マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

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※2019年工事内容※
 誤字脱字修正、細かい描写の追加、特殊タグ追加、句読点、行間……


マイス「モコモコ一人旅……えっ」

***旅人の街道***

 

 

 

 

 晴れ渡る青い空。街道脇をモコモコの姿でタッタカ走る。

 

 街道とは言っても家のすぐそばの街道ではない、アーランドの北にのびる『旅人の街道』と呼ばれる場所だ。

 

 その名の通り、旅人などが使う街道なんだけど、大きな道から少しそれると入り組んだ小道が続いていて様々な地域へと繋がっていることがわかる。

 ただ、小道にはモンスターや盗賊なんかがいたりするので少々危険ではある。

 

 あと、盗賊がモンスターに分類されている図鑑をみかけて、この世界の容赦の無さを感じた。さすがに捕らえるだけだとは思うけど……うん、深くは考えないようにしよう。

 

 

「これは『ミルクの樹液』、こっちは……『雲綿花』だったっけ?」

 

 それにしても、不思議なものだ。

 家の近くの街道と気候はほぼ同じなんだけど、生息している動植物や採れる鉱物がここまで大きく異なっているとは。おかげで見たことの無いモノが沢山だ。

 

 図鑑を手に入れてある程度素材について勉強していた僕は、家の畑で使えそうなもの、その他道具作り等に使えそうなものなどを見て確かめたのち、厳選して自分のポーチの中に入れる。

 モコモコの姿なので、今回もカゴではなく小型のポーチを使っている。だから入る数が限られるので、厳選して数を減らさなければならないのだ。

 

 

「ん? あの実は……」

 

 木を見上げると、頭上に金色の実が生っていた。

 持ち前の身体能力で木をよじ登り、持って降りれそうには無かったので 実を3個落としてから自分も木から降りた。

 

「この実、形なんかは『リンゴ』に似てるけど。図鑑に書いていたような気もするんだけど思い出せない……」

 

 木から落とした内の2個を全部ポーチに詰め込み、木の根元に座り 残りの1個を手に取ってじっくりと見てみる。

 見た目は色は違えどやっぱり『リンゴ』の形で、ほのかに香る匂いもほぼリンゴだ。

 

 見ても、嗅いでも どういうものかわからないなら、他に確かめる方法はひとつ。

 

「……食べてみるか」

 

 毒は無いとは思うけど、薬などの解毒できるものは今持っていないので、念を入れて かじるのはほんの少しだけにしておく。

 シャリっと これまた『リンゴ』と同じような食感だけど……

 

「ーー!? ケホッ、ケホッ! モ、モコー……」

 

 なんだろコレ……? 『リンゴ』とは似ても似つかない強い酸味だ。とてもじゃないけど、食べられたものじゃない。

 もし、ほんの少しではなく 口いっぱいにかじりついていたら、地面を転がってもだえ苦しんでいたかもしれない。

 

(あぁ、まだ口の中がすっぱい……)

 

 

 

――――――

 

 

 このときマイスは気づいていなかった。

 強烈な酸味に驚いていたからなのか、ただ単に気が緩んでいたのか……。

 理由はわからないが気づけなかったのだ。

 

 人がすぐそばまで近づいてきていることに

 

 

――――――

 

 

 

「つっかまっえたー!!」

 

「モッコー!?」

 

 

 それは完全な不意打ちだった。

 1メートルにも満たない小さなモコモコの身体を 両手で、というより両腕を使ってまるで抱きかかえるかのように捕らえてきたのだ。凄くガッチリと。

 

「モ、モコッ!?」

 

「こーら、暴れないでってば!」

 

 そんなこと言われても、サーチ&デストロイのデストロイ部分を受けたくないからコッチは必死なんだっ!

 

 

「ちょ!? ひとりで何勝手につっこんでるのよ!」

 

「ロロナちゃん…だ、大丈夫?」

 

「あっ! くーちゃん、りおちゃん! この子だよ!この前、見つけた新種のモンスター!」

 

 あああぁ!他の人も来ちゃった!! ……って、()()

 

 少し冷静さを取り戻し よくよく確認してみると、全員僕の知った顔だった。

 僕を捕まえて抱きかかえているのがロロナで、その後ろの木の陰の方からクーデリアと この前会ったリオネラさん。リオネラさんってロロナの知り合いのだったのかな。

 

 まあ、知った顔だからって危機的状況なことには変わりないかな……

 

 

「何が「この前、見つけた新種のモンスター!」よ! 不用意に近づいたら危ないじぁない!!」

 

コツン!!

 

「いたぃ! 痛いよ、くーちゃん……そんな叩かなくても」

 

「ええっと……」

 

「何おろおろしてるんだよリオネラ」

「まあ、確かにどうしたらいいか わからないけど」

 

 クーデリアがロロナを叱り、リオネラさんは二人の間で固まって、ホロホロとアラーニャがそれを見てため息をつく。

 そして僕はロロナにガッチリ抱き締められていて逃げられない。

 僕こそ、本当にどうしたらいいんだ……。

 

 

 

「ふぅ……で? ソイツから何か錬金術に使える珍しいモノでもとれるの?」

 

 ひとしきり叱って気が済んだようで、クーデリアがロロナ聞いたのだけど……内容が物騒に聞こえてくるのは僕だけだろうか?

 

「違うよー。そうじゃなくてね……あっでもこの金色の毛を使えば『モフコット』よりも良い布が作れそうかも」

 

モコモコー(お願いですから止めて下さい)……」

 

 さすがにオレンジの皮を剥ぐようにベリベリと剥いだりしないとは思うけど、この『金のモコ毛』を『毛がりバサミ』でかられるのも できれば遠慮したい。

 ……剥いだりしないよね?しませんよね? ねぇ……?

 

 

「ろ、ロロナちゃん。その子、凄く怖がってる……」

 

「確かにそうかも。ソイツ震えてるわね」

 

「えへへ。ごめんねー、大丈夫だよー」

 

 そう言いながらロロナはその場に腰を下ろし、僕を膝に座らせるようにして頭をなでてきた。

 

「モコ……」

 

 ああ、そういえばシアレンスに居た頃もこうやって なでられたりしてたな……

 

 

 その感触に懐かしさを感じていたが、ふと気が付いた。

 

 

 あれ? 今なら逃げられそうじゃないかな……?

 

 

 僕を捕まえているロロナは僕をなででいるから片手だけで捕まえているので、そう無理も無く抜け出せそうだ。

 そして、クーデリアとリオネラさんたちもロロナのそばに腰を下ろしていて、とっさの行動は難しいだろう。

 なら、様子を見て――

 

「……で、あんたののんびりした空気に流されたけど、結局何のためにソイツを捕まえたの?」

 

 ――あっ、確かにそれは気になる。逃げるのは理由を聞いてからにしようかな。

 

「それはね、新種のモンスターの名付け親になるためなんだ!」

 

モコッ(えっ)?」

 

「新種の名前ねぇ……ロロナらしいというか何というか」

 

 見つけた人が付けられるのだろか。

 仮に名前を付けたとしても同種はいなくて僕しかいないわけだから、あんまり必要性が無くて意味がないような気もするけど……

 

 

「だから、特徴か何かで決めたいんだけど……」

 

 

「んー、大きさはオレたちと同じか少し大きいくらいだな」

「あとはこの目につく金色の毛ね」

 

 ホロホロとアラーニャもけっこう乗り気みたいだ。

 確かに、ふたりと大きさや頭身とかは近いかも。まあ人と比べたら当然のことなんだけども。

 

 

「……プルプル震えてるから、えっと、そんな感じの名前でどうかな……?」

 

 ごめんなさい、リオネラさん。もう今震えてないからわかるとは思うけど、いつも震えてるわけじゃないんだよ?

 それに「プルプル」みたいな名前になると、どっちかというと『ぷに系』っぽくなってしまうんじゃないかな。

 

 

「モコモコ鳴くから、そういうのでいいんじゃない?見た目の毛の感じもそうだし」

 

 クーデリア本人はてきとうに言ってるつもりかもしれないけど、正解を言ってます。

 なお、鳴き声については、モコモコの鳴き声はみんなこうだし、この姿だと 僕も意識して喋ろうと思わない限りモコモコ喋りになる。

 

 

「うーん……みんなの意見をまとめて考えると……?」

 

 

 あごに指をあてて真剣に悩みだすロロナ。

 そこで、拘束が完全に緩んでいることを確認し……

 

「モコー!」

 

 全力疾走でその場から逃げ出した。

 後ろからロロナたちの声が聞こえてきたけど、気にせず走る。

 

 

 ……どんな名前を付けるのかは、ちょっと気になるけどね。

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 不意打ちなタイミングなうえ、あまりにも走るスピードが速かったため、追いかけるのははじめから諦めていたロロナたち。

 ロロナは涙目になりながら残念そうに顔を歪めている。

 

「うわーん、逃げられちゃったよー!」

 

 

「げ、元気出して」

 

「つーか、よく大人しくしてたよな、アイツ」

「たしかにそうね……」

 

 ロロナを慰めようとするリオネラと 金毛のモンスターの感想を言い合うホロホロとアラーニャ。

 

 

「ぐすん……あの子『アーランド国有鉱山』で見たとき、ずっと隠れてたみたいで、ステルクさんに見つかったらすぐに逃げ出してたから、きっと大人しくて臆病な子なんだと思う」

 

 

 こぼれた涙を手で拭いながら言うロロナに、今度はクーデリアが言葉をかける。

 

「そんなに泣かなくてもいいじゃない。それと、そのときもポーチをしょってたの?」

 

「えっ、どうだろ……? 鉱山が薄暗かったからしっかり見れてなくて わかんない。……そういえば抱っこした時に気づいたけど、結構ポーチ膨らんでたなぁ。何が入ってたんだろ?」

 

「そっ。ポーチをどうやって手に入れたかはわからないけど、人と同じものを扱えるくらいには頭が良いモンスターってことかしらね」

 

 

 そんな話をしながら、ロロナたちは本来の目的である 錬金術の素材集めに戻った。

 


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