なおリーダーたちは一晩図書室に立てこもってた模様。
「読めねえ・・・」
恵飛須沢胡桃は困り果てていた。唐突に部室へと飛び込んできたでかい鳥(由紀が言うにはヨウムとかいう種類らしい)の足に括り付けられていた手紙と延々睨めっこを続けているのだが、現状なんの成果もないのである。こんな状況で生存者に関する情報になりえる手紙である、気付いた瞬間に大急ぎで確認したのだが、中身はそれこそ歴史の教科書とか博物館でしか見ないような見事な筆遣いの書状だったのだ。現代の若者にこんなもん読めるか!と壁にたたきつけそうになったのだが、流石にそれは勿体無いし、重要な内容だったら大変だし、とこうして書状と睨めっこを続けること数時間。既に夜は存分に更けつつあった。
「・・・・・・ぜんっぜん読めねえ」
なんで全部繋げて書いてんだよ、やらそもそもなんで筆で書いたんだよ、など、胡桃の口をついて出るのは愚痴の類ばかりである。解読はまるで進む兆しを見せなかった。
「くるみちゃん、なに見てるの~?」
「・・・手紙。読めないけどな」
見慣れないものを見ていたからだろうか、由紀が釣られてやってきたようだ。
「私も見ていい?」
「ほれ、でもゆきじゃわからないと思うぞ」
そう言うと胡桃は手紙を手渡した。由紀はそれを一通り眺めると、ふふんと得意げな顔をした。
「るーちゃんですよー。一応はらから揃ひて無事なれば、若狭の家に寄りてから学校へ戻らむと思ふ。明日には帰りてくると思へば心配無用なり。あなかしこ慌てて学校を出でてきてこちらをとぶらひせざるように願ひたてまつる・・・だってさ」
「読めるのかよ!?」
由紀は普通に読めるらしいという事実に胡桃は心底驚いた。正直なところ絶対無理だと思っていたのである。
「で、意味は?要するにどういうことなんだ?」
「え、え~と・・・はらとからが揃って、何事もなかった?」
「意味わかんねーよっ!」
どうやらただ読めただけらしい。意味がわからないのでは何の意味もないのである。
「こんなときにめぐねえはいないし・・・りーさーん!早く来てくれー!!」
ヨウムが心底馬鹿にした目でこっちを見てくるのが印象的な夜だった。
結局朝方までぐーたらしていたるーちゃんは、みくちゃんに荷物の整理(このさい自宅の私物はあらかた持ち出してしまうことにしたようである)を任せると、りーねーと共に車を調達していました。ジャイアントスイングですっかり脳の調子も良くなったらしいりーねーがるーちゃんるーちゃん言ってますが当のるーちゃんは完全無視の構えを見せています。るーちゃんのおしおきはこれからだ!
とりあえずまだ動きそうな車を探して自宅近辺をうろうろしていた若狭姉妹、ときどき現れる早起きなあいつらはりーねーが物を投げたりしてうまく注意をそらして突破していってしまうためるーちゃん割と暇を持て余してます。
そうこう進んでりーねーがまだ使えそうな車を見つける頃には、退屈が限界に達したるーちゃんは何体かのあいつらと共に鬼ごっこに興じていました。なお書くまでもないことですがるーちゃんが鬼です。必死になって車を弄くりまわしてるりーねーを背景にこれまた必死になったあいつらが逃げ惑います。健康な生活のためには適度な運動が大切だというのが持論のるーちゃんは通りすがりのあいつらの健康にもしっかり気を使える女神のような慈愛の心を持っています。嗜虐的な笑みを浮かべてメイス振り回しているのは気のせいです。
りーねーがふと背後を振り返ると、体力の限界を迎えて崩れ落ちたあいつらの群れをるーちゃんがぺしぺし叩いていました。
「るーちゃん!?危ないから離れて、離れて!」
あわてて離れるようにいいますが、るーちゃんは聞いてくれません。むしろあいつらの方がはやくるーちゃんを引き離してくれと懇願するかのような目をりーねーに向けているのが印象的でした。
物理的にるーちゃんをあいつらから引き離し、無事に車に積み込んだりーねー。運転したがるるーちゃんをどうにかこうにか助手席に押し込み、自宅へ向けて恐る恐る車を発進させました。ちょっと車を調達しに出ただけでりーねーの心労は加速度的に溜まっていきます。運転するりーねーの横顔を見たるーちゃんは、この調子だと帰宅するころにはジャイアントスイングが必要かもしれないと物騒なことを考えていました。
と、そのとき車の背後で物音がしたかと思うと、一体のあいつらが後部座席からりーねーに襲い掛かりました。突然の奇襲にりーねーがものすごい絶叫をあげます。るーちゃんがうるさそうにしてますよ。
あまりの驚きと恐怖にハンドルを右へ左へ切りまくるりーねー。当然車はとんでもなく蛇行しながら進んでいき、あまりに車内が滅茶苦茶に揺れるため襲いかかったやつもりーねーに噛み付けず、ラジオ弄ってたるーちゃんは勢いよく窓から飛び出して窓枠に引っかかり、ようやくバス攻撃から立ち直ってスーパーを脱出してきたモヒカンたちは車に撥ね飛ばされ、誰一人まともに行動できずもはや収拾がつかなくなってきました。ラジオから流れるワンワンワン放送局とやらまで何故か(別件が原因と思われるが)やたらとテンパっており、りーねーを焦らせるという点では完璧な状況が形成されています。
そんな状況でもどうにかこうにかりーねーの腕を掴むことに成功した襲撃者さん。あとは思い切り噛み付けばりーねーはおしまいです。しかしそこは威圧感255のるーちゃん、窓枠にへばりつきながらの一睨みで襲撃者さんは後部座席へ飛びのきました。可愛らしい幼女がマフィアもびっくりな眼光と可視化できそうな殺意振りまいてたらそりゃあいつらだって逃げます。しかし自由になったりーねーは再びハンドルを滅茶苦茶に回してますし、アクセルベタ踏み全力全開です。るーちゃんのいい加減にしろ的な視線すら気にしないあたり周りなんて見えてません。現実逃避87(常人25)は伊達ではありません。
そうこういってるうちに車は電柱への衝突コースを驀進していきます。こんなところで事故なんて起こされたらたまったものではないのですが、窓枠にひっかかってるだけとはいえ同乗者はるーちゃんです。どうにでもなります。おもいきり地面を蹴飛ばして余裕の軌道修正です。脚力255のるーちゃん、車の軌道を変えるなど造作もありません。
続けてどこからかフライパンを取り出すと、勢いよく車内に飛び込みながらりーねーの横頭部を殴打し、一撃でその意識を刈り取ります。手加減255でたぶん後遺症ものこりません、ばっちりです。よほど煩かったのか追い討ちで鼻先に肘を叩き込んでますがきっと大丈夫です。
そのまま思い切りブレーキを踏み込み、車を止めてはい解決。ついでに急ブレーキの勢いで後部座席にいたやつはフロントガラスを突き破り、正面の本屋に頭から突っこみました。ちょうどラジオも一曲終わりです。るーちゃんはタイミングを計ってちょうど停止するチャレンジをしていたようです。余裕255がなせるフリーダムぶりです。
りーねーが目を覚ますと、そこは見慣れた学園生活部の部室の前でした。前後に何があったのかはよく思い出せませんが、思い出せないということは大したことはしてなかっただろうし、部室の前にいるということは無事に帰ってこれたのだろうと軽く流します。なんだか鼻が痛いような感じもしますが気にしません。よほど大声をあげていたのか、喉が少し痛いのが気になりますがこれも気にしません。思い出したら正気度が削れるような予感をひしひしと感じるりーねーでした。
「でもねるーちゃん・・・なんで私引き摺られてるのかしら?」
だって起きないんだもん。
あれから運転が面倒なので車を押して自宅まで戻ったるーちゃんは、手早くみくちゃんと荷物を詰め込むと、馬力255のパワーに物を言わせて車を引き摺って学校まで戻ってきていたのでした。りーねーを部室まで引き摺る前にみくちゃんと荷物を上に運んでいたのですが、その感りーねーを車内に放置していたのは秘密です。
「さて、ようやく戻ってこれたわね」
そういいながらりーねーは部室のドアに手をかけます。「ただいまー」と言いながらおーぷんざどあです。
「だからどう考えてもお前はもう死んでるだろうがーっ!」
「グオオオオオオオオオッ!」
部室の扉を開けると、そこではシャベルを持ったツインテールとホッケーマスクが取っ組み合いの真っ最中でした。というかくるみさんとゾン子さんでした。
「何・・・これ・・・・・・」
どうやらりーねーへのストレス祭りはまだ続くようです。
没ネタや延期が多くて今回は遊んでるだけだったるーちゃん。たぶん次あたりから本格的に学園生活編なんでまたやらかすでしょうけど。
そういえば本能寺に行ってるのでしばらく滞るかもしれないとるーちゃんが申しておりました。
Q.読めない手紙に意味はないんじゃないかね?
A.リーダーさんなら読めるからそのまま出しました。
Q.そもそもあんなもんならだいたいの意味がわかるんじゃないの?
A.現代語訳担当:丈槍由紀