そうして、一色いろはは本物を知る   作:達吉

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■14話 実現可能な最適解

盗撮。

 

これは盗撮だ。

 

今朝、わたしたちは揃って家を出た。

その時に()られたに違いない。

 

改めて見ると、もう一枚の不鮮明な写真も同じ場所で撮られているのが分かった。

朝の写真とは逆に、連れだって家の中に入っていく様子の三人。

それ自体はわたしには見覚えのない光景だけど、だからこそ、いつのことであるかを特定する事が出来た。

 

時系列的にはおそらくこの不鮮明な方が先で、昨日の夜に撮られたのものだと思う。

暗闇の中の「H.H」さんは、開かれた玄関の扉に半身が隠されて見切れ気味だ。

その姿勢がやけにへっぴり腰なのは、倒れたわたしを家に担ぎ込んでいるからに違いない。

つまり、その扉の向こう側には、彼の腕に抱かれているわたしが居るはずだった。

 

わたしの大切な思い出のシーン。

 

それが、彼らを貶める目的で使われていた。

 

「…」

 

大事な物が、傷つけられた──。

 

「……ッ!!」

 

ぎり、と奥歯が鳴る。

頭の芯が熱くなるのを感じた。

呼吸がどんどん、早く浅くなる。

俯いた目頭に、じんじんと熱が溜まってくる。

 

落ち着け。

焦っちゃダメだ。

周りを見ろ、まだ誰も騒いでない。

なのにわたしが油を注いだらサイアクだ。

 

「これ、ぜってーあのヒキガヤとかいう二年でしょ。顔モロ写ってるし…まあそれ以前にイニシャル入ってるか」

 

ガマンしろ。

泣いたら負けだ。

怒っても負けだ。

わたしの負けは、あのひとの負けだ。

だから、絶対に、ダメだ。

 

「エロ系のパパラッチでH.H(エッチ・エッチ)とかって偶然にしちゃ笑えるよね。つかあの人案外遊んでんのかな?ははっ、全っ然モテそうに見えないけど」

 

今は仮面を被れ。

いつもやってきた事だ。

だからできる。

わたしはできる。

 

「うっわー、なにこれー!ねーどこで貰ったのー?」

 

ほら、できた。

 

「階段ホールんとこの掲示板。超一杯あってウケるよ」

 

「へ、へぇー、わたしもちょっと見てくるねー」

 

やば、吐きそう。

 

なんとかそれだけを口にして、表情を見られないように、素早く背を向けた。

相手の答えも確かめずに教室の出口へ向う。

今にも剥がれ落ちそうなうすっぺらい仮面だけど、ギリギリもってくれた…。

 

ちらりと教室を見渡してみたけれど、このビラを持っている人も、噂をしている様子もまだ見当たらなかった。

一見すると、この教室には全然広まっていないみたいにも見える。

けれど、チャイムが鳴ればいつでもロケットみたいに飛び出していく人種が居る。購買組だ。

もしこれが階段ホールに置かれているのなら、もう間に合わない。彼らの目に留まらないはずがない。

普段からあまり気にしていなかったけれど、わたしのクラスにはどれほどの人数が居ただろうか。

この先の展開を考えると目の前が暗くなる思いだったけれど、それでも、行かないわけにはいかなかった。

 

 

一年生と二年生の階層を繋ぐ階段ホール。

駆けつけた先では、路上ライブでもやっているかのような、ちょっとした人だかりが出来ていた。

色めき立った様子の彼らにまた頭がカッとなったけど、ううん、今はそれどころじゃない。

人垣の隙間を縫ってその中心に向かうと、白衣の人物が声を張り上げていた。

 

「ほらほら散った散った!貴重な昼休みが終わってしまうぞ?あっそこ、拾うなと言っているだろうが!おい待たんか、置いていきなさい!」

 

「平塚先生!」

 

「あ"!?…おお、一色か」

 

一瞬すごい声が聞こえたような気がして身体がすくんだけど、続いてわたしに掛けられたのは、いつも聞きなれている大人の女性のそれだった。

先生は乱れた紙束を小脇に抱え、生徒達を威嚇…ではなく注意している。

 

「これ…」

 

突き当たりの廊下には、生徒会でもよく使っているお知らせ用の掲示板がある。いや、あった。

その場所を、大量のビラが覆い尽くしている。

壁に広げられたモザイク画にも見えるそれは、貼り方が雑だったのか、廊下にも散乱している。

 

「剥がすの手伝います」

 

「あっ、いや、いい!君は生徒を遠ざけてくれればいい。えーとあれだ、グロ画像だからな!うっかり見ると夢に出るかも知れんぞ?」

 

「もう見ちゃったんで」

 

無理やり表情を保っているせいで、なんだか泣き笑いみたいな声が出た。

この人が、そんな分かりやすい感情の発露を見逃すはずもない。

柄にもなくまくし立てていた口を開きかけ、しかし閉じ。

目を瞑って、それから大雑把に頭をかいて、最後に盛大な溜息と共に言った。

 

「…そうか。ならすまないが頼もう。私は少し雀を黙らすとするよ」

 

剣豪のようなセリフを口に、ヒールを鳴らして黒山に向き合った彼女は、少し低い声で告げた。

 

「さて、諸君。いい加減教室に戻りなさい。これ以上は冗談では済まさんぞ。内申が惜しくないヤツなら大歓迎だがな」

 

成績を人質に取られた学生ほど無力なものはない。

猫に踏み荒らされたネズミの集会の如く、人だかりは四方八方へと散っていった。

とは言え、時間が時間、場所が場所だ。

噂を聞きつけた生徒やただの通行人が絶え間なくやってくる。

その度に先生は彼らを追い返し、わたしは黙々とビラを剥がし続け──

 

お昼休みも半分を過ぎた頃、撤去作業はようやく終わりを迎えた。

 

何枚も重ねて張られた用紙は全部で100枚近く。

それぞれが画鋲で止められていたので、最初は一つずつ外していたけど、途中から耐えかねてビラを引き裂いてしまった。

おかげで鋲留めされた用紙の角があちこちに残り、掲示板は見るも無残な姿になってしまったけれど、終いには嬉々として一緒に引きちぎってた平塚先生は

 

「うん、スッキリしたな」

 

と腕を組んで満足げに頷いていた。

 

「全く下らんな。余程暇を持て余していると見える。譲って欲しいくらいだ」

 

そう言いながら彼女はついと、私に手を差し出した。

わたしの暇を譲ってくれ、という意味ではもちろんない。

その手には、ワンポイントの刺繍がお洒落な、パールホワイトのハンカチが乗っている。

 

「べつに泣いてませんけど…」

 

「指だよ。切れているぞ」

 

「え?…あっ」

 

指先を見ると、赤い筋が走っている。

見ればかき集めた用紙のところどころに、血が擦れた後があった。

ヒリヒリというかチクチクというか、とにかく気に障る痛みだった。

 

じわりと血の滲む指を見ていたら、ふと視界がぼやけた。

 

指が痛いだけ。

あんまり痛いから、涙が滲む。

 

「ご、ごめんなさい、わたし…その、ちがくてっ…」

 

「ああ、貴重な昼休みを使わせた上で言うのは心苦しいんだが、生徒会に頼まなければならない用事があったのを思い出したよ。悪いが少し準備室まで付き合ってくれ。代わりと言っては何だが、午後の出席くらいは都合しておこうじゃないか」

 

「…はい」

 

全く、このひとはかっこいいな。

ほんと、なんで結婚できないんだろ…。

 

国語科の準備室は目と鼻の先。

そのくらいならギリギリ涙を零さずに済みそうだ。

軽く肩を叩かれ、そっと首だけで返事をし、先生の後へ続く。

 

沈鬱な様子で俯き教師に連行されるわたしは、周りから見てどんな重罪人に見えるだろうか。

生徒会長のスキャンダルとして、あのビラよりみんなの好奇心を刺激してくれたらいいんだけど。

そんな事を考えていると、すぐに目的の場所へとたどり着いた。

準備室の鍵をカチャカチャとやりながら、平塚先生はこちらを見ずに呟く。

 

「その涙を恥じる事は無いよ。誰かを大切に思えるというのは、誇るべき事だ」

 

結局、ほんのちょっとだけ入り口の廊下を濡らしつつ、わたしは部屋の戸をくぐったのだった。

 

 

 

<<--- Side Hachiman --->>

 

 

「ないわー!これマジハンパないわー!」

 

うららかな昼下がり(曇天)。

北風小僧程度に後れは取らぬとばかりにいつもの場所で昼食を済ませた俺は、燃料(マッカン)切れと共に教室へと撤退していた。

 

食欲を満たしたら次は睡眠欲。三つ目が自由にならないのだから、残り二つだけでも好きにさせてもらいたいものである。

活動が活発になった胃腸に血が行くから眠くなるなんて話がまことしやかに囁かれているが、あれはウソビアである。大体、もし身体の一部に血が集まる度に眠気が誘発されるのだとしたら、男はエロいこと考えただけで眠くなっちゃうだろうが。それは人類の滅亡を意味する。故にそんなわけはないのだ。

 

実際のところは自律神経のスイッチング──交感神経と副交感神経の素早い切り替えが眠気の原因であるとされている。食事という運動で交感神経が昂り、消化という内臓機能が副交感神経を昂らせるのだ。どうでも良いけど『昂る』って字面だけでちょっと興奮しませんか。ホントどうでも良いな。

 

その理屈で言うと、例えばこの状況。

 

俺のうたた寝を脈絡無く邪魔しくさった戸部(バカ)の甲高い声が交感神経を惜しみなく刺激し、ノルアドレナリンが後から後からスプラッシュマウンテン。

今は消化器官の皆さんがせっせと仕事中──つまり副交感神経が活発だったはずなのだから、これもやはりスイッチングに違いない。しかし残念ながら飛び去った眠気は一向に帰ってくる気配が無かった。

こりゃ戸塚でも見ないと治まらないな。いやそれはそれで治まらない。何がとは言わないが俺が治まらない。

 

机に突っ伏したまま騒音の出所を盗み見ると、「勝訴!勝訴でござる!」と言わんばかりに何かの紙切れを握り締めた戸部が教室の入り口で騒いでいた。

そのままいつものグループへと帰巣し「なんだ、どうした?」と葉山アンドお供の犬とサルが反応。三浦が「チッ」と舌打ちをし、海老名さんはスマホに夢中。由比ヶ浜は…うわ目ぇ逸らしやがった。つか何でこっち見てんだよ。しかし女子連中の戸部の扱いがマジで目に余る。一色の話を聞いた後だけに尚更。

 

「ちょ、まじくねー?ヒキタニくんでしょーこれ」

 

マジなのかマズイのか、マジでマズイのか。

なんにしてもヒキタニくんさんは相当まじいらしい。誰だか知らないがご愁傷様である。

…いや、少しくらい現実逃避させてくれ。聞こえないったら聞こえない。

 

聞き耳を立てていた訳でもないのに自分の名前だけはなぜか聞き取れてしまう現象を、俗にカクテルパーティー効果という。

人間はパーティーのような雑踏の中でも必要な情報を選択して聞き取っているのだそうだ。なら自分の名前だけは聞こえない現象は何と呼んだらいいのか。やっぱりカクテルパーティー効果だろ。だってそういうトコで自分の話とかされてたら、怖くて聞こえないフリするしかないし。

怖くて聞きたくないけど、聞こえてしまった以上はスルー出来るほど鈍感力が高くない俺は、諦めて聞きたくもない会話へと意識を向けた。

 

「うっわ、ないわー」

 

「べーな」

 

「だろ、やっぱヒキタニくんぱないわー」

 

…ちょっと誰か翻訳して字幕出してくれませんかね?そそ、田舎のおじいちゃんにインタビューしてる時のアレ。アレって実は相手に対してわりと失礼だよな。だからこそ今はソレがふさわしいと思う。

つか、お前らも実はお互い何言ってるか分かんないまま、TV収録的なノリで合わせてたりしない?

 

「信じらんない!」

 

語気荒く響いた声が、教室の雑踏に水を打った。

 

無秩序だった個々人の意識が一点に集中する感覚というのは、例えその中心が自分でなくても気持ちの良いものではない。

それでも 声を上げたのが三浦あたりであれば、「ああまたか」みたいな空気に収束したことだろう。

しかし視線の先に立っているのは由比ヶ浜だった。

日頃温厚な彼女のご乱心に、クラスの連中も面食らっているように見えた。

俺も何度か彼女が激する場面に立ち会っていなかったら、一緒になって泡を食っていたかもしれない。

 

「ちょ結衣、どした──」

「ごめん後で説明する」

 

戸惑う三浦を早口に遮ると、由比ヶ浜は()()()()でこちらへ近づいてきた。

誰よりも立派な爆装をしているくせに、人目に捕捉されずに近寄ってくることでお馴染みのステルス爆撃機がだ。

立て続けの異常行動を目の当たりにして、さすがの俺も突っ伏していた身体を起こした。

 

「ヒッキー」

 

「…どしたよ」

 

由比ヶ浜の表情は険しい。

悲しそうな、悔しそうな、怒っているような、まあ多分全部なんだろう。器用なヤツだ。

彼女は端がくしゃくしゃになった…してしまったプリントを両手で持っている。

渡したい、でも渡したくない、みたいに胸元で躊躇っているそれは、戸部が持ち込んできたものだろうか。

 

「…ヒッキー」

 

「…」

 

自分から渡すのが辛そうだったので、寄越すように手を差し出すと、ややあって彼女は握りしめた紙切れをおずおずと胸元から離し──

 

キンコンカンコンと、午後の予鈴が鳴り響いた。

 

「……ごめん、放課後に見せる」

 

「え…ちょっ…」

 

えぇー…マジで…?ここでCMとかねーわ。

俺この微妙な状態であと2コマも授業受けんの…?

生殺しで放置プレイとか、新属性でも狙ってんのかよあいつ…。

 

 

* * *

 

食後一発目の授業は大抵、どいつもこいつも睡魔とのキャットファイト(睡魔はメスだ、これは譲れない)に精を出しているものだが、昼休みに投下された爆弾の影響か、今日ばかりは落ち着かない空気が教室に蔓延していた。

 

そう言えばこんな露骨なのは文化祭以来だな。確かあの時も戸部がうるさかった。

なんとも懐かしい重苦しさ。

 

「これが、重力か…」

 

独りボソボソと宇宙移民者を気取っていると、プリントを手にこちらを見ているヤツが何人か居ることに気が付いた。

しかしさっきのは何だったのだろう。総武高『彼氏にしたくないランキング』でも公式発表されたのだろうか。そういうのは裏サイトだけでやって欲しい。

しかしまずいな、このタイミングでは入学後の小町人気に悪影響が出るかもしれない。早く何とかしないと。

 

昼休み、みのさんよろしくファイナルアンサーをケチった由比ヶ浜にも当然のように好奇の視線が注がれていたが、当の由比ヶ浜はスマホ相手に顔を伏せており、その表情を見て取ることは出来なかった。

そんな無反応な彼女の代わりに後ろの三浦ママがぐるりと辺りを睥睨。「チッ」と小気味良く舌を鳴らしてみせると、皆一様に明後日の方向を向いた。お前らは訓練されたイルカか何かなの?

しかし三浦いい人だなー、俺のためにもやってくれないかなー。そんな思いで見ていると、なんと三浦はこちらを見て「チッ」をサービスしてくれたのだった。いや俺にして欲しいわけじゃないから。

 

 

「では日直、号令を」

 

長い長いCMが明け、待望の解決パート。

 

「信じらんない!」のシーンから再放送される、なんてことは当然あるはずも無く、ホームルームが終了するや否や、リュックをひったくる様にした由比ヶ浜はずんずんとこちらへ向ってきた。

その勢いで俺の腕を取ろうとして、しかし触ってはいけないモノだった事を思い出したかのようにパッと手を引っ込め、顔を伏せる。そのまま改めてぐいぐいと袖を引っ張ってきた。

今の静電気ですよね?静電気だといいな…。

 

「はやく!ゆきのん待ってるから」

 

「っておい、部室か?行くから引っ張んなって。つか、さっきの…」

 

「ちゃんと話すから!急がないといろはちゃんが来ちゃう!」

 

「は?え、一色?」

 

ちょっと展開についていけない。

こいつは授業もそこそこに、恐らくLINEでもしていたのだろう。

現在勃発しているであろう何事かへのカウンターとして雪ノ下に救援を求めたであろうところまでは分かる。 一色が部室に来る可能性も、まあ最近の連勤ぶりからすればかなり高いだろう。

しかしそれら二つの事案に関連性があるのか。居てはまずいような言い草なのはどういう事か。

 

単純に考えて、先ほどの紙切れは一色にも関係のあるもの、という事だろうか。てっきり自分の不利益に繋がるものとしか考えが及ばなかった。

一色関連となると、今は色々と嬉しくない可能性が有り余っている。急に由比ヶ浜の持っていた紙切れがパンドラの箱に思えてきた。底に希望はあるのだろうか。

 

慌ててカバンを手に由比ヶ浜を追いかけると、彼女は廊下を駆けていた。

 

「おい、待てって!」

 

「ヒッキーも走るっ!」

 

てっけてっけと言う形容が似合う、いわゆる女の子走りをしつつ、由比ヶ浜は先を急ぐ。

仕方なく、俺も小走りで後を追った。こんな時に限って平塚先生とかに出くわしませんように…。

 

 

* * *

 

 

「ゆきのんお待たせ!いろはちゃんまだだよね?」

 

部室の扉を勢い良く開き、由比ヶ浜は既にスタンバイOKの雪ノ下の元へと駆け寄っていく。

飼い主を見つけたわんこの様で微笑ましい限りだ。

でもさっきのセリフ、もしこの場に一色がいたらどうするつもりだったのだろう。ホント、腹芸の下手なヤツである。

ちなみに俺はその手のシチュには詳しいぞ。噂されてる最中に現場に踏み入っちゃう方だけどな。その時のマヒャド感は忘れたくても中々忘れられない。

 

しかし、俺らも相当急いできたはずなのだが、なぜ雪ノ下は息も乱さず着席待機できているのだろう。実はここに住んでいるのではと疑ってしまう。

 

「では急ぎましょうか」

 

「…いい加減、説明してくれ」

 

この二人の間では情報筒抜けどころかクラウドで共有化している常識なのかもしれないが、さすがに蚊帳の外過ぎて疲れてきた。

それともまさか、もう既に説明はなされた後で、俺はそれを忘れているだけなのだろうか。身体のどこかにメモってあって、事件は今日中に解決しなければいけないのだろうか。明日には忘れるんだったら、タダ働きさせられても気付かないんじゃないだろうか。

 

袖を捲って人体メモ帳を確認すべきか悩んでいると、雪ノ下の目つきが瞬間、鋭利さを増した。

 

「比企谷くんが女たらしの変態だという内容の文書がばら撒かれたの。

 私達が一色さんの家に出入りしたところを撮られて、淫行まがいの脚色をされているわ。

 彼女に罪悪感を感じさせない為に、何かアイディアはあるかしら」

 

見事な今北産業レスだった。

内容を読み解き、急ぎで脳味噌を締め上げる。

 

「ヒッキー、どうしたらいい?」

 

それでやたらと急いでいたわけか。なるほど、説明下手な自分が話すより、雪ノ下に任せようとした選択は正しい。

雪ノ下まとめサイトの通りだとすれば、一色の立場なら強い責任を感じるだろう。HRが終わり、二年の教室を確認し、それからこちらに来るとして──猶予は10分あるだろうか。

 

一色が事態に気づいていない可能性──これは期待しないでおいた方が良い。

事件が発生したのは昼休みのはずだ、その時すぐに来なかった…いや来られなかったわけだから、謝罪し損なったまま午後の授業を受ける羽目になった彼女は、時間を置く事で自責の念を強めている可能性がある。

なだめすかして「お前は悪くない」と言って聞かせて、果たしてそれが通じるだろうか。今の段階では俺の方が事情に通じていないだろう。情報が無いことには、こねられる屁理屈もこねられない。

 

検証している時間は無いが、犯人が中原(なにがし)である可能性は非常に高いだろう。というか、少なくとも俺達にそういう心当たりがある以上、犯人如何に依らず一色は罪の意識を感じざるを得ないのだ。

それを防ぐには、彼女が本件と無関係であることを証明する必要がある。

 

さて、一色いろはに対するシナリオで、今すぐ実現可能な最適解はなんだ。

 

 

* * *

 

 

タッタッと廊下を駆ける、いかにも体重の軽そうな足音が近づいてくる。

俺が部室へ来てからまだ3分も経っていない。

予想以上にフットワークの軽いやつだ。

 

雪ノ下と由比ヶ浜は表情を隠すように俯いている。

 

ややあって、扉を慌しくノックする音が部屋に響いた。

 

「どうぞ」

 

「し、失礼します…っ」

 

雪ノ下の声を受けてソロソロと戸が引かれる。

思ったとおり、声の主は少し息を切らしていたようだった。

どうにもいつもとは声色が異なる。ありありと悲壮感が滲んでいるのだ。

やっぱり聞いていて気持ちのいいものじゃない。とっとと終わらせよう。

 

未知の部屋に探りを入れる猫のように慎重に部屋へ入ってきた一色は、中の状況を見て、動揺した声を上げた。

 

「あの、ソレ、せ、先輩…ですよね?」

 

ふむふむ、どうやら彼女は俺を尊敬すべき先輩として認識しかねているようだ。

ひょっとしてこれはゾンビですか?いいえ、八幡です。おっと大体合ってますね。

 

一色がソレと表現した物体を客観的に伝えるとこうだ。

 

部屋の入り口に背を向けて立っている男子生徒が一人。

その男子は、雨を避けるかように上着の襟を頭にすっぽりと被っている。

ジャミラ状態と言ったら通じるだろうか。小町は分かってくれるんだけどなー。古い例えだ、検索各々で。

上着が頭を隠しているせいで男子である以外の情報はないはずなのに、いろはすったらどうして分かったのかしら。隠せないダンディズムを背中で語ってしまっているのかしら。別に倒してしまっても構わんのだろう?

 

「…よくわかったな」

 

「いやここにいる男子なんて先輩くらいですし」

 

そんなバカな事するのは俺だけだから、という理由じゃなくて本当に良かった。

 

「何やってるんですか…?」

 

「なに、ちょっと有名になりすぎたんで、しばらく顔を隠そうかと思ってな」

 

速攻で身バレしてしまった俺は、肩を落して振り返る。

正面から俺の姿を見た一色は、思わず口を覆った。

どこか気ぐるみのような、それにしては生っぽい、生理的違和感を感じさせる格好。

そう、これは本来、前から見て楽しむものなのだ。

それを視覚から遠ざけておく事で相手を油断させる、鉄壁の二段構えである。

 

「…っ……っ!」

 

前かがみになった一色が、耐え切れずくふっと吹き出した。

 

「ぷ…うくっ…!ごめ、なさ…っ……なにやって…ぷぷっ!」

 

「…」

 

ひとつ、小さく息を吐く。どうやら緊急ミッションは完了とみていいだろう。

雪ノ下の方を見ると、こくりと頷いている。隣に立つ由比ヶ浜も表情が明るかった。

 

さんざん勿体つけておいて一発芸オチかよ、と笑ってくれていい。

 

一色が本件に無関係である事を証明する──。

そんなのは無理に決まってる。少なくともこの短時間では思いつかなかった。

てか、このコってば一連の事件の主演女優様だから。おまけにロケ地も一色さん家なんでそ?

俺は某国の住人ほど居直り上手ではないので、この状況で無関係を主張するのはいくらなんでも無理な注文だ。ついでに言うと今回のシンキングタイムは1分強しかなかった。ウルトラヒーローだってもう少し猶予を貰っているのではないだろうか。昼の時は不必要に引っ張っておいて、なんともバランスが悪いことだ。

そのせいで、いの一番に思いついたクソ間抜けな案を採用せざるを得なかったではないか。

 

哀れな姿を晒して謝罪する気を根こそぎ奪ってやろうと思っていたのだが、部室はなんとも生暖かい空気に包まれていた。

ピエロ?違うな。プロのエンターテイナーの芸はこんなに惨めじゃない。

 

まあ、笑いが取れたのなら充分だ。それが例え失笑だろうとなんだろうと構わない。よくよく考えると失笑ってのは字面的に笑顔失っちゃってる気もするけど、構わない。

事実、一色が笑いを零した時点で、彼女の引き連れてきた重たい空気はあらかた吹き飛ばす事が出来た。

ついでに俺の先輩としての威厳も跡形も無く吹き飛ばされた。ファーッ!

彼女が何をしに来たのかは想像に難くないが、今更シリアスなムードを引き戻すのはかなり難しいだろう。

仮に仕切り直しを狙われても今なら「まあまあ」で誤魔化せる。

名付けてスマイルチャージ大作戦である。バッドエンドになんて負けないんだからね!

 

それにしたって、宴席で突然「何かやって見せろ」とほざく老害上司みたいな雪ノ下の無茶ぶりに、わずか一分程度で対応した俺は賞賛されて然るべきだと思う。これで文句なんて言われた日には、翌日出社拒否してもおかしくないレベル。働きたくないでござる。

 

「ありがとうございます」

 

頬を紅潮させ、ちょっと涙ぐんだ一色が口にした言葉。

それは、いつかの「騙されてあげます」と同じニュアンスを孕んでいるように聞こえた。

意外と賢しいこいつが、このお粗末な寸劇の意図に気付かないわけも無いか。

 

「別に。何もしてねえよ」

 

仕掛け人としてはバツが悪かったが、ベストは無理でもベターが得られたことに満足しておく事にした。

頭に上着被ったこの姿じゃ、シュール過ぎて格好もつかないし。

 

「…本当に何をやってるんだ君は。ジャミラのモノマネかね?」

 

えーと、聞こえるはずの無い声がするんですけど気のせいですかね。

一色の後ろに視線をやると、なぜか平塚先生が寒々しい目をこちらに向けていた。

 

…なしてこのお方がここにおるとですか?

あらやだ超恥ずかしい!この人にだけは見られたくなかったわ!

もう穴があったら入りたい。入って、ネット環境整備して、一生その中で快適に暮らしたい。

あと先生、ジャミラ通じちゃうんですね…昭和ェ…。

 

 

* * *

 

 

俺のプライドと引き換えに守られた一色の笑顔が部屋の空気を暖かくしたところで、本格的な対策会議と相成った。

 

「つか、俺まだ肝心の写真見てないんだけど」

 

「あっゴメン。ヒッキー超ヘコむかなって思ったら、なんか見せづらくって…」

 

「その、先輩、あんまり見て楽しいものじゃないですよ?」

 

「だからって見ないわけにもいかんでしょ」

 

彼女達は気を遣ってくれてるのだと思う。

思うのだが、このホスピスみたいな腫れ物扱いの空気の中、自分だけが実態を知らないというのはかなりキツイ。

そして彼女達が渋り、言葉を濁すほど、コンテンツへの恐怖が右肩上がりで増大していくのだ。

…そういや一色ん家で風呂にも入ったよな。全裸公開とかだったらわりと立ち直る自信ないですよ?

すまん小町。お兄ちゃんお前と同じ高校に通ってみたかったよ…。

 

「ふむ…。いや、これは比企谷にとって、一概に苦痛だけを与えるものでもないと思うが」

 

「…それは一体どういうことでしょうか」

 

え、マジでどういうことなの?

つか、いい加減見たほうが早いな。

 

平塚先生がひらひらとさせている一枚を受け取って、思い切って紙面と向かい合う。

顔を覗き込む複数の女子…もとい女性(配慮)の視線を感じ、俺は赤面しかけた。

 

ようやくありついたビラの内容は予想通りというか、それなりにまあまあ手酷いな。

しかし、これは──。

 

「…なるほど」

 

平塚先生が即座に俺と同じ理解に及んだのには思うところがあるが、さすが大人の女性ということにしてこう。確かにこれは、俺にとって大したダメージとはなり得ない事が分かった。

 

「ヒッキー、気にする事ないよ!」

 

ああ、気にするほどの事は無かった。

いや違うか、気にはなるけど気に障るほどの事はなかった。

 

「大丈夫だ、問題ない。余裕だ」

 

淡々と告げると、おぉ、と感心めいた声が上がる。

 

「なんか…ホントに平気そうな顔ですね。ちょっと見直しました」

 

だって腹立たないしな。

雪ノ下ですら「小心者かと思えば、変な所で剛胆なのね」と賞賛らしき言葉を紡いだ。…賞賛か?

平塚先生は心配していなかったという風に、一度だけ首肯。どうやらネタバレする気はないらしい。男前過ぎて超眩しい。売れ残るわけだ。

 

(絶っっ対バラさないで下さいねホントお願いしますいやマジでお願いしますよ?)

言葉に言い表せない思いを乗せて、俺はまたも一つ目礼で返す。つかこれ、言い表せないんじゃなくて単に女子共に聞かせられないだけなんですけどね。

うーん、清々しいほどに男らしさの欠片もない。

 

「犯人、やっぱり例の…でしょうか」

 

「でもさ、ヒッキー狙い打ちだし、いろはちゃん写ってないし、違うかもじゃない?」

 

「あれ、そう言えば、わたしだけ写ってませんね…。朝の方も…」

 

言われて再度、写真に目を落す。

 

「…確かに」

 

場所が場所な上に、女生徒はマジックで上半身をダンゴ虫にされているからか、その違和感に気付かなかった。

一色の姿がどこにもない。

夜のシーンでは玄関の扉で隠れているし、朝の登校風景に写っているのも由比ヶ浜と雪ノ下だけだ。ん?塗りつぶしてあるのに何で分かるかって…そんなの脚みたら分かるだろ。え、いや普通分かるよね。

今朝は確か、玄関に鍵をかけるために一色が最後だったと記憶している。ならこの数秒後、彼女の姿がフレームに収まっていた筈なのだ。

一緒になって写真を検分していた雪ノ下は、確信を含ませた声で言った。

 

「これは、一色さんのストーカーで間違いないでしょう」

 

「それ、根拠聞いてもいいか」

 

「書かれている謗言から察するに、犯人は比企谷くんに手癖の悪いキャラクターというレッテルを貼ろうとしている。であれば、一緒に居たはずの一色さんが朝の写真に写っていないのは不自然だわ。倒れていた夜の方はともかく」

 

「そっかー、そだね。乱こ…そっ、そーゆーのなら、写ってる女の子は多いほうがいいハズだよねっ」

 

「こんな風に個人を特定できないように加工してしまうのであれば、由比ヶ浜さんの言う通り、一緒に居た女子をわざわざ一人だけ使わない理由はないでしょう。そもそも撮影現場が一色さんの自宅なのだから、淫行相手に仕立てるなら最も自然なはず。にもかかわらず、彼女は意図的に除外されている。流言としては片手落ちもいいところよ。つまり、そういう事じゃないかしら」

 

なるほど、筋は通っている。

要するに──

 

「犯人は一色がビッチだと認めたくないヤツって事か」

 

「ええ。ストーカーなら、自分の想い人を貶める様な事はしないでしょう」

 

「えーと、お二人とも?若干わたしにもダメージ来ちゃってるカンジなんですけど…」

 

ちなみに俺はちゃんと認めている。どころか由比ヶ浜も未だにビッチだと思っているまである。

言っておくが、これは偏見ではなく保険だ。清楚だ貞淑だ等と思っているところにもしも裏切られたりしたら、心が衝撃に耐えられる自信が無いからだ。女を見たらビッチと思え。訓練されたぼっちの教訓のひとつである。

そんな訳で、誓って彼女達に含むところなど無い。

なんなら雪ノ下だってビッチ…それはないな、うんないわ(偏見)

 

「先輩わたしのことまだゆるふわビッチだと思ってるんですか?」

 

さっきはビッチと言ったはずだが、一色はきっちり訂正してきた。

ゆるふわは大事らしい。確かにあると無いとじゃ印象が随分違うか。ゆるふわの方なら騙されても許せそうな印象がある。おっと早くも騙されるところだった。

ってか──

 

「それお前の前で言った事あったっけ?」

 

「無かったとしても今のでダウトですよー…」

 

ぷくーっと不満げにほっぺたを膨らます、あざといろはす。

知っていると思うけど、誘惑に駆られてこのやわらかそうな雪見大福をちょんちょんしたりなんてした日には、社会人なら最悪職を失う事もありえます。よって女子に触るときは覚悟を決めて掛かるように。俺がしてる覚悟は仕事をしないって事だけなので、当然触ったりはしない。

…にしても、最近こいつ俺のことちょいちょい引っ掛けてくるんだよな。超やり辛ぇ。

よもや自宅で空いた時間にヒッ検の資格取得にチャレンジ!とかしてないよね?

 

「あーそれー、あれだよね、藪からスティックってやつ?」

 

由比ヶ浜さん惜しい!正解はスネークでした!

いやどっちもちげーよ。なんでルーさん入ってきちゃったの?

いつの間にか脱線した挙句、別の路線を悠々と走っているかの如き見事な無駄話。

それを黙ってみていた平塚先生が「盛り上がっているところに悪いが」と口を開いた。

 

「この件、私としては学校側が動いて然るべきレベルだと考えている。犯罪行為の物証もこうして目の前にあるからな。犯人が生徒とは限らない以上、警察に相談するという可能性もあるだろう」

 

まあ学校側がそれを望むとも思えないが、と椅子に気だるげにもたれた彼女は言った。

しかし彼女の態度とは裏腹に、全く穏やかではない単語の登場によって、弛緩した場の空気が一気に萎縮したようだった。

 

「一色としては、やはりまだ学校側には内緒にしておきたいのかね?」

 

「えっと、その…」

 

「もう君一人の問題ではなくなってきているのだとしても、か?」

 

「…っ!」

 

「平塚先生」

 

追い詰めるような言い草に、心なしか語気が強くなってしまった。

うわ…なんか一色がメチャクチャこっち見てるんですけど。

何彼氏みたいな態度取っちゃってるんですかキモすぎですごめんなさいって心の声が大音量で聞こえてくるんですけど。お願い、見ないでぇ…。

 

「すまない、意地の悪いことを言ってしまったな。ただ、私にとっては君達は等しく大切な生徒だ。つまり被害が4倍に跳ね上がったと考えている」

 

「俺達のは失策だったって言いたいんですか?」

 

「そうは言わない。元々私だって賛成したしな。ただ、臨機応変という言葉もあるだろう」

 

平塚先生の言う事は正論だ。

俺も真っ向から突っぱねる理由が思い当たらない。何より、被害が大きくなったという表現は、俺も正に今感じていることだった。勿論4倍ではなく3倍だが。

 

「あの、あたしはなんとも思ってませんから、こんなの!」

 

由比ヶ浜がふんすっと鼻息を荒くし立ち上がる。

悪意に一番打たれ弱そうな由比ヶ浜がこうも奮起しているのは何故だろうかとぼんやり思った。

一色と特別仲が良かったという印象はないのだが、お泊りしちゃったり裸の付き合いしちゃったりしてるうちに、ステップアップしちゃったりもしたのだろうか。ゆるふわからゆるゆりにチェンジしちゃったりしたのだろうか。

 

「少なくとも今回、写真から私や由比ヶ浜さんを特定は出来ないでしょう。なら実質の被害者は貴女だけ。状況は変わっていないのだから、気にしないで正直な気持ちを話して」

 

雪ノ下が後輩に優しくしている貴重なシーンなので口は出さないけど、今回の実質の被害者って俺だけじゃないかなーなんて。まあノーダメージだって言っちゃったしなぁ。

ありがとうございますとぺこり頭を下げた一色は、顔を上げて雪ノ下(2秒)、由比ヶ浜(2秒)、俺(0.2秒)と順繰りに視線を巡らせ、最後に平塚先生へと向き直った。

 

「出来れば、戦いたいです」

 

「戦いたい、か…」

 

先日とは趣の異なる表現を受けて、先生は少し思い悩んでいるようだった。教師としての義務と、自身の規範との間で揺れているのかもしれない。

俺自身も、その目の力の強さ(0.2秒)に()てられたのか、一色の背中を押してやりたいような気持ちが沸いてきた。0.2秒でこれなら10秒くらい見てたら傀儡にされかねんな。さすがはサキュバスっ娘。

 

「一応、今回の対応についても、考えくらいはあります」

 

今さっき思いついた案で詳細はスカスカだが、だからこそ不敵な顔をしてみせる。

 

「ふむ、それは君達だけで実現可能なのかね」

 

「そっすね。ちょっと追加で犠せ…人手が必要ですが」

 

「いまギセイってゆった…?」

 

「大丈夫だ。少なくとも人選を知ればその心配はなくなる」

 

「否定はしないんだ?!」

 

「けれど、そんな頼りになる人物が、比企谷くんの知り合いになる…失礼、居るの?」

 

俺が連絡先を知っている相手で、こんな状況で迷わずサクリファイスできちゃう手札なんてちょっと考えれば分かると思うが、もしかしたらアイツは存在自体認知されていないのだろうか。切なすぎる。

あと雪ノ下、それ言い直してる意味あんま無いからな?

 

「内容を聞いてから判断しよう」

 

とりあえず検討の余地くらいは認めてもらえたようだ。

俺は黙ってポケットからケータイを取り出すと、大して数の無いアドレス帳から難なく目当ての人物を見つけ出した。

そうそう、送る前にこれだけは確認しておかないといけなかったか。

 

「一色、その…協力者に事情を話しても、平気か」

 

「あ、はい。いるんですよね?ぜんぜんオッケーです」

 

"居る"なのか、"要る"なのか。

答えによっては俺がぜんぜんオッケーじゃない。

 

そんな些細なんかを事を気にしつつ、俺は手早くしたためたメールを送信したのだった。

 




ちょっと、笑いの成分がすくないような。
でも事件の最中だし、こんなものでしょうか。

準備室の中の会話も書きたかったけど、テンポ的に余計かなーと。

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