※2019年工事内容※
誤字脱字修正、句読点、行間……
***王宮受付***
「はい、依頼品はちゃんと受け取ったわ。お疲れさま!」
依頼の用紙に最後の記入をし終えたエスティさんが、労いの言葉をかけてくれた。
「ありがとうございます! こちらこそ、いつも難しい手続きとかを任せきりにしてしまって……」
「まあ、それが私の仕事でもあるからね、気にしないで。……ああ そうだ」
何かを思い出したようで、エスティさんは受付のカウンターにのりだすようにズズイっと僕の方へと顔を寄せてきた。
「ねえねえ、うちの妹に何したの?」
「ええっ? エスティさんの妹っていうと、フィリーさんにですか?」
「いやね、あの子相変わらず人見知りはするんだけど、でも少しずつ話せるようにはなってきててね。それで、どういう方法を使ったのかなーって」
あまり自信のある方法ではなかったんだけど、少しは効果はあったようで、僕は内心安心した。だって、「方法」とは言っても実際はほぼフィリーさん次第であって大したものではなかったからね。
「えっとですね、簡単に言うと『人と話すのが苦手なら、人以外で練習しちゃおう作戦』です」
「……? って、どういうこと?」
「他人との付き合いって話すことで繋がるものだと思います。つまり「話す」ということに対する苦手意識があったらダメなんです。だからまずは自分から喋れるようになっていけばいいんです。でも、そもそも人見知りで人と話せない……そこで僕の友達に手伝ってもらいました」
「友達……ああ、青い布を巻いたモンスターのことね」
あれ? 話したかな?
青い布のことを知っていることに驚いていると、エスティさんはそれに気づいたようで――
「
「……というと、ジオさんとお知り合いなんですか?」
「まあ、ちょっとね。あははは……」
乾いた笑いを浮かべるエスティさんを見て「これ以上は聞かないほうがいいんだろうな」と予感し、とりあえず話を前に戻すことにした。
「それで、フィリーさんの警戒を解いた後 自発的に喋ってもらって、それに対してモンスターが鳴き声やアクションで返事をしたり相槌を打ってもらうことで疑似的な会話をすることができて、会話の練習になっていくんです」
「ふーん…なんとなくわからなくもないけど、それって人との会話と同じくらい難しいんじゃない?」
「たしかに難しいことですけど、「襲ってこないモンスター」って一度警戒を解ければ モンスターの鳴き声は良くも悪くも好きに解釈できてしまうから、小さな子供がお人形に話しかけるのと近い感覚になれると思うんです」
「ほどよく「他人との会話」と「一人遊び」の中間ってとこかしら? なるほど、それで少し話せるようになったと……まだまだ先は長そうだけど」
まあそれは仕方ない事だよね。いきなり変われといわれても出来るものじゃないし、少しずつでいいとは思う。
そもそもこの方法は 、シアレンスにいた人見知りさんなどにモコモコ状態の時に会ったら予想外にもフレンドリーだったことを思い出して考えたものだ。……故に、かなり行き当たりばったりではあったけど。
いろんな事情があるので、エスティさんには「僕の友達」のモンスターと説明したが、実際は僕自身だったりすることも秘密だ。
「そうそう、遊びに行きたそうにしてたから今度家に行ってあげてくれない? 街を散策するとか、マイス君の家でお話しするとか好きにしていいからね。とりあえず、家にこもって不健康なあの子を外に出してくれればいいから!」
「はい、わかりました!」
「うん、よろしくね」
そう言いながらエスティさんは僕の頭をなでてきた。
それにしても、アーランドの人はよく僕の頭をなでるけど どうしてだろう?身長が低くてなでやすいからかな?
―――――――――
***職人通り***
依頼も済ませたので、家へと帰るために職人通りを歩いていた。すると、アトリエから男の子が出てきた。
「まいどありっ! また、今度もよろしくな」
「うん! またね――あっ、マイス君!」
「ん?」
お見送りをするために玄関先まで出てきたロロナが僕に気づき声をかけてくる。それに釣られるように男の子もこちらを向いてきた。
「こんにちは、ロロナ。それと、はじめまして! 僕はマイスっていいます!」
「オレは行商やってるコオルってんだ。……このねえちゃんから話は聞いてて知ってるんだけど、本当元気なにいちゃんだな」
行商人らしいコオル君は僕より年下のようだけど、それでもちゃんとした商人の仕事をしているとなると凄い事だと思う。アーランドでは普通のことなんだろうか……?
そういえば、シアレンスにも行商人さんが来ていたけど、アレってどこで仕入れてきたのかわからないような物が結構あって驚かされてばかりだったなぁ。
そんなことを考えていると、「でもなぁ」とコオル君が面倒そうに言って、それを見たロロナが口を開いた。
「どうかしたのコオルくん?」
「一回あんたから聞いた後、このにいちゃんの家を見たことがあってさ。その時留守だったけど自給自足で十分やっていけてる感じで、オレとしては客にならないなー、て思ってさ」
確かに、商人としては客になりそうも無い人の相手はあまり有意義ではないのだろう。コオル君の言うとおり、僕は特に生活に困っているわけでもなく、欲しい物も街で問題無く買えるので客には…………そうだ!
「コオル君、ちょっと相談があるんだけど……」
「「コオル」でいいぜ。で、なんだよ?」
「野菜とか……作物の種が欲しいんだ、できればこの街ではお目にかかれないようなものが。取り扱ったりはしていないかな?」
「そういえばマイス君「育てたことの無いものを育ててみたい」とか言ってたもんね。……それで錬金術を始めたって聞いた時にはすごく驚いたけど」
前に話したことを憶えてくれていたロロナが思いだしたように言ってくれたおかげで、コオルもすぐに理解してくれたようだ。
「なるほどな、にいちゃんの要望はわかった。正直おれはそういうものは専門外だけど、 行商仲間にちょっと聞いてまわったりしてみる。次の機会には何とかなると思うけど、ちょっと値が張ると思うぜ」
「うん、わかった。お金はしっかり用意しておくよ」
「んじゃ、またな!」
そう言いながら手を振ってよそへと歩き出していった。
「コオルくん、しっかりしたいい子でしょ?」
後ろ姿を眺めていたら、ロロナが嬉しそうに話しかけてきた。
「そうだね。どんな商売相手でも物怖じせずに上手く交渉できそうな子だよ」
「ホントだよ……「生意気で可愛げの無いガキだ」って師匠は嫌ってて、コオルくんも何も買わないからって師匠とは……」
「なるほど」
その光景を想像するのはそう難しくは無かった。
ロロナはおそらく その2人が言い合った際に実際にその場にいたことがあるのだろう。その時が大変だったのだろうか、思い出し泣きというなんとも器用なことをやっていた。