マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

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 ……そういえば、長々と4年目を続けていたなーと思い、特に季節感とか意識せずに年をまたがせてしまいました。

 そして、ここ最近にしては短いです。話を広げられなかったと言うよりは、他の物を書いていたから時間的な問題で……と言うことになります。
 書いていたのは前に言った『黄昏』や『不思議』とはまた違う物なのですが、ずっと前から加工と思っていたもので、近日……とは言っても、1,2か月後くらいになると思いますが公開しようと思っています。


 そして、活動報告にてアンケートを実施しております!
 二種類あるのですが、片方は反映させる予定の「マイス君のお嫁さん」について。もう片方はどうなるかわからないもの……となっております。
 回答は片方だけでも良いので、お気軽に参加してみてください!


5年目:マイス「いつもの日常と、あとちょっと」

 

***マイスの家前・畑***

 

 

 船での長期の冒険の都合で手入れができていなかった家の前の畑。ただ、『青の農村(うち)』のモンスター()たちが気をきかせてくれていたみたいで、最低限ではあるものの整備をしてくれていたみたいで、特別荒れたていたりすることはなかった。

 

 そんな畑だけど、僕が手をつけることができたのは冒険から帰ってきた翌日、街や村の人たちに挨拶をしてまわった後、夜『青の農村(うち)』の皆でちょっとした宴会をし、家に帰って寝て、起きてからだった。

 ……冒険の間、『プラントゴーレム』の種を埋めた時以外ほとんど土いじりができていなかったこともあって、久々の畑仕事はすっごく楽しかった。

 

 

 

 それから数日。その間にも、みんなと飲みに行ったり、他にも色々とあったんだけど……。

 

 今日の朝、畑を確認してみると、比較的育ちの早い『カブ』が収穫できる大きさまで大きくなっていた。農業を再開して初めての収穫となる。そして、その『カブ』は「過去最高の出来」と言えるほどの傑作(けっさく)だった。

 

 その『カブ』の内の一つを手に取りクルッと一回転させて状態を確認し、大きく頷いた。

 

「うん! これなら今年の()()にも問題無いだろうね。堅さも申し分ないし……となると、今回の収穫は全部そっちにまわしたほうがいいかな?」

 

 自分の食べるもののことなど他のことで使う機会が無いかを思い出し、今後の予定を考えて行く。

 

 うーん……。ここまで出来が良いと幾らか残しておきたい。それに、やっぱり自分でも食べてみたい。けど、確保しておかないといけない個数もあるし、それは余裕を持って余分に用意しておきたい気もする。

 そう考えると現時点では色々と厳しい部分があるんだけど……

 

 

「……けど、まだ時間的には少し猶予があるから、収穫したところでまた新しく『カブ』を育てれば、()()の前にはもう一回は収穫できるよね? なら、今日収穫したのは、使うのと確保しとくのは半々にしておこっか」

 

 今さっき収穫したばかりの『カブ』たちを二分して別々にし、一方は自分の家で保管して、もう一方は村の『集会場』で保管すればいいだろう。

 あとは、畑の空いたスペースに『カブの種』を()かないといけないから、家のコンテナから取ってこないといけない。

 

 考えがまとまった僕は、さっそく行動に移そうとしたんだけど……ちょうどそこに声をかけてくる人がいた。

 

「ふむ、相変わらず朝早くから精が出るな。出来は……もはや、聞く方が失礼かな?」

 

 その声に振り返ると、畑から少し離れた道にジオさんがいた。

 コッチへとゆっくりと歩いてくるジオさんに、僕は笑いながら挨拶を返す。

 

「おはようございます、ジオさん! それと、出来のことは失礼でも何でもないんで聞いてくださいよ。僕だって、今日みたいにいつも以上に出来が良い時はちょっとだけ自慢したいんですから」

 

「……ふ、ふはははっ! そうかそうか、それは悪かった」

 

 僕の冗談交じりの返事に、ジオさんは一瞬動きを止めて目をパチクリとした後、笑い声をあげながら軽く謝ってきた。

 ……それにしても、笑い過ぎな気もするけど。

 

 未だに笑みを浮かべているジオさんは、僕のすぐそばまで来ると二つに分ける作業の途中の『カブ』たちに目を止めた。そして一通り見た後、大きく頷いた。

 

「なるほど。確かに良い『カブ』だ。これは、君が自慢したくなるというのもわかるというものだ」

 

「はい! 本当に良い出来で、これなら自信を持って『カブ合戦』に使えます!」

 

 『青の農村』の年始、毎年恒例のお祭りとなっている『カブ合戦』。それには良い『カブ』が必要なんだけど、今日収穫した『カブ』は申し分無いだろう。この『カブ』なら思いっきり投げられて地面とかにぶつかってもグシャリと潰れてしまったりはしないだろう。

 

「今月末に開催する予定なんですが……そうだ! ジオさんも参加してみませんか?」

 

「あの祭りにか……。興味が無いわけじゃないが、遠慮しておこう」

 

「そうですか? ちょっと痛いけど楽しいですよ?」

 

「だがなぁ。私が参加したとすれば、アイツも参加して私に「日頃の恨み」とばかりに『カブ』を全力で投げつけてきそうでな……」

 

 「アイツ」と言われて一瞬誰なのかわからなかったけど、少し考えたらそれがステルクさんの事だとわかった。

 確かに、ステルクさんはジオさんの事を探し回っているし、日頃愚痴(ぐち)を時は「王は~」「あの方は~」と大半がジオさんに向けたものだ。時々、ロロナのことや無茶をする新米冒険者のことも言ってたりするけどね。

 

 でも、ジオさんとステルクさんの真剣勝負の『カブ合戦』も見ごたえがありそう……と思ったけど、それに巻き込まれる他の参加者が大変そうなのもすぐに想像できるから、僕のほうから言っておいてあれだけど、参加はしてもらわない方がいいだろう。

 

 ……よくよく考えてみると、『青の農村(ウチ)』にはジオさんやステルクさんが参加して楽しめそうなお祭りが少ないことに気付いた。

 以前、二人揃って参加してくれた『大漁!釣り大会』のような釣り系なら楽しんでくれそうではあるけど……。これまで催し物の企画を考える時には選択肢に入れてなかったけど、今度は剣とかを使うようなお祭りを考えてみようかな?

 

 

 

 僕が、一人でそんな考えに浸っていることに気付いてかどうかはわからないが、ジオさんは話に節目を付けるかのように一つ咳ばらいをして、改めて口を開いた。

 

「まあ、元気そうで何よりだ。……さて。少しばかり話をしたいのだが……時間はあるかな?」

 

 その問いに、僕は「種を蒔いて、水をあげたら」と伝えた。

 ……畑仕事はまとめてやらないと「後で」なんて思ってたらウッカリ忘れてしまうっていうのは、これまで何度も経験してきたからよくわかってる。

 

 

 

――――――――――――

 

***マイスの家***

 

 

 畑仕事を終えて身支度を整えた後、軽い朝ゴハンを用意して先にリビングダイニングに入って待ってもらっていたジオさんの前にも置く。

 

「ああ、すまない。朝早くからいきなり訪問したというのに、ここまで用意してもらってしまって」

 

「気にしないでください。友達が泊まりに来ることも多くて、朝に複数人分を用意するのも慣れてますから」

 

 「それに、この村は食材を追加するのも楽ですから」と、『青の農村』であることを全面的に押すような言い方で、付け加えて言っておいた。

 

 

 

 

「さて。今日ここに来たのは、君に頼みたい事があるからなのだよ」

 

 朝ゴハンの途中、食べる手を止めたジオさんがふとそんなことを言いだした。

 

「……その前に二つ、確認しておくことがある」

 

「確認……? なんですか?」

 

「キミは『アーランド共和国』が、『アーランド王国』とその周囲の村や街、地域が併合して出来たものだとは知っているね? そして、その動きは今でも続いている。事実、併合の準備をしている国や地域が今もあるのだが……まあ、それはひとまず置いておこう」

 

 そこで、朝ゴハンと一緒に出していた『香茶』を一口(ひとくち)(くち)にするジオさん。そして「ふぅ」と一息つくと再び話し出した。

 

「併合したからには、アーランドはその一帯も平和に保たねばならん。その責務が私にはある」

 

「それはまあ……国の一部になったわけですし、ジオさんは国王を辞めても『共和国』首長ですし」

 

 けど、それが何なのだろう?

 そう疑問に思ったんだけど、その疑問が解消される前にジオさんが「次にだが……」と別の事を話しだした。

 

「最近、新種のモンスターらしき存在が確認されている。数はそれほどでもないらしく、人の住む地の近くには出没していない……が、その新種たちと縄張り争いがあったのか、他のモンスターたちの動きが活発になり、一部獰猛になっているともいう」

 

「それは、噂くらいには聞いたことがありますけど……」

 

 確か、このあいだ『サンライズ食堂』で飲んだ時に、ロロナとリオネラさんとフィリーさんもそんな事を話していたはずだ。あとは、『青の農村』を立ち寄る行商人の人たちもそんな事を言っていたのを憶えている。

 ……ついでに言うと、その行商人たちは「その点、ここは良い。ここの周囲の街道は『青の農村』のモンスターたちの縄張りで他のモンスターが近寄らないからね」と村の中にいるモンスターを撫でながら言っていた。

 

 

「……で、だ。一つ目の話がここで関わってくる。ココからは少々離れた地域なんだが、その活発化したモンスターたちが偶然か何か徒党を組み、侵攻してしまった地域があってだな……」

 

「えっ!?」

 

「幸い、迅速な対応が行われモンスターたちも撃退でき、人的被害はほとんどなかったんだが……迎撃のために様々な物資が大量に消費されたうえ、モンスターたちの侵攻によって農作地も荒れてしまった。元々、特別豊かな土地で無く蓄えもそう多くなかったこともあって、一番の問題は食料でな、次の収穫を待つこと無く近いうちに蓄えが尽きてしまうことは目に見えているそうだ」

 

 それは間違い無いだろう。畑が荒れてしまえば、作物の栽培はまた一から始めなければならない。ものによって成長速度に差があるけど、そうすぐ育つものは少なく、そういうものほど一回の収穫で採れる量は少ないのが基本だ。

 そして、荒れた農作地で作物を育てている間食べられるものは限られているわけで……そこに住んでいる人たちの人数にもよるけど、そうとう厳しい状況だと言うことは間違い無い。

 

 

 ……ん? ということは、さっきまでの話の事も考えると……もしかして、僕へのお願いって……。

 

 そう僕が思い当たったのとほぼ同時に、その予想通りの言葉がジオさんの口から出てきた。

 

「そこで、アーランドから支援物資を送りたいのだが……」

 

「それを『青の農村(ウチ)』も協力して欲しいってことですね」

 

「そう。国での蓄えもあるにはあるのだが、量が量なのでな。食料関係に関しては一大生産地である『青の農村』に半分ほど出してもらいたいんだ」

 

 「それ以外の物資はこちらが……」と、あくまで作物等、食料関係に絞って手を貸して欲しいと言うジオさん。

 対して僕は……まあ、そんな話を聞いてしまっては何もしないわけがない。

 

「はい! ぜひ協力させてください! ……でも、どこから確保しよう?」

 

 

 そう。問題が全く無いわけじゃない。

 『青の農村』でも色々と蓄えていたり保存しているものはあるんだけど、あれらを管理しているのは村長()じゃなくてコオルのはずだし、その量は僕は把握していない。だから勝手に「使ってください」とは言えないし、もし支援物資として出してしまった後『青の農村』に何かあったら、今度は『青の農村』が大変なことになってしまう。それでは元も子もない。

 

「あっ!」

 

 ウッカリ忘れていたけど、あるじゃないか! すぐに動かせて勝手に使っても誰も困らない、そんな蓄えが!

 それに、あそこなら作物の他にも『鉱石』とかもある。食べ物だって採れたてのまま保管していたもの以外にも、日持ちがとても良くなった加工品もたくさんある。

 

 

 何の問題も無くなった僕は、さっそくどのくらいの必要なのかジオさんに確認をしてもらうことにした。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 その後、実際に()()()()』にジオさんを案内したんだけど……。

 

 

「私に娘でもいれば……いや、連中に「財産目的では」と言った手前…………だが、野放しにしておくのも、いかがなものか………………それに本人の意思が……」

 

 

 何だかわからないけど、すっごくブツブツ言い出していた。

 


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