マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

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 更新、一日ズレてしまい大変申し訳ありませんでした。
 またもや遅れてしまいました! 年末年始といい、休みが取れてもやらねばならないことが多くて時間が中々取れません。仕方のないことではありますが……。

 今回もグダグダ長くなってしまいました。やっぱりキャラをいっぱい出しても扱い切れずロクなことにならないことがわかりました。



 そして! 先日『リディー&スールのアトリエ』のプレサイトがオープンしましたね!
 キービジュアルらしき二人のイラストや、本日8/14から予約受け付け開始のボックス(セット)の内容公開。さらにさらに、発売ハードがPS4、PSVitaだけでなくニンテンドーSwitchからもという情報も!
 不安もたっぷりですが、期待せずにはいられませんね! 不安もたっぷりですが!!

 公式サイトは8/21オープンらしいので、続報を楽しみに待っておきます。


豊漁祭《下》 【*1*】

 

***アランヤ村・『バー・ゲラルド』前***

 

 

 『アランヤ村』の中心地にあたる広場。その一角に面した酒場『バーゲラルド』の出入り口から出てきたトトリは、数歩歩いてから肩を落としながら「はぁ」と大きな種息を吐いた。

 

「つ、つかれたー……なんだか、水着から着替え終わったとたん疲れがドッと来た気がする……」

 

 今トトリが感じているモノは、普段良く経験している冒険帰りの疲労感とはまた違ったものなのだろう。どちらかといえば、『錬金術』のレシピを丸一日かけて考えた後の精神的疲労感のほうが近いかもしれない。

 実際のところは、大勢の人前に出るという緊張や無意識中の興奮、水着である事による更なる緊張と羞恥心、その他諸々(もろもろ)によって特別動いたりしたわけでもないのに疲れんだろう。

 

 

 

 そんなお疲れの様子のトトリ。そのトトリに続いて『バー・ゲラルド』から出てきたのは、同じく水着から普段の服へと着替え終わった『水着コンテスト』の参加者たちだった。

 

 水着から着替えてやっといつもの調子に……となっているわけではないようだ。もちろん、水着の時のように手などで素肌を隠そうとする必要は無いため、そういった素振りは見られない。だが、差はいくらかあるもののトトリのように疲れ気味だったり、機嫌が悪かったりと、いつも通りとは言えそうにもなかった。

 

 

 多数派なのは、ステージ上での恥ずかしさや精神的な疲れは残っていながらも「全部終わったことだし、もう過ぎた事なんだからしかたないよね」と、気持ちを切り替えていこうとしている人たち。ツェツィ、ロロナ、フィリーやリオネラたちがそうだ。

 

「すみませんロロナさん、あんなイベントに参加させちゃって……」

 

「ああっ、気にしないでくださいっ! わたし、昔にこういうことはよくあったから……」

 

「ごご、ご、ごめんね、リオネラちゃん。無理矢理連れてっちゃって……あの時の私、なんていうか極限状態っていうか、最高にはいになっちゃってて」

 

「気にすんなって。オマエだって大勢の前で気絶しないで頑張ってたんだろ? だったらこのくらいは目ぇつぶってやれるぜ?」

「さすがに全く怒ってないわけじゃないけど、許せないってほどでもないわよ。ね、リオネラ?」

 

「う、うん。だから……ね? 今からお祭り、一緒に楽しもう?」

 

 やはり『水着コンテスト』は大変だったようだが、この様子からすると彼女らは持ち直してお祭りを楽しめることだろう。

 

 

 少数派は、疲れや恥ずかしさよりもイラだちが(まさ)っていて、その顔はいかにも「イラついてます」といった感じだった。そうなっているのはクーデリアとミミという、ステージ上でも結構イラついていた二人だ。

 

「ああっもう! なんでこんなことに……! こんな祭、来るんじゃなかったわ…………ま、まぁロロナの水着が見れたのは良かったけど」

 

「あのバカ御者をぶん殴りたい気持ちを抑えてまで貴族らしくしてたっていうのに……なんで私が優勝じゃないのよっ!?」

 

「バカね。あんたがロロナの可愛さに勝てるわけがないじゃない」

 

「何よ!? そう言うあんたこそ、ちんちくりんで見向きもされてなかったじゃない!」

 

 段々と険悪な雰囲気になっていき、睨み合いだす二人。

 その二人を止めたのは、事態を見ていて疲れた体に鞭打って間に入ったトトリだった。

 

「ちょ、ちょっと!? ミミちゃんのイラだってた理由とか突っ込みたい所はあるけど、とにかくケンカはよくないですよー!」

 

「「もとはといえば、あんたが!!」」

 

「ひゃあ!? だ、だからあんなことするなんて知らなかったんだってー!?」

 

 クーデリアとミミに睨まれて縮こまるトトリ。

 まぁ、仕方がない。クーデリアとミミが『水着コンテスト』に出ることとなった原因は、彼女たちの言う通りトトリが誘ったからで……でも、詳細不明の誘いにホイホイ乗ってしまった彼女たちにも責任が無いわけではない。

 

 

 騒がしくなり始めた面々を一歩離れたところから見ているのは、諦め半分だったり、イラついていたりしているメンバーとはまた違った様子の三人。

 

「着替えている時にため息を吐いていたりしてたので、てっきりはしゃぎ疲れてしまったと思ったのですが……どうやらホムの見当違いだったようです」

 

 仲良くお喋りしていたり騒がしくしている姿を見て、淡々とそう述べたのはホム。その表情は相変わらずの無表情で、疲れはもちろん、コンテストのことも何とも思っていないように見える。

 

「まっ、なんだかんだ言いながら、みんな元気は残ってるみたいね。一安心、これでお祭りを周れませんーってなったら、残念なんてもんじゃないわよ」

 

 いつもの調子でケラケラと笑っているのはメルヴィア。コンテストの紹介の際にぞんざいに扱ってきたペーターには色々と言っていたりはしていたものの、コンテスト自体はどこか楽しんでいる雰囲気も感じられたし、苦でもなかったのだろう。

 

「そうよね~。お祭りはこれからなんだから、もっと楽しまないと。……ってことで~、このままみんなで一緒にまわったりしちゃわな~い?」

 

 こちらも、普段通り……というか、幾分テンションが高くなっているように思えるのは、パメラ。今の様子やコンテストが始まった時からノリノリだったことからもわかるようにに、参加者の中であのイベントを最も楽しめたのは彼女だろう。

 

 

 さて。クーデリアとミミ、あとトトリによる騒ぎの中の呟きだったが、そのパメラの言葉はそばにいたホムやメルヴィア以外にも聞こえていたようだった。

 

「うんっ、いいねそれ! パメラの言う通り、せっかくだしこのままみんなでお祭りまわっちゃおう!」

 

 パメラの提案に真っ先に賛成したのはロロナだった。どうやら気持ちは入れ替えることができたようで、すっかりいつもの調子に戻っている。

 そんな彼女が乗ったとなれば、その性格からして周りの人も誘うのは目に見えたことだ。そして、それに釣られる人はいても、誘いを断るような人はまずいないだろう。

 

「ね、ね! くーちゃん、一緒にまわろうよ!」

 

「あのコンテストの後にみんなまとまって歩いてたら、どう考えたって悪目立ちするじゃない! イヤよ、そんなの!! ……で、でも、まぁロロナがどうしてもって言うなら、考えてあげなくもないけど……」

 

「トトリちゃんも、一緒に行こう!」

 

「はい! お祭りのお店の準備の手伝いをちょっとしましたから、どこに何があるかわかってます。せっかくですから、案内します! よかったら、ミミちゃんも一緒にどうかな?」

 

「なんで私があんた達と……」

 

 トトリの誘いに不満げに言うミミ……だが、おそらく、ほぼ間違い無くほんの少し後には陥落して一緒について行くことになっていることだろう。

 

 連鎖的に広がっていき、「ロロナちゃんが言うなら」とリオネラも乗り、それについて行く形でフィリーも賛同した。そして、特に誘いに乗る理由も断る理由も無いメルヴィアやツェツィもその流れからか「じゃあ、あたしたちもせっかくだし」と誘いに乗ることとなった。

 

 

「ほむちゃんも……あれ?」

 

 だが、その流れが不意に止まることとなった。

 止めたのは、流れのままホムも誘ったロロナ。誘いの言葉を途中で止めて不思議に思い、かつ、驚いて声を上げた。

 

 ……そうなった原因は他でもない、誘う為に目を向けたホムにあった。

 いつも通りの無表情に()()()ホムの顔。だが、ホムのと付き合いが長く彼女の事をよく知っている人物であれば、その一見無表情に見える顔もそうではないことがわかったであろう。

 ロロナもそうだった。目の前にいるホムの表情が()()()()表情(もの)に見えたため、つい誘いの言葉を止めてしまったのだ。

 

 

 だが、当のホムはといえば、そんなロロナの様子を逆に不思議に感じて首をかしげたのだった。

 

「……? マスター、どうしたんですか? みんなで一緒にお祭りを見てまわるという話だったのでは?」

 

「へ? あ、うん。そうなんだけど……」

 

 言ってることや、その声色からしていつも通りな感じに思えるホムだったが、やはりロロナは何か引っかかった。というよりも、悲しそうに見えたその表情がどうしても気になって仕方なかった。

 

 

「えっと……ほむちゃん、もしかしてイヤだった?」

 

「別に嫌というわけではありません。マスターの命令であれば従います」

 

「ううーん。ほむちゃんらしい答えといえばそうなんだけど……」

 

 ロロナは首をひねって考え込んでしまう。というのも、ホム本人は「嫌じゃない」とは言っているものの、やはりどうもおかしいように思えたからだ。ただ、このまま考えているだけじゃ、どうしてそう思ったのかという答えが出てきそうな気もしなかった。

 そこに助け舟を出したのは、いつものようにリオネラのそばで浮いていたアラーニャとホロホロだ。

 

「ねぇ、きっとあの事じゃないかしら? リオネラのほうはすっかり忘れちゃってるみたいだけど……」

「だな。オイオイ、お前が気にしてんのはマイスのことだろ?」

 

 その言葉に、ホムがピクリと反応した。そして、周りのみんなも……もちろんリオネラも。

 おそらくリオネラは「何か忘れているような……?」程度には違和感を覚えていたのだろう。それを()()ホロホロに指摘されるまで気付かないとは……

 

「あっ、そういえばコンテストのほむちゃんを連れてった時、マイス君も近くにいたっけ? もしかして、一緒に来てたの?」

 

「はい。ホムは今朝おにいちゃんに会ってお祭りのことを聞き「一緒にまわろう」ということでついてきました。来るときには、そちらのリオネラとも一緒でしたが」

 

「わっ、私は、前々から「せっかくだし、人形劇が終わってからでもいいから、お祭りに行ってみない?」って言われてて、それで……」

 

「それでマイスさんが二人を連れてきてたって事なんですね。……そういえばリオネラさんのほうは、わたしがお祭りの事を言いに行った時にマイスさんがそんなこと言ってた気がするような?」

 

 トトリを始め、そこにいたメンバーが『アランヤ村(ここ)』にいるとは思わなかった二人が何故『水着コンテスト』の会場にいたのかをやっと知った。

 そして、ホムの言ったことを聞いたロロナは、ちょっと考えるような仕草をした後、少しだけ頬を膨らませた。

 

「むー、マイス君ったらまたわたしに内緒でほむちゃんと遊んでー、ズルい! ……けど、先に約束してたのに、その予定を勝手に変えちゃったらほむちゃんに悪いよね」

 

 『水着コンテスト』に無理矢理参加させた時点で、色々と勝手に予定を変えてしまっている気もするのだが、それを指摘する人物は残念ながらその場にはいなかった。

 

 

 事情を知り、ホムがなんとなく悲しそうにしていた理由もおおよそ察したロロナが出した結論は……

 

「とりあえずまずは一緒にマイス君を探そっか! その後は……それから考えよ?」

 

 「マイスを探す」ということは、人が沢山いるお祭りの中を歩いて探すわけで……

 結局ホムは、みんな一緒にお祭りを見てまわる一員に組み込まれたわけである。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 さて。そんなこんなでマイスを探しながらお祭りムードの漂う村を歩いていた一行だったのだが……なんとも不思議な光景が、彼女らの目に入った。

 

「…………」

 

 賑わっている通りから少し外れた一角。そこにいつもの仏頂面で腕を組んで(たたず)んでいたのはステルクことステルケンブルク・クラナッハ。心なしかその顔は疲れているような気が……おそらくは気のせいではないのだろう。

 というのも、その原因と思われるものがすぐそばにいたため、容易に「疲れているのだろう」と想像できたのだ。

 

「~♪ ~~♪」

 

 ステルクの肩に乗っかり鼻歌を歌っているのはピアニャ。

 いわゆる『肩車』というものをしているわけだ。ピアニャが着ている服の形状の問題で少々スカートの(すそ)がめくれ上がって色々とギリギリである。だが当のピアニャはといえば、まだそういう年ごろではないのか、女性だけの村で育ってきたからか、別に恥ずかしがったり気にしている様子はない。

 

 

「あっ、トトリだ! おーい!」

 

「…………ハァ」

 

 肩車されているため普段よりも視点が高くなったからか、すぐにトトリたちに気付いたピアニャが元気に手を振る。が、その下にいるステルクは対照的に元気が無かった。

 

 ……で、そんなピアニャとステルクを見て真っ先に動いたのは、ピアニャのことを()でているツェツィだった。

 

「ピアニャちゃん、早く降りなさいっ! はしたないわ!」

 

「えー、楽しいよ? それに、今のピアニャ、ちぇちーよりもおっきい!」

 

「はいはい、私より大きくていいからこっちに来なさい」

 

「はーい」

 

 もうすでに十分満足していたのか、あっさりと身を(よじ)りながらステルクの肩から離れ、両手を伸ばしてきているツェツィのほうへと移り渡り抱きつくピアニャ。そして抱きしめられたままゆっくりと地面に降ろされる。

 

 

「ええっと……ステルクさん、何してたんですか?」

 

 大きなため息を吐いたステルクに、ロロナは少し遠慮気味におずおずと問いかけた。

 

「……祭りの途中、たまたま会ってな。何故かなつかれ、よじ登られ、力づくで振り解くわけにもいかず放置していたらああなった」

 

「あ、あはははっ……すみません、ピアニャちゃんがご迷惑を……」

 

 笑ってごまかそうとしてみたものの何を言えばいいかわからず困ってしまい、結局頭を下げるトトリちゃん。その謝罪にステルクは「別にキミが謝ることじゃない」と返した。

 

「へぇ、なんていうか意外ね。ステルクさんって、子供に好かれやすかったりしたかしら?」

 

「何言ってんの、むしろ真逆よ。目が合えば泣かれるくらいには、子供から嫌われてるわ」

 

「まっ、子供じゃなくても目が合わせられない人もいるようだけど」

 

 メルヴィアの言葉にクーデリアが指摘をし、それに続くようにしてミミが呆れ気味に言う。その視線の先には、自覚があるのかビクッと体を跳び上がらせた二人……フィリーとリオネラが。当然だが、二人してステルクと目が合わないようにと顔をそらしている。『青の農村』等でマイスを挟んで何度か会っていたはずだが、残念ながら未だに克服できていないようだ。

 

 多少目つきがキツイのでしょうが無い部分はあるかもしれないが、相変わらず失礼な態度をされてしまうステルク。だが、彼にとっては目をそらされる程度は不本意ながらよくあることなため()()()気にしていない。……不本意ではあるし、「全く気にしていない」とは言えないのだが……。

 

 

 そんなステルクに、追い討ちをかけるように失礼なことを言う人が一人。

 

「ピアニャちゃん、大丈夫? 何もされてない? 怖くなかった?」

 

 そう、ツェツィだ。「怖くなかった?」の前に「(顔が)」と付きそうな気がするが気にしたところで意味がないだろう。

 

 ステルクとツェツィと言えば、『トトリのアトリエ』で顔を見て悲鳴をあげてしまった(あげられた)うえ、「かわいいトトリちゃんを(さら)いに来た人攫い」と勘違いした(された)という、結構無茶苦茶な初対面を果たした二人だ。

 もちろん誤解はトトリによってすぐにとかれ、ステルクが帰った後にはどういう人なのかをトトリから聞いたため、「ちょっと顔が怖いけど親切な元騎士さん」という認識になっている。

 ……なっているはずなのだが、居候のかわいいピアニャのことということもあってか、まるでステルクが犯罪者か何かかのようにかなり失礼なことを言ってしまっている。

 

 ……で、そう聞かれたピアニャはといえば……

 

「……? ううん。ピアニャ、怖くなかったよ?」

 

「わぁ、ピアニャちゃんすごい……。わたしなんて慣れるまで顔もちゃんと見れなかったのに」

 

 心底感心したように言ったトトリの呟きが、ステルクの心に突き刺さった。救いなのは、ステルク自身そのことには()()()()で薄々気づいていたため精神的ダメージが少なかったことだろう。……つまり、前に同じような思いをして耐性がついていたわけだ。救いとは何だったのだろう?

 

 と、トトリの呟きを聞いて反応を示した人がステルク以外にも一人……他でもないピアニャだった。

 どうやら先程まで「怖い」とステルクが結びついてなかったらしく、トトリが言ったことを聞いて初めて「顔」のことなのだとわかったらしい。その結果、ピアニャが改めて導き出した答えは……

 

「この人の顔、怖くないよ? ウォルくんみたいでカッコイイ!!」

 

「ウォルくん……って、確かマイスさんのところにいる『ウォルフ』のこと、ピアニャちゃんがそう呼んでたっけ?」

 

マイス()もそう言っていたが……私はそんなに狼のような顔をしているのだろうか?」

 

 「だからといって乗られるのはさすがに困るのだが……」とステルクは付け足して言った。それは、『青の農村』ではモンスターによってはその背中に乗ったりすることが出来るという事を知っているから言ったのだろう。

 

 

 

 微妙に落ち込んでいるステルク。そんな様子の彼に困ったように笑ってから話しかけたのはロロナだった。

 

「あはははっ……そんな流れで聞くわけじゃないですけど、マイス君見かけませんでしたか?」

 

「彼か……どうかしたのか?」

 

「今、ちょっと探してるんです。わたしが連れてっちゃったほむちゃんと約束があったみたいで……」

 

「なるほど。彼なら少し前に広場のあたりを少しウロウロした後どこかへ歩いて行くのを見た、ちょうどアッチのほうだったな」

 

 そう言ってステルクは、『水着コンテスト』の会場のある方向を指差した。

 

 

 ……と、ロロナをはじめ、その場にいたメンバーが釣られるようにしてその指差した方向を見たのだが……そこに、ギュウギュウ詰めとまではいかない人ごみを避けながら走ってくる影が見えた。

 その人物はかなり慌てている様子で、トトリたちが気付いたよりもかなり後……ほんのすぐそばに来るまでトトリたちのことに気付かずにいた。

 

「ハァ、ハァ……! あっ、トトリ……げっ!? メルヴィア!?」

 

「おーおー。終わってからちゃんと来てくれるなんて、「後でゆっくりお話ししよう」ってあたしとの約束、ちゃんと覚えてくれてたみたいねー?」

 

 走っていた途中で無理矢理立ち止まろうとしてバランスを崩し、尻餅をつくペーター。その彼の前に立ってニッコリと笑うメルヴィアの後ろには、『水着コンテスト』でペーターと険悪な雰囲気になったクーデリアとミミもいて、その鋭い視線を向けていた。

 なお、ペーターにとって唯一の癒しであろうツェツィは、ピアニャにかかりっきりなため、ペーターが来たことにも気づいていない様子だ。

 

 そんな三人に怯えていたペーターだったが、何故かすぐに立ち直り……メルヴィアに跳びついた。

 

「も、もうこうなったらっ、後はどうなってもいいから助けてくれ、メルヴィアー!!」

 

「え、ちょ、きゃっ!?」

 

 いきなりのペーターの奇行に、クーデリアとミミが引いた。そして、くっつかれたメルヴィアは珍しく女の子っぽい悲鳴を上げたかと思えば、ペーターを力任せにふりほどこうとし……ある事に気がついた。

 

「ちょ、ちょっと? なんであんた全身びしょ濡れなのよ?」

 

「なんでって、そりゃあ海にブン投げられたからで……だから、助けてくれって言ってるだろ!?」

 

「いや、「だから」って話の流れが……は? 投げられた? 海に?」

 

 わけのわからない話に首をかしげるメルヴィアだったが……その答えはすぐに目の前に現れた……。

 

 

 

「ペーターくん! どこに行ってるんですか!」

 

「ヒィッ!? き、来たぁ!!」

 

 その声にペーターは短い悲鳴をあげ瞬時に移動し、メルヴィアの背後に隠れる。

 それ以外の全員はその()()()()()()がした方向に目を向けた。そして彼女らが想像した通りの人物がそこにいた。

 

「まだ話は終わってませんよ! ほら、他の人を巻き込もうとしないでください!」

 

「「「「「マイス(さん)(くん)!?」」」」」

 

 一同は驚きの声を上げる。なぜなら、いつもニコニコで温厚なイメージがあるマイスが、珍しくぷんぷんと怒っているのだ。なので、皆驚いており、声こそ出していないものの、普段表情に(とぼ)しいホムやステルクでさえも目を丸くして驚いていた。

 なお、その声には「えっ、なに!?」とマイスが驚かされていたりする。

 

「えっ、ちょっと待って。さっきペーターが言ってた「海に投げられた」って、もしかしてマイスが?」

 

 疑い半分といった感じでマイスに問いかけるメルヴィア。周りも「え、うそ!?」とその可能性に目をみはったが、マイスはと言えば……少し恥ずかしそうな……申し訳なさそうな顔をして口を開いた。

 

「うっ! それは……ついカッとなってしまって手が出ちゃったというか……でも、あれは全然反省しないペーターくんがいけないんだよ!」

 

 段々と声色が弱くなりながらも最後まで言葉を続けるマイス。……つまりは海に投げたこと自体は認めているわけだ。

 

「ま、マイス君も、そんなふうに怒ったりするんだね……」

 

「うん……ちょっと……ううん、かなり以外かも」

 

 そこそこの年月を共に過ごしてきたフィリーとリオネラがそう感想をこぼした。

 確かに、彼女たちの言う通りマイスが怒ることは本当に稀なことである。いつもニコニコしているだけでなく、はしゃいだり、悲しんだり、落ち込んだりと感情表現……というか、比較的感情が顔に出やすいマイスだが、怒っているのを見たことがある人はいないのでは?と思えるほどみんなの記憶に無いのだ。

 

 

 そうなると、みんなは必然的に「どうしてマイスはそこまで怒っているのか?」と言う疑問を持つわけだが……そのことについては、すぐにマイス本人の口から出てきた。

 

 

 

 

「何なんですかあの催し物は! 無理矢理参加させられてる人ばっかりで、楽しめてる人がほとんどいなかったじゃないですか!! 観ている人たちだけでなく参加者も楽しめないとダメですよ!」

 

「「「「「「「ああ、なるほど……」」」」」」」

 

 街を中心に活動している面々とトトリが大体納得した様子で頷いた。が、逆に言うと、それ以外のメンバーはどういうことかわからず首をかしげた。

 その中の一人、メルヴィアが手近にいたトトリにどういうことか問いかける。

 

「なるほどって言ったけど、何か知ってるの?」

 

「何かっていうか、『青の農村』のお祭りというか、マイスさんはいつもお祭りをする時は「みんな楽しく・賑やかに」っていうのが信条みたいで……いつもお祭りを開催する時はみんなが楽しめるように考えてるんだって」

 

 「まぁ、それでも『カブ合戦』とか危なそうなお祭りをやってるんだけど……」と呆れ気味に笑うトトリ。それを聞いてメルヴィアは「ふーん」と何とも言えない返事をしたが一応は納得できたみたいでそれ以上は何も聞いてこなかった。

 

 そして……

 

「あれ? わたしも昔からお祭りにはけっこう無理矢理参加させられてて……マイス君、一回も怒ってたことなかった気がするんだけど……?」

 

「それはあれなのでは? キミは今回のようになんだかんだ言っていつも優勝してしまうから、言うにも言えなかったからではないか? それも彼を差し置いて……」

 

「うぐっ!?」

 

 心当たりがあるようで、ショックを受ける自称:姉。

 

「……って、あれ? 先生が優勝したっていうのを知ってるってことは……ステルクさん、見てたんですか!?」

 

「んんっ!?」

 

 そして、弟子のほうに指摘され狼狽(うろた)える元騎士もいたとか……。

 

 

 

 

「他の村のお祭りに僕の考え方を押し付けるつもりはありませんけど……それでもアレはあんまりですよ! せめて、事前に催し物の内容を伝えた上で了承を得て、参加者を決めるべきです!」

 

「ばっ、バカ言うなよ! そんなことしたら、参加してくれる人がいなくなるだろ!?」

 

「みんなが参加したがらないような催し物を開催しようとしないでください! みんなが参加したがる、観たがるイベントを考えるのが運営ってものじゃないですか!!」

 

「んなこと言われても……水着が見たかったんだから仕方ないだろ!?」

 

 言い合いにもなっていないくらい一方的なやり取りをするマイスとペーター。

 マイスのお祭りに対する熱意がどこから来ているのかというのも気になるところではあるが……それより、自分の素直な意見と欲望をさらけ出して、無意識に周囲の女性陣へのヘイトをためているペーターが心配である。自業自得ではあるが、骨も残らないのではないだろうか?

 

 

 だが、そんな自分に迫る危機にも気付かず、先程の自分の言葉から状況の打開の糸口を見つけた(つもり)のペーターがニヤリと笑う。

 

「そ、それにっ! なんだかんだ言っても、お前だって楽しかっただろ!? 水着姿の女の子を見れてウハウハだっただろ!?」

 

 海に投げられた恐怖心がまだ残っているからか少し歪んでしまっているが、勝ち誇ったように言うペーター。

 しかし、先程から心配されているように、彼の周りにはあの『水着コンテスト』の参加者たちがいる。ついでに()()()を気にかけている元騎士様もいる……幸い誰にも聞こえていなかったようだが、元騎士がペーターの言葉に「むっ……」と少し顔を赤くしながら反応してしまったのは秘密である。

 

 ドヤ顔でマイスと見たペーター。だが……

 

 

「楽しいわけないじゃないですか!!」

 

 

 ペーターが言った後、ほとんど間を開けずにマイスが返した言葉がそれだった。 

 

 その強い口調で放たれた言葉に、ペーターのみならず、他の人たちも目をみはった。そして、その中には「マイスがお祭りに向ける熱意はそこまで……」と感心する人もいた。

 …………が。

 

 

 

 

 

「水着は、みんなで着て浜辺でお城作ったり綺麗な貝殻探して遊んだり、水をかけあったり対岸まで泳いで競争したりするから楽しいんであって、見ているだけで楽しいわけないじゃないですか!!」

 

 

 

 

 さも当然のように言っている……が、残念。マイスは間違ってはいないかもしれないが色々とズレていた。

 そして、上げた例が(みょう)に具体的である。

 

 みんながポカーンとしている中、ここぞという時に何故か察しがいいペーターが、例が具体的な理由を察してしまった。その結果……

 

「お……お前みたいな勝ち組に、俺たちの気持ちがわかるもんかー!! うわぁ~ん!!」

 

 悲痛な悲鳴をあげ、子供のように泣きながらどこかへと走って行ってしまった。

 なお、そんな言葉を投げかけられたマイスはといえば……

 

「勝ち……? え、別に勝負してたわけじゃないはずなんだけど……?」

 

 言われたことがわけがわからず、逃げ出したペーターを追いかけるのも忘れてその場で首をかしげていた。

 

 

 忘れていたとは言っても、マイスはペーターが逃げ出してしまったことにすぐに気付き、「あっ!」と追いかけようとした。……が、その肩に手を置き、止めた人物が……メルヴィアである。

 

「えっーとさ。まだペーター(アイツ)に言いたいことはあるかもしれないけど……今日のところは許してあげてくれないかしら?」

 

「でも……」

 

「いや、うん。気持ちはわかるわよ? あたしだってちょっと()()()したいし……けど、さっきので心がポッキリいっちゃったと思うから、さすがに今日はね?」

 

 まだ納得できていない様子のマイスだったが、「お願い!」と頭を下げられてしまってはどうしようもなかった。ムカムカは残っているものの、ここはメルヴィアの顔をたてて……とまで考えているかはわからないが、マイスは手を引くことにした。

 なお、他の女性陣も別にペーターを追うようなことはしなかったし、追うのを止めたことに何か言ったりすることも無かった。

 

 

 何とも言えない沈黙の中、クーデリアがポツリと疑問を口にする。

 

「……ねぇ。水着を着て遊ぶ話、やけに具体的だったけどそういう経験ってあるの?」

 

「え、うん。前にいた町の中に大きな湖があってね、そこで毎年の夏に『湖開き』があって、夏の間は街の人たちでよく遊んでたんだ」

 

「ふーん……そう」

 

 マイスの返答に当たり障りの無い相槌をつくクーデリア。内心どう思っているかは本人以外わからないだろう。

 

 そして……そうだ! 『青の農村(うち)』にもあんな湖作ってみようかな!……と、とんでもない計画をマイスが考え始めたことも、本人以外気付きようが無かった。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 さて。ペーターとマイスのゴタゴタで色々とあったが、無事再会したマイスとホム。だったのだが……

 

 

 「この後は別れる? どうする?」となったところで、みんな……というか主にロロナの意見で「みんな一緒にまわろう!」ということになった。それもマイスだけでなく、なし崩しにピアニャとステルクも。

 

 そうしてようやく動き出した一行だったが……その途中「あっ、そういえば……」とメルヴィアがいい笑顔である話題を放り投げた。

 

 

「そういえば、二人って誰に投票したんですか~?」

 

 メルヴィアとしては空気を面白おかしいものに帰るための話題提供だったのだろう。だが、当の本人達……「二人」と言われて視線を向けられたステルクとマイスからしてみれば、面倒極まりない話題だろう。それに、周りの女性陣が食いついたことも含めて……。

 

 

 

「わ、私はたまたま立ち寄っただけで、コンテストは別に……。そ……それに! あのようなものはいかがなものかと思い、投票はしなかった」

 

 心なしか顔を赤くしてそう言ったステルク。

 メルヴィアあたりは「やっぱり堅物なのねー」という感じで流していたが、クーデリアは「……まあ、大体予想はつくけど」と、面白く無い物というか敵でも見るような目をステルクに向けていた。

 

 

 

 さて。我らがマイスだが……見たところ、話題を振られてもステルクほど狼狽えたりはしていないようで、一見いつもと同じ様子だった。

 

 そんなマイスに視線が集まる。

 

 

「僕が投票したのは…………」

 

 

 

【*1*】

 

 

 

「僕が投票したのは、ロロナだよ」

 

 マイスがそう言った瞬間、その場の時間が止まった……ように感じられた。特に、ステルクあたりはピシッと凍り付いたかのようだった。

 

 そんな中で普通に時間が動いていたのは……他でもないロロナである。

 

「そっかー、マイスくんはわたしに…………って、えええっ~!?」

 

 見事なまでにテンプレ通りのノリツッコミである。

 

 

「えっ、えっ、どうして!? わたし、マイスくんのことだから「一番楽しそうにしてたから!」とか言ってパメラに投票したって思ってたんだけど……なんで!?」

 

「なんでって、それじゃあ『水着コンテスト』の主旨が変わっちゃうよね? ちゃんと「水着姿が良かった人」に投票しないと」

 

 その言葉に、大抵の人が「マイスって水着コンテストの主旨を理解できてたんだ」と少なからず驚いていた。

 

「お祭りの主旨をちゃんと理解していないで参加する人がいたら、他の参加者も開催者側も大変なのは痛いほどわかってるから……」

 

 過去にそういう経験があったのか、マイスは少し目をそらしながら「あはははっ」とかわいた笑みを漏らす。

 

「で、でもでも! わたし、司会者さんも言ってたけど、子供っぽくなかった……? 体型はどうしようもないけど、水着は色とか形ももうちょっと挑戦すれば大人っぽくなったんじゃないかなーって思ってたりするんだけど……」

 

「ううん、全然そんなこと無いよ。むしろロロナっぽくて似合ってたんじゃないかな? でも、別のタイプにも挑戦してみるのはいいことだと思う。今度、水着を着る機会があったら思い切って見たら新しい発見もあるはずだよ!」

 

「えっ、そ……そうかなぁ? えへへへっ……♪」

 

 

 

 

 

「マスターは、おにいちゃんの中で「ロロナっぽい」()「子供っぽい」と大して差が無い認識だという可能性を考慮してないのでは……?」

 

「うん、してないと思うよ……。けど、先生は嬉しそうだから言わない方がいいんじゃないかなぁ?」

 

 ちょっと顔が緩んでいるロロナを見て、妹(けん)元助手と弟子がそんな会話をしていたとか……。

 

 

 

 

 

「色々思うところはあるけど……あんな素直(ストレート)に自分の感想を言ってるのを見ると、清々(すがすが)しくて好印象よね」

 

「それがどうかは置いとくとして……何故私を見ながら言う」

 

「ん? 別に何でもないわよー?」

 

 そんなやりとりが、受付嬢と元騎士の間であったとか、なかったとか……?

 




 サブタイトルと終盤で現れた数字……あれらは一体何なのか……?

 そう遠くないうちにわかる予定です。


 あと、最後のほうに関しては今後の展開の都合によっては加筆修正するかもです。

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