それは三年目で何も描写されなていない時期にもしかしたらあったのかもしれない話《前》と、その話があった際にきっとあるであろう後日談ED的な《後》 で構成された短編…
原作『ロロナのアトリエ』でいうところの キャラ別の個別エンドの雰囲気を意識したものとなっています
※諸事情により、「ホム編《後》」は来週2/3更新予定です
なので、中途半端な終わり方に感じてしまうかもしれません。ご了承ください
00:00に投稿出来ていない、ここ最近
書き溜めが無いとこうなってしまいます
今回はホムちゃん視点となっています
※※追記(2/2)※※
明記し忘れてしまっていましたが、設定的には本編『ロロナのアトリエ編』の「ホム「モフモフしたあの子」」よりも後の話となっています
つまりのところ、「マイス=金のモコモコ」をホムが知っている、ということです
おつかいからの帰り道。ホムは一人、街道を『アーランドの街』へと歩き続けています
数日間、街から離れていましたが、遠目に見えてきた街の様子は特に変わったところは無さそうでした
……まぁ、ほんの数日で目に見えて変わるようなことがあれば、大事なのですが……
そのまま歩き続けていると、ふと、街道からそれた脇道が見えました
それは、ホムも利用する道……
今はお使いの途中でなおかつ荷物も多いため、なーに会いに行くのも難しいと判断し、おにいちゃんの家に寄るという考えは止めにしました
でも名残惜しさに似た感覚が少なからずあったため、歩きながらそちらに目を向けていたのですが……ふと、小道を通って林の暗がりから人が出てきたことに気がつきました
ただその人物は、ホムが最初に思い浮かべた人物…おにいちゃんではありませんでした。ですが、知らない人物だったというわけでもありません
あの服装、それに黒い長髪と遠目でもわずかに確認できる眼鏡……その他諸々の要因もありますので、間違えるはずはありませんでした
「ん?ホムか」
ホムに気がついたその人物…グランドマスターの言葉に、ホムは明確に返事を返します
「はい、グランドマスター」
「こんなところで会うとは奇遇だな。なんだ?何処かに採取にでも行っていたのか?」
「マスターからのおつかいで、『ネーベル
「あそこか……。ロロナは『泡立つ水』か『
グランドマスターは、そう言いながらホムの持つカゴのふたを右手で少し上げ、中の素材を値踏みするように観察していました
もしかしたらグランドマスターは、何か自分が使いそうなものが無いか、確認しているのかもしれません……が、どうやら何もなかったようで、そのままカゴのふたから手を離して閉じました
「ところで……グランドマスターはおにいちゃんの家に行っていたのですか?」
「ん、まあな。とは言っても、奴は留守だったのだが……」
そう言いながら、グランドマスターはその左手に持っている小さめの麻袋を軽くあげて見せてきました。わずかながらカチンッと高い音が聞こえたため、少なくともその人の頭程度大きさの袋の中には、ビン類が複数個入っていることが推測できました
「それは?」
「収穫物だ」
グランドマスターはそう言って口角を少し上げ、ニヤリといった感じに笑いました
……「収穫物」と言われると、
おそらくはグランドマスターが時々しているという、おにいちゃんの家にあるものを無断持ち出しでしょう。なので、収穫物というよりは戦利品……いえ、盗品とでもいうべきものでしょう
……ですが、以前、おにいちゃんからこの話を聞いた際には、おにいちゃんは「困ったものだよー、あははは」と笑い話のようにしていましたし、黙認に近い様子でしたので、そこまで問題となるようなことでは無いのでしょう
「奴の作るものには興味が引かれるものが少なからずある。中でも薬品系のものは特にな」
「そうなのですか? ホムは、むしろその方面はグランドマスターの知識の範疇なのだと思っていました」
ホムの言葉に、グランドマスターは「そうでもないさ」と首を振ってみせました
「もちろん、私が全く理解出来ないほど飛び抜けたものがあるわけじゃない。だが、中々のものだぞ?特に農業用の薬品に関しては、私の想像以上に種類があったな」
農業用……確かに、おにいちゃんには最も関係が深そうなものです。実際に使っている場面を見たことはありませんが、きっと知らないところで活用していることでしょう
……ホムはそう考えていたのですが、どうやらグランドマスターが目を付けたのは別の点だったようです
「一番興味深いのは、薬品の種類が傷薬や解毒薬などの「戦闘用」とさっき言った「農業用」の二種類がほとんどを占めていたことだ。他のものも数個ありはしたが、あまりにも少なかった。これは奴だったからそうなのか、それとも奴が前にいたという世界がそういう傾向にあったのか……」
グランドマスターが気になっているのは、どうやら薬品そのものというよりも、そこから読み取れるおにいちゃんが元いた世界の技術や文化のほうだったようです
それがグランドマスターの研究の何かしらに役に立つのか……それとも、ただの単なる興味本位なのか……それはホムには計り知れない事です
……それにしても、グランドマスターはいつの間におにいちゃんが別の世界から来た…らしいことを知ったのでしょうか? やはりこの様子だと、おにいちゃんがあのモコモコした子であることも、知っていても不思議ではありません
そして、それとは別に気になったことがあったため、ホムはグランドマスターに問いかけてみることにしました
「グランドマスター。あちらのことが気になるのであれば、おにいちゃんに直接聞いてみればいいのでは?」
「それでは暇潰しにならないだろう?なにより、面白くない」
「なるほど。納得しました」
「まぁそもそも奴は一度記憶喪失をして、まだ完全に回復しているとは言えない状態だからな。聞いたところで、肝心な部分が抜けていてりして逆にモヤモヤしてしまうことだろう」
付け加えられた内容で、さらにホムは納得しました
「時に、ホムよ」
「何でしょう?グランドマスター」
「前々から気になっていたんだが……何故、お前は奴を「おにいちゃん」と呼ぶんだ?」
グランドマスターが眼鏡の位置を正す仕草をしながら言った言葉に、ホムは少し首をかしげてしまいました
別段難しい質問だった、というわけではありません
思い返せばその理由もすぐにわかりそうなくらいなのですが……何故かホムは、その質問を不思議に思ってしまっていたのです
わずかに出来てしまった沈黙の時間
そこでグランドマスターが何を思ったのかはわかりませんが……ホムが口を開く前に、グランドマスターが一足早く口を開きました
「ホム、命令だ。お前は今しているおつかいが終わったら、その理由を考えろ。わかったな?」
「わかりました、グランドマスター」
ホムが返事をすると、グランドマスターは「では、門のあたりまで共に帰るとしようか」と歩きはじめました。ホムはその数歩後ろをついて行きます……
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「ネコの一件で、本来ありえないはずの『感情』の芽生えがあったから、あるいは……。しかし、面倒な方向に転がらなければいいんだが……」
「……?どうかしましたか、グランドマスター?」
「いや。なんでもないぞ、ホム」
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***ロロナのアトリエ***
「ただいま帰りました」
「あー。おかえり、ほむちゃん」
何故かアトリエには帰らずに他所へと行ってしまったグランドマスターと別れ、一人でアトリエに帰りついたホムを出迎えたのはマスターでした
調合の最中のようで、釜をかき混ぜ続けながら顔だけこちらを振り向いてきました。集中が乱れてしまわないか少しだけ心配でしたが、どうやら問題無いようで、釜の中の反応は正常に行われているました
「ちょっと待ってねー。もうすぐ終わるから」
そう言ったマスターは再び釜のほうへと視線を戻します
ホムはその間に軽く身なりを整えて、その後に採取してきたカゴの中身を種類・品質ごとに整理し始めます
ホムが整理の作業を終えたのとほぼ時を同じくして、「できたー!」というマスターの元気な声が聞こえてきました。どうやらマスターの調合も終わったようです
「おまたせ、ほむちゃん。採取、どうだった? 何か危ないこととかあった?」
「いえ、問題はありませんでした。採取したものはこちらです」
ホムが採ってきたものを確信しだすマスター。同じ確認でも、街道でグランドマスターがしていた時とは随分と雰囲気が違います。やはりマスターが鼻歌交じりでしているからでしょうか?
「……うんっ!いっぱい採って来てくれたんだね! ありがと!」
「いえ、ホムはホムの役目を果たしただけです」
「そんなことないよー。えらいえらい」
そう言ってマスターはホムの頭を撫でました
「ふんふーん……あれ?」
「……?どうかしましたか?」
「なんだかほむちゃん、少しだけ眉間にシワが寄ってて……もしかして、嫌だった!?」
マスターはホムの頭の上に乗せていた手を引っ込めて、困ったような、申し訳なさそうな表情になりました
「そういうことはなかったのですが……」
撫でられるのは、特別好きでも嫌いでもないくらいで……でも、マスターはホムの眉間にシワが寄っていると言いました
「じゃあ、お腹が痛いとか?」
「ホムの身体に異常はありませんが?」
「ほか…ほか……何か悩み事?」
「ホムに悩みは…………あっ」
「無い」と言おうとしましたが、寸前のところで思い当たる事がありました。ですが、悩み事とまで言えるかどうかは微妙なのですが……
「何かあるんだね!わたしに言ってみてよ! ほむちゃんの悩みかぁ……うーん、何だろう?」
「実は、グランドマスターから少し変わった質問をされて……」
「師匠から?」
予想外だったのか、マスターは少し驚きながらも興味深そうにしています
「おにいちゃんのことを何故「おにいちゃん」と呼ぶのかを聞かれました」
「ふんふん……えっ、それだけ?」
「はい。それだけです」
「え、ええー?」と、先程までの勢いが空回りしてしまったようでマスターは気が抜けてしまい、全体的に力が抜けてしまったようです。なんだか、だるーんっとしています
「それって、確かアレだよね? ほむちゃんがわたしの妹のような存在で、わたしがマイス君の事を弟みたいに思ってるから「ほむちゃんからするとマイス君はおにいちゃんになるのかなー」って話……だったよね?」
(『ロロナのアトリエ編』タントリス「あんまり気は進まないな……」参照)
「はい。マスターの感じたものから、そう導き出しました」
「それじゃあ、別に何にも……あっ、そっか! あの時、わたしが「師匠には内緒にしてね」って言ったから、言えなかったんだ」
手をポンと叩いて納得するマスターでしたが、それは違うのでホムは首を振り否定します
「いえ、ホムに対する最終的な権限は生みだしたグランドマスターにあるので、伝えることは可能でした」
「えっ? それじゃあ、あの時の口止めってあんまり意味がなかった?」
「秘密にする対象がグランドマスター以外であれば、効力はありますが……」
ホムがそう言うと、マスターは「そんな~」と肩を落としてしまいました……が、すぐに顔を上げてキョトンとします
「あれ?それじゃあなんで困ったの? さっきの話をすればいいだけなんじゃあ……?」
「そうなんですが……でも、ホムはその質問を不思議に思ってしまったのです」
理由はわからないわけではありませんでした。でもあの時、ホムの中では一瞬真っ白になったような……変な空白のようなものができてしまっていました
「おそらく、グランドマスターによる予想外の質問に、ホムの一瞬思考が停止してしまったのではないかと思っているのですが……。でも、今、改めてあの問いについて考えても変な感じがします、どうしてでしょう?」
「うーん……」
マスターはうなりながら首をひねり、ホム以上に悩みこんでしまいました
……そして、少ししてから、ゆっくりと口を開きはじめました
「師匠の質問が予想外だった、っていうのは、たぶん……たぶんなんだけど理由はわかる気がする」
「本当ですか?」
「きっと、マイス君の事を「おにいちゃん」って呼ぶのが、ほむちゃんにとって
マスターにそう言われて、ホムは納得しました
確かに、慣れというものがあったかもしれません。そして、それについて問われると疑問に思ってしまう……というのも、わからなくはありません。理解できる事象です
「……そうなると、あの問いに未だに感じる変な感覚はなんなのでしょう? 何か関連が…?」
「無くは無さそう……かな? でも、よくわかんない」
そう言うと、マスターはまた悩み込んでしまいました……
それにしても、困りました
知っていることに対しすぐさま答えられないとなれば、それは大変な欠陥となります。そしてその欠陥は、グランドマスター、そしてマスターのために働くというホムの役目が十分に果たせなくなるということに繋がりかねません
仕方がないので、マスターに今現在の仕事の進行状況に問題が無いか確認し……、余裕があるそうなので、このことについて考えるために時間を貰うことにしました
何故「おにいちゃん」と呼ぶのか、その理由を考える……
グランドマスターから出された命令のために、ホムは再び考え始めました
何か、この感覚の手掛かりがあれば……
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***マイスの家・作業場***
「というわけで、来たのですが……何かわからないでしょうか?」
「うん…………どういうこと?」
「なー?」
そう言って呆けた顔をしているのは、『薬学台』と呼ばれるらしい机の前のイスに座っているおにいちゃん。……おそらく、グランドマスターとは入れ違いで帰って来て、いつの間にか無くなっている薬品を補充するために調合をしていたのだと思います
そして、ホムの腕の中にはなーがいます。さっき、『作業場』に来る前にリビングダイニングのほうで見つけたので、抱き抱えてここまで来ました
とりあえず、ちゃんと話をするためにここまでの事の流れを説明したところ……
「いやー…、そもそもの呼ぶようになった原因、今初めて聞いたんだけど?」
「そうだったでしょうか?」
「うん。呼ばれ始めた頃に「何で?」ってホムちゃん聞いたことはあったけど、教えてくれなかったし」
言われてみれば、そんなこともあったような気がします。うっかりしていました
……まあ、それは大した問題ではないと思うので、話を進めていってほしいです
「でも、なんで僕に聞くの?」
「この件の当事者は、ホムとおにいちゃんなので」
「いや、ホムちゃんの気持ちの問題なんだし、ホムちゃんだけなんじゃ……」
困ったような顔をしてそう言ってくるおにいちゃんですが、そんな顔をしたいのはホムのほうだと主張します
自分自身のことがよくわからなくなるなど、困ったことです。そのうえ、これからの活動に支障をきたしてしまうとなればなおさらです
「何かわかりませんか?」
「えっと、質問を質問で返しちゃうんだけど……なんで、ロロナは「おねえちゃん」じゃないの? さっきの理屈だと呼びそうなんだけど」
「それは、グランドマスターから禁止されているからです。ついでに丁寧口調以外も禁止されています」
「禁止? なんで?」
「グランドマスターが言うには「私の事を「お姉さま」と呼んでくれないのに、自分のことをホムに「おねえちゃん」と呼ばせるのは……ズルいぞ!」とのことです」
「ええぇ……」
また困った顔をするおにいちゃん
……ちゃんと、ホムのこの感覚の原因を考えてくれているのでしょうか? 少し不安になります
そう思ったホムでしたが、その不安をよそに、おにいちゃんはアゴに手を当てて何かを考え始めました
そして……
「……名前で呼びたくなかったから?」
「期待したホムが間違いだったのでしょうか? 過去最大の落胆を感じました」
ホムがそう言うと、おにいちゃんは「あははは……」と苦笑いをしました
「そこまで言われると、さすがに落ち込むかも…。でも、僕はそうかなって思ってね?」
妙に自信があるおにいちゃんを変に思いながらも、ホムは首をかしげてみせておにいちゃんに言葉の続きをうながしました
「ホムちゃんに「おにいちゃん」って呼ばれ始めた頃、実は僕、むずがゆいっていうか……かなり違和感があったんだよね。正直なところ、あんまり好きじゃなかったかも」
それは初めて知りました。……なんだか笑って誤魔化している気はしていましたが、そんなふうに感じていたとは
「でも、いつの間にか慣れちゃってて。おかげで今じゃあ逆に「マイス」なんて呼ばれたほうが違和感があり過ぎるくらいになっちゃってるかな。……もしかしたら、ホムちゃんにも似たような感覚があるんじゃないかなって」
「ホムにも、ですか?」
そう疑問を口にすると、おにいちゃんからは「かも、ってだけだよ」とこれまでよりも自信のなさそうな返答がきた。……ということは、やはり「慣れ」からくるものなのでしょうか?
でも、最初に思っていたよりもホムには「確かにそうかもしれない」と思えるものでした
おそらく、今でも出会った頃、例えば……今ホムが抱き抱えているなーをホムが拾い、グランドマスターに元いた所に捨ててくるように言われた時。まだ子供だったなーを中々捨てられなかったホムがおにいちゃんと会ったのですが、あの時は「マイス」と呼んでいました
ホムは、今でもあの時のようにおにいちゃんのことを「マイス」と呼べなくはないでしょう
……ですが、何故か、こう……胸のあたりに穴があいたような、変な感じが……違和感があります。……こういうことを「
本当に、何故だかわかりませんが……想像しただけでも感じるその感覚が、ホムにはとても嫌なものに感じられました
「…………ちゃん……ホムちゃん?大丈夫?」
「……っ、はい問題ありません」
どれくらいの時間、考え込んでいたのでしょうか
気づけばおにいちゃんの顔が先程よりも近くにありました。ホムの腕の中のなーも、心なしか心配そうに見上げてきているような気がします
そして、思考に浸ってしまっていたホムを心配したのか、いつの間にかおにいちゃんがホムの両肩に優しく手を乗せていまして
「急に黙って、苦しそうな顔してたけど……本当に大丈夫?」
心配するおにいちゃんに再び「大丈夫」と伝えようとしましたが……それは、途中で止まってしまいました。他でもない、おにいちゃんの手によって
ホムの肩に乗っていたおにいちゃんの手
その片方、右手が離れてゆき……そのままホムの頭へとゆきます
ヘッドドレスを避けながら動くおにいちゃんの手は、ホムのことをよく撫でるマスターとはまた違った何かが感じられました……
「……おにいちゃん」
「ん?どうかした?」
「もう少しだけ、こうしていてもらえないでしょうか?」
「……いいよ。ホムちゃんは、いつもお仕事がんばってるからね」
「かわりに、後からモコモコしたおにいちゃんのブラッシングをしてあげます」
「えっ…? それ、必要かな?」
「必要です」