マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

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4年目:マイス「他人事でも心配事」

 

 

***マイスの家・前***

 

 

「…っと! ふぅ、こんなものかな」

 

 『ジョウロ』片手に、僕は朝日に照らされた家の前の畑を見渡す

 様々な種類の作物を育てているため大きさや成長にばらつきがあるけど、どれも良い収穫が期待できそうだということは、これまでに(つちか)われてきた目で見ればわかった

 

 水やりの出来ていない場所が無いことを確認し終え、僕は『ジョウロ』を片付け、家へと戻っていく

 

 

 

――――――――――――

 

***マイスの家***

 

 

 朝の日課の畑仕事を終えて家へと入った僕の目に入ってきたのは……

 

 

「あっ…マイスくん、お仕事おつかれさま。今、ちょうど様子を見に行こうかなって思ってたところだったの」

 

「おせっかいかもしれないけど、朝ゴハン作らせてもらったわ」

「まぁ、リオネラが作ったもんだからマイスのよりも美味くはねぇかもしれねぇけど、食ってけよ」

 

 ……キッチンからリビングダイニングの部屋へと3()()()の朝食を運んでいるリオネラさんとアラーニャとホロホロだった

 

 

 少し前に『青の農村(うち)』にやって来て、久しぶりに『アーランドの街』へも行ったリオネラさん

 以前に顔を見て気絶してしまったステルクさんとも、偶然の遭遇でありながらもなんとかお話しができるまでになったりと、『アーランドの街』を避ける理由も無くなったんだけど……ここ何年間かはこのあたりに来た時には、いつも僕の家の『離れ』で寝泊まりしていたためか「ここが一番安心できる、かな?」と、引き続き街ではなく僕の家の『離れ』に泊まっている

 僕としては特に困る事も無いし、話し相手が増えるからいつも通りに承諾した

 

 そして、そんなリオネラさんだけど、いつもではないものの今日のように早朝からの僕の畑仕事に合わせるように起きて、朝ゴハンを作ってくれることがある。申し訳なさもあるけど、ありがたい事には違いないから、いつもその時は美味しくいただいている

 

「ありがとう! ゴメンね、朝早くからこんなことしてもらっちゃって…」

 

「ううん、気にしないで。私がしたくてしてる事だから」

 

「そうよ。私たちは泊めさせてもらってるんだから、このくらいのことはさせて貰うわ」

「だな。それに、『デニッシュ』にスープを一品付けただけの簡単なもんだから、大した労力じゃないから、気にすんなよ」

 

 僕に気を遣わせないためか、そう言うリオネラさんたち

 

 

 そんなリオネラさんが朝ゴハンをテーブルの上に置いて、ソファーに座っている人にむかって言った

 

「フィリーちゃん。マイスくんも戻ってきたから、いったん本は置いて朝ゴハンにしよう?」

 

「あっうん……って!いつの間に!? ゴメンねマイス君!お、おお疲れ様っ!」

 

「あはは……そんなに慌てなくても」

 

 何か用があったのか、それとも特に理由が無いのか、今朝、僕が畑仕事をしている時に街の方から朝一でやって来たフィリーさん。畑仕事の途中に会って挨拶をしてたんだけど……あの時間からすると、本当に僕らと変わりないかそれ以上に早く起きてこっちに来たんだと思う

 そんなフィリーさんが、読んでいた本を慌てて閉じて壁際の棚へと置いたのを見て、僕は苦笑いをしてしまった。別に何か悪い事をしてたわけでもないのだから、そんなに慌てなくていいと思うんだけどなぁ…?

 

 

「それじゃあさっそく、リオネラさんが作ってくれた朝ゴハンを食べようか」

 

 ……そんな感じに、今日という一日は始まった

 

 

―――――――――――――――

 

 

 リオネラさんが用意してくれた『デニッシュ』はとても美味しく、スープのほうもしつこ

 

くないアッサリとした味で食べやすくて朝ゴハンにはピッタリだった

 そんな朝ゴハンを食べながら、色々お喋りしたり……フィリーさんが「私ももう少しお料理頑張ってみようかな…」なんて呟いたりしながら、僕らは朝ゴハンを食べ終えた

 

 そして、食後に少しゆっくりとお茶を飲んでいた時に、僕はふと、さっきフィリーさんが読んでいた本の事を思い出し、そのことについて聞いてみることにした

 

 

「そういえば……あの『魔導書』、読んでみてどうだった?」

 

 そう、フィリーさんが読んでいたのは、この前僕が書きはじめた「『魔法』について書いた本」…『魔導書』だった

 基礎の基礎とはいえ、ある程度まで書けた『魔導書』。実際に僕以外の人が読んでみたらどう思うのかが気になって、ちょうどウチにいたリオネラさんに読んでみてもらってた。……経緯(けいい)はわからないけど、今朝はそれをフィリーさんが読んでいた

 

 …で、聞かれたフィリーさんだけど、少しだけ「うーん…」と悩むような仕草をした後、ちょっと恥ずかしそうに笑った

 

「リオネラちゃんから貸してもらって読んでみてたんだけど、途中までだけど、思ってたよりも難しい内容じゃなかったかな?むしろ楽しんで読めるくらい。……けど、『ルーン』っていうのの扱い方のお話はちょっと理解し辛くって……」

 

「ああ、やっぱりそうか…。むこうじゃあ当たり前みたいなところはあったけど、ここには考え自体が無いからなぁ」

 

 大自然の力そのもの…だとか、色々と表現を工夫しながら書いたつもりだったけど、そう目に見えてわかったり何かでは計ったりすることが出来ないものだから、「ある」と言われて「それを感じろ」って言われても難しかったのだろう

 うーん……『ルーン』の集合体である精霊『ルーニー』を知って貰えれば……、もしくは、『ルーニー』とこの世界の『精霊』との関連性を知れたら、もっと的確な書き方ができるかもしれないけど……

 

 そう少し悩んでいるところに、今度はリオネラさんが僕に言ってきた

 

「私はなんとなくだけどわかったよ」

 

「本当?」

 

「うん。…やっぱり、普段から目に見えない力を使ってるからかな?頭でわかるっていうよりも、感覚で…って感じだけど……」

 

 物を触れずに動かしたり浮かせたりできる『力』を持っているリオネラさんには、どうやら『ルーン』は理解できる……というよりは、信じられるものなのかもしれない

 そんなリオネラさんの言葉に、フィリーさんは興味深そうにリオネラさんの顔をジーッと見ながら口を開く

 

「へぇ…、やっぱりそう言うのって感覚で使うものなの?」

 

「あの本に書いてた『魔法』がどこまでそうかはわからないけど……でも、少なくとも私の『力』は感覚やイメージに頼ってる部分が大きいよ」

 

「そうなんだ。……感覚、かぁ。『杖』での『魔法』を使っていけばその感覚が身体に染みこんだりするかな?」

 

 フィリーさんの言葉は、後半のほうは顔を僕のほうに向けていたので、僕に対するものだろう。僕は素直に頷く

 

「たぶんね。『杖』に付与されたものとは言っても、僕の感覚ではそう大きくは違っているようには思えなかったよ」

 

「そっかー…。それじゃあ『魔法』に挑戦するのは、私はもうちょっと『杖』で頑張ってみてからにしようかな。その頃にはきっとその本も最後まで書かれているだろうし」

 

「期待にそえるように、頑張って書かせてもらうよ」

 

 『魔導書』については、もっと「詳しく、わかりやすく」ってところだろうか

 もう少しじっくりと考える必要がありそうだな……

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 食後のお茶も終え、片付けもしてしまったところで、ホロホロとアラーニャが僕に問いかけてきた

 

「おい、マイス。お前は今日は何か予定が入ってるのか?」

「無かったらリオネラとお散歩にでも行ってみない?もちろん、フィリーちゃんや私たちも一緒にだけど」

 

「嬉しいお誘いだけど、今日は昼前から次のお祭りの話し合いがあるんだ。今度は絶対に出たいから、今からはちょっと厳しいかな」

 

 僕がそう言うと、アラーニャは「あら、そうなの」とこころなしか残念そうな声のトーンで言った

 それとは別に、フィリーさんが不思議そうな顔をして首をかしげた

 

「今度は絶対に…って?」

 

 そのフィリーさんの言葉に続いて、村にいて事情を知っているリオネラさんが口を開く

 

「あの、このあいだのお祭りは嫌いだった?」

 

「いや……うーん、嬉しくなかったわけじゃあないけど…。やっぱり、村の人にも、外からきた人にも楽しんでもらえるお祭りがいいからさ。そういう視点だと、少し申し訳なさがあったかな。……それに、僕も準備に参加したかった」

 

「……もしかして、一番最後が本音かしら?」

「そうだとしたら、ワーカーホリックってやつじゃねぇか?」

 

 アラーニャとホロホロに、変なツッコミを入れられた

 ……でも、お祭りって準備をするところから楽しいよね? だから、やっぱりそこからちゃんと参加したいんだ

 

 

 

「よ、よくわからないけど……話からすると、今度のお祭りはマイス君が張り切るから凄いことになりそうだね」

 

「お祭りだから凄いにこしたことは無いと思うけど? とりあえず、来月のお祭りは楽しみにしといてね」

 

「うんっ!……ん?」

 

 あれ…? 僕は何か変なことでも言ってしまっただろうか?

 

 フィリーさんはひとりで何かを考え込みだしてしまった

 そんなフィリーさんの顔を心配そうにしながら、リオネラさんが声をかけた

 

「フィリーちゃん…?どうかしたの?」

 

「来月……ええっと、何かあった気がしたんだけど……?」

 

 「んん?」っと、そう首をひねって何かを思い出そうとしていたフィリーさんだけど、不意にパチリッと目を見開いて手を叩いた

 

「ああっ!そう、確か来月にトトリちゃんの免許の更新があるんだった!」

 

「免許って『冒険者免許』か。……そういえば、もうそんな時期だっけ」

 

 

 

 

 

 思い返してみると、僕の家にトトリちゃんとジーノ君が来たのは3年前の春から夏に変わるころだった

 

 あの時は『冒険者免許』を貰った後、初めての冒険者ランクのランクアップに街に来て、その時にクーデリアから『青の農村(ここ)』の事を聞いて来た…って話だったはず。……そこから考えると、それより少し前に免許を貰っていたことになる

 なら、来月あたりでちょうど3年というのは、そうおかしくないことだろう

 

 

 気になるのは、トトリちゃんたちが無事免許を更新できるかどうか

 

 トトリちゃんはきっと大丈夫だろう。僕の知っている限りでは特別サボっているような様子は無かったし、調合の腕も十分に上がっていたから、心配はいらないはずだ

 

 ジーノ君は、よくわからない。…というのも、トトリちゃんとは違って一緒に冒険に行く機会も少なかったから……特に最近は無かったから、実力がどうなっているかが不明だ。……けど、聞いた話ではステルクさんが剣の指導をしていたりするらしいから、強くはなっている…はず。それで大丈夫かはわからないけど……

 

 

 でも、一番心配なのは……トトリちゃんと同時期に免許を取ったっていうミミちゃん、かな

 大丈夫だと思いたい、けど、小さい頃のミミちゃんしかほとんど知らない僕としては不安で不安でしょうがない

 

 本当に冒険者としてやっていけてるのかな?

 頑張らなきゃ、って気持ちだけが先走ってしまって無茶をしてしまっていないかな?

 怪我とかしてないかな?

 

 わからないことだらけなせいで、色々と心配しだすとキリが無くなってしまう状況だ

 

 ……でも、理由はわからないけど、このあいだまでのトトリちゃんと同じかそれ以上に僕の事を避けてるからなぁ、ミミちゃんは

 心配だけど……うーん、どうしよう…………?


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