マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

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 『ロロナのアトリエ・番外編』が全然進まない…
 おかしい、最初の予定では 今頃全エピソード書き終えてるはずだったのに…





2年目:トトリ「村に帰る、その前に」

 

***ロロナのアトリエ***

 

 

 …アトリエの中を 一通り見渡して もう一度確認し、ひとつ息をつく

 

「ふぅ…とりあえず、使う前と同じくらい綺麗になったかな…?あと、窓もちゃんと閉めたし、何か忘れてることは…」

 

 

 手持ちのカゴの中も確認して、忘れているものは無いか確認してみる……うん、大丈夫そう

 後は 一回『青の農村』に顔を出しに行って、マイスさんに『アランヤ村』に帰ることを伝えてから、また『アーランドの街(こっち)』に戻ってきて 馬車で『アランヤ村』へ帰る予定だ

 

 

「よし!それじゃあ 行こう」

 

 先生のアトリエの合鍵を取り出して カギをかける用意をしながら、私はアトリエから出た…

 

 

―――――――――

 

***職人通り***

 

 

 アトリエから出てすぐ…閉めた扉へ向き直ってカギをかけるよりも前に、目の前に誰かがいた

 その人に扉は当たらなかったものの、合鍵を取り出しながらで 余所見気味だったわたしは その人に軽くぶつかってしまった

 

 

「おっと。これは少し激しめのお出迎えだね。いや、これは喜ぶべきかな?」

 

「あっ!ごめんなさい!…って、え?」

 

 とっさに謝ったんだけど、よくよく聞いてみると ぶつかった相手の人の言い回しは なんだか不思議…というか、変だった

 よくわからないけど、とりあえず その人から離れた。そして その人の顔を見ようとしたけれど、どうしても やや見上げる感じになってしまう…

 

 

 どうやら、ステルクさんとそう違わないくらいの身長の男の人だった

 

 髪の毛は 特別目立つ色ではなかったけど、男の人にしては少し長くて 肩より少し下あたりまであった

 …髪の長い男の人といったら、馬車の御者をしているペーターさんあたりを思い浮かべるけど、この人の髪はペーターさんとは違い 少しウェーブがかかっていて…それでいてマークさんみたいにモジャモジャした感じは無く、綺麗に整えられてた

 

 服は ところどころに装飾があったりはしたけど、布地の色が 基本黒で一見落ち着いて見える……けど、逆にその黒が少ない装飾を引き立たせていて、なんだかオシャレに…見えなくもない、かな?

 

 

 もしかして、『アーランドの街(このまち)』に住んでる『貴族』の人なのかな?

 

 服の感じから なんとなくそんなふうに考えた。なんだか、ミミちゃんとは また別の種類の「『アランヤ村』にはいない、都会っぽい人」だった

 

 

 

 私がそんなことを考えていると、その男の人は わたしに微笑みかけながら問いかけてきた

 

「その様子だと……今からおでかけだったかな?」

 

「あ、はい。村に帰るから その前にちょっと挨拶をしに…」

 

 ここまで言って気づいた

 この人はアトリエの玄関のすぐ前まで来ていた。…つまり、もしかして アトリエに依頼か何かの用事があって来たんじゃないか、ということだ

 

 そのことに気づいたわたしは、慌てて姿勢を正した

 

「えっと、もしかして 何か依頼でしたか!?」

 

「心配しなくていいよ。僕がここに来たのは依頼でじゃないから」

 

「……?え、それじゃあ…?」

 

「少し用事があっただけさ。まぁ それももう済んだけどね」

 

 答えが返ってきたはずなのに、わたしの頭には 未だに疑問符が残った

 まだ ほんの少しの時間しか経っていないはずなのに、いったい何の用事が済んだんだろう?

 

 

 

「っと。このままキミが出掛けるのを邪魔してもいけないね。…ロロナも帰ってきてないようだし、僕はこれで失礼するよ」

 

 そう言ってその人は満足したように 微笑み、(きびす)を返して 街の中央方向へと歩きだしてしまった

 

 未だに 何が何だかわからないままのわたしは、ポケーッとその後ろ姿を見てたんだけど、ふいに その人が振り返って こっちを見てきて口を開いた

 

 

「…そういえば、名前、聞いてなかったね」

 

「あっはい、トトリって言います!」

 

 少し離れてしまっていたから わたしはいつもよりも声を大きく出した。男の人にはちゃんと聞こえていたようで、返事が返ってきた

 

「トトリか、いい名前だね 憶えたよ。僕は…トリスタン、(えん)があったら また会おうか」

 

 そう言って男の人…トリスタンさんは再び歩き出していった

 

 

 

「…結局、何の用事だったんだろう?」

 

 疑問を残しながらも とりあえずアトリエにカギをかけ、でかける準備を終える

 

「先生の名前言ってから、もしかしたら 先生が帰ってきてないか確かめに来たのかな?」

 

 そんなことを考えてみるけど、いっこうに答えは出てきそうにもなかった。

 

 

============

 

「あの子がトトリ……ロロナの弟子、か。想像してたよりも ロロナとは違ったタイプだったなぁ…。でも、なんだか雰囲気ではなんとなく納得できるのが 不思議なところだよね」

 

 先程会った少女と、トリスタン自身の記憶の中のロロナとを重ね合わせて、ひとり思考をめぐらせる

 

「まあ、そんなこと言ったら、ロロナとその師匠は 随分と違ったか」

 

 トリスタンはとある『錬金術士』を思い出し……何故か寒気がした気がして、身を震わせた…

 

============

 

 

―――――――――――――――

 

***青の農村・マイスの家の前***

 

 

 トリスタンさんとの出会いの後、街を出て『青の農村』のマイスさんの家まで来た

 そして、玄関の扉をノックしたんだけど…

 

「……返事がない」

 

 出かけているのかな?とも思ったんだけど、ふと ちょっと前にも同じようなことがあったのを思い出す

 

「あの時は 確かマイスさんが『錬金術』に集中してて気づいてなかったんだよね」

 

 その時のことを思い出しながら、わたしは視線を 目の前の扉から 屋根から飛び出している煙突のほうへと移してみる

 …今日はあの時とは違って煙は出てはいないけど、それでも、もしかしたら 『錬金術』のレシピとかを考えていて、すごく集中していたりする可能性があるかもしれない

 

「いちおう、覗いてみるだけでもしようかな…」

 

 そう思い、玄関の扉に手をかけた

 

 

ガチャ…

 

 

 玄関の扉にカギはかかっていなかったみたいで、簡単に開いた

 「カギが開いているなら 出かけている可能性は無いんじゃないかな?」と思ったけど、よくよく考えてみると マイスさんってなんだかカギをかけずにでかけそうな気もした。…なので、決定的じゃなかったから とりあえず『作業場』のほうを覗いてみることにした

 

「お邪魔しまーす…」

 

 『作業場』への扉を開きながら、そう言ってみたけれど 周りから反応は何も無かった。わたしの目の前には、誰もいない『作業場』が広がっていた

 

 一応、『作業場』の中を一通り見てまわってみたけど、武具屋さんにあるような『()』には火は入っておらず、『錬金術』のときに使う錬金釜も 少なくともここ一日は使われた様子はなさそうだった

 

「やっぱり、何処かにでかけてるのかな?」

 

 『作業場』の様子から考えると、その可能性は十分にあると思う

 

 

 

 それじゃあ、マイスさんに挨拶するのは諦めて 街に戻ろうかな……って、考えたけど、今のマイスの家の状況が 少し心配だった

 

 この前、『錬金術』についてマイスさんから教えてもらった時に 見せてもらったから知っているんだけど、マイスさんのコンテナには 見たことの無いような希少な素材や様々な金属のインゴットがたくさん入っている

 『作業場』以外に 保存用のコンテナを沢山(たくさん)(そな)えた『倉庫』が、玄関側から見て反対側にあるらしいけど……それでも、いろんなものが入ったコンテナが置かれている家に カギひとつもかけずに出かけているっていうのは 心配だ…

 

「でも、マイスさんが帰ってくるまで わたしがココにいるってわけにもいかないし…」

 

 そんなことを考えながら、わたしは『作業場』から元の部屋へと戻った

 

 そして、部屋に戻って『作業場』との(さかい)である扉を閉じた ちょうどその時…

 

 

ガチャ…

 

 

 扉が開く音が聞こえた

 玄関のほうかと思ってソッチを見たんだけど、玄関の扉は閉まったままだった。「じゃあ、何処から…?」と思ったけど、すぐにわかった

 

 玄関とは反対側にある 裏口というべき場所にある扉が開いていたからだ。ソッチには 渡り廊下があって、先程思い出していた『倉庫』や 以前マイスさんの家に泊まった時 に使わせてもらった『離れ』へと繋がっていたはずだ

 

 

 

 その開いた扉の先には、誰かがいた

 最初は「マイスさんかな?」と思って誰なのか目を向けたんだけど、そこにいたのはマイスさんじゃなくて、知らない女の人だった

 

 

 ブロンドの髪をふたつ結びにしていて、服装は ところどころにフリルがついているくらいで 特別変わっているとは思わない格好だった

 

 けど、その女の人自身の特徴とはいえないかもしれないけど、もの凄く目立つものがあった

 

 女の人の左右、その肩ほどの高さに それぞれ二足歩行の黒猫と虎猫のデザインのヌイグルミ(?)がフワフワと浮いていた

 そして、追い討ちと言わんばかりに…女の人はその腕で 猫のヌイグルミ(?)と同じくらいの大きさの金毛の()()()()()()(かか)えていたのだ……って、コレは モンスターと仲が良い『青の農村』だと普通かもしれない

 

 …あれ?「金色のモンスター」って、どこかで聞いたおぼえがあるような…?それに、あの猫のヌイグルミも……

 

 

 

 わたしがそんなことを考えているうちに むこうも何か色々考えていたみたいで、それを コッチよりも一足先に一通り終えたのか、何やら納得したように口を開いた

 

「ああ、なるほどな。あの子が例のロロナの弟子かぁ」

「そうみたい。…へぇ、確かに『アランヤ村』にいた子ね」

 

 ただし、(しゃべ)ったのは 動作からして、それぞれ黒猫と虎猫のようだった……って

 

「え…ええっ!?」

 

「ご、ごめんね…驚かせちゃって…」

 

 驚いているわたしに そう声をかけてきた女の人は、ひとつ軽く礼をしてきた

 

 

「えっと、私はリオネラ、普段は人形劇をしてるの。…ほら、ふたりとも ちゃんと挨拶して」

 

「オレはホロホロってんだ」

「ワタシはアラーニャ、よろしくね トトリ」

 

「あ…よ、よろしくお願いします…?……あれ?わたしの名前…」

 

 わたしは疑問をこぼす。そういえば、わたしがロロナ先生の弟子ってことも知っていたみたいだし……

 

「マイスから色々と聞いてたのよ」

 

「うん。…それに、前に『アランヤ村』に人形劇をしに行ったことがあって、その時に会ったことがあるんだよ?」

 

 アラーニャに続いて リオネラさんが言ったことを聞いて、わたしはあることを思い出した

 

 そういえば、マイスさんが昔『アランヤ村』に来た時の目的のひとつが「人形劇」だったって言ってた気が……それに、ジーノ君も マイスさんのこと「ネコの人形劇の人と一緒にいた にーちゃん」って言ってたっけ?

 そうなると、わたしもリオネラさんたちとは会ったことがあるはず…だけど

 

「ごめんなさい。その…昔のこと あんまり憶えてなくて」

 

「ううん、気にしないで。そのことも マイス君から聞いてるから…」

 

「ちょっと驚いたけどな。一度見たら忘れられないって自負があったってのによ!」

 

 ホロホロは どうやら少し怒っている感じだった。仕草が一々イキイキとしてて、プンスカ!って音が聞こえてきそうだった

 …でも、確かに ホロホロの言う通り、糸で()られてるわけでもないのにフワフワと浮かぶその姿は、一度見たら忘れられそうになかった

 

 

 

「それで……トトリちゃんはマイスくんに何か用があったの?」

 

 リオネラさんにそう聞かれて、わたしは当初の目的を思い出した

 

「ええっと、実は これから馬車で『アランヤ村』に帰ろうと思って。それで 色々お世話になったマイスさんに 挨拶をしようって…」

 

「なるほどな。それで マイスが見当たらなくて困ってたわけか」

「そういうことなら、ワタシたちからマイスに伝えとくわよ。ワタシたち、マイスの家にお泊りさせてもらってるから 伝える機会はいくらでもあるの」

 

 ホロホロとアラーニャにそう言われて 考える

 確かにこのまま帰ってくるのを待っているわけにもいかない。馬車のことを考えるとなおさらだった

 

 

 

「それなら、マイスさんによろしく伝えてください」

 

「うん、わかった」

 

 

 リオネラさんからの返事を聞いたわたしは、玄関から外へ出た

 

 リオネラさんたちは 玄関先までそのまま出てきてくれ、みんなして手を振って 見送ってくれた。リオネラさんが抱き抱えていた金色の毛のモンスターも「モコ~」と鳴きながら手を振っていた

 

 わたしは振り返りながら 手を振り返した……

 

 

 

 

――――――――――――

 

 …その金色の毛のモンスターが、ゲラルドさんのお店でメルお姉ちゃんから聞いた「『青の農村』の噂」の中にあった「幸せを呼ぶ金色のモンスター」なんじゃないかというのに気がついたのは、『アランヤ村』への道のりの半分くらいを移動した馬車の中だった


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