マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

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 『ロロナのアトリエ・番外編』
 それは三年目で何も描写されなていない時期にもしかしたらあったのかもしれない話《前》と、その話があった際にきっとあるであろう後日談ED的な《後》 で構成された短編…になると思います

 原作『ロロナのアトリエ』でいうところの キャラ別の個別エンドの雰囲気を意識したものとなっています


 なお、今回はロロナ視点です。難産でした


ロロナのアトリエ・番外編
ロロナ編《前》


***王宮受付***

 

「お疲れさま。これが今回の報酬よ」

 

「あっ、ありがとうございます。それと、新しい依頼を受けたいんですけど」

 

 報酬を受け取りながら、エスティさんに そうお願いした

 最後の『王国依頼』も たぶんなんとかなりそうだったから、今日は いつもより多めに依頼を受けてみようと思ってた

 

「あら、ありがとうね。ちょっと待ってね……っと、はいどうぞ!」

 

 

 エスティさんから受け取った依頼書の束に目を通していると、あることに気がついた

 

「……なんだか、ここ最近 採取物の納品依頼って「鉱石系」のばっかりな気がするんですけど、何かあって 不足してたりするんですか?」

 

 私の質問に エスティさんは一瞬「そうだったかしら?」って感じに首をかしげたけど、すぐに何か思い当たったみたいで、手を叩いて首を振った

 

「別に何かあったとか そういうことじゃなくて、ただ単に 他のはもう達成されてるから「鉱石系」とかしか残ってないのよ」

 

「えっ?それって どういう…?」

 

「ほら、去年の『王国祭』以降 マイス君名指しの依頼が日を追うごとに増えてね、その依頼の納品の時に「それじゃあ ついでにコッチも…」って「植物系」の納品依頼をこなしちゃうから、残りの依頼が(かたよ)っちゃってるってこと」

 

 それを聞いて 私は納得した

 マイス君のお家の畑では 本当にいろんなものを育ててる。……たぶん、依頼に出ているような植物は、コンテナで保存している分も含めれば 大抵そろうんだろう

 

「私もマイス君が育てたのを 調合に使わせてもらってるしなぁ…」

 

「なんだか感慨深いものよね。ちょっと前まで 右も左もわかってない感じだったのに、すっかり馴染んで 頼れる子になっちゃって」

 

「そうですよね。あの頃のマイス君って……」

 

 

 それから 少しの間、エスティさんと マイス君がアーランドに来たころの話をした……

 ちょっとだけ前のことのはずなんだけど、なんだか とっても懐かしく感じちゃった

 

 

――――――――――――

 

***サンライズ食堂***

 

 用を済ませた私は『王宮受付』を後にし、ちょっと『錬金術』の材料を買いに『サンライズ食堂』に立ち寄ることにしたんだけど…

 

「あれ?あれは……」

 

 『サンライズ食堂』に入った私の目に入ったのは、奥の席に座っている二人組。ひとりは見たことの無い男の人だけど、もうひとりは マイス君だった

 ちょっと気になるけど、ずいぶんと話し込んでいるみたいで なんだか話しかけ辛い…

 

 

「よう、ロロナ。なんか買い物か?」

 

 悩んでた私に話しかけてきたのは、ここ『サンライズ食堂』でコックをしている幼馴染のイクセくん

 

「あっ、イクセくん。えっとね、マイス君とお話してる あの人は誰?」

 

「あれは ただアーランドに立ち寄ったって旅人だよ。でもって、ウチの客だったんだけど…」

 

 そう言いながら難しい顔をするイクセくん。なんだか 呆れているような感心しているような……

 

「どうしたの?」

 

「いやさ、あの客なんだけどよ、出した料理を食ったとたん「このキャベツはドコのものなんだ!!」って言ってきたんだ。で、マイスの畑のものだって教えたら「そいつに会わせてくれ!」って…」

 

「なるほど。それで ああなったんだね」

 

「ああ。今日はたまたまマイスが来る日だったから、来るから待っているよう伝えてさ。で、マイスが来て事情を説明して 紹介したら、ああやって何か話しだしたんだ」

 

 「混んでるわけじゃねぇから、別にいいんだけど」と付け足して言うイクセくん

 

 『王国祭』以降、街の人たちから一層注目されるようになったマイス君だけど、『アーランド』の外から来た人にも興味を持たれて……すごいなぁ…

 私も、エスティさんから「ロロナちゃんの仕事、評判結構いいわよー」なんていわれたことはあるけど、自分で実感したことなくて……

 

 

「あれ?…じゃあ、なんでイクセくんはそんな顔してるの?」

 

「それは…「シェフを呼べ」じゃなくて「生産者を呼べ」ってのが、なんていうかな」

 

 そう言ったイクセくんは大きなため息を吐いて、とっても悔しそうに歯を食いしばっていた。……そんなに悔しいんだ…

 

 

 

 そんなことを話しているうちに、マイス君と話しをしていた人が席を立ち、イクセくんにお礼を言ってから、お店を出て行った

 それに続くようにマイス君も立ち上がったんだけど、その時 私に気がついたみたいで、私のほうへと近づいてきた

 

「こんにちは、ロロナ。今日は買い物?」

 

「うん、そうなんだけど……マイス君、さっきの人と何の話してたの?なんだか ずいぶん話し込んでたみたいだけど…」

 

「農業のことだよ。なんでもあの人 農家の跡取り息子らしくて、今回の旅は 農家を継いでしまう前に街とか色んなものを見てまわりたかったから 始めたらしいんだ」

 

「なるほど。農家だったから 料理そのものじゃなくて素材のほうに興味持ったんだな」

 

 マイス君の話を聞いて納得したように頷くイクセくん。その顔は なんだか少し安心してるように見えた

 

 

「……あの人、本当は農業以外の仕事に憧れて 旅の中で何かを見つけようと思ってたらしいけど、旅を止めて 一度実家に帰るんだって。「他のことを見つけるのは、もっとちゃんと親父たちの農業を知ってからでも いい気がしてきた」だってさ」

 

「都会に憧れて、親の仕事が格好悪く思ってたりしてたのかもな。……となると、跡取りを送り返してくれたマイスは、その農家にとってはちょっとした恩人かもな」

 

「あはは、それはどうだろう?これから先、どうしていくかは 結局 あの人次第だからね」

 

 笑いながら話すマイス君とイクセくん。その会話の中で、さっき エスティさんと話したことを思い出した

 

 ……マイス君、いつの間にか 立派になったよね…。 最初の頃は なんだか頼りなさとか他人行儀なところが少しあったけど、今は 初めて会う人ともすごくよく話すし お仕事もものすごくできて……

 ほむちゃんやくーちゃんに「マイス君は私の弟」みたいなこと言ってたけど、今じゃ 私の方がマイス君に頼りっきりだなぁ……

 

「……ちょっと 寂しい、かな?」

 

「…えっ?ロロナ、どうかした?」

 

 気づかないうちに声に出ちゃってたみたいで、マイス君が どうかしたのかと聞いてきていた。イクセくんも不思議そうにコッチを見ていた

 

「う、ううん!何でも! そろそろ 買い物済ませちゃおうかなーって思っただけだから」

 

「お、そういや ロロナは買い物に来てたんだっけか?何が必要なんだ?」

 

「えっとね、お塩と それと…」

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 『サンライズ食堂』で買い物を終えた後、マイス君はまだイクセくんに用があったみたいで、私だけが先に食堂を出るかたちになった

 

 アトリエまでの帰り道、私はマイス君のことを色々考えてた

 

「一時期 元気が無かったこともあって……そう考えてみると、マイス君だって頑張ってるんだから 良い事だよね? よぉーし!寂しがってないで、私も マイス君に負けないようにお仕事頑張らなきゃ!」

 

 握りこぶしを作ってギュっと力をこめる

 アトリエに帰ったら、さっそく ほむちゃんに手伝って貰って、納品用のアイテムを調合しなきゃ!

 

 

 そう考えながら歩き、アトリエまで帰り着いた

 

 

 

 

―――――――――――――――

***ロロナのアトリエ***

 

 

「ただいまー…って、あれ!?」

 

 帰り着いたアトリエには、ほむちゃん以外に 何故か私のお父さんとお母さんがいた。それに、ただ いるだけじゃなかった

 

 

「信じられないわ!この浮気者!!」

 

「それはコッチのセリフだ!」

 

 

 アトリエにわざわざ来るっていうのも珍しいけど、どうしてケンカしてるの……まさかの出来事に ほむちゃんも困った顔をしてるよ…

 

 

「ああっ、もう!ストーップ!!お父さんもお母さんも、なんで ケンカしてるの!?」

 

 私が二人の間に入るように 止めに入り、どうしてこんなことになったのか説明を聞こうとした……なのに

 

「「ロロナ!!」」

 

ガシッ!

  ガシッ!

 

「ふぇ!?」

 

 間に入った私の腕を お父さんとお母さんがそれぞれガッシリと掴んできた

 

「ロロナ!その人と一緒にいちゃダメよ!!私と来なさい!」

 

「いいや!ロロナ、私と来るんだ!!いいな!」

 

「ちょ!?痛い!痛いってばー!引っ張らないでー!!」

 

 掴まれた左右の腕を引っ張られて、まるで綱引きの綱のようになってしまった!二人とも 引っ張るのを止めてくれなくて、なんだか 私の腕からミシミシと聞こえたような気が……気のせいであってほしい…

 

 

 

ガチャ…

 

「ロロナー?なんだか騒がしいけど、何かあった?……えっ!?」

 

 アトリエの玄関を、珍しくノック無しで開けたのは マイス君だった

 『サンライズ食堂』での用事が終わって帰っている途中、アトリエの前を通って 騒ぎを聞きつけたのかもしれない

 

「マイスくーん!たぁ助けて~!!」

 

「助けてって…。これ、どういう状況なの?」

 

 そう言ってマイス君が目を向けたのは ちょうど扉のわきに立っていた ほむちゃんだった

 

「それが、ホムにもよくわからないのです。…すみません、おにいちゃん」

 

 

「「おにいちゃん?」」

 

 ほむちゃんの言葉に反応したのは、今の今まで 私の言ったことも聞こえていなかったような お父さんとお母さんだった

 二人は やっと私の腕を引っ張るのを止めて、ほむちゃんとマイス君の方に目を向けていた

 

「あら?あの子は確か……」

 

「キミは…?そうだ、前にも会ったことが…」

 

 ふたりして マイス君をジッと見つめて何か考えだしたかと思えば、二人同じタイミングで私の腕をはなして ポンと手を叩いた

 

「「なるほど!そういうことだったのね(か)!」」

 

 

 

「イタタっ…もう、いきなり…って、ええっ!?」

 

 何か勝手に納得した二人が私に詰め寄ってきた!

 

 

「もう ロロナったらー。そういうことなら もっと早く言ってくれればよかったのに! だから あの女の子が「私は妹のようなもので」って言ったのね。…ごめんなさいね、アナタを疑っちゃって」

 

「いいって。私もてっきり 浮気されてて、ソイツとの子かと……って、そうじゃない! ロロナ!私は認めないぞ!!」

 

「あら?私は前から ロロナと結構お似合いだと思ってたんだけど…?ほら、なんていうか こう、ピッシリカッチリしたカッコイイ人って感じじゃなくて、愛嬌の有る人のほうが ロロナと相性ピッタリな気がするじゃない?」

 

「いやいや、もっとこう ロロナをしっかり護れるような……じゃなくて!そ、そもそも ロロナにはまだ早い!!」

 

 

「お父さん?お母さん? 何 言ってるの???」

 

 あーもう、わけがわからない……

 

 

 

 えっと、「あの女の子」っていうのは たぶん ほむちゃんのことで、ほむちゃんの言ったことを真に受けて 本当に私の妹だって思って、そこからケンカになってた…ってことだったのかな?

 

 それで、その後 マイス君が来て、ほむちゃんがマイス君のことを「おにいちゃん」って言って……たぶんそこで マイス君とホムちゃんが 本当の兄妹って思って…

 

「ってことは……あれ?」

 

 ……もしかして、お父さんとお母さんは マイス君とほむちゃんが兄妹って思ったことで、ほむちゃんの言った「妹のような」っていうのを「妹」じゃなくて……「義妹(いもうと)」って……

 

 いやまさか、そんな突拍子もないこと……でも、さっきの二人の話の内容的に、今の二人の頭の中では……

 

 

『兄:マイス 妹:ホム』であり

『義姉:ロロナ 義妹:ホム』でもある

つまり…『マイス―♡―ロロナ』ってことに…

 

 

 

「う、うえぇぅ!?ちょっ…!ちょ!!お母さん!お父さん!そ、そう いうのじゃ…!!」

 

 

「あらあら。そんなに慌てなくていいわよー。色々聞いてみたいけど、せっかくの彼と ふたりの時間を邪魔しちゃ悪いわよね」

 

 「ふふふっ、わかってるわよ」と微笑んだお母さんは、お父さんとほむちゃんの手をとって…

 

「ごゆっくり~」

 

ギィー……パタン

 

チョ…ヒッパラナイデクレ!ワタシ ハ マダ!

ナゼ ホムマデ……

イモウトチャン、フタリ ノ コト イロイロ キキタインダケド……

 

 

 お母さんたちがアトリエから出て行った後、外から色々聞こえてきたけど……

 

「えぅ…………」チラッ

 

「…………?」チラッ

 

 それよりも、この空気で マイス君と二人っきりなことをなんとかしないと…!でも、何を言えばいいの!?

 

 

「…ねぇ、ロロナ」

 

「ひゃっ、ひゃいっッ!?」

 

 

 

 

 

 

「結局、ロロナのお父さんたちは 何でケンカしてたんだろう?」

 

「ふぇ?……えーと、何でって…」

 

 もしかして、マイス君 今さっきの流れ、何もわかってない…?

 

「よくよく考えたら、それはそうだよねぇー…。タントさんとかだったらまだしも、マイス君だもんね。あははは…」

 

 私ひとりが勝手に変に(あわ)てていたことが ちょっと恥ずかしくて、お母さんたちが誤解していると気付いた時とは別の意味で 顔がとても熱くなっちゃった…

 

 そんな私を マイス君が不思議そうに見ているのに気がついて、ジッと見られてる事に慌てつつも、何とか取り繕おうとする

 

「お父さんとお母さんがケンカするのは、偶にだけど よくあることだから、気にしないでいいよ」

 

「たまに…よくある……?えっ、それって どっちなのかな?」

 

「と、とにかく!ちゃんと仲直りしてたみたいだから 大丈夫だよ!」

 

 マイス君は首をかしげながら「そう?」って言って 少し心配そうにしながらも、とりあえずは納得してくれたみたいだった

 

 

 

「そういえば、ロロナは大丈夫なの?」

 

「えっ?うん。ちょっと痛かったけど 大したことは」

 

「いや、そっちは動いてるの見てたら大丈夫そうだったから そんなに心配はしてないけど…」

 

 ……?じゃあ何のことだろう?他に何かあったかな?

 

「ホムちゃん 連れていかれちゃったけど、お仕事の予定が詰まってたりとかしない?」

 

「あっ…!」

 

 今日『王宮受付』で受けてきた依頼、調合の日数を考えると けっこうカツカツだったりするんだけど、ほむちゃんもいるから大丈夫って思ってたから……

 

「ううぅ…かなりギリギリかも…」

 

「やっぱり?なんとなく そんな気がしてたんだ」

 

「どうしよう……というか、お母さん 何でほむちゃん連れて行っちゃうかな…」

 

「本当になんでだろう?…まあ、そんな長い間 帰ってこないわけじゃないだろうし、とりあえず ホムちゃんが帰ってくるまでは僕が手伝うよ」

 

 「ホムちゃんほど錬金術が上手いわけじゃないから、そう手伝えないかもしれないけどね」って 少し申し訳なさそうに付け足すマイス君

 

 

「えっと…それじゃあ お願いしてもいいかな?」

 

「うん!任された!」

 

 マイス君って どれくらい錬金術できるんだろう?実際にやってるところは見たこと無いから わからないなぁ

 ティファナさんのお店に置いてある マイス君の作ったっていう薬は、質も良かったし、錬金術も それ相応に上手いのかな?

 

 なんだか、マイス君との調合のお仕事 すごく楽しみになってきちゃった!

 

 

 

============

 

***アトリエ・奥の部屋***

 

「フム、最初から見ていたというのに、完全に 出るタイミングを失ってしまった。このまま二人で作業させるのは少々(しゃく)だが…………まあ、マイスなら そんなに気にする必要もないか。 とりあえず、裏口から出て ホムの様子でも見てくるとするか…」


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