マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

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 『ロロナのアトリエ・番外編』
 それは三年目で何も描写されなていない時期にもしかしたらあったのかもしれない話《前》と、その話があった際にきっとあるであろう後日談ED的な《後》 で構成された短編…

 原作『ロロナのアトリエ』でいうところの キャラ別の個別エンドの雰囲気を意識したものとなっています



 今回は エスティ視点です


エスティ編《前》

 

 

「はぁ~…どうしようかしら…」

 

 ある日の昼下がり、私はため息をつきながら 当ても無く街中を歩いていた

 

 

 午前中に最低限の書類仕事を終わらせて、後は他の人たちに(まか)せることができたから 久々の休みを半日()ることが出来たんだけど……

 

「いざ仕事が休みになると、することに困るわね…。半日ってのも 出来ることが狭まちゃう原因だし…」

 

 寝る…ってのは なんだか勿体ない。お酒を飲みに行く…ってのも 時間が早すぎるし、ひとりなのもなー…

 はぁ…。普段仕事詰めなせいで こういう時に困ってしまうっていうのも悲しいものねぇ……

 

 

 そんなことを考えながら、なんとなく散歩を続ける…

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 ぶらぶらと歩き続けていたうちに、気づけば私は ある場所のすぐそばまで来てしまっていた

 

 『模擬戦用 演習場』、去年の『王国祭』のイベント『武闘大会』の会場となった場所だ。普段は 国勤めの騎士が鍛練のために使用する…ことが(たま)にある程度の 至って静かな施設である

 

 

 

 まあ、今日も相変わらず 人気(ひとけ)が無いんだろうなぁー……なんて思い、入り口の前を通りすぎてしまうとしたその時……

 

 

「     」

 

 

 通り過ぎようとした途中で立ち止まり、演習場の中を覗きこんでみる。…が、ここから見えるのは通路だけで、模擬戦を行う場所場までは見えなかった

 

「さっき聞こえた声、たーしかにステルク君だったと思うんだけど…」

 

 強制参加の演習があったりする場合を除けば、この演習場を使っているのは 大抵はステルク君だ。…本当にいるとすればだけど

 

「でも まあちょうどいいかも?ちょっと暇潰しに冷やかしにいってみようかしらねー」

 

 

 

―――――――――

 

 

 

「って、あら?」

 

 演習場で見たのは、私が想像していた「ステルク君が気合の声をあげながら剣をひとり振るう」という風景とは違っていた

 

 

 

「なるほど。確かに もうひとつと比べて酸味は強めだが、食感がしっかりとしている……私としては 今食べたこちらのほうが好みだな」

 

「そうですか! 僕もそう思ってて…。それじゃあ 今度作る時は、こっちの育て方をベースにして また色々と挑戦してみますね!」

 

 

 そこにいたのは、予想通りのステルク君と…そしてマイス君だった。ふたりは 演習場の片隅(かたすみ)に腰を下ろして 何かを食べていた

 

 

 

「ねえ、ふたりともー。何してるの~?」

 

 私がそう言いながら歩み寄っていくと、ふたりは私に気がつき 食べるのを止めコッチを向いた

 

「むっ?エスティ先輩?」

 

「あっ、エスティさん こんにちは!」

 

 私の登場に少し驚くステルク君と、いつも通りの調子で 元気に挨拶をしてくるマイス君。私はそれらに対し ヒラヒラと軽く手を振って返事をする

 

 

「で、何食べてるの?」

 

「ウチで育てた『パイナップル』ですよ。はいっ、エスティさんもどうぞ!」

 

 そう言ってマイス君は ひと(くち)(だい)に切った果肉を小型のフォークで刺し、私にフォークごと差し出してきた

 

 マイス君たちのそばに腰をおろした 私はそれを受け取り 果肉を口に運ぶ。噛むと溢れ出る果汁が 口の中に行き渡り、鼻にぬける匂いも素晴らしいものだった

 

 「もうひと口…」と『パイナップル』の入った容器に フォークを持つ手を伸ばし……そこであることに気づく

 『パイナップル』の入った容器はふたつ。…どっちがさっき食べたやつだろう?……まあ、マイス君に聞けばいっか

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「ふぅ…ごちそうさま~」

 

 私が2種類とも数切れ食べたころには ふたつの容器は両方(から)っぽになっていた。もちろん私だけで食べきってしまったわけではなくて マイス君やステルク君も食べた結果だ

 

 そして、マイス君が 『パイナップル』が入っていた容器とフォークを片付けている間に、私は ステルク君にむかってジトーっと目線をむける。当然 ステルク君は私の視線にすぐに気づいて、困ったように眉をひそめてきた

 

 

「なんですか 先輩…」

 

「いやぁ~、 私が受付でせっせと仕事してる時に「鍛練に行ってきます」なんて言いながら こんな美味しいもの食べさせて貰ってたんだー、って思って。ステルク君、ずーるーい!」

 

「なっ!?こ、これは 鍛練に付き合ってもらう時 彼が毎回勝手に軽食を用意しているだけで…」

 

「へぇー、「毎回」って、やっぱり今日だけじゃなかったんだー。うらやましーいなー」

 

 「うっ!そ、それは まぁ…」と ステルク君はどもりながら答え、明後日の方向を見て目をそらしてきた……。まあ、ステルク君の反応を見て楽しんでるだけで、別に本当に責めるつもりはないんだけど……半分くらいはね?

 

 

「で、まだこれから鍛練するの?」

 

「ええ。今の時間は (あいだ)の小休憩なので、あと少ししたら 再開するつもりです」

 

 ステルク君の言葉を聞いて、私はあることを はたと思いついた

 

 

「あっ、ちょっと席はずすね!すぐ また来るから!」

 

 私はそう言い残して、ある準備をしに 『演習場』をあとにした

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

「先輩が走って出ていった時に だいたい予想はしていたが……まさか本当にくるとは…」

 

 そう言いながら 息を吐きながら首を振るのはステルク君。…いったい何がそんなに不服なのかしらねぇ?

 

 

 そして、ステルク君と鍛練をしていたマイス君はといえば…

 

「えっと…エスティさん、その格好は?」

 

 私の服装を見て、不思議そうに首をかしげていた 

 

 

 

 そう、私は 今 普段とは違った服装に着替えてきたのだ。それも戦闘用。剣をさげるベルトはもちろん、上着の裏なんかには 投てき用のナイフを仕込んであったるする

 

「ふっふっふ!ふたりの鍛練にまぜてもらって、久々に身体動かそうかなーって思ってね!」

 

 「えっ!?」と驚くマイス君に対し、ステルク君が口を開いた

 

「書類仕事ばかりのイメージがあって 想像がつかないかもしれないが、エスティ先輩はアーランド王国の王宮の中でもトップクラスの実力者なんだ」

 

「えっ、そうだったんですか!?」

 

「まあ、最近は『王宮受付』にいてばっかりだったから ちょっと(なま)ってるけど、これでもステルク君の先輩だからねー、ね?」

 

 私がそう言うと、マイス君はさらに驚き、ステルク君は苦虫を噛み潰したように 口をへの字に歪めた

 

 

 

「ステルクさんよりも……全然知らなかったけど、すごいなぁ…」

 

「何を他人事のように言っているんだ」

 

「え?」

 

「エスティ先輩はキミと打ち合うために こうして用意してきたんだぞ」

 

「あら。ステルク君、よくわかってるじゃなーい!」

 

「ええっ!?」

 

 

 さらにさらに驚くマイス君が声をあげるけど、それを聞き流しながら 私は腰から抜いた双剣を(かま)える。 すると、ステルク君は空気を読んでくれて、後ろへ下がり 私とマイス君から距離をとってくれた

 

 

「それじゃあ!いくわよ!!」

 

 有無を言わせることもなく 私はマイス君のほうへと突っ込んでいく

 

「そんな!?え、ええい!やるしかない!!」

 

 そう言ってマイス君も双剣を抜き……

 

 

 

 私とマイス君の剣が ぶつかり合う音が『演習場』に響いた

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「エスティさん、大丈夫ですか?」

 

 …少し肩で息をしているマイス君が 私のことを心配そうに見つめてきていた

 

 

「は、恥ずかしい……!」

 

 ええ 負けました、負けましたとも…!!

 あんな「私 強いのよー」って感じにいっておきながら マイス君に負けちゃったわよ!!別に怪我したわけじゃないけど、精神的なダメージが大きいわ…

 

 

「まあ、ある意味 当然の結果でしょう。先輩の速さに 時折(ときおり)危なげながらも ついてこれ、なおかつ単純なパワーでは彼が(まさ)っていました……。ブランクが無ければかなりの接戦が続いていたでしょう」

 

 ステルク君がそう評価をしてきたけど……

 

「むぅ…それって、ブランク無しでも マイス君と私は同格くらいってことー?」

 

「あくまで 私の勝手な予測ですから…!実際はどうだかわかりません。そう睨まないでくださいよ、先輩…」

 

 睨みたくもなるわよ…。実際、ステルク君の言ってたことはあってるし……

 

 はぁ…もう!こうなったら これからは鍛練の時間をちゃんと作ろうかしら?最近 鈍っていたのは事実だし、なんだか負けっぱなしなのは性に合わないわ

 

 

 

 

 

切磋琢磨(せっさたくま)! キミ達、(はげ)んでいるようだな?」

 

 

 そんな言葉が聞こえて、とっさに 声が聞こえた方へと目を向けた。そしたら そこには 顔の上半分を隠す形の仮面をつけたアーランド王国国王…もといマスク・ド・G(ジー)が立っていた……って!

 

「ちょっ!?こんなところで何やってるんですか!?」

 

「い、いやっ、そう大きな声を出すことでもないだろう!?…なに、鍛錬に励む姿を見て 少し血が熱くなったというかだな……」

 

 私の言葉に マスク・ド・Gは両手を顔の前あたりにだし、制止をかけてきた。が、今度はステルク君が近づきながら言い放った

 

「血が熱くなっただとか、そんなことを言っているヒマがあったら すぐに戻って仕事をしてください!だいたいあなたは…」

 

「そんなに まくしたてないでくれ!それに ほら、彼がひとり 困っているぞ!?」

 

 

 そう言われて思い出した。そうだ、マイス君もいるんだった

 マイス君は 私とステルク君、それにマスク・ド・Gを順にみて、不思議そうに首をかしげながらも 少し驚いている様子だった

 

「ええっと……知り合いだったんですか?」

 

 そう聞いてくるマイス君に対し、私はどう答えるべきか悩んだ

 確か マイス君と国王は仲良くしているっていう話だったけど……いちおう変装してマスク・ド・Gってことになってるんだし、いろいろと誤魔化してたほうが良いのかしら…?

 

 

「…まあ、知り合いっていうか、ね。ほら『武闘大会』に出てじゃない?」

 

「えっ!?ジオさんって『武闘大会』に出てたんですか!?」

 

 

 

「「「えっ?」」」

 

 

 素の驚きの声をあげたのは 私とステルク君、それにマスク・ド・G…面倒だからもう国王(ジオ)でいいかしら……その3人だった

 

「…なるほど、ロロナくんとは違って 私の変装を見破れたのか」

 

 そうひとりで納得する国王に対して、ステルク君が鋭いツッコミをいれる

 

「いえ、普通 誰でも見破れますよ。 彼女が少し特殊だっただけです」

 

「……ステルク君。それって 何気に ロロナちゃんは変わり者っていってるわよね…?」

 

 いやまあ 私も否定はしないけど……

 

 

 それにしても、なんでマイス君はマスク・ド・Gのことを知らないのかしら…?

 

「あっ、そっか!マイス君は『医務室』に運ばれてたから 決勝戦の後のエクストラマッチのこと知らないんだ!」

 

「ああ、あれか。どこぞの騎士の大剣の下敷きにされた……」

 

 国王の呟きに チラリッと目を向けられたステルク君が「ぐっ!?」と苦々しい顔をする。…たぶん、何か反論したいんだけど、実際 アレは危なかったということがわかっていて 何も言えないんだろう

 そして、マイス君はといえば、「そういえば、クーデリアが『医務室』に来た時「決勝戦の後に色々あった」って言ってたっけ?」と、なにやら思い出していたようだった

 

 

 

 

「まあ、何はともあれ…」

 

 正体が隠せなかったため、必要がなくなった仮面を取りながら 国王がマイス君に向かって口を開く

 

「さきの闘いを見て、是非(ぜひ)とも キミと剣を交わしたくなったのだよ。…受けてくれるかな?」

 

「はい、かまいませんけど…」

 

 「エスティさんといい……今日はこういう日だって割り切ったほうがいいのかな?」というマイス君の呟きを 私は聞き逃さなかった……そんなに嫌だったりしたのかな…?

 

 

―――――――――

 

 

 キンッ  キキンッ

  カキン

 

 マイス君が振るう『双剣』を、国王が 一見 杖に見える『仕込み剣』でさばき、お返しにと言わんばかりに 『仕込み剣』が風を斬る…

 

 そんな打ち合いを 少し離れたところで私とステルク君は見学していた

 

 

「先輩の速さに ほとんどついていけてたので 予想はしてましたが、彼は王に 食らいつけてますね」

 

「んー、でも あれが限界じゃないかしら?だってあの人の速さって 私よりも上だし…」

 

 私たちがそんな会話をしだしたころ、戦っているふたりは一度ぶつかり、弾け飛ぶように 一旦ふたりの間が開いた。そして、また 間を詰め接近して打ち合いをはじめる……と思ったのだけど、マイス君が いきなり不思議な行動をした

 

 

 両手に持つ『双剣』を頭上にあげクロスさせ…

 

「たたみかけるっ!!」

 

 そう声をあげたかと思えば、むかって来ていた国王に急接近。そして、これまでとは比べ物にならないくらいの速さで『双剣』を振るいだしたのだ!

 これには さすがの国王も驚いたようで 身を引こうとしたようだったが、マイス君はそれを追うようにしながら連撃をたたき込んでいく

 

「…ムゥ…!?これは 手加減などとは言ってられんな!」

 

 国王も 先程までの「マイス君の実力を見定めるための様子見」をやめ、本腰で戦い出した

 

 

 

 ……と、ものすごい戦いをするふたり……なんだけど、私としては 私の隣にいるステルク君が…

 

「ねぇ、なんでそんな怖い顔してるの…?」

 

「あそこまでの速さ……俺との鍛練では一度も見せてなかった! くそっ!俺では まだ彼の本気を引き出せてなかったのか!?」

 

 うわっ…ステルク君ったら、珍しく こんなに熱くなっちゃって……一人称を「私」じゃなくて「俺」って言っちゃってるあたりからしても、かなりのものね

 まあ、それだけ真剣になれるくらい マイス君のことを認めてるってことかしら?

 

 

 

「ステルク君たちにも認められて、街の人たちからも人気があって……」

 

 …あの、病室で初めて会ったころの 暗いマイス君がウソのよう。今ではあんなにイキイキしてる

 

 

「すごいわね、マイス君」

 

 

 私の呟きは マイス君たちの闘いの喧騒に埋もれて、他の人の耳までは届かなかった…

 

「どうした!?遅くなってきたのではないか!?」

 

「まだまだぁー!!」

 





 戦闘描写は省かれてしまいました


 『新』ではない『ロロナのアトリエ』を原作に考えてますので、エスティさんは 少しブランクを多めに見積もって書きました
 なので、実際のところの実力としては

ジオ>エスティ>ステルク≧マイス

 ぐらいだと勝手に想像しています


…なお、「剣のみ」ではなく「何でもあり」だと、『錬金術士』がてっぺんを取りに来ます

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