マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

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 相変わらずの遅刻魔。
 ……大変申し訳ありません。


 そして、本日6/14に公式でアトリエ新作情報公開とのことで……
 そのあたりについても、語りたいことは沢山ありますが、それはまたの機会に。


 今回は、ロロナ視点&後半はトトリ視点でのお話となります。




ロロナ【*10-4*】

【*10-4*】

 

 

―――――――――

 

***ロロナのアトリエ***

 

 

 

 

 いきなりアトリエにやってきたお父さんとお母さん。

 ギルドから戻ってきたトトリちゃんが、りおちゃんとフィリーちゃんをちむちゃんたちと一緒に運んでいってしまってから……それから、わたしはお父さんたちに『ベリーパイ』と『香茶』を用意して出したんだけど……

 

 

「ウマい! やっぱりロロナの作った『パイ』は世界一ウマい『パイ』だ!」

 

「そうねぇ。私もさすがに『パイ』作りじゃあもうロロナには敵いそうにないわー」

 

「母さんの料理も、ロロナのパイも食べられる私は、とんだ幸せ者だな!」

 

 『ベリーパイ』を美味しそうに食べながらそんなお話をする二人。

 

「そ、それほどでも……?」

 

 普段なら、お父さんとお母さんの言葉にもうちょっと素直に喜べたんだろうけど……今のわたしにはそれができそうになかった。

 

 

「それにしても、『ベリーパイ(このパイ)』に使われてる『コバルトベリー』、とても甘くて、けどほどよく酸味もあって……ウチで普段食べてるのと美味しさが全然違うわ」

 

「いや、これはロロナの調理が上手かっただけじゃないかい? うん、そうに違いない」

 

「素材が良くないとここまで美味しくはならないわよ。ウチも『青の農村』産の物を買ってるんだけどねぇ……ふふっ、愛情のなせる(わざ)かしら?」

 

 マイス君が用意してきてくれた『コバルトベリー』のおいしさについてそれぞれ感想を言う二人。

 お父さんはなんだか少し辛口気味な気がするけど、逆にお母さんの方はちょっと変な言い回しだけどマイス君のことを褒めてるっぽかった。

 

「あはははっ……」

 

 けど、当のマイス君は誤魔化すかのような何とも言えない愛想笑いだけで、普段言いそうなお礼の言葉や『コバルトベリー(作物)』についての説明を全くしそうな雰囲気じゃない。

 あと、質が根本的に違うのは、「『青の農村』産」って一言で言っても必ずしもマイス君が作ったものとは限らないからだと思うよ、お母さん。

 

 

 

 そんな、ちょっと「らしくない」様子のマイス君だけど……その気持ちはよーくわかるよ。

 

 だって、お父さんとお母さんがアトリエに来たのが、マイス君とわたしがお付き合いしてるってことについてのお話があったから。

 わたしだって緊張してるんだから……正確に言えばちょっと違う気もするけど、マイスくんからしてみれば「彼女のご両親へのご挨拶」なわけで……当然、わたしより緊張するに決まってた。

 

 その証拠に……

 

「すー……はー…………すー……はー…………」

 

 耳を傾けてみれば、静かにだけど確かに大きくゆっくりとした呼吸が聞こえてくる。

 ちょっと視線を移してみればわかるけど、腕や全身での身振り手振りは無い普通の体勢のまま、マイス君が深呼吸をしてるのがわかる。

 

 「村長」っていう役職だけに、マイス君は人との面会とかは経験もあって慣れている物だと思ってたけど……わたしのお父さんとお母さん(両親)に会うっていう今日のは、流石にわけが違ったみたい。

 

 

 とにかく、こうやってマイス君がいつもとは違ってすっごく緊張しちゃってるんだから、こういう時こそわたしがしっかりしないと……!

 

 

 

「おかわり! ……と言いたくらいおいしかったが、これ以上は流石に夕飯に影響が出そうだからお終いにしとこうか」

 

「とても美味しかったわよ、ロロナ。それにマイスくんも♪」

 

 ……っと、そんなことを考えたりしてるうちに、お父さんとお母さんは『ベリーパイ』を食べ終えてしまったみたいで、簡単に感想を言いながら残りの『香茶』をゆっくりと飲んでた。

 

「「ど、どうも……」」

 

 偶然にも何とも言えない返事を一緒しちゃってたマイス君とわたし。

 これで一区切りついたわけだし、そろそろ本題(例の話)に移っちゃいそうかな……?

 

 

 

「美味しい『パイ』もいただいたことだし、そろそろ……」

 

 予想した通り、お母さんが本題を切り出そうとした――

 

「あっ、ちょっと待って!」

 

 ――だから、わたしはそれを一足先に止めてしまうことにした。

 

 

「そのことなんだけど……わざわざ来てもらったけど、今日は一旦(いったん)帰って!」

 

「なっ!? ロロナっ、まさかとは思うが、もう口も聞きたく無いとかそういうことじゃぁ……! 父さんは久しぶりにロロナとゆっくりおしゃべりが――」

 

「アナタ。ロロナは「一旦」って言ってるでしょ? きっと今日は何か都合が悪いのよ……そうなんでしょ?」

 

 驚くお父さんをなだめたお母さんが、いつものように薄っすら微笑んだ顔で私を見ながら確認を……そして「なぜなのか」という理由を話すよう催促するように聞いてきた。

 そんなお母さんにわたしは小さく頷いてから口を開いた。

 

「二人ともきっと知ってると思うんだけど……わたしとマイス君はずっと仲良くしてきてたんだけど、その……正式にお付き合いって感じになったのって、本当につい昨日(最近)なの」

 

 むしろ、お父さんとお母さんの耳が早すぎるくらいなような……。

 いや、でもマイス君にはけっこう最近まで結婚の噂話があったし……『青の農村』でわたしがマイス君の家にいたことや、今日の午前中『冒険者ギルド』にくーちゃんに報告しに行った時のことあたりで話が漏れちゃったりして、一気に広がっちゃったのかも。

 

 ううん、気になるところだけど……とにかく、今は目の前の事をなんとかすることを第一にかんがえないとっ!

 

 

「わたしは「ずーっと一緒にいたい」って思うくらいマイス君の事が大好き。マイス君も同じように思ってくれてるって知ってる。……だけど、まだ「これからの事」を相談しあったこと無いんだ。だから、マイス君とわたしで一回ちゃんと話し合いたい。それから、改めてお父さんとお母さんとお話がしたいの。それに……」

 

 

 視界のはじっこにチラリと見えるマイス君。

 やっぱり緊張でガッチガチに固まってて、それどころか手なんかは小さく震えてた気さえする。そして……わたしがお父さんたちに「一旦帰って」っていった時は、目をまん丸にして驚いてた。

 

 どうしてそこまでの反応をするのかはわからない。マイス君が何を考えてるかは全部が全部わかったりするわけでもない。でも、だからこそ、こんな様子のマイス君を見ていたら「わたしがなんとかしてあげないと!」って思わずにはいられない。

 わたしはほんのひと息だけ間をあけて、言葉を続けた。

 

 

 

「……今度、わたしたちのほうから家に行くよ。だから、今日は一旦帰ってくれないかな?」

 

 わたしがそこまで言うと、お父さんとお母さんは顔を見合わせて…………それからコッチを向いて言ってきた。

 

「そういう事情(こと)なら、ちょっと時間を空けた方が確かに良いわよね」

 

「しかしだな……まぁ、母さんがいいなら、私もかまわないが……」

 

 お母さんはちょっと申し訳なさそうに、お父さんは納得しきっては無い様子で。それでも二人揃って頷いてくれた。

 

 

 これで、とりあえずは大丈夫そうかな?

 マイス君とは、これからのことを話しながら、しっかりと原因を探ったりもして何とか緊張をほぐしてあげないと。私には何をしてあげられるかはわからないけど、何かできることはあるはず。

 

 

 

 

 

「あのっ!」

 

 ここまででお開きで、わたしがお願いしたようにお父さんとお母さんが帰ろうかっ…ていうその時、声をあげて引き止めたのはマイス君。

 

「僕には、ロロナとの、娘さんとのお付き合いやこれからのことよりも先に、お二人に伝えておかなきゃいけないことがあるんです」

 

 一体、何を……?

 最初はそう思ったけど、どういうことなのかすぐにわかっちゃった。

 

「僕は、元々ここから凄く凄く遠い国の者です。それに記憶喪失で、ところどころ思い出してはいますけど、ここ十年以上は全然思い出せなくなってて……虫食い状態もいいところなくらいだと思います」

 

「ああ、そうらしいね」

 

「前にロロナから聞いたことがあるわ」

 

 マイス君の言ったことに頷いて返すお父さんとお母さん。

 

 そして、マイス君は……あの事を言うつもりなんだと思う。

 ちょっと考えればわかっちゃうこと。不器用なくらい真面目で、一度決めたらまっすぐ誠実でいようとするマイス君らしい。

 

「それとは別に……僕は周りの皆に隠してたことがあるんです」

 

 でも、わたしのときみたいに不安でいっぱいだっていうこともわかった。

 このことを話さないといけないって気負っちゃってたから、余計に緊張しちゃって……あんなことになってたんだ。

 

 そんな今のマイスにしてあげられることは、わたしがしたいことは……

 

「っ……ロロナ」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

 横からスッと手を伸ばし、マイス君の手を握ってあげる。

 キュッと握る。優しく、でもしっかりと。わたしの気持ちが伝わるように。

 

 

――――何があってもわたしはマイス君の味方だから。

 

 

 ……本当に通じたのかはわかんないけどマイス君の表情が少し緩んで、そしてわたしに一瞬微笑んでからまた真剣な目をしてお父さんたちの方を向いた。

 

 

 

「僕は人間とモコモコっていうモンスターを両親に持つ『ハーフ』なんです。だから、僕は人間でもありモンスターでもあり、こうして両方の姿を持ってます。今、こんなことを言うのはおかしいかもしれませんが、今度ご挨拶に行く時に何か……いえ、言いたいことがあるなら、今のうちに――「関係無い」――えっ」

 

 

 後半、少し言葉に詰まりながらも続いていたマイス君の話を、途中で止めたのは……お父さん……?

 

 

「君が何処の国の産まれだろうと、君のご両親がどのような方だろうと関係無い。……もちろん、ロロナはそのことを知っていて、それでも彼と「一緒にいたい」と思っているんだろう?」

 

「う、うん」

 

 ちょっと普段見ないような顔で聞いてきたお父さんに驚いちゃいながらも、私は何とか頷いて見せる。そうしたら、お父さんはその答えに満足したのか大きく頷いた。

 

「なら、私から言うべきことは無い。なぜなら――他でもない、私たちの愛娘のロロナが君の事を認めたんだからな。なら、それ以上()()を追及する必要は何処にもないさ」

 

 

「「お父(ライアン)さん……」」

 

 

 

 

 

「だが…………ロロナとの結婚は、私は認めんぞー!!」

 

 

「「えええぇ~!?」」

 

 これまでにないくらいの真剣なお父さんはどこにいったの!?

 そう声に出してしまいそうなくらいの、空気が一変するお腹の底から噴き出してくるお父さんの叫び…………って

 

「ちょっと待って、お父さん! さっきの話の流れは!? なんだかいい話にまとまりそうだったよね? ねぇっ!? どうしてそうなるの!?」

 

「そうは言ってもだな、ロロナ。それとこれとは話が別だ。第一、お父さんはまだまだ親離れさせる気はないぞっ!」

 

「子供だったわたしを置いて、お母さんと二人で旅行に行ったりしてたお父さんが言うことなの、それ!?」

 

 

 それに、わたしももう2X歳で、親離れがどうこうとか言わなきゃいけない歳じゃないんだけど!?

 

 

「やっぱり、嫌、ですよね。僕みたいなのが自分の大事な娘と結ばれるなんて……」

 

 わぁ~!? マイス君が凹んじゃった~!?

 

「そんな自分のことを悪いみたいに言わないで、マイス君!」

 

「そうだぞ! さっきも言ったように、そういうことは一切(いっさい)無いからそこは安心してほしい」

 

「じゃあなんでダメなの!? もしかして、特に理由も無しに……?」

 

「そっそんなこたーぁないぞ? 理由はだな、その……えっとだなぁ……」

 

 そう言いながら視線が泳いじゃってるお父さん。

 ……やっぱり、理由が無い?

 

「うわぁ。お父さんの器が大きいのか、小さいのか、全然わかんないや……」

 

 

 頭を抱える……とか、そんな風になってしまうよりも「呆れ」が勝っちゃってため息が出ちゃってたわたし。

 

 と、そんなわたしの耳に笑い交じりの優しい声が入ってきた。

 

「うふふっ。ロロナもマイスくんも、そんなに難しく考えなくっていいのよ?」

 

「お母さん?」

 

「そもそも、結婚は認めないぞー」って言ってるのは照れ隠しみたいなもので……この人もこの人で、距離感を測りかねているって感じだから、そう深刻に捉えなくていいわよ?」

 

「んなっ! 何を言ってるんだっ、私は別にそういった意図があったとか、そういうわけじゃ!?」

 

 さっきまでマイス君とわたしのほうを向いていたお父さんだったけど、今度はお母さんのほうを見て何でか必死さを感じられる様子でお母さんの言った事を否定しだした。

 でも、お母さんはそんなことおかまいなしに話しを続けてる。

 

「聞いてよロロナ。お父さんったら、マイスくんの結婚の噂話があったころから妙にソワソワしてて、私に……」

 

「ワー!? ストップ! ストーップ!!」

 

 より必死さを増してお母さんのお喋りを止めにかかるお父さん。その様子を見てクスクスと笑いながら「わかったわよー」とようやくやめたお母さん。

 

 ……一体、何の話だったんだろう?

 

 

「あの……ロウラさんは、その、何とも思わないんですか?」

 

「確かに。お父さんの反応も予想外だったけど、お母さんはお母さんでなんだかあんまり驚いたりしてなかったみたいだし……マイス君が良い子だってわかってたから?」

 

 マイス君の疑問にわたしも続けて気になったことを言ってお母さんに聞いてみら、お母さんは小さく首をかしげた。

 

「う~ん? ロロナが言うようなのもあったけど…………なんて言うか、今更感(いまさらかん)?」

 

「えっ? それってどういう……?」

 

「あっ、でもなんとなく言いたい事はわかるかも」

 

 もしかしたら、わたしたちでも十分に慣れちゃってるくらいで『魔法』もそうだけど、そもそものマイス君が良くも悪くもとんがってるからなぁ。そういう意味では常識外れのことには耐性ができちゃってるとか?

 それ以外には……なにかありそうかな? マイス君以外にもモンスターに変身できる人を知ってるとか……流石にそれは無いよね。

 

 

「とにかく……マイスくんが一番不安だったんだろうことは、なんにも心配いらなかったってこと。だから……安心して、いつでも(うち)に来ていいのよ?」

 

「……はいっ!」

 

 お母さんがニッコリと笑いかけながら言った言葉に、マイス君は力強く頷いてた。

 

 ええっと……これでとりあえずは一安心……なのかな?

 

 

 

 

 

「そ・れ・で? 結局のところ、二人はドコまでいったのかしらー?」

 

「「えっ」」

 

 より一層ニッコリ笑ってるお母さんに、わたしと……きっとマイス君もドキリとして反射的に身を引いてしまってたと思う……。

 

「ロロナもだけど、マイスくんのほうも結構奥手みたいだから……ギリギリ『キス』までくらいかしら?」

 

「そ、それはそのー……」

 

「なっ、ななななんでそんなことをお父さんとお母さんの前で、赤裸々に発表しなきゃいけないのっ!?」

 

「なにぃ!? その反応からして……キスをしたのか! お父さんはゆるさんぞぉー!」

 

 わたしの言ったことのどこがひっかかったのか分かんないけど、またお父さんが騒がしくなったー!?

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――

 

***職人通り***

 

 

 

「何話してるのかはわかんないけど……アトリエ、すっごく賑やかだなぁ」

 

 フィリーさんとリオネラさんをアトリエから引っ張り出した後。

 それから、偽装のためってわけじゃないけどちむちゃんたちにはおつかいを頼んで行ってもらったんだけど……アトリエ横の路地に隠れた私たち。そこそこ音は漏れてるけど窓際に張り付いたりしないと聞こえそうにないアトリエ内の会話を聞いたりはしてなかった。

 

 気にならないわけじゃないけど……でも、やっぱり盗み聞きや覗きには罪悪感があるにはあるし、それが先生の親との大切っぽい話ならなおさら気が引けた。

 それに……

 

 

「この二人から目を離すわけにもなぁ……」

 

 

 裏路地にいるのは、わたし以外には二人。

 

 顔を両手で覆って、頭から足先まで真っ直ぐなままでうつ伏せに倒れた体勢でシクシク泣くフィリーさん。

 膝と胸とアラーニャとホロホロを抱いて座るリオネラさん。

 

 

「うん……やっぱりこれはヒドイありさまだよ……」

 

「何がかしら?」

 

 裏路地の惨状を見ての独り言に言葉が帰ってきて驚いた私は、すぐにその声のした方……職人通りの表通のほうを見た。

 

「って、あれはウチの……あっちのあの子は……。ん? アナタって、確か……」

 

 そう言いながらフィリーさん、リオネラさん、私の順に見たその女の人は、何処かで見たことがあるような…………というか、今、裏路地で倒れて泣いてるフィリーさんに凄く似てる?

 もしかして……?

 

「あー……もしかして、そこで倒れてるウチの妹が何かやらかしちゃった?」

 

「いえ、むしろフィリーさんは被害者というか……そんな、ケンカとか事件性のある大事とかじゃないんですけど」

 

 そう言ったらビミョーに納得できて無さそうな不満げな顔をした女の人は、前にフィリーさんやロロナ先生から話に聞いてた「フィリーさんのお姉さん」なんだろう。確か、エスティって名前で、婿探しの旅に出たとか何とかでフィリーさんに仕事を引き継がせたらしいけど……?

 でも、旅に出てるならなんで『アーランドの街(ここ)』に? お婿さんが見つかって帰ってきたとか?

 

 

「まぁいっか。今日用があるのはアトリエだし……ロロナちゃんはいるの? いないならあなたに頼むことになるかもしれないんだけど?」

 

 そう錬金術(おしごと)の話っぽいことを私に聞いてくるエスティさんは、その様子からして初対面だけど私の事も知ってるみたい。

 

「先生はいることはいるんですけど……」

 

「けど?」

 

「今お客さんが来てて、対応できないかもしれなくって」

 

 そう言うと「へぇ」とエスティさんは感心した様子で声を漏らしてた。

 

「結構長い間見てなかったけど、ちゃんと一人前にやっていけてるみたいね……って、あのころのロロナちゃんじゃなくて稀代の錬金術士様なんだから当然と言えば当然かしら」

 

 

 そう言ってエスティさんはまた表通りのほうへと戻って、そしてそのままアトリエのほうに……って、えっ?

 

「ちょっと、ロロナちゃんの仕事っぷりでも覗いてあげようかしら♪」

 

「あっ…………行っちゃった」

 

 大丈夫かなぁ?

 エスティさんって、フィリーさんのお姉さんでけっこう大人なはずだし、空気を読んで大事なところの邪魔をしたりはしないと思うけど……なんか、やけに心配になっちゃってるんだよね……。

 

 やっぱり気になるからって、とりあえず表通りの様子を覗こうと思って私も表通り(そっち)へと駆けていった……んだけど……

 

 

「わっ! もう戻ってきて……って、どうしたんですか!? 血ィ! 口から血が出てますよ!? 吐いたんですか!? 一体何が……!!」

 

「……大丈夫よ。下唇を噛み千切りそうになっただけだから」

 

「大丈夫じゃない!? と、とりあえずお薬持ってるんで、使ってください!」

 

 何がどうしてそうなったんだろう……?

 私がポーチから取り出した緊急用のお薬を手渡すと、「……ありがと」とちょっとダルそうな声でお礼を言ってきた。

 

「なるほどねぇ……。アッチがああなったから、ここでこの二人がコウなってるのね」

 

「あーっと……その、ご存知で?」

 

「うん、まぁなんとなく、この二人はそんな雰囲気があるなぁとは思ってた」

 

 そう言うエスティさんの目はどこか遠くを見てて……そして、その目を瞑ったかと思ったらスッゴイ大きなため息を吐いた。

 

 

「はぁ~。身内だからっていうのもあるけど、状況的にも……流石にこの二人は放っておけないわね。……だからって、この三人でっていうのも虚しい気がするけど、仕方ないわね」

 

 そう言ったエスティさんは、力無くダランとしてる二人を引っ張り起こして……あの細腕でよくできるなぁ。メルおねえちゃんと同じ、あれで怪力なタイプなのかな?

 

「アナタも来る?」

 

「えっ? くる、って?」

 

「お酒。こういう時の飲み方を教えとこうかと思ってね……私に教えられることってそれくらいだし」

 

「それは遠慮しときます。私、まだ未成年なんで」

 

 そこまで聞いたら短く「そっ」とだけ返して、肩を貸すような形で引っ張り起こした二人の背中を叩きながら「ほらさっさと歩いた、歩いた」と自分で歩くようにうながしてた。

 

 

 

 そうして、ゆっくりとだけど裏路地から出て行ったエスティさんたちを見送って……私は『トラベルゲート』を取り出した。

 

「『トトリのアトリエ(ウチ)』に帰って、二日酔いに効きそうな薬でも作ってあげとこうかな……。飲み方教えるって言ってたけど、あの様子じゃあきっとフィリーさんたち酔いつぶれちゃうくらい飲んじゃうだろうし……」

 




 次回の更新から、活動報告でアンケートを行いたいと思います。

 正確にはアンケート系3問、リクエスト系1問となる予定です。

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