9
午後4時40分。
夕焼けが天空から駆逐されると、入れ替わるように南東の方角がほんのりと白み始める。
眠らない街が早くも億万の灯火を点し、
その薄明かりの
彼女はここに居た。
日はとっぷりと暮れ、辺りは闇に溶けて急速に静けさをまとい始めた。
波打ち際の白い泡だけが星影に照らされて緩やかな曲線を描いている。
一人で話しながら歩いているレンとばったり
レンの声音は自然しぜんと大きくなる。
「理由はどうあれ、
そう勢い込んで言ってみたものの、波間に言葉を詰まらせて……。
彼女には次の
その気持ちに
レンは、どんなにきっちりと割り切っても “余り” の出てくる答に
この作戦を言い渡されたからには、必ず誰かが
「レン一人が死にさえすれば、我々は死ななくても済む」 ――と。
――いったい誰がそんなことを。》
強い怒りが頭の中を駆け巡りそうになって、レンは懸命に思考を停止した。
凄まじい自己嫌悪の念が噴き上げて来て、彼女の愛らしい口元を無残に
思わず右手を鼻頭に
ここは西方山脈と市街の間の
満天の星空。 美しい岩陰。 そして誰一人見ている者のない空間の中で……。
祈り子のアーは、黙って遠くを見るような目つきで海の向こう、はるか彼方のガガゼト連峰の山並みをなぞっていた。
――何だか……悲しいよね。》
そんな思いが出口のない闇に弾かれて
レンは道を失って途方に暮れた時、決まってその場に立ち止まり、心の中に
迷った時こそ、慌てず、騒がず、うろたえず――。
たった一つの簡単なこと。
ただそのことだけを見極めるのだ。
――自分にとって絶対に間違いのない事実、全ての気持ちの中で一番大切な想いの
それさえ確認することが出来れば、正しい答は必ず見えてくる。
そうやって、一度も道を踏み外すことなく、真っ直ぐ歩いて来たじゃない。
今、わたしが考えなければならないのはたった一つのことだった。
わたしは 『ザナルカンドのレン』 ――だよね。
あなたはこの事実を捨てるつもりなの? それとも生涯守り通すの?
行くべき道は二つに一つよ。
これが全ての分岐点。 運命の始まるところ。
執着、迷い、苦悩、疑念……。 あらゆる袋小路がこの道標の前で堂々巡りを繰り返している。
だが――。
どちらか一方を行くと決めたら、その瞬間にあらゆる矛盾が解決する。
歩き始めさえすれば問題は解決するのだ。
そう、わたしはにっこりと笑いながら自分の道を歩いて行くわ。
よく見定めて。 決心して。 そうして、わたしはきっと歩き出す。
だから今考えるべきことは――。
ねえ、レン。 あなたはどっちの道を選ぶつもりなの?
――そんなこと、最初から決まってるじゃない。》
…………。
彼女はフッと瞳を揺らし、空を仰ぎ見て、見つかる星座を次々と数えながらまた話し始めた。
「わたしは……思えば今まで、ずいぶんと
「…………」
祈り子さまは答えない。
しかし、レンは急に心の闇が晴れた気分になり、少しだけ
「この役割はね……残念だけど、わたしとアー以外の
ザナルカンドにとってガガゼトの防衛線は本当の
あそこが
そのあと幾らザナルカンドの正面でわたしたちが撃ったところで、そこから先は何の意味もない戦果。
そんなことになるのなら、どうせ倒されて死ぬのなら、絶対に
だから、わたしは “うん” と言った。
これって変かな?
利用したい――と思っている人には、勝手に思わせておけばいいわ。 それでその人が
この損得勘定って変かな?」
「じゅうぶんに変だよ」
祈り子さまが、ようやく口を開いた。 第一声がこれだった。
「そう。 ……どこが?」
レンはくりっと澄んだ瞳で
「全然。 全く。 全て。 レンの立っている場所、話を始める地点、話の進め方、理解の切りとり方、出てくる結論……何もかも全部、ヘン!」
……………………。
「じゃあ、どうすれば変でなくなるの?」
レンはあくまでも譲らない。
祈り子さまは天を仰ぎ見る仕草をして 「ふふっ」 と
「負けると分かっている戦争で今さら死んでどうなるってのよ。 ばっくれればいいじゃん、ばっくれれば」
「アー! 何てこと言うの。 そんなこと――」
レンの声が一オクターブはね上がる。
だが祈り子さまが
「そう、出来ないよね。 レンには絶対出来ないと思う。 だけど、普通の人には出来ちゃうよ。 て
なのに、それが分かってるのに、レン、“うん” って言っちゃうんだよね。 こんなにおめでたい人間――、スピラ中さがしたって二人といないよ。
“手に負える” とか “負えない” とか以前に、こんな目茶苦茶な話をされて、“
あのとき――。
あのとき一言 “それはどういうことですか?” って答えてれば、その瞬間に “この話はなかったことに” で何事もなく済んでた……。
いい? レン。
レンってね、……今のレンって 《ソースイ府》 よりも 《ゲンスイ府》 よりも何倍も何十倍も偉いんだよ。 今 『ザナルカンドのレン』 を怒らせてしまったらどうなるか――連中はそれが怖くてビクビクしてたんだ。 今のザナルカンドは “レン” なしじゃ、とてもじゃないけどやっていけないんだよ――ほかの誰がいなくなるより、はるかに!
だから、レンが一言 “嫌です” と断りさえすれば、奴らはすぐに要請の事実そのものをモミ消すつもりだったんだ。
「だけど、もう返事しちゃったから……」
「うん、返事した。 “行きます” って言った。 でも、
――――。
岩肌の小道を過ぎて、こじんまりとした弓形の砂浜に出た。 レンは俯いて、形の良いヒールが砂地に取られないように一歩一歩、確かめるような足取りで歩き始めた。
―― “
…………。
「ねえ。 どうしたの、アー。 何だか変だよ。 どうしてそんなことを言うの?」
歌姫がその透き通った声で懸命に訴えた。 何とか意見を一致させたかった。
「それはね、手遅れになりそうだから。 レンに後悔してほしくないから」
「わたしは後悔なんかしてないよ」
希望を
すると祈り子さまが口の
「ふーん、そっか。 なるほどね。 あたしはさ、思ったことは言っちゃわないと気が済まない
だけど、
「何を?」
「そーんなの、決まってるじゃない」
「だから何をよ!」
「シューインはどうするつもりなの?」
祈り子さまは存外あっさりと言い放った。
その瞬間に、レンの全ての努力を無に帰すような、その差し伸べられた手を
!? ――――。
「ねえ、シューインは?」
…………。
彼女は一度ならず同じ言葉を口にした。
レンの歩幅が
「そっ……」
そして “敗北” に限りなく近い悲鳴を辛うじて
しかし祈り子さまはそんな困惑など気にも留めないで、レンの
「二つに一つだよ、レン。 シューインは連れてくの? それとも置いてくの? 私と一緒にきてって言うの? 私のかわりに残ってって言うの?」
「そんなの決まってるじゃない!!!」
レンは必死に反撃した。
だが祈り子さまは、
「なーら決まりだね。 レンはこれから死ににいくんだよ。 シューインのことはきっぱり
「 “あんた” って」
「出来るのなら、あたし、
だけど賭けてもいい。 今のレンには絶対に言えないよ」
レンは
「そうだよね?」
「――――」
気のせいか、また少し風が吹き始めた。 冷たいものがわたしの身体をそっと
――いや、それは単にわたしが歩いているせいだ。 きっと。
夕凪はまだ始まったばかり。
さくり、さくり、と砂浜を踏み締める音が波間に交じり合って消えてゆく。
四歩、五歩、六歩……と、無言の
レンは
「どうしてそんなことを言わなくちゃならないの」
しかし、さしものレンも感情の
アーもつられて声のトーンを落とした。 が、内容は相変わらず手厳しい。
「じゃあ、今のままで死んでしまったらどうなるの? 残されたシューインはどうなると思う? レンの時間は止まっても、彼の人生はずっと続くよ。
未練がましく死んだ後々まで付きまとってたら、シューインの本当の彼女に嫌われちゃうじゃない」
「待って!」――――。
――なによ、それ。》
なによそれ、なによそれ、なによそれ、なによそれ。
――――――。
それで 「ほっ」 としたように、また時が歩みを刻み出す。
祈り子さまは両手を頭の後ろで仰々しく組んで、海の彼方に
レンの
「 “本当の” って何よ。 ねえ、アー。
レンのこんな姿を誰にも見られなくて済むのはホント幸いだよ……。
そんな思いが心密かに浮かんでくる。
それでも彼女は、この
祈り子さまの心が激しく
「死ぬってそういうことでしょ。 人間、死んだら負けだよ」
「そんなことないわ。 アー、何言ってるの。 わたしはシューインのためにこそ戦うんだよ。 ザナルカンドが生き残れなかったら、誰も生き残れないでしょ。 なのに――」
あっちゃ~ぁ……レン。
――話にならんぞ、こりゃ。》
深い吐息が祈り子さまの口から洩れ出した。
――
「ねえ、レン。 このまま続けてると、たぶん1分後には大ゲンカだよ。 あたしもレンも似た者同士、
お互い頑固で意地っ張りでさ、言い出したらきかなくて……。 どうしよう、やっぱりやめようか。 あたしの方からおっ始めるの、
祈り子さまは妙に恩着せがましい、陽気な口調で語り掛けた。
それが一層レンの感情を
「今さら逃げるの?」
「ううん、ぜーん然。 ただ、負けるのはレンじゃない。 “詰み” まで指すのはミジメでしょ。 あたしはそうなる前にレンが気づいてくれればいいだけだから――これでもまだいろいろ考えてさ、最後まで気ィ遣ってたんだけどな……。
どこかの誰かさんが、ほーんと “正直者” で “おりこうさん” で……。
悪いけど、あたしはそこまで 《いい子ちゃん》 じゃないからね。
とてもじゃないけど付きあってらんないよ。
そんなに死にたいのなら、あなた一人でどうぞってカンジ。
いつでもどこでも “世のため” “人のため” ……てさ。 分かり易くて、単純で、どこまでも平々凡々……独創性のカケラもない。
もうフォローのしよう、ないじゃない。
だから、どうしろってのよ!
そういうときってさぁーぁ、どんなふうに演技をしてればいいんだろね? アタシには、あなたみたいな、すっごーい才能がなくてさ。 残念だよ、レン」
「何よ、それ。 要するに
「はん。 蹴り逃げは許さない、ってか」
選りに選ってこんな日に、こんなところで
あとで思い出す度に、レンは決まって冷や汗をかいた。
だけど、このときの二人はいたって真剣だ。
お互いの内側で、本当に 《真剣》 を構えて向き合っていた。
――――。
「ねえ、レン。 言っちゃってもいいかな。 あたしはね、最後にはシューインを選んでほしいんだ。 どうしても “どれか一つ” って言われたら。 あたしでも、ザナルカンドでも、歌姫としてのレンでもなくて、そういうのを
「わたし、ザナルカンドは捨てられないよ」
「そうするとさぁ、最後によばれるのは “あたし” ってことになるんだよね。 あたしが一番最後まで残る。 レンはシューインとお別れして、あたしと一緒にくるんだよね。 最後の最後の瞬間に “アー、お願い” って言われるの。 それが人としてのレンが話す最後の言葉――。 それって、悲しくない?」
「死ぬのが恐いの?」
「あっ! ずるいぞ、レン。 何だよ、その言い方。 そんな風にゴマカさないと立ってらンないほどの正義なら、素直に認めればいいじゃんか。 このままだと偽善者がとんでもない
「わたしの心の中はアーが思っているほど揺れてはないよ。 後悔もしてない。 答も間違ってないし、それ以外の選択をしている自分の姿が思い浮かばない。 シューインと二人でザナルカンドを捨てて逃亡してるシーン、とかね。 それは絶対にない」
「じゃあ、あとは一本道だね。 迷うことは何もない。 レンの態度は立派だよ。 それならシューインのことはきっぱりと諦めなきゃ――これからレンは異界の住人になるんだもん、彼に本当の彼女が出来て、幸せになることを祈ろうよ。
一刻も早く別れた方がいい。 あなたが生きているうちにはっきり言わないと手遅れになる。 そうしないと、むしろ本当の想いは伝わらないと思わない?
もしも本当にレンが想いを成しとげようとするのなら、
「ザナルカンドが生き延びるために戦うのは、シューインが生き延びるために戦うのと同じよ。 自分が心の中でどう思っていようと、結果は変わらないわ。 そうしなければ生き延びられないのなら、わたしがそうするしかないでしょ」
「ザナルカンドにとってはそうでも、シューインにとっては違うよ、レン。
レンが心の中でどう思っているかで結果が変わるから。 自分が納得も了解もしないままで
一人で残ったってね、ちっとも幸せにはなれないよ。 レンの命と引きかえに自分だけが助かったことの意味を、たぶんシューインは見つけられない」
聞き終えるなりレンは小さく笑った。
「アーの方が勘違いしてる。 全然違うわ。 でも、あなたにシューインのことが理解できないのは仕方がないかもね。 ……あの人はそんな弱い人じゃない。
シューインがどんな人だとか、どんな人じゃないだかとか、そういうことはわたしが一番よく知ってる。 あの人のことはわたしに任せてよ」
「さーて、どーだろね。 それはアヤシイな。 “恋は盲目” って言うじゃない。 レンは、ことシューインの話になるとメチャメチャ甘くなるんだけど、自分に対しても甘くなっちゃうね。 不思議だよ。 あなたくらい自分に対して厳しくて道理の見える人が……こうなっちゃうかな。
じゃあ聞くよ。
いい? とっても簡単な質問――。
シューインはレンの命を犠牲にして自分が助かるなんて絶対に認めないよ。 それを聞いたら、どんなことをしてでも止めようとするに決まってる。
――で、彼が言うのよ。
もしも “どうしても” と言うのなら、その役は俺が引き受けよう。 君の方が生きのびてくれ。 『ザナルカンドのレン』 は死んじゃいけない――って。
どちらか一方というなら、今レンが言っていることをそっくりシューインが言ったっていいじゃない。
必ずどちらか一方が死んで、どちらか一方が残るんだよ。
だからそのときにはね。
シューインが言うはずだったセリフを、レンが言うことになるの。
ザナルカンドのレンが、シューインから 《究極の愛》 を贈られて言うの。
シューインが 《真実》 を貫いて消えていったあとで、最愛の
“そこまでしてもらえるなんて嬉しいな。 わたし、とっても幸せよ” 」
…………。
「――
「あの人は 《召喚士》 じゃないわ」
レンは素っ気なく言い捨てた。
「彼は必ずそう言うよ。 そしてきっとその方法を見つけだす――どんなことをしてでも。 そうするまでは、彼は絶対に納得しない。
レンが納得しないのと同じようにね。
あなたにはそれが痛いほど分かるから、ものすごく恐れてる。
何たって世界で一番シューインのことを知ってる人だもん。
分かるでしょ?
今レンがしゃべってることは、あたしに向かっては言えてもシューインには口がさけても言えない。 言えるはずがない。
だから最後の最後まで黙ってるしかないんだ」
「女同士の話を、男の人にしてどうするのよ」
「もし……どうしてもレンが召喚士としての道をいかなければならないのならシューインを納得させる方法は一つしかない。
でもレンはその選択肢に手をのばす勇気がない。
だからかわりに “嘘” で乗りきろうとしてるんだ。 シューインに嘘をついて自分にも嘘をつく。 だけどね、あたしはその “嘘” に
「――――」
「そうするとシューインはね、お別れしなくちゃならない最も大切なときに、最も大切な人から裏切られることになるんだよ。
かけがえのない時を何も知らないまま過ごして、かけがえのない人をある日突然に失って、あげくにたった一人で残される。
そのときになって最も信じていた人から、実は嘘をつかれてたんだと知る。
全てを知ったときには、全てをなくしてる。 なくしてしまったものは、もう二度と帰ってはこない。
そうなってみて初めて分かるシューインの想いは、本当に伝えたかった彼の言葉は――たとえ千年たってもレンの元には届かない。
彼が、どんな気持ちになると思う? 全てを知ってしまったあとで。
なのに……レンは、それがシューインのためなんだと言いはってる。
それが “愛” のカタチなんだって。
――そんなあなたのやり方でさ。
残されたシューイン、……幸せになれるといいね」
…………。
「ねえ、アー。 ……それ。 どういう意味かな」
「言葉通りの意味よ。 ほかに何が?
これから
「わたし、嘘は嫌いだよ」
「ほーぉ、すると言っちゃうんだ。 さっきテリオには “絶対内緒に” っての、あたし聞いちゃったけど」
「それは……。 時間が来たら、必ず……」
レンがふっと歩みを止めた。
アーならば、……分かってくれると信じてた。
「言えるかな、
あのときだって、そうだったじゃない。
定められたレールの上を走る運命なら、二人で力をあわせて――」
「違う。 違うよ、アー! それは絶対に違う。 二人で一緒に死んでしまったらいったい何のために戦うの? それは全く逆だよ、アー。 シューインにだけは絶対に生き延びてほしいから――」
…………。
わたし、信じてたの……。
レンがくるりと海原を振り向き、両手をさっと拡げて語り始めた。
何だろう、透明な、幻光虫の抜け殻ような浮力が、すーっと湧いてくる。
まるで舞台の上でお芝居でもしているような仕草。
だが、レンが自然な仕草を自然にすることはない。 無意識の動作を無意識にすることはない。 その肉体は
ある意味、とても悲しい才能を持った女の子だった。
――見てなさい。 これがお手本よ……。》
砂浜の上で素早く画面を区切り、間を取り、呼吸を整える。
アーの他には観客は一人もいない。 レンの
――そう言えば、いつかそんなこともあったと、思い出していただろうか。
アーはとうとう理解してはくれなかった……。
「シューインがちゃんと生きていてくれるから、わたし、戦えるんだと思う。 これはいつも思っていることよ。 わたしはここで死ななければならないけれどその代わりに、わたしの分まで生きてって言えるんだわ。
あの人は分かってくれる。 二人の愛の力を甘く見ないでね。 わたしの人生とシューインの人生は同じだから。
たとえわたしの人生が途切れようとも彼の人生が続く限り、わたしの物語は決して終わらない。
あの人は召喚士としての力はないけれど、いろんなことができる人よ。
ブリッツもできるし、わたしの夢を
アー、これだけは言っとくね」
語り終えると、レンはまた彼女を向き直った。
この思いを――。
祈り子さまの目は海の先を見つめたまま、じっと一点に固まっている。
しかし彼女は無視するように一歩を踏み出し、力強く宣言するような口調で演技を続けた。
アーを失ってしまったら……わたし、一人だよ――。
「 “女の夢” を大切にする男は、必ず幸せになるよ。
そう――シューインは女を見る目はあるからね。 あの人は必ず幸せになる。 だから、わたしも幸せよ。
幸せをつかんで、わたしたち二人の夢を体現してくれて、全てを受け止めて、支えてくれるような素敵な女性と巡り会うの。 その人、きっと美しい人だよ。 少なくとも――」
言い置いて、誰も居ない暗闇の先に真っ白な指を
「あなたのように、
…………。
レンの瞳が真っ赤に燃えていた。
〔第1章・第9話 =了=〕
【初出】 にじファン (『小説を読もう!』 サイト内) 2010年12月6日