マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

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!注意!
 マイス君、まさかまさかで登場しません

 ……でも、このイベントは個人的に『トトリのアトリエ』内でも指折りのお気に入りエピソードなので、入れさせていただきました
 本家ではロロナの何とも言えないイントネーションを含め、とても素晴らしいボイスで……プレイ中はずっとニヤニヤしていたのを今でも思い出します

 今回から本格的に絡んでくるあの人とマイス君のお話は、今後のお楽しみということでよろしくお願いします!



3年目:トトリ「……きゃあ!」

 

 

***ロロナのアトリエ***

 

 

 先生のアトリエでひと仕事終えて、少し息をついていたころ

 アトリエの玄関の戸がノックされる音が聞こえてきた

 

「はーい、どうぞー」

 

 「誰かが、直接依頼に来たのかな?」なんて思いながら、玄関のほうを見ていると……

 

 

「失礼する」

 

 扉が開きアトリエに入ってきたのは、とても鋭い目をして睨んでくる人だった

 

「きゃあ!」

 

「うわぁ!」

 

 わたしと一緒にいた先生も、わたしとほぼ同じタイミングで悲鳴を上げた

 けど、先生は「…ハッ!」としたかと思うと、安堵の息を吐き出した

 

「な、なんだ……ステルクさんじゃないですか。もう、驚かさないでくださいよー」

 

 先生の言葉につられて、アトリエに入ってきた人を改めて見てみると……あっ、確かにステルクさんだ。顔が怖いことも含め、真っ黒な服装もいつものステルクさんだ

 

「ご、ごめんなさい。ひさしぶりだったから、つい…」

 

「あれ?トトリちゃん、ステルクさんのこと知ってるの?」

 

「はい、何度かわたしの…『アランヤ村』のほうのアトリエに来てくれてて。色々お話しとかも…」

 

 そこから先生に色々と説明しようとしたんだけど……

 ふと、耳にドアノブが動くような音が聞こえてきて、そっちへと目を向けてみると……

 

 

「帰る」

 

 

 半分くらい もう外に出てしまっちゃってるステルクさんが、そう小さく言って、そのまま行ってしまいそうになってた!?

 

「えっ?あ、ちょ、ステルクさん!?」

 

「ま、待ってくださいよ!謝りますから。ステルクさんってばー!」

 

 

――――――――――――

 

 

「…………。」

 

「もう、いつまで()ねてるんですか?機嫌直してくださいよー」

 

 わたしと先生で ステルクさんをなんとかアトリエに引き止めることができたんだけど、ソファーに座っているステルクさんの顔はいつも以上に…という表現でいいのかはわからないけど、すごい仏頂面だ……

 

 

 先生が言っても、うんともすんとも言わないままのステルクさんをどうにかしないとと思い、わたしは頭を悩ませ……ふと閃く

 

「あ、あの、えっと……そうだ! ステルクさん、何か御用があったんじゃないですか?」

 

「このアトリエの店主が戻ってきたと聞いたので、挨拶に来た」

 

 ため息を吐いたステルクさんは、軽く首を振りながら続けていってきた

 

「……まさか、その店主と弟子の二人に悲鳴を上げられるとは思わなかったがな」

 

「だから、謝ってるじゃないですかー…」

 

「謝ればいいというものではないだろう」

 

 先生の反論にもズバッと言い返すステルクさん

 

 うーん……前に「驚かれるのには慣れてる」みたいなこと言ってたけど、やっぱり悲しかったり怒りたかったりするのかな?

 わたし、顔を見て叫ばれたりしたことないからわからないなぁ……

 

 

「だってステルクさん、前より顔怖くなってるし…」

 

「なりたくてなったわけじゃない!」

 

「ひゃあ!?ご、ごめんなさい!」

 

 …ロロナ先生にむかっての言葉だったのかもしれないけど、その大きな声に わたしはつい謝ってしまってた

 

「あー!トトリちゃんに怒鳴らないでくださいよ!!大人気(おとなげ)ないですよ!」

 

「君に大人気ないなどといわれたくは……はぁ、もういい。私が悪かった」

 

「あっ、いえ、わたしのほうこそ…」

 

 えっと、よくわからないけど ステルクさんも謝ってきたから、わたしも改めて頭を下げる

 

 そんなわたしを撫でながら、ロロナ先生はわたしにニッコリ笑いかけてきた

 

「大丈夫だよ、怖がらなくても。本当はすっごく優しい人だから、ステルクさんは」

 

「一緒に悲鳴を上げた君が言うな」

 

 その的確なツッコミに、わたしも小さく「ですよね…」と呟いてしまった……

 

 

 

「……それより、ここに帰ってきたということはアストリッドは見つかったのか?」

 

「それは……手がかりすら見つからないというか…」

 

「そうか……まあ仕方ない。あいつが本気で逃げていたら、そうそう捕まえられんだろうしな。……もし、捕まえていたら、文句の一つでも言ってやりたかったんだがな」

 

 ひとまずステルクさんの機嫌も直ってからのお話は、そんな内容から始まった

 ええっと、アストリッドさんって人はロロナ先生の先生……だったはず。『ちむちゃんホイホイ』を使った時なんかにも先生が「師匠がー!」って言ってたし、その前にもマイスさんから少しだけ聞いたことはある

 

 

「そういうステルクさんは、ジオさん見つけたんですか?」

 

「聞くな。見つけていたら、こんな顔はしていない」

 

「ですよねー……はぁ…」

 

 ジオさんっていうひとは、確かステルクさんが探しているアーランドの元王様の呼び名で、本名は……なんだったっけ?

 前に、ステルクさんから色々と聞いたときに教えてもらったんだけど、すごく長くて王様っぽい名前だった…ってこと以外はあんまり憶えられてないかも…

 

 アストリッドさんにしても、ジオさんにしても、わたしは実際には知らないから、なんか全然会話に入れないなぁ……

 

 

 

「そうだ!どうせ見つからないんだし、ステルクさんもトトリちゃんのお手伝いしませんか?」

 

「えっ?先生、急に何を…」

 

 いきなり手を叩いたかと思ったら、先生はそんなことをステルクさんに提案しだした

 

「どうせとか言うな!……彼女の手伝いと言うのは?」

 

「トトリちゃんはお母さんを探してるんです。もう何年も帰ってこないから、自分から探すって。それで冒険者の資格までとってがんばってるんですよ」

 

「ほう、そんな目的があったのか」

 

「えっ、いや、そんなたいしたものじゃ…」

 

 わたしはそう言ったんだけど、ステルクさんは「そう卑下することは無い」って小さく首を振ってくれた

 そして、腕を組んだステルクさんは「フム…」と少し考え込むような仕草をした後、頷いた

 

 

「なるほどな。人を探しているという点で私達は全員共通していると……。それで君も彼女の手伝いを?」

 

「はい。師匠はもう諦めたというか、トトリちゃんのお母さんのついででいいやって」

 

「そうだな。わたしも、一人で行動しているから、警戒されている感があるしな……言葉は悪いが、彼女の手伝いをすることがカモフラージュになるかもしれない」

 

「そうです!かもふらーじゅです!」

 

 ステルクさんとは 少し違う発音で言うロロナ先生に、わたしだけじゃなくてステルクさんも軽く首をかしげた

 

「わかって言っているのか…?まあいい、どうやらそういうことになったようだ。これからよろしく頼む」

 

「あ、は、はい!こちらこそ!」

 

 なんだか、わからないうちに話が進んじゃってる……

 けど、別に悪いことじゃない。ステルクさんは強い人だってことはジーノ君なんかからも聞いているから、むしろありがたいくらいだと思う

 

 

 

「よかったね、トトリちゃん!ステルクさん、すっごく強いから頼りになるよ!」

 

「全く、彼女より君の方が喜んでいるじゃないか」

 

「はい、喜んでます。ステルクさんとお出掛けするの久しぶりですし、すごく嬉しいです!」

 

「む、そう素直に返されては…」

 

 ニッコリと笑って言うロロナ先生に対して、ステルクさんは少したじろぐような仕草をみせた。目も若干見開いてる気がするし、こころなしか顔も赤みがかっているような……

 こんなステルクさんは初めて見た

 

 

「と、とにかく、色々と準備もいるからな。今日のところは失礼する。用の時は遠慮なく声をかけてくれ」

 

 そう言ってソファーから立ち上がったステルクさんは、足早にアトリエを出ていってしまった

 

 それを見ていたロロナ先生は、少し申し訳なさそうに(うつむ)き気味になった

 

「あっ、行っちゃった。やっぱり忙しいのかなぁ…? もしかして無理に誘っちゃったかも…」

 

「忙しいというか、照れてたんじゃないですか?」

 

「照れる?ステルクさんが?どうして?」

 

「いえ、なんとなく……。先生とステルクさんって、よく一緒にお出かけしてたんですか?」

 

「うん。私が錬金術士になったばかりのころ、すごくお世話になったんだよ。懐かしいなぁ…」

 

 どこか遠くを見るように窓の外へと目をやる先生

 けど、すぐに先生の顔はわたしのほうを向いてきた。その顔はいつも通りの先生らしい笑顔だった

 

「これからは三人でお出かけできるね。えへへ、楽しみだなぁ」

 

 

――――――――――――

 

 

 せっかくだし、明日くらいにでもステルクさんと先生を誘って冒険に行こうかなって思って、わたしはコンテナの中の素材を確認しはじめる

 

 足りない素材が採れる採取地に目星を付けて、予定を立てて……

 そして、ふと さっきの先生とステルクさんの様子を思い出して、考え込んでしまう

 

「……わたし、おジャマ虫だったりしないかな…」

 

 


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