をトラブルに巻き込まなければいけなくなるでしょう」

 

 ここで、わたしも心配していた本作戦における一番の問題点が指摘された。

 

 ストーカーに狙われた女の子の彼氏役というのはとどのつまり、冷静な判断力を失った相手方の男子の膨れ上がった嫉妬を、たった一人で引き受ける事を意味する。

 わたしの為に身体を張ってくれそうな男子に心当たりが無いわけではなかったけれど、事が済んだ後でハイさようなら、と捨ててしまおうものなら、そのまま第二のストーカーになりかねない人物ばかりだった。

 

 けれども平塚先生はしれっとした様子で、隣に座った無関心顔の人物の肩を叩いた。

 

「そこは比企谷なら問題あるまい」

 

 暇つぶしにネット生中継でも眺めていたかのごとく油断していた先輩は、まるで画面の中から流れ弾が飛んできたかのように、突如発生した緊急事態に笑えるくらい取り乱していた。

 

「い、いやいやいやいやいや。問題ありますよ何いってんすか! つか迷惑以前に俺がこいつの、か、彼氏に!? 正気で──」

 

 脊髄反射のように素早いアイアンクローの反撃を受けて、「ほんきですか…」と言い直す先輩に対し、先生はニカっと男前な笑みを返した。

 

「中原とかいったか? その生徒は一色と比企谷の仲を疑っているという話だったな。なら既に君は無関係とは言い難い。何なら嫉妬心から狙われる可能性もあるだろう。ならば、積極的に解決に向けて動いた方が、自身の安全にも繋がるのではないかね」

 

 言われてみればなるほど、先輩は既に無関係ではなかった。

 例の噂を根拠に、わたしの彼氏候補として既に強い逆恨みを向けられていることは、残念ながらほぼ確定的だろう。

 自分が嫉妬心から狙われることなど想像もしていなかったのか、それ以上騒ぐ事なく、先輩は黙り込んでしまった。

 

「え、えと、どーかなぁ。それ、どーだろうなぁ。ヒッキーキモいしさ、彼氏なんてさ、いろはちゃんが泣いちゃうかもじゃない?」

 

「その前に俺が泣いちゃいそうなんだけど…」

 

 先輩にとどめを刺す…つもりは無かったと思われる結衣先輩が、なんとも中途半端な言い回しで抵抗する。

 特別な感情を隠しきれない彼女の心中は、言及するのも野暮なほどには明らかだ。その立場からしたら、確かにこれは相当に歓迎しかねる展開だろう。…それにしたって、もう少し言葉を選んでも良さそうなものだけど。

 

 ところで、先輩と恋人同士の演技が出来るかどうかと問われれば──

 

 わたしとしては、実のところ、それこそが第一希望だったりする。

 先輩をキモいといって弄るのは、最近はもはや単なる様式美であって、目つきがすこぶる悪いと思うことこそあれ、気持ち悪いと感じることなんて何もない。

 先輩が分かっているかどうかは定かではないけど、そもそもほんとうに気持ち悪いと思う相手に対して、女の子はたとえ冗談でもベタベタ甘えたり出来はしないのだ。

 そしてこれまで積み重ねてきた交流から、こういった切羽詰った状況ではとても頼りになる年上の男のひとであるとも認識していた。

 

 つまるところわたしの方は、手を繋ぐのにも、腕を組むのにも、二人きりで居ることにも、ぜんぜん全く抵抗がないのであった。

 

「ヒッキーといろはちゃんとじゃ、彼氏彼女っていうの、ちょっと無理くない? ほらほら、月とヒッキー、みたいな」

 

「比喩じゃなくて俺がイケてない方の象徴になっちゃってるんだけど」

 

必死になって止めに入っている彼女の想いは、心配半分、やきもち半分といったところか。彼女のように自分の考えに対して正直に動ければいいのに、心の中のよく分からない(もや)が邪魔をして、素直に口にできない。

 

「いえ、平塚先生の仰る通りかも知れない。客観的に見て釣り合いが取れ…全く取れていない…甚だ不自然極まりない組み合わせなのだとしても、そこに本人の激しい思い込みが介在するのであれば、二人を恋人だと誤解する可能性は高いんじゃないかしら」

 

「ねえそれ二度も言い直す必要あった? ねえ?」

 

 情けなくまごついていたら、場の流れはなぜだかわたし有利の方向に動き出していた。

 頭脳派二人の意見にはさすがに適わないと感じたのか、結衣先輩はさっきからあまり意見を言っていないわたしに援軍を求める。

 

「い、いろはちゃんもヒッキーじゃちょっとアレじゃない? だよね?」

 

「ひょっとすると死にたくなるかもだから、アレの詳細は絶対言わないでな」

 

 もう充分死にそうな顔をした先輩が、疲れた息を吐く。

 わたしや結衣先輩にとってのアレと、先輩のとでは、大きな違いがありそうだなぁ…。

 

 アレの中身に想像を巡らせていると、わたしが迷っていると思ったのか、彼女はここぞとばかりにこちらへ身を乗りして畳み掛けるように弁舌を振るった。

 

「ヒッキーと、こ、恋人の役だよ? ちょーベタベタするんだよ? 無理くない?」

 

「それは俺の手が、ですか…」

 

「や、ちがっ!? イチャつくって意味だし!」

 

 あわあわと落ち着かなく手を動かして、フォローに勤しむ子犬な先輩。

 その微笑ましさには、これまで多くの同級生の恋愛事情を踏み荒らしてきたこのわたしでさえ躊躇を感じる。いえ、わざとじゃないんですよ、わざとじゃ。

 

 でも、すみません結衣先輩。

 ここはわたし、勝ちに行きます。

 …何にかは、わからないけど。

 

「…えとー、先輩でも大丈夫だと思います。ほら、わたし演技とかちょお得意ですし」

 

 結衣先輩が「裏切られた!」って顔をしてるのには、ほんと申し訳ない気持ちになる。けど、理屈の面でも感情の面でも、「先輩()()大丈夫」と思う部分が譲ろうとしないのだ。さすがに恥ずかしいから、少しだけ言葉を変えさせてはもらったけどね。

 

「演技が必要なくらい不快なら素直に別のヤツにしろよ。戸塚とならともかく、俺だってそんな面倒ごとはお断りだ。戸塚ならともかく。てか戸塚こそストーカーとか付いてるんじゃねえか?言ってて心配になってきた」

 

 むー。

 面倒って言い方は酷いんじゃないですかね。

 

 だいたい、先輩はわたしの価値ってものを正しく理解してません。

 付き合って欲しいって言ってくる男子は大勢いるんですよ。わたしが恋人だなんて、先輩だってぜったい鼻が高いはずなのに…。

 

 ここで別の人に妥協するのもなんか負けたみたいな気がするからイヤだし…ならばひとつ、わたしの特技をご覧に入れましょう。パパならお財布を取り出すのに10秒と掛からない、とっておきです!

 

 んっん…にゃー、にゃー、てすてす。

 

「せんぱぁい、いいじゃないですかぁ、ちょお役得ですよぉ? こーんな可愛い年下の彼女ぉ、人生勝ち組の気分が味わえますよぉ? これ逃したらぁ、二度とこんなチャンスないかもですよぉ?」

 

 きゅっと腕を絡めてボディタッチ…というよりアタック。

 日ごろからこういうベタベタしたの、慣れてるって思われてるみたいだけど、例え冗談交じりだとしても、さすがにそうそう腕は組めないものだ。ここまでしているのは、実は先輩だけだったりする。

 

「いらん。うざい。あざとい」

 

 はい。清々しいくらいにバッサリ切られました。

 

 うぐぐ…先輩って、この手のモーションがぜんぜん通用しないんだよね…。可愛い妹がいるって話だから、もしかして年下のおねだりに耐性があるのかも。なんて厄介な…。

 

「冗談はこのくらいにしてだな」

 

 伝家の宝刀を簡単に受け流されて困っていると、今まで様子を見ていた平塚先生が「しかし比企谷」と急に真面目な声を上げた。

 

「相手もフェイクを用意する可能性くらいは考慮していると見るべきだ。いま君以外を立てたところで、偽装だと見破られる可能性は高いと思うが」

 

「いざという時に遣い捨てが可能という意味でも、適切な人選ね」

 

「せんぱーい、お願いです…」

 

「……ん」

 

 姦しい三人娘──ひとりは娘というには厳しいかもしれない──の口撃に晒され、先輩はふっと抵抗する素振りを引っ込めた。説得されたというよりも、何か気になることができたというような表情だ。

 思い悩むような、何か考えを巡らせているようなその真剣な目つき。どこかで見たようなことがあるようなその表情は、見過ごすには少し気になるものだった。

 

「…あの、どうしてもおイヤでしたら、別の方法でも──」

 

「仕方ない、速攻でケリつけるか」

 

 吹っ切れたような先輩の言葉は役目を引き受けることを意味したもので。

 ストーカー対策の基本方針が、めでたく決定した瞬間だった。

 

 ところでその反応、あんまりじゃないですかね?

 

「…ちょっと先輩。お芝居とはいえ、このわたしが彼女なんですよ? もっと嬉しそうにしてくださいよー!」

 

「何言ってんだ。成功しても失敗しても使い捨てられるのに嬉しいわけあるか」

 

 それはつまり、使い捨てられないほうが嬉しい、ということだろうか。

 いつもおざなりに流されているから本心がぜんぜん見えないけれど、先輩はわたしと付き合うのも悪くないと、思ってくれているのだろうか。

 一瞬頭をよぎった考えに驚き、わたしは慌てて"いつもの"を取り繕った。

 

「なんですか成功したらそのまま付き合えるとか思ってるんですか女の子が弱ってるとこにいいとこ見せようとか露骨すぎて無理ですごめんなさい」

 

 ふー。

 

 なんか顔、あっつ…。

 いくらなんでもわたし、雰囲気に流されすぎてる。

 なんなら、そのまま付き合っちゃうのも面白そう、だなんて。

 

 

<<--- Side Hachiman --->>

 

 

 職員室へ戻るという平塚先生を見送る為に、俺は廊下に続くドアを滑らせた。

 

 ここに不審者が潜んでいたのかと思うと、嫌な臭いが燻っているような気分になる──。

 そんなニヒリズムで隣の女性から香るフレグランスへのドキドキを誤魔化していると

 

「比企谷。分かっているとは思うが、あまり危ないことはしてくれるなよ」

 

 一緒に廊下に出た俺にだけ聞こえるボリュームで、平塚先生が囁いた。

 

 だから耳は弱いっていってるじゃないですか俺落としてどうするんですか。こんなに色っぽいのに結婚できないのは、それ以外の部分がこの魅力を帳消しにするくらいアレなんかね。

 

「あまり役に立てなくてすまんな」

 

「いえ、要らん手間かけてしまって申し訳ないです」

 

 そんなことはない。少なくともこれで雪ノ下の義務感は誤魔化せた。結局俺たちは、この人に相談することで報告義務を果たしたつもりになっている。それでいて学校には報告するなと要求しているのだから、実に性質が悪い。

 

「なに、君がこうして人を頼りにしてくれたことは素直に嬉しく思うよ」

 

「頼れる人少ないもんで」

 

 むしろ会話できる相手自体、両の指で足りる。どころか、つい最近まではアドレス帳が無くても必要な番号を全て暗記できていたまである。

 ともだちひゃくにんよゆうでできる、と思っていたのは、果たしていつの時代のことだったろうか。

 

「その数少ない一人に選ばれたこともな。まあ期待には応えて見せよう」

 

 平塚先生に期待する事。

 それは俺達が責任を負いきれない何かがあった際、それを肩代わりしてもらう事だ。何もするなと言いながら、責任だけは押し付けようという、あまりに利己的な考えに吐き気がした。当然、それに気付かない筈もなく、知った上で彼女はこう言った。

 

「社会的責任については私が必ず何とかしてやる。君は、君達の心と身体を守ることだけ考えていればいい」

 

 すみません、という言葉が喉まで出掛かる。

 が、どう言い繕ったところで担いだ神輿から降ろすつもりはないのだ。ならばその言葉もまた、自分を慰める以上の意味はない。謝罪という行為は少なくとも、謝ってこれ以上罪を増やすことではなかったはずだ。

 適当な言葉が見つからず、さりとて謝辞を述べる習慣の無い生意気な口からは、いつも通りの世辞しか出てこなかった。

 

「格好良過ぎでしょ」

 

 なに、と白衣にかかった長い髪を細い指でゆっくりと流す。その顔に浮かべた笑みは、後悔の色を微塵も含んではいないように思えた。

 

「その言葉が聞きたくて、私は教師をやっているのだよ」

 

 冷え切った廊下に良く響くヒールの音を、俺はせめて目礼しながら見送った。




いろはすが一番雰囲気でてないなーと思ったら、静か過ぎるんですね。
まあ今はビビってる状況なので仕方ない。次くらいからまた動いてくれます。
ちょっとだけ八幡視点入れましたが、語彙少ないからしんどい…。

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