ある日の早朝、りーさんとあたしは部室のテーブルで向かい合っていた。何やらりーさんが随分と深刻そうな表情してるし、こりゃよっぽどのことだと覚悟を決めて話を促すことにした。
「・・・で、相談ってのはなんだよ、りーさん」
いまいち要領を得ないまま呼び出されたんだが、どうやらりーさん、あたしに相談事があるらしい。話すことを躊躇したのか、どう話したらいいのか決めかねたのか、しばしの沈黙。こういう沈黙はホントはあまり好きじゃない。走り出す直前にちょっとだけ似た、でも自分じゃどうにもならない変な感じ。
そんなとりとめのないことを考えていると、やがて意を決したのかりーさんが口を開いた。
「あのね、くるみ・・・・・・」
いかにも極めて重要な話をするんですといった大真面目な表情。おもわず身構えてしまう。無意識につばを飲み込んだのか、ごくり、と音が響いたような気がする。
「あのね・・・」
ためるなぁ、ひっぱるなぁ。緊張感が質量を持って部室を押しつぶし、制圧しているような錯覚を覚える。ふと、一昔前のクイズ番組を思い出した。昔テレビを見ていたときに、こう、ファイナルなアンサーを言ってるような感じのやつがこんな空気を作り出していた気がしないでもない。
こっちは覚悟は決まったぞ、早く、早く言ってくれ。そう言ってやりたいが、あまり急かすのもよろしくない。困ったなというあたりでりーさんが続きを口にした。
「・・・・・・るーちゃんが、ぜんぜん構ってくれないの!」
凄い音をたてて盛大に椅子ごとひっくり返ってしまったが、これあたしは悪くないと思うんだ。
世間のくるみさん人気を察知したるーちゃん、今日は対抗すべくツインテシャベルにジョブチェンジです。シャベルはさっき早起きして買ってきました。早朝から勝手に学校を出て空き放題散歩してましたが、いざというときの責任を押し付けるためにゾン子さんを連れて行ったから何も問題ありません。これでりーねーにも怒られない。
帰宅したるーちゃんが部室へ行ってみると、くるみさんが椅子ごとひっくり返っていました。よくよく見てみればりーねーもいるので、何やら二人で馬鹿やってたんだろうな、とるーちゃんは思いました。
と、るーちゃんを視界に収めたりーねー、ジョブチェンジに気付いて騒ぎ出しました。
「る、るーちゃんがツインテールに!シャベルも持ってるわ!」
ついんてしゃべるーちゃんですよー、と今日も元気にご挨拶です。
「可愛い可愛い可愛いっ! ・・・・・・あれ、ということはくるみもるーちゃん?」
どこかの配線が切れたのか、りーねーの舞い上がりっぷりが尋常ではありません。破壊力がありすぎたか、とるーちゃん反省です。
とりあえず騒ぎ続けるりーねーは放置して、くるみさんにるーちゃんですよーとご挨拶です。くるみさんが朝から若狭姉妹の被害をもろに受けて浜辺に打ちあげられた河豚みたいな目になってるのが印象的です。
結局くるみさんは、「あたし、二度寝していいかな?」と言うと無駄に元気に飛びついてくるるーちゃんを抱えて部室を出て行き、後にはりーねーだけが残されたのでした。
るーちゃんを抱き枕に二度寝を敢行したくるみさん。ぐぬぬぬぬぬぬという呻き声のようなものでふと目を覚ましました。音源を探して周囲を見回すと、包丁を片手にこちらを見つめるりーさんが・・・
「って怖いわ!なにやってんのこの人!?」
「朝ごはんができたから起こしにきたんだって」
横でごろごろしていたみくちゃんが答えます。全く動じていないあたり最近の幼女は神経が図太いな、なんて一瞬現実逃避していたくるみさんでした。
この光景を見ていた悪戯255のるーちゃん、くるみさんにひしと抱きつくと、くるねーなんて呼んでみます。どちらもジョブはツインテシャベル、姉妹であっても不思議はありません。
「・・・・・・あ、りーさんが灰になってる」
破壊力がありすぎたか、と本日二回目です。
朝食の後もるーちゃんはくるみさんの膝の上にいました。そろそろくるみさんは包丁が怖いのですが、流石に甘えてくる幼女を無碍にはできないようでした。
あれからりーねーはるーちゃんの気を惹こうと色々考えていたのですが、どうにもいい案は出てこないようです。
りーねーが思考の海に沈んだ結果家計簿などの仕事はその辺に放り出され、背中に『若狭悠里代理』と書かれた紙を貼り付けられたラ・ネージュがリーダーさんをこき使いながら家計簿をつけていました。「俺はなんで鳥に命令されてるんだろうか・・・」とかぼやいてますがそれで動いてしまうあたり彼もまた苦労人気質なのでしょう。
昼頃にはるーちゃん不足ですっかり萎びたりーねー。考えに考えた結果どうにかるーちゃんの好物をお昼ごはんに作ろうという策を思いついたのですが、若狭悠里代理がリーダーに既に昼食を用意させていたため実行できずに燃え尽きてしまったようでした。
見かねたゾン子さんが戻ってきたゆきの額に『るーちゃん代理』と書かれたお札を貼り付け、りーねーに押し付けていますがあまり効果はないようです。
「かっちゃん、これじゃキョンシーだよー」
「グォォォォ・・・・・・」
アンデッドばっかりでした。これじゃダメだなと判断したみくちゃんもるーちゃん代理として参戦しますが、「しっくりこない」と言われて終了しました。
「ちくせう。何がいけなかったのか」
「・・・・・・とりあえず、キョンシーしかいないからじゃねえかな」
「ツッコミが投げやりだからだよっ」
「あたしが悪いみたいに言うな、なんもしとらんわ!」
何もしないのもそれはそれでどうなんだろうと思わんでもないるーちゃん、自分のことは完全に棚に上げてます。というかだいたいるーちゃんのせいですが下手に指摘すると何が起こるかわからないので流石のくるみさんもつっこみません。こんな状況では作戦は『いのちをだいじに』一択です。
そうこうやっていると鳥にこき使われる哀れなリーダーさんが部室に戻ってきました。どうやらるーちゃんの手を借りにきたようです。
「るーちゃん、ちょっと手伝ってくれー。飴玉あげるからこっちにおいでー」
どこから調達したのか、リーダーさん飴玉でるーちゃんを釣る作戦です。しかしるーちゃんそんな安い手には乗りません。あっさりリーダーに飛びついてるけど気のせいです。そのまま一緒に部室を出て行ってしまったのもきっと気のせいです。
後に残されたりーねーは呆然としていましたが、パッと冷静さを取り戻し、真面目な表情で素早くくるみに指示を出します。
「くるみ!」
「おう!」
「飴を作りましょう!」
「そこじゃねえだろ重要なのはああああああっ!!」
で、なにを手伝えばいいの?
「さっきから下の階ですごい勢いで走り回ってる足音がするから、確かめようと思ってね」
るーちゃんとリーダーさんは、バリケードを越えて下へ向かうようです。
くるみさん「二人がなにしでかすのか心配」
りーねー「るーちゃんは飴で釣れる、るーちゃんは飴で釣れる!」
この噛み合わなさである。まありーねーもるーちゃんが相手してくれればすぐに頼れるお姉ちゃんとして復帰するでしょう。たぶん。