「・・・やった。やってしまった・・・・・・」
そんな呟きを繰り返しながらモールを歩く人影が一人。巡ヶ丘学院高校2年B組、祠堂圭ちゃんである。どうも。
18回目の挑戦にして見事に美紀を撃破し、無事に部屋を出ることに成功した私だったけど、おっかなびっくり隠れながら進んでいるからか、まだまだ太郎丸の声が聞こえるくらいの位置を未練がましく行ったり来たりしているのだった。
だって怖いんだもん。徘徊してるあいつらに見つかったら殺されちゃうし、物音的にけっこう近くにいるっぽいし。
「でも、せっかく外に出てきたんだから、あんまり隠れてばかりでも意味がないよね、うん。だいたい縮こまってたら部屋の中に篭ってたときと変わらないじゃない」
あんなただ死んでいないだけなスタンスで何もできずに生きているならそれはもうあいつらと変わりない、私はずっとそう思っていた。だから、ちゃんと生きたい。ただ篭って震えて縮こまるだけでなく、わたしらしく、祠堂圭らしく生きたい。
というわけで、やけっぱちにならない程度に明るくいこう。私の取り柄の大半は元気で明るいなんだから。
とはいえ無防備に鼻歌なんて歌いながら歩き回ってたらすぐに死んじゃうわけで、どうにか見つからないように動き回りたいなと重いながら周囲を見渡していると、転がっているダンボールが目に付いた。こんなので隠れるゲームか何かがあったような気がしないでもない。うん、物は試し。さっそく装備することにした。
試行錯誤すること3分。見事なダンボール戦車が完成した。ふふん、私の美術255のセンスの賜物だね。・・・自称だけど。
さっそく中に入り込み、進軍開始。外はよく見えないからあんまりスピードは出ないけど、ここまで変なものならあいつらも寄ってこないはず。まさか戦車もどきが獲物の肉とは誰も認識できまーい。
そうしてとてとて進んでいると、何かにゴスッと衝突してしまった。あれ、壁かな?
「グゲ、グゴゴゴゴゴ・・・」
ダンボールに空けた穴を通して見える濁った虚ろな目。私とバッチリ目が合って・・・・・・
「きゃああああああああああっ!!」
視界が悪かろうがなんだろうが問答無用で全力疾走した。多分間違ってなかったと思う。
散々にあちこちぶつかり回ってダンボール戦車が大破したころ、ようやく私は停止していた。
「はぁ・・・はぁ・・・、し、死んだかと思った・・・」
幸いなことに至近距離であいつらに接触したけど噛まれたり引っ掻かれたりといった怪我はしなかった。ダンボール様様である。
「やっぱり周りが見えないのはダメだね。もっとこう、オープンにいこう」
そういいながら手頃な武器にと近くの扉を固定していたデッキブラシを手に取る。これくらいのリーチがあれば安全に戦えるような気もするのだ。
「って、これ・・・映画館の扉だ」
いつの間にかこんなとこまで走ってきていたらしい。よくよく見れば、扉の近くには色々積んであり、守りを固めているように見えないこともない。
「案外誰か立てこもってたり・・・」
扉を開けた先にはあいつら。無数の呻き声。濃密な死臭。
「いやあああああああああああっ!!」
脱兎、私はうさぎ。
二度の全力疾走をもってしても体力の底が見えない元気ガール、それが私だ。
しかし流石に叫びすぎて喉が渇いてきてしまった。持ち出した水を飲みながら休憩タイムである。
「モールの中はダメだね、屋外に出ないと。狭いし、危ないし・・・」
この短時間でも、命がいくつあっても足りないことは良くわかった。やるべきとこを素早く片付けていかないとすぐ死んでしまいそうなのだ。
「そうと決まればエスカレーターをさっさと降りて、最短ルートで脱出だよね」
休憩を終えて慎重に、でも急いで歩みを進める。この緊張感、胃が痛くなりそう。はやくも美紀が恋しくなってきた。やっぱり人間って大事、人肌のぬくもりが精神を安定させてくれるのだ。
そんなこと考えていて注意力散漫だったからか、エスカレーター手前で何かを踏んだ。なんか、こう「ぐにっ」って感じの感触。恐る恐る視線を足元へ向ける。
「・・・・・・ギギギギギ」
「やっぱりいいいいいいいいいいっ!!」
首元を踏んだのは悪かったと思う。でもそんなとこに寝てるのが悪いと思うんだ。だから追ってこないでええええっ!!
「ふんふふんふふ~ん、ふ~んふふ~ん♪」
適当な鼻歌を歌いながら堂々と歩いて一階へ到着。周囲の警戒?そんなの知らなーい。どこの世界に日頃から全周囲警戒して歩き回ってる女子高生がいるっていうのよ。私はただのお調子者なのでそんなの知らないのだ、普通の祠堂圭してる真っ最中なのだ。けいいんぐ なーう。
そんな感じで現実逃避をしながらあるいていたが、やけっぱちが一周回って効いたのか全くあいつらと遭遇せず、精神的に限界が近いながら見事に一階までやって来ることに成功していたのだ。
「よし、明るく楽しく元気よく作戦は間違ってなかった」
あとはモールを出るだけだ。粉砕されたピアノとか、明らかに調べるとやばいフラグが立ちそうなオブジェクトは完全無視して脱出するのだ。
「一応確認っ!右よし!左よし!正面よs―」
正面に向き直った瞬間、いきなり上から降ってくる人影。なんか思いっきり剣が刺さってる奇怪な人物があらわれた!・・・というか、このひとって
「太郎丸の、おばあちゃん?」
「TA・・・ROU、MA・・・RRRRRRRU・・・・・・!」
変わり果てた姿だが、確かにあの日、太郎丸を連れていた老婆だった。既にあいつらと化していたのは見ていたが、こんなところで降ってくるとは思いもしなかった。びっくりしすぎて普通に話しかけちゃったよ。
「TAROU・・・MARUU・・・・・・」
「おばあちゃん、大丈夫。太郎丸は上で、美紀と一緒にいるから・・・」
ふらつきながら近づいてくるおばあちゃんにそう告げる。心残りはなくしておいてほしいから。
「私が、これから外に出て、ちゃんと助けを呼んでくるから・・・だいじょーぶ」
言い聞かせながらおばあちゃんの身体に突き刺さった剣の柄に手を伸ばして、握り
「MATA・・・・・・NE・・・」
「あとは、まかせて」
思い切り、引き抜いた。
おばあちゃんを眠らせた私は、しばらくそのままぼーっとしてしまっていたようだった。我に返ると、返り血で酷い姿になっている。せっかく大事に使ってたのに、制服。ちょっと悲しい。
剣はそのまま持っていくことにした。デッキブラシよりは強そうだし、なんだか力が湧いてくるような気持ちになれるのだ。
何故だか湧きあがる力の赴くままに、出口を塞ぐ車両へと一閃。見事に一刀両断して出口を空けることができたので、どうやらこれはすごくいい武器らしい。・・・車に描かれた絵を真っ二つにしてしまったので、この『りーねー』という人に会う機会があったら謝ったほうがいいかもしれないけど。
「なんだろう、すごく元気になってきた。おばあちゃんが元気をわけてくれたのかな?」
車を斬った物音を聞きつけたのか、一階にいたあいつらが集まってきている。さっきまでなら悲鳴をあげて逃げていただろうけど、もう何も怖くは無い。根拠はないけど、私はやれる。
「怖くない怖くない。・・・怖がるのは、お前達だぁーッ!!」
剣を振りかぶって一気に突撃。数秒の間をおいて、血飛沫がモールに飛び散った。
さよならおばあちゃん(二回目)。あいつらの群れに突っこんでいった圭は無事に駅まで行けるのでしょうか。
残ってた人たち
「圭の悲鳴!?・・・うう、圭・・・・・・」
「わぅん・・・(ムチャシヤガッテ)」