***マイスの家***
ここ最近、僕の事を避けていたようだったトトリちゃん
そのトトリちゃんが僕の家に来て口にした言葉……
「あ……あのー…………じ、実は、少しお話したいことがあって……」
「その……私の、お母さんのことで」
僕はその言葉に内心動揺してしまっていた
なぜなら、「
でも、その予想は違うんじゃないか、という感じもしてきた
というのも…………
――――――――――――
とりあえず家にトトリちゃんを迎え入れ、いつも誰にでもするようにソファーへと案内した
そして、これまたいつも通りにお茶を用意して、トトリちゃんの座っているちょうど前あたりのテーブルの上にカップを置く
「あっ、ありがとう、ございます」
そう、少し言葉に詰まりつつもお礼を言ってくれたトトリちゃん。だけど、やっぱり目も顔も会わせてくれないし、少し落ち着きも無い感じがする
僕は、ソファーとはテーブルを挟んで反対側にあるイスに腰かけ、トトリちゃんと対面する形をとった
「…………」
「…………」
……そして、お互いに次の言葉が出てこず、僕とトトリちゃん、二人の間に妙な沈黙の間ができてしまっていた
……で、この沈黙の中に、僕が自分でしていた予想を「違うんじゃないか?」と思った理由……そのきっかけがあるんだけど……
「大丈夫、きっと大丈夫だよ……トトリちゃん、頑張って……! もしもの時は、わたしも手伝うから……!」
「……トトリよりも、ロロナの方が緊張してるんじゃね?」
「この子が弟子以上に張り切っちゃったりするのは、いつもの事でしょ。ほら、「トトリちゃんの先生なんだからっ!」って感じに」
「し、心配しなくても、マイスくんは優しいから……ね?」
「うぅー……でも、話を聞いてからだとなんだかマイス君から謎の威圧感が感じられる気が……と、ととトトリちゃんの立場だったら、きっと、もっと凄いんじゃ……!?」
「……事情は聞いてはいるが……しかしだな、こんな覗きの真似事をするのはいかがなものか」
「んなこと言ってもよ、この状況放置して帰れって言うのもムチャなハナシだぜ?」
「そうよねぇ…。仕事なんかにも手はつきそうにないし……下手したら自分の仕事場で爆発起こしちゃいそうな人もいるものね」
静寂の中、トトリちゃんが来た玄関とは反対側……つまりは裏手側の窓の外あたりからわずかに聞こえてきた複数の声
内緒話のような小さな声での会話は、モコモコの姿ほどではないけど そこそこ聴覚に自信のある僕の耳にはギリギリ聞こえていたが、ソファーに座っているトトリちゃんには聞こえていないみたいで、相変わらずの様子だった
……そして、その外の内緒話の声なんだけど、その全てが僕の知っているひとのものだった
ロロナ、イクセルさん、クーデリア
続いて、リオネラさんとフィリーさん
最後に、ステルクさん、そしてリオネラさんといつも一緒にいるホロホロとアラーニャ
この前、やけに予定を聞いてきた上に「出かけるな」と念を押してきたクーデリア。それに、今朝がた街の方へと行ったフィリーさんとリオネラさん&ホロホロ&アラーニャがいるあたり……誰が計画したのかはわからないけど、おそらくこのトトリちゃんと僕との二人きりの対面は、家の外に隠れている皆がセッティングしたものだと思うんだ
……それに関しては色々と考えたいところではあるけど……とりあえず、もしこれが「ギゼラさんの行先を隠していたことについて」だったとすると、少しおかしい気がする
いや、だって、トトリちゃんのことを応援(?)しているロロナが今外にいるけど……僕の知っている限り、ロロナの性格だと「マイス君!なんでトトリちゃんにイジワルするのっ!?」って真っ先に言ってきそうな気がする。……そうでなくても、トトリちゃんの隣に座るくらいのことはするだろう
でも、実際はそうはなっていない。……とすると、「ギゼラさんの行先のことを隠していたことについて」とは別のことでこんなことになっているんじゃないかな?
……あれ?
それはそれであんまり心当たりが無いような? やっぱりティファナさん絡みの『サンライズ食堂』でのこと?いや、でもトトリちゃんは「お母さんのことで」って言ってたから、ギゼラさんのことのはず
とりあえず、このまま黙っていてもどうにもならないから、話を切りだしたいんだけど……でも、何から聞けばいいのかな? いっそのこと、外にいるみんなを呼んでみたり?でも、みんなが僕とトトリちゃんをわざわざ二人きりにしたのは、きっと何か考えがあってのことだろうから、それを壊すのも……
「あ、あのっ!マイスさん!!」
考え込んでしまいかけていた僕に、トトリちゃんがいきなり大声で呼びかけてきた。おかげで、驚いてしまい少しだけ飛び上がってしまった
「うぇっ!?どうかしたの、トトリちゃん?」
「その!す……すみませんでしたっ!!」
ソファーから勢い良く立ち上がったトトリちゃんが、その勢いのまま後頭部が見えるくらい深く頭を下げてきた…………って
「ええっ!? 顔を上げてよトトリちゃん!いきなり、どうしたの?」
「……ロロナ先生から聞いたんですけど、その……わたしが避けてたせいで凄く落ち込んでたとか…。それにイクセルさんからも、お酒を
「いやいや、なにそれ!?確かにそんなことは言ったかもしれないけど、お酒を飲んでぼやいたりはしてないよ!? それに、落ち込んではいたけど、あれはフィリーさんと…それとロロナにも避けられ気味だったのも大きかったから、そんなに気にしなくていいよ」
僕がそう言うと、窓のほうから小さな声で「うぅ、あれはその……」「ご、ごめんねマイス君」と聞こえてきた……
「それに、またこうしてトトリちゃんと話せたから、もう大丈夫だよ」
「で、でも!っ……」
何かを言おうとしたようだったけど、トトリちゃんは言葉を詰まらせてしまったようだった。……だけど、決心したようにそらしていた視線を僕に向けて、改めて口を開いてきた
「それに、わたし、お母さんのことでマイスさんに謝らなくちゃいけなくて!」
「ギゼラさんのことで?」
ええっと……つまりは、最初に言っていた「話したい、
ギゼラさんがしたことか何かで、トトリちゃんが謝らなくちゃいけないと思うようなことといったら……
「冒険の途中にギゼラさんが泊まりに来た時に、「朝の運動だー」って言って素振りしていたギゼラさんの剣がすっぽ抜けて、ウチの作業場が半壊しちゃったこと? それとも、僕がいないうちに「農業ってそんなに面白いのか気になった」って言って、地面を耕そうとして家にあった予備の『クワ』を十数本叩き折った…というか
「ごふっ……!?」
……お茶を口にふくんでいた様子もなかったのに、トトリちゃんがむせた
というか、一瞬、トトリちゃんの口から赤い液体が噴出したように見えた気がした。テーブルの何処にも赤い液体が飛び散っていないから、ただの僕の見間違いなんだろう
「…予想はできてたし、覚悟もしてたけど……何やってるの、お母さんは……」
そう呟くトトリちゃんはプルプル小刻みに震えていた。……ついでに、窓の方からはトトリちゃんへの小声の応援とため息が増えたようだった
「でも、全部もうギゼラさんが謝ってくれたし……トトリちゃんが何か気にするようなことは……」
「い、今聞いたことも謝りたいですけど……そ、そうじゃなくて! お金のことなんです!」
「……お金? 何かあったかな……?」
「わたしのお母さんが壊したものとかのお金をっ!マイスさんが代わりに払ったっていう!!」
僕の何かが気に入らなかったのか声をあらげるトトリちゃんに言われて、思い出そうとしてみると……ああ、確かに。トトリちゃんの言うとおり、ギゼラさんの代わりにお金を支払ったことがあった
でもアレって…………
「アレももうギゼラさんと話はついてるから、それこそ気にしなくていいよ?」
「そうですよね……だから、わたしがかわ…………えっ?」
深刻な顔から一転してポカンと口を開けるトトリちゃん
「あれ?そういえば話して無かったかな? ほら、昔に僕とフィリーさんとリオネラさんたちで『アランヤ村』に行ったことがあるって話」
「あっ、はい。ジーノくんと一緒に初めてここに来た時に聞きました。確か人形劇と、わたしのお母さんに会うためにって……あっ、もしかして」
「うん。実はその時の僕の目的のいくらかは「立て替えた代金の説明と徴収」だったんだ」
「うそっ!? あの頃のことは元々あんまり憶えてなかったけど……そんな事があったなんて」
驚いていたのはトトリちゃんだけじゃなかった
窓の外からも
「まぁ、お金のことだし、カッコイイ話じゃなかったから、ギゼラさんと隠れてこっそり話したんだ。だから、知らなくっても仕方がないよ」
「そ、そうなんですか? でも、大きなお金が家から動いたなら、もしかしたらおねえちゃん……は小さかったかもしれませんけど、お父さんは知ってたり……」
「うーん、どうだろう?」
「えっ?」
「だってあの時「何か壊してもコッチでなんとかしますから、気にせずすっごい冒険をしてください!」、「おうっ!アタシにまかせときな!」で話が終ったようなものだったから」
「「「「「「「ええっ!?」」」」」」」
僕の目の前にいるトトリちゃん、そして、外にいるみんなの声が完璧にそろった。もはや、隠れる気があるのか疑問に思えるほど普通に大きな声だった
そのためか外から「やばい!?」「まずい!!」等の小声が聞こえてきて、続いてドタバタと誰かが走っていくような音が聞こえた
「つ……つつ、つまり、マイスさんがそのまま払い続けてるってことですか……?」
「えっと……そうなるのかな?」
「そのまま」というわけじゃなくて、ちゃんとギゼラさんと話した結果なんだけど……まあ、僕が払っていたのは確かなので頷いてみせた
すると、トトリちゃんがテーブルに手をついて身を乗り出しながら、また声をあらげだした
「結局ですか!? やっぱり、沢山稼いで、お母さんの代わりにわたしが返します!」
「ええっ!? そんな、お金を返されても困ちゃうよ!?それに、コオルに怒られる!」
「なんでっ!?」
――――――――――――
その後、トトリちゃんと僕は少しの間、あーだこーだ言い合ったんだけど……
「マイスさんのばか! お金に無頓着のお人好しー!!」
……と、よくわからない罵倒(?)をして、トトリちゃんは家を飛び出していってしまった
……と思いきや、すぐに戻って来て
「あのっ!今度は逃げずにお茶と『パイ』を用意して……その、ちむちゃんたちと先生と待ってますから……これからもよろしくお願いします」
と言い残して、今度こそ帰って行ってしまった
よくわからないけど、とりあえずトトリちゃんとは仲直り(?)が一応できたみたいで一安心することが出来た
……それにしても、結局、何でトトリちゃんは僕を避けていたんだろう?
解……決……?