マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

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※2019年工事内容※
 途中…………


マイス「小さな変化」

***王宮受付***

 

 僕が普段から活用している『王宮受付』。街の人たちの要望等を一纏(ひとまと)めにし、依頼として出している場所だ

 もちろん、僕以外の人たちも この依頼をこなしている。アトリエのロロナもその中の一人だ

 

 その『王宮受付』だが、今日は少しだけ 様子が違った…

 

 

――――――

 

 

「それじゃあ、コレとコレ……あとコッチの依頼を受けるよ」

 

「分かったわ。ちょっと待っててね」

 

 そう言って 必要な処理を依頼書におこなっているのは、いつものエスティさんでは無く……

 

「はい、どうぞ。いちおう期限に余裕はあるけど…って、馬鹿真面目なあんたに言う必要はなかったわね」

 

「あははは。じゃあ その期待に応えられるようにパパッとこなしてみせるよ、()()()()()

 

「早くするからって、質を落としたらダメよ」

 

「もちろん!胸を張れる仕事をするよ!」

 

 受付のカウンター越しの会話だけど、クーデリアはいつもと変わらずビシバシ言ってくる。…まあ、こうじゃないとクーデリアらしくないんだけど

 

 

 

「うんうん。やっぱり 私が見込んだとおり。クーデリアちゃん、ここの仕事があってるんだわ」

 

 そう言うのは、隣でクーデリアの仕事っぷりを見ていたエスティさん。何やら 嬉しそうに笑って、「ウンウン」と頷いていた

 

「キチンとしてて、ビシッバシッ言えて、仕事もすぐおぼえて……ホント 助かるわー」

 

 

「…この前 手伝った時から、ずっとこうなのよ。どうにかしてくれない、マイス」

 

「どうにかって……うーん?王宮勤めの人って たくさんいるはずなんだけど…」

 

 そういえば、エスティさん以外で 受付で仕事している人を見た覚えが無い。…もしかして、受付の仕事って エスティさん一人でまわしてるのだろうか

 

 僕の言葉が聞こえたようで、エスティさんがこっちを向いて首を振ってきた

 

「なかなかいないのよ?ここの仕事をちゃんと出来る人って」

 

「それじゃあ、エスティさんは休みは無いんですか!?」

 

「いちおう一日ぐらいなら任せられる子がいるんだけど…それでも、全部こなせなくて仕事が残ったり、二日連続ではできなかったり……おかげで、ろくに休みは取れてなくて」

 

 思った以上に受付の仕事は大変なみたいだ

 ということは、それをこなせるクーデリアは 王宮からしてみれば結構重要な人材なのだろう……その前に、他の王宮勤めの人たちを基礎から鍛える必要があるのでは…

 

 

 と、そんなことを考えていると、いつの間にかクーデリアがエスティさんをジトーっと睨んでいた

 

「言っとくけど、前 話してたような理由であたしに仕事を押し付けようっていうならお断りよ」

 

「えー、そんなぁ……ダメ?」

 

「当り前よ!」

 

 ……?一体、なんのことだろう?

 

「あの、前 話した理由って…?」

 

「受付の仕事が忙しすぎて、私、このままじゃロクに出会いが無いまま行き遅れちゃいそうだなーって」

 

「つまり、あたしに その行き遅れる仕事を押し付けようとしてるわけ」

 

 困ったように言うエスティさんに対し、クーデリアは呆れたようにため息を吐く

 行き遅れ……つまり、結婚ができずにいるって意味だろう。エスティさんは そういうことを気にしないといけない歳なんだなぁ…

 

「でも 受付って、依頼する人に受ける人、それに王宮勤めの人もここを必ず通るから、 アーランドの街の中でも人との出会い自体は多いはずじゃあ」

 

「確かに、それもそうよね…」

 

 (いぶか)しげにエスティさんを見るクーデリア。僕も「どうしてですか」と疑問の目をむけてみる

 

「だ、だから そもそも忙しすぎるのよ!」

 

 本当にそれだけなのだろうか?だって、『王国祭』前とかの忙しい時期以外は結構ヒマそうにしていて、僕が 暇潰しの話し相手を何度かしたこともあるくらいだ

 時期によって左右される、忙しさが極端な職場……だとしても、ヒマな時期にいくらでも…

 

 

 まあ、いいか。僕がここで色々考えても 結局はエスティさん次第なんだから

 

 

 

 

――――――――――――

***広場***

 

 『王宮受付』から出た僕は、家へと帰るために街を歩いていたんだけど…

 

「『広場』にあの人だかり……もしかして」

 

 少し早足になりながらも、僕はその人だかりへと近づいていった。そして、予想が当たった

 

 人だかりの中心には 一人とふたり。それらが踊るように動きながら役を演じ、観る人を()きつける

 そう、リオネラさん、そしてホロホロとアラーニャによる人形劇だ

 

「まだ始まってあんまり経ってないみたいだし、今からでも遅くないよね」

 

 人だかりの隙間から見える位置を探し当て、そこからリオネラさんたちの劇を観ることにした

 

 

――――――

 

 

「彼女の劇を観に来てたのかい?」

 

 そう小声で声をかけられたのは、劇が終わった ちょうどその時だった

 僕は声のした方へと振り返った

 

「あっ、タントさん。タントさんも観てたんですか?」

 

「うん、ちょっと前からね。本当はその時にキミに声をかけようかとも思ったんだけど、ずいぶんと劇に熱中してたみたいだったから。邪魔しちゃ悪いと思ってね」

 

「すみません、気をつかってもらって…」

 

 「まあいいさ」と返すタントさんは、いつも通りの格好で……って、あれ?

 

 

「その真新しい楽器って、ロロナからのプレゼントだったりしますか?」

 

 僕がそう言うと タントさんは驚いたようで、少し目を見開き 口もポカンと開いた

 

「おや?どうしてそのことを…作ってるのでも見た?それともロロナから聞いてたのかな?」

 

「いえ、なんとなく『錬金術』で作ったものって感じがして……アストリッドさんが作るとは思えないし。だったらロロナかなーって」

 

「へぇ…『錬金術』で作ったものは 見る人が見ればわかるものなんだ」

 

 驚き半分 感心半分といった様子で頷くタントさん

 ……だけど、なんとなくそんな感じがした…つまり第六感的なものだから 絶対わかるわけでもないし、他にもわかる人がいるかどうかもわからないのだが…

 

「この楽器は… 話せば長くなるんだけど、ついこの間 僕がロロナに頼んで作ってもらったんだ。ちょっとしたケジメにね」

 

「ケジメ…ですか」

 

 タントさんの表情は、普段はあまり見かけない真面目さと寂しさ そして少しの嬉しさが混ざったような複雑なものだったが……その雰囲気から タントさんが何かを決心したのだろうと感じ取れた

 

 

「っとまあ この事は結構前の話なんだけどね。うちの親父とキミの農場を視察に行く そのちょっと前くらいかな?」

 

「それって 本当にかなり前の話ですね…」

 

 時間にして3,4カ月くらいだろうか?でも、それくらい前に貰ったものなのに 余りにもキレイ過ぎる。よっぽど大事にしているか、数えるほどしか使っていないか……その両方か

 

 

 

 そんな話をしていた僕たちに、誰かが駆け寄ってくるのが視界端に見えた

 

「あっ マイスくん、観に来てくれてたの…」

 

「うん、途中からだけどね」

 

「そうだっ…えぅ!?」

 

 駆け寄ってきたリオネラさんが、僕と話していたタントさんの顔を見て 驚いたような、困ったような…そんな顔をした

 

「タントさん……いったい何をしたんですか?」

 

「いや、別に怖がられることは何もしてないから!……というか、キミって そういう怖い顔も出来るんだね(ボソッ」

 

 タントさんは 何やら最後に小声で言っているけど、ウソを言っているようには見えなかった。でも、リオネラさんがあんな反応するのには何か理由があるはずなんだけど…

 

 

 

「まぁ、なんにせよ 二人の邪魔をしたらいけないから、僕はここで退散するよ」

 

 いつもの調子に戻ったタントさんがそう言った ちょうどその時、僕はタントさんの後ろから近づいてくる人影に気がついた

 

「あぁ……確かにちょうどいいと思います」

 

「…………!(ウンウン」

 

 リオネラさんもソレに気がついたようで、僕の言葉に同意するように頷いていた

 

「……?仲が良いみたいでなによりだけど…?」

 

 そんな僕らの反応を不思議に思ったのか、少し首をかしげるタントさん……の肩を 後ろから叩く手が…

 

「ん?なん……っ!?」

 

「毎度毎度、チョロチョロと逃げ出しおって……!」

 

 タントさんの後ろにいるのは、彼の父親であり この『アーランド王国』の大臣であるメリオダス大臣さんだった

 青筋を浮かべたその顔は まさに「憤怒」といったところで、声も腹の奥から絞り出したような怒声……怒られてる本人じゃないのに 僕も怖く感じた

 

「今日という今日は許さんぞ!!」

 

「ちょ…っ!こんな街中でそんな大声あげたら…!」

 

「大声をあげさせてるのは、誰だと思っている!!」

 

 

ワーワー ギャーギャー

 

 

 騒がしく去っていく二人を見ながら、僕は隣にいるリオネラさんたちに言った

 

「ケンカするほど仲が良い……のかな?」

 

「いや、それは違うんじゃないかしら?」

「どう見ても ただのケンカだろ」

 

 さっきまで黙っていたアラーニャとホロホロが返答してくれた。が、リオネラさんの反応は無かった

 

 リオネラさんのほうへ目を向けてみると、タントさんとメリオダス大臣さんの後ろ姿をジッと見つめていた

 

「…リオネラさん?」

 

「あっ!?ううん、なんでもないの」

 

 僕の声に反応して 僕の方に顔を向けてそう言ったが、またタントさんたちを見て口を開いた

 

「……もう、大丈夫。マイスくんやロロナちゃん、フィリーちゃんが「怖くない」って言ってくれたから」

 

 …なんとなく リオネラさんの持つ『力』のことだとわかったけど……でも、それが何でタントさんと関係があるのだろう?

 

 

 僕は気になって リオネラさんに問いかけようとした。…けど、リオネラさんが 再び僕の方に向けてきた顔が とってもいい笑顔だったから「…聞く必要も無いか」と思い、なんとなく僕も笑顔を返した


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