マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

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 大変遅くなってしまい申し訳ありません!
 相変わらずの遅刻魔野郎。思い付きで登場人物を増やすから……けど、おかげで満足して……そして『IF』のほうの内容にも影響与えちゃって、加筆修正間に合わなくって……4,5人以上を一気に動かすのは自身の技量的に無理があったと気付かされました。


 前回に引き続き、「独自解釈」、「捏造設定」のオンパレード。そのうえ、各ルートごとに違和感が発生したりしだします。
 『本編』である『ロロナルート』ですら違和感が所々にありますのでご注意ください。……本筋をまとめていくには仕方ないのです。


 三人称でのお話。
 そして……私の頭の中で、途中からあるBGMが流れてました。



GO GO TOTORI

 

 

 

――マイスがいなくなった

 

 

 誰かに出かけることを告げることも無く、『青の農村』の村長・マイスが姿を消してから丸一日が経った。

 幸か不幸か、お祭りの開催日が近かったこともあり人が集まり出していた『青の農村』。その結果、その報せは『青の農村』に……そして『アーランドの街』にまですぐさま広まった。

 

 マイスがいなくなったことに対する反応はひとそれぞれ。

 

 悲しむひと、怒りを覚えるひと、信じないひと、何が何だか理解できないひと、心配になって喉に何も通らないひと、「そのうちフラッと帰ってくるだろ」と心配しないひと。

 

 

 そして、マイス(かれ)と繋がりが深かった人物の何人かは、特に示し合わせたわけでもなく()()()()に集まることとなった。

 話の真相を、確かな情報を少しでも得るために……。

 

 

 

―――――――――

 

 

***青の農村***

 

 

「――つーわけで、畑の状況や家の裏手に『ジョウロ』が転がってたっていう状況からして、昨日の早朝、村長(あいつ)が畑仕事をしてる最中みてーだ。オレが家に行っていないのに気がついたのは、そんあとってわけだ」

 

 マイスの家の前、畑がすぐそばにあり見渡せる場所にあるちょっとしたスペースに集まっている人々にそう語っていたのは、実質『青の農村』No2である商人のコオル。マイスがいなくなっていることに人間で一番最初に気付き、遠出することも報告されていなかったため村の人たちにも確認を取って周っていなくなったことを確信した人物でもある。

 

 コオルの前にいるのは、マイスがいなくなったことについて詳しく知りたがっていた、マイス(かれ)と少なからず親しい人々……ロロナ、クーデリア、リオネラ、ステルク、フィリー、トトリ、ジーノ、ミミ……計8人。

 いや、かれらの他にもティファナやハゲルといった『アーランドの街』の人々が数人、村に住んでいる人だけでなく『青ぷに』や『たるリス』などといった『青の農村』の者達がちらほら。

 

 

 そんな中から、耐えきれないといった様子で声をあげたのは、コオルとは昔から商売的な繋がりもあったロロナだった。

 

「ねぇ! マイス君、ホントの本当にいなくなっちゃったの? どこかにお散歩に行ったとか、そういうのじゃなくって……?」

 

「村長のことを最後に目撃したのは……村長んとこの『モンスター小屋』で寝泊まりしてた古参のウォルフ。小屋の外に感じがしたらしくって外を覗いたら、『光の穴』に吸い込まれてくマイスを見たらしい。それが俺が家に行くちょっと前で……それからはサッパリだ」

 

 ロロナの問いかけに首を振りながら答えたコオル。それに対して次に疑問を口にしたのは大道芸人のリオネラ。泣きそうな顔をしながらもコオルの話に耳を傾け続けていて……その中で気になった言葉を無意識に繰り返していたようだった。

 

「光の穴……?」

 

ウォルフ(そいつ)がそう言ったんだよ。つっても、ウォルフ(そいつ)もどう言ったらいいかわからんって感じだったから()()()()()()()くらいの認識しかできねぇいんだよ」

 

「しかし、そもそも本当にそのモンスターの証言は信用できる物なのか?」

 

 少し喰い気味になりながら言ったのは、難しい顔をした騎士・ステルク。

 彼もそう短くない付き合いをしてきているため、「『青の農村』の大半の人間がモンスターの言いたいことがわかる」などという噂の真偽は知ってはいる。が、念には念を入れてか、訝しげにコオルに聞いていた。

 

 

「証言としては信用できないかもしれないのは百も承知だ。もしかしたら、夢でも見てた可能性だって無くは無いんだからな。……けど、状況的に考えて目撃情報は間違い無いと思うぜ?」

 

「状況……? 何か他に手がかりでもあったりしたのっ?」

 

 リオネラと同じく涙目でプルプルと震えていたフィリーが、不安そうに……しかし、希望がないのか縋りつくように問いかけた。

 

「例のウォルフ以外の他のヤツにも協力してもらったが、マイス(あいつ)の匂いは目撃情報通り家の裏手でぷっつりと切れてるんだ。何がどうしてそうなったかはわかんねぇけど、ほっぽり出された畑仕事の事も併せて考えると、その『光の穴』ってのに呑まれて消えちまったって言うのが筋が通っちまってるんだ」

 

 「けど、その先はサッパリなんだ」と困ったように肩をすくめてみせながら首をふるコオル。

 周りの人々も首をかしげたりしながらガヤガヤと「何か知っていないか」、「何か手がかりになるようなものは」と各々近くにいる者と喋りだす。

 

 

「『光の穴』……言い表し方の問題で…………もしかして……?」

 

 あごに指を当てて考えていたクーデリアの小さな呟きは、ざわめきの中に沈んでしまい…………

 

 

 

 

 

「ふむ。予想はしていたが()()()。それも……様子からして、()()()()()()()

 

 

 

 

 

 いやによく通る声。

 

 そう表現してしまいたくなるほど、その声はざわめきの中でも人々の耳にもすんなりと入っていった。

 そして、自然と皆の視線が声のした方へと向いた時……その内の何人かは驚いたような反応をし……そのまた数人は声まであげた。

 

 

「師匠!?」

「アストリッド!?」

 

 

 眼鏡を片手でクイッと上げながら、ヘラリと……呆れた様子で笑うのは、「悪名高い錬金術士」などとも呼ばれるロロナの師匠・アストリッドだった。

 

「そう大声で呼ばなくとも聞こえる。それとロロナ、私の事は「お姉さま」と呼べと――」

 

「呼びません! って、どうしてここに!? 今までどこに…………ううん、そんなことより……」

 

 

 いきなりの事に頭が追い付いていないのか髪をワシャワシャしてしまいながらも何とか思った事を言葉にしていこうとしているロロナ。

 しかし、それを待つよりも先に、ロロナ(かのじょ)の弟子であるトトリが他の何人かも気になったことを口にするのだった。

 

 

「あのっ!「ヤツが帰った」って、どういうことなんですか? もしかして……マイスさんと何か関係が……!?」

 

「むっ、お前は確か……それはまあ後でいいとして、特別に質問に答えてやろう」

 

 変に上機嫌になったアストリッドが、彼女にしては珍しく何の面識も無いはずのトトリの願いに対してすんなりと承諾し……一呼吸おいてから再び口を開いた。

 

 

 

「お前が思った通り、ヤツとはマイスのことだ。マイスが帰ったんだ、ヤツが元いたこことは違う世界……『異世界』にな」

 

 

 

「いせかい、って何の話だよ?」

 

「どういうことだアストリッド」

 

 話が飲み込めず首をかしげるジーノ。その隣にいるステルクがアストリッドにさらなぬ説明を求め、その眼つきをさらに険しくした。

 

「ホム」

 

「はい、グランドマスター」

 

 アストリッドの呼びかけに、彼女の背後からスッと現れた「ホム」と呼ばれたお琴の子。その子は幅が10cmほど細長い紙の両端を持ちその腕でめいいっぱい横に広げてみせた。

 その紙には何やら目盛と、上半分とした半分でそれぞれギザギザと上下に振れている赤と青の二色の線が描かれていた。

 

「これは私の研究の一端で、ホムに管理を任せていた装置から観測・集計されたデータなのだが……簡単に言うが、赤い線が(プラス)の増減で、青い線が(マイナス)の増減。これと同様のデータを観測・集計する装置を複数個所に設置することで、位置による観測データの差をまとめ、発生位置・規模を推測し記録することができるのだ」

 

「発生?」

 

「お前たちが『ゲート』と呼ぶアレのことだ。この赤い線のほうがその『ゲート』と同じ方向性を持ったエネルギーを観測した際に反応し計測された、というわけだ。単純に言うと『ゲート』が増えればこの(プラス)の数値が増加する」

 

 そう言ってアストリッドが指差し示すのは、グラフの上半分の中でも上のほうをウロウロしている赤い線。

 ……対して、した半分に示されている青い線は、上下を分けている中央の主軸の太い線、そのすぐ下のそばを走っていた。ソレは()()()()()()()()ほぼ上下することなく多少の波打ちだけの変動だった。

 

 しかし、そもそも(マイナス)の数値はなんなのか……?

 その疑問を誰かが口に出すよりも早く、アストリッドのほうからそのことについて説明が始まった。

 

「『ゲート(アレ)』を(プラス)と考えた時……()()()()()()の反対方向の流れ……それがここでの(マイナス)の数値。つまりは、こちらから『ゲート』の向こう側への何かしらの物質・物体の移動、正確にはその流れのためのエネルギーが青の線で表されているわけだ。そのこの部分がつい昨日、街にある私のアトリエに配置していた装置が観測した過去最高値だ」

 

 そう言ってアストリッドが指差した部分は、青い線がグラフの最低のラインまで届いている個所……青い線に唯一大きな変化が見られた地点。

 

 

 

 そこまでの説明で、放り出されて(任されて)いたステルクやそのアトリエのことを知っていたロロナが、「アソコにそんな装置が!?」と驚いていた。

 ……が、頭が何とかついていけていたレベルの大勢、その中の大抵の人がある疑問を……いや、答えを見つけてしまった。

 

 それをわかってか、アストリッドが満足した様子で頷いた。

 

「ここまでの説明でわかった奴もいたようだが……『ゲート』の先、それがさっき言った『異世界』であり……()()()()()()()()()()。新種のモンスターというのも、恐らくはあの『ゲート』から出てきた『異世界』のモンスターだろう」

 

マイス()が元いた世界? 彼がいたというのは――」

 

「『シアレンス』という町、だろう? だが、おかしいとは思わなかったか? 探せど探せど見つからない町。知らない技術に、異なる文化……そんなものを持ち合わせたヤツがいきなり現れることを……これまでに疑問を全く感じてこなかったか?」

 

「それは……」

 

 喰い気味に自分の抱いていた疑問を返答されたステルクは押し黙ってしまう。

 

 

 

 

 

「とにかく、だ。ヤツは帰ったんだ。偶然か意図してかは分からんが、本来いるべき場所ヘとな」

 

「そ、そんな……なんで、いきなり……」

 

「何も言わないで、なんて……」

 

「まぁ、故郷を前にしてはその程度だったということじゃないのか?」

 

 ただでさえ目尻に涙をたたえていたフィリーやリオネラは、今すぐ声をあげてなきだしそうなほどになっている。いや、彼女たちだけではない。街や村のひとたちも動揺したり落胆している人も多くいた。

 

 

 しかし……

 

「……です」

 

 やはりと言うべきか、どこでも、どこまでも諦められないひともいるものだった。

 

「師匠、わたしイヤです! せっかく仲良くなれたのに、これまで一緒に頑張ってきたのに、このままマイス君とお別れだなんて……絶対イヤです!! だから、どうにかしてマイス君を探して、それで……!」

 

「探す……『ゲート』先へ行く方法それが第一関門だろう……だが、それで? お前はヤツに何を言うつもりだ?」

 

「えっ?」

 

 突然の質問にあっけにとられるロロナが質問への返答をするよりも先に、アストリッドがたたみかけるように言葉を続けた。

 

「その昔、ヤツが一ヶ月ほど酷く落ち込んでいた時期があるのは知っているな? お前は「わたしが頼りないから相談してくれないんだー」とかわめきながら調合に失敗し続けてたりしたな……あの時のロロナは、アレはアレでカワイかったが。……あの時、ヤツは『魔法』を含めたありとあらゆる手段を用いて「元いた世界へ帰る実験」を続け……()()()()()()()()()()()()()()()()()。もう、『シアレンス』には絶対に帰れないんだ、とな」

 

『……っ!!』

 

 アストリッドに直接言葉を向けられたロロナだけではない、幾人もの息を飲む音が確かに聞こえた。

 

 その中でも、トトリは特に表情が歪んでしまっていた。

 「人」と「場所」。求め続けたモノは違えど、歩み続けたその先には求めていたものは無くて……マイスがそんな自分と似たような経験をしたように思え、「もし、手を伸ばす先に求めていたソレがあったとしたら……」そう考えると……トトリはもうよくわからなくなってしまうのだ。

 

「『青の農村(この村)』の祭りもそのほとんどがヤツの元いた町のもので、そうやって『シアレンス』という故郷を想い続けたヤツに……仮にもう一度会えたとしてロロナ、お前はなんて言う? 何と言って引き止める?」

 

「そ……それは……」

 

 言葉に詰まってしまうロロナだけではない。誰もが諦めはじめ「仕方ないことなんだ」、「これでいいんだ」という思いがよぎり始めた。

 いいわけなどいくらでもある。元より『光の穴』らしきものに吸い込まれて消えたマイスを追う手段もわかならいのだ。そのうえ、マイス自身のためを考えたら、寂しさが無いわけでもないだろうが……納得はできなくとも、諦めもつく。

 

 そう、思う他無い……

 

 

 

 

 

ザリッ

 

 

 

 

 

 シンッと静まりかえってしまっていた空間に、土がすれる音はよく響いた。

 音の発生源は街の貴族であり冒険者でもあるミミ、その足元からだった。先程までは話を聞いていたのでアストリッドのほうを見ていたのだが……そこから踵を返したため、靴の裏が地面の土と擦れてさきほどの音が出たのだろう。

 自然と皆の視線もそちらへ向く。

 

 そばにいたトトリが、その悲しそうな顔をしたままミミを見る。

 

「ミミちゃん……」

 

「……なんて顔してるの。()()()()()()()()()()()()()()()。あんな詐欺師の言うことなんて信じる必要はないんだから」

 

「探すって、でも、でも……っ! ………………ん、さぎし? ()()()!?」

 

 悲しそうに泣きはじめそうだったトトリだったが、ミミの口から出てきた予想外の言葉に目をまん丸にして驚き、涙を流すことも忘れてしまった。

 

 他の周りの面々も同様な反応だった。特に、アストリッドのことを知っている人ほど大きく驚き、言葉にはしていないものの「やばい、マズい」という言葉が顔にかかれているかのように動揺している。

 そして、今の会話は当然のようにアストリッドの本人にも聞こえているわけで……

 

 

「ほう……? どうやら、口の利き方がわかっていない奴がいるようだが……」

 

 

「ひぇっ!? 師匠、滅茶苦茶怒ってる!! ミミちゃんミミちゃん、と、とりあえずあやまっておこう!?」

 

 小声で必死に訴えかけるロロナだが、ミミはその声をスルーし、むしろ不敵に笑って見せている。

 

「あら? 口車に乗せて騙す気が無かったんなら、アナタはただの知ったかぶりって事になりそうなんだけど……ご高名な錬金術士様がそんなことしてる、なんてことはありませんよね?」

 

「なに?」

 

 より一層高まるアストリッドからのプレッシャーに、冷や汗を流しながらもミミは恐れず猫かぶり……ともまた少し違うやや感情のこもった丁寧口調で語り始める……

 

 

「目撃情報があることからして、アナタが言ってたこと……「マイスが突如発生した『ゲート』とは反対の性質のモノに飲み込まれた」という()()までは信用できます。……で・す・が! その後は全然なっていません」

 

 「ご存知かしら?」と問いかけた後、一旦大きく息を吸ったミミはアストリッドから目を離さず、言葉を続ける。

 

「『タミタヤ』。それは武器にかかっている『魔法』。その魔法がかかった武器でモンスターを倒すことは殺すことではなく、モンスターを「本来いるべき場所」へと還すこととなる。『ゲート』を通って迷い込んだモンスターを本来いるべき世界「モンスターの楽園」とされる『はじまりの森』へと還す『魔法』……昔、マイスさんが私とお母様に語ってくださった物語の中にあった「不思議な魔法」の説明……」

 

 最後だけ、何処か懐かしむように言ったミミだったが、すぐに表情を引き締めた。

 

「あのころはマイスさんが作った創作物語か何かだと思ってだけれど、今ならわかります。()()()は他でも無い、マイスさんが元いた世界でのお話。そこに伝わる神話や事実、知識の物語なのだと。そして……もうおわかりかしら?」

 

「…………。」

 

「『タミタヤ』? 『魔法』? 『ゲート』……モンスターが還る『はじまりの森』?」

 

 眉間にシワを寄せるアストリッドと、首をかしげるロロナ。

 その様子を見たミミは……ソレを告げる。

 

「『ゲート』の先にある『異世界』……『はじまりの森』はマイスさんがいた場所から見ても異世界のように遠い場所……マイスさんのいた『シアレンス』とは全く別の場所よ! 元いた世界に帰った? 何て言って引き止める? バカじゃないの!? 『はじまりの森』はね情報も無くて「モンスターの楽園」なんて抽象的な表現しかされないような、何人もの人が挑んで帰ってこなかった世界。いくらあのマイスさんだからって、絶対安心だだなんて言えない……連れ戻しちゃいけない理由も、助けに行っちゃいけない理由も無いわよ!」

 

 

 「そうなのか?」と先程まで諦めムードが漂っていた周囲の人がどよめき出す。

 中には、ミミほどでは無いもののそのことについて知っていた人もいたようで……

 

「『はじまりの森』……そういえば、そんな言葉マイス(あいつ)が出してきた報告書の中のどこかに書いてあった時が……確か、それこそ『ゲート』の調査報告書だったかしら?」

 

「わ、私も昔、遊びに行ってたころにそんな話をしてもらったような……?」

 

 腕を組み考えこむクーデリアに、ちゃんとは思い出せずに首を傾げてしまうフィリー。

 そして、先程までの暗い顔がどこかへ消えてしまった笑顔の眩しいトトリがピョンピョン跳び跳ねた。

 

「すごい! すごいよミミちゃん! マイスさんから聞いたお話、ちゃんと覚えてたんだ!!」

 

「こ、これくらい当然よっ! ……それに」

 

「……? ミミちゃん?」

 

 飛びついてきたトトリを受け止めつつ、恥ずかしそうにそっぽを向くミミ。だが、その表情が照れや恥ずかしさだけではなく……どこか歯痒く悔しそうな表情で、そのことにトトリもすぐ気づく。

 そして、トトリだけでなくアストリッドも当然のようにそれを見落さず、さらにはトトリとは違いその内心までも見通してしまっていた。

 

「ふんっ、()()は分かっているようだな。詐欺師や知ったかぶり呼ばわりはお断りだが、百歩……いや、百万歩譲ってわたしの仮説は「『異世界』=『シアレンス』」前提の穴だらけだったことは認めてやらんこともない。だが、それは()()に戻っただけ、ヤツを探しに行くと言っていたが……どこに行くつもりだったんだ?」

 

「マイスさんが行ったっていう『光の穴』だって、きっと他にもどこかに……あとは足で稼げば……!」

 

「わかっているだろう? 仮にヤツが通ったものと同じものと遭遇できたとしても、結局は遭難者が増えるだけだ」

 

「それは……だからといって、ここで何にもしないでいるだなんて!」

 

「精神論だな。親切ついでに教えてやるが、ある時期から増え始めて以後ほぼ一定を保ち続けている(プラス)としたエネルギー、『ゲート』とは違い、(マイナス)のほうは普段は極微弱で、時折突発的に数値が増えることもあれど持続性は無く発生してもすぐに消滅する。場所も規則性が無く予測も不可能」

 

次々にアストリッドの口から語られる情報。しかし、それらはどれも「朗報」とは言えないもので、むしろミミをはじめとした面々の表情に影を落とすものばかりだった。

 そして、それはまだ続く。

 

「しかも頻度は低く、『ゲート』の目撃情報がある前より始めていたこのエネルギー計測の十数年分のデータからしても一年に四度起こるかどうかくらいで、遭遇することが出来ること自体きわめて稀な現象だ。しかもその内のほとんどは人っ子一人と同じくらいの質量をギリギリ移動させられそうかどうかといったくらいで、それよりも大型の反応は今回の件を除けば八年ほど前に一度あったっきりだ」

 

「えっと、それって、やっぱり無理ってことなんですか……?」

 

 押し黙ってしまったミミのすぐそばにいるトトリが、おずおずとどこか(すが)るように問いかける。

 だが、アストリッドはその問いにもためらいも全く無くただ淡々と首を横に振ってみせるばかりだった。

 

「まあ、裏ワザとして、『ゲート』の消滅時に発生する(マイナス)のエネルギーを利用する手も考えられなくはないが……アレは微細すぎて一人移動させるのにはその何十倍も必要だからな。都合よく巨大な『ゲート』でもあれば可能性はあるだろうが、そのようなモノはこれまで一度たりとも発見されてはいない。今から探し回ったところで見つけられる可能性は限りなくゼロに近い」

 

 

 

――やはり、もう希望は無いのか

 

 落ちて、希望を持って立て直し、また落ちて……それを繰り返してきたが、ついには()()()()()()()()()誰もがそう思った。

 そのふたり……そのうち一人は、仏頂面のまま目をつむっており何を考えているのかはわからず、もう一人は――

 

 

「なぁなぁ、トトリ」

 

「えっ、()()()()()?」

 

「結局、何がどうなって、どうするんだ?」

 

 

 ――何も理解出来てなかった。

 

 

 ジーノの間の抜けた声での予想外の発言に、トトリをはじめとした何人かがガクッと肩を揺らした。

 その内の一人、ミミが呆れかえった様子でコメカミをピクつかせながら言う。

 

「あんた、話聞いてなかったの……?」

 

「聞いてたって! 森だか楽園だかに行ったらしいけど、「ドコかに行ってしまった」ってのは最初からわかってただろ? んで、そこが危ない場所ってのも。けど、マイスはツエーしそんな心配いらねぇと思うけど……でも、どうしても心配ってなら助けにいけばいいだけの話じゃないのか?」

 

 「なのに、なんでか皆、わけわっかんねぇ話しだすし……」とブーブー文句を言うジーノ。

 そんな様子にジーノとは幼馴染で長い付き合いのあるトトリは「まあ、ジーノくんだし……」と諦めつつも、放置してそのまま文句を言い続けられても困るため、仕方なく簡単に要点だけ説明してあげることにした。

 

「だから、マイスさんが何で言っちゃったのかとかは分かんないままで……そもそも、マイスさんがいるはずの『はじまりの森』に行く手段がないのっ。だからみんなこんなに悩んでるのに……ジーノくんは……」

 

「いつもみたいに、トトリの錬金術でいけばいいんじゃね? マイスを目指してピューってさ」

 

「『トラベルゲート』のこと? でもアレは、お家とかアトリエとか……そういう場所以外でも座標さえわかってれば跳べなくはないけど……。けど、言った事の無い場所の、それも『異世界』だなんて跳んでけるわけ――」

 

 

 

()()()()()()!!」

 

 

 

「――ない……えっ? 先生?」

 

「それだよ! 『()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 突然大声を上げたロロナが、そう高らかに言った。……が、相対するトトリは頭に疑問符を浮かべたまま首をかしげてしまっている。

 

「えぇ……? 『トラベルゲート』じゃあ無理ですよね? ……もしかして、他に何か便利なアイテムが……」

 

「それはー……ない。けどっ! 何回か試してみないとかもだけど、きっと出来るはず! だって……」

 

 そこまで言ったロロナは…………アストリッドの方へと向き直って頬を膨らませた。

 

「もうっ! 師匠ったら、こんな時までイジワルしなくたっていいじゃないですか!」

 

「ハァ? ちょっと、どう言うことよ?」

 

 プンスカ怒るロロナを見、その発言を聞いたクーデリアが困惑した様子でロロナとアストリッドを交互に見比べながら言う。

 

 

「どうって……今思えば、すっごくイジワルで回りくどいけど()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「教えてって……一体何をですか?」

 

 トトリの問いかけに、ロロナは自信満々に頷いてから口を開いた。

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 

 

 

 

「「「「「『ゲート』を、逆さまに?」」」」」

 

「うんっ! そんな道具を作って使ったら、流れも逆になって向こうっかわ……マイス君が行った『はじまりの森』に行けると思う」

 

「ロロナさんの言ってることは、筋が通るような通らないような……けど、わからなくはないわね。……本当にできるかは置いといて」

 

「どんな道具になるかはわかんないけど、確かにそれなら……あっ、でも仮に他の所の『ゲート』でそれが出来たとして、本当にマイスさんが行ったところにたどり着くのかな?」

 

 ミミに続き、トトリが頷きかけ……しかし、不安を抱いてしまいその動きを止めてしまった。しかし、その不安を拭い去る考えを、ロロナはすぐさま発案する。

 

「『ゲート』ってなんでかはわかんないけどソコから動かせないし……いっそのこと『ゲート』そのものを発生させる装置も調合し(つくっ)ちゃえばいいのかも?」

 

「マイスと合流した後の事の帰りの事も考えれば、それが最善かもしれないわね。……けど、『ゲート』なんてロロナ作れるの?」

 

 クーデリアが口に出した誰もが抱くだろう当然の疑問に、ロロナは自信なさそうに「う~ん……」とうなった。

 

 

 

「可能です」

 

 

「その声は……ほむちゃん!?」

 

 どこからか現れた女の子のホムに驚くロロナ。そのホムの手には何やら「鍵」が握られていた。

 

「『ゲート』を構成している要素は、すでにグランドマスターが解明済みです。なのでそれを用いた設計で調合を行えば不可能ではないとグランドマスターも以前に言っていました」

 

「なっコラ、ホム!」

 

 静観していたアストリッドが、ホムに制止をかけようとする……が、ホムは止まること無く話し続けた。

 

 

「『ルーン』です」

 

 

「『ルーン』? それって一体……?」

 

「簡単に言っちまえば、大地を中心とした「自然のエネルギー」だな」

「そして、人やモンスターの中にも根源にある……って、確か言ってたわ」

 

 トトリの疑問に答えたのは……リオネラの両脇でフワフワ浮かんでいる黒猫と虎猫の人形・ホロホロとアラーニャ。そのふたりに続いて今度はリオネラ自身が喋りだす。

 

「マイスくんや私だけじゃなくて、フィリーちゃんも『魔法』を使えたから、知らないだけで誰でも持ってるものなんだと思う……」

 

「けっけどね、結構練習してやっと使えるってくらいだし、そのうえすぐに疲れちゃうから……きっと、私達の中にある『ルーン』だけで『ゲート』をつくるっていうのは無理なんじゃないかな」

 

 自信なさげではありながらも、自身の経験も挟みつつ体内の『ルーン』の扱いについて話すフィリー。

 しかし、それは問題を浮き彫りにしてしまうものでもあった。

 

「じゃあ、どうやってその『ルーン』を確保したらいいんだろ……?」

 

「大丈夫です、マスター。どうぞこちらを」

 

「えっ、なにほむちゃん……って、「鍵」?」

 

「先程回収して来た、『作業場』に放置されていたおにいちゃん家の『倉庫』の鍵です。『倉庫』の中に十分な量とは言えないでしょうが実験用分くらいの『属性結晶』はあると思います」

 

 

「『属性結晶』?」

 

 いきなりの倉庫の鍵の登場に「防犯は……?」と驚きを通り越して引き気味だったトトリだったが、ロロナとホムの会話内で聞きなれない言葉が聞こえてきたため、つい復唱してしまっていた。

 その声を耳にしていたホムが静かに頷く。

 

「はい。主に『ゲート』を破壊した際などに入手できる結晶のことです。それは至極簡単に言えば「属性」という方向性を持った「凝縮され結晶化した『ルーン』」。つまり……」

 

「「『ゲート』の材料になるっ!」」

 

 ロロナとトトリ、二人の錬金術士の声が重なった……。

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 希望が見えはじめ、盛り上がりを見せるロロナとトトリの周辺。村や街の人々もそちらへと集まっていた。

 

 

「さて……どこまでがお前の筋書通りだ?」

 

 

 ……が、そこから少し離れたスペース。取り残されるように離れた場所から様子を眺めはじめていたアストリッドに、そんな声がかけられた。

 

「はて? なんのことやら? 言っておくが、遠回しに教えていたなどというのはあくまでロロナの勝手な想像だぞ?」

 

 ヤレヤレと肩をすくめてみせるアストリッドに、声の主――ステルクが淡々と言葉を発した。

 

「彼女の言っていたこと云々ではない。お前のことを少なからず知っている身として、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……そう思っただけだ」

 

「だから、ワザとらしい演技で周囲を誘導していると思った……と。まぁ、お前がそう思ったならそう思っとけばいい」

 

 興味なさげに、短くため息をつくアストリッド。

 

 

「……まぁ、「諦めたなら、それはそれでよかった」とだけ言っておこうか」

 

「ハァ……その様子だと、相変わらずのようだな」

 

 今度はステルクが大きなため息をつき、額に手を当てて首を振った。

 

 

 

「ステルクさんっ!」

 

 不意にステルク(かれ)を呼ぶ声が聞こえた。

 その声の発信源を見れば、ステルクへ向かって手を振る錬金術士の二人の姿があった。

 

「手を貸すのか?」

 

「彼女たちに頼られて、断れる気も、断る理由もありはしないからな。それに……」

 

 そう言いながらステルクは歩き出し、アストリッドを振り返ること無くそのまま行ってしまった。

 最後にこう言いながら……。

 

 

「相手が誰であろうと、窮地に立たされているだろう者のもとに駆けつけ救うのは騎士として当然のことだ」

 

 

 そんなステルクの後ろ姿を見送るアストリッドは、ひとりポツリと呟く。

 

「そっちも相変わらずじゃないか……」

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

「たっく、あんたらが各々勝手にやりはじめたら、出来ることもできなくなるわよ。いい? あたしが役割分担を教えるからよーく聞いておきなさい」

 

 そう言って話を切り出したのはクーデリア。

 

 

「まず、リオネラ。あんたはマイスん家の本棚とか『学校』用の資料とか全部ひっくり返して『ルーン』関係の事を全部洗い出しなさい。性質、運用法、とにかく利用できそうなものは何でもよ。『魔法』に……『ルーン』に一番馴染みのあるあんたなら分かることもあるかもしれないから、頼んだわよ」

 

「うんっ、が……がんばる!」

 

 そばにホロホロとアラーニャを連れ添ったリオネラは、両手をギュッと握って握りこぶしを作り、気合十分な様子を見せる。

 

 

「フィリー。あんたはあたしと一緒に『冒険者ギルド』に戻って、ギルドの資料室の中からマイスが提出した報告書を引っ張り出してまとめ上げて。特に『ゲート』に関する報告書もあるから絶対に見つけなさい。ソレが終わり次第、あたしの方の仕事を手伝ってもらうわよ」

 

「資料室でって、あの大量の中から……自信はそんなにない、けど……でもっ、頑張ります。頑張ってみせます~っ!」

 

 やはりと言うべきか、涙目でプルプル震えそうになりそうなフィリー。だが、寸前で留まれた様子で、一生懸命に意気込んでいた。

 

 

「そんでもって、冒険者組は単純明快。それぞれ散らばって『ゲート』の捜索、『属性結晶』の収集よ。効率化も考えて『ゲート』がある可能性が高い場所……『新種のモンスター』の目撃情報・被害情報がある場所をギルドでピックアップでき次第、伝書鳩で情報を送るから活用してちょうだい。集めた『属性結晶』が今後の調合の要になるから大いに頑張ってよね」

 

「おうっ! とりあえず、メル姉ぇとか協力してくれそうな人にも声かけてみるからなっ」

 

 ジーノが軽快に笑いながらそう言い……

 

「ギルドでのハトの用意が終わり次第、私もそちらへ参加しよう」

 

 ステルクは、相変わらずの仏頂面でそう告げ……

 ミミは……

 

 

「わ、わたしもっ!」

 

「トトリは調合のほうに集中してちょうだい。……私も一応はマイスに『錬金術』を教えてもらってるけど初歩も初歩。難しい調合がちゃんと出来るのはあんたとロロナさんくらいなの、コッチは私たちに任せてちょうだい」

 

「ミミちゃん……」

 

 

「そうよ、トトリ。あんたたちがやることが何よりも一番重要よ。一応は「できそう」ってだけで、道具は実際のところ全部ゼロの状態から考えて調合していかなきゃいけないのよ。あんたたちにしかできない、重要な役割……頼んだわよ」

 

「わたしにそんなこと……本当にできるのかな?」

 

「大丈夫、独りじゃないんだから。 みんなも頑張ってる、わたし達もそばに居て一緒にやってく……きっと出来るよ!」

 

「ホムもお手伝いしますので、ご安心ください」

 

 プレッシャーで弱気になっていたトトリを励ますロロナとホム。

 そして、トトリはふた地の顔を見て……頷き合い……

 

 

「はい、みんなで頑張って……絶対マイスさんを助けましょう!」

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

「みんなで……か」

 

 

 

村長(あいつ)の帰りを待つ以外に、オレたちにできること……」

 


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