ルパン3世&幻想水滸伝『始皇帝の宝玉』   作:マチカネ

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ルパン三世の新テレビシリーズの放送開始。今回のスーツの色は青。そこで第2章は青いスーツに変更いたました。


第2章 シージャック

 来人は船内を歩く、考えているのは先ほどの右手の疼きと闇色の輝き。

 今は何ともないが、気になって仕方がない。今まで、同じ事があった時、碌なことがなかった。

 横を清掃用具カートを押す、掃除のおばちゃんとすれ違う。

「どうしてくれるんだ! おニューのスーツが台無しじゃないか!」

 向こうのほうから、怒鳴り声が聞こえてきた。

 

 頭の上からつま先まで、ゴロツキでありますと主張している服装と容姿の2人が立っていた。怒鳴りつけているゴロツキのスーツに滲みがついて、床に転がっているのは紙コップ。

 ゴロツキ2人が絡んでいるのは遼、秋穂、七美の3人。

「しっかり、前を向いていなかった、そちらに責任があるのでは?」

 恐れれず、ピシッと、秋穂は言い放つ。

 秋穂の言う通り、ゴロツキの2人は雑談しながら、歩いていたため、3人とぶつかり、その拍子にビールの入っていた紙コップでスーツに染みを作ってしまったのだ。

 秋穂の言ったことは正論ではある。しかしながら、この手の輩は線論を言われれば切れてしまうもの。

「なんだと、ゴラァ」

 案の定、絡んでくるゴロツキ。

「やめろ!」

 その前に立ち塞がる遼。秋穂と七美を守るんだ。そんな意思のこもった眼差し。

「いいのか? お坊ちゃま、お嬢様学校の生徒が喧嘩なんかしたら、即退学しになるんじゃねぇ」

 図星、いかなる理由があるとも、赤間学園の生徒が喧嘩なんかしたら、良くて停学、悪くて退学になってしまう。

 手出しできないことをいいことに、ゴロツキは遼を突き飛ばす。

 慌てて秋穂が転ばされた遼に駆け寄る。

「いい加減にしなさい」

 一方、七美は凄い目でゴロツキを睨み付けた。下手すれば停学や退学など、気にせずに殴りかかってしまいそうな迫力。

「へ~、結構、可愛い顔してるじゃねぇか」

 顔を近付けてくる。

「汚い顔を近づけるな!」

 的を得ていたものの、ますます、ゴロツキは頭に血が上る。

 七美の方も堪忍袋が限界に達したのか、ぎゅーと拳を握りしめる。

 

「おばちゃん、これ借りるよ」

 了承を受ける前に、清掃用具カートの中にあったデッキブラシを一本、来人は引き抜き、

「みっともない真似は、そこまでにした方がいいよ」

 ゴロツキに近づく。

「ガキは引っ込んでろ!」

見た目、来人は中学生ぐらいの子供。ちっとでも脅せば、失禁して泣き出すだろうと思い恫喝。

 全く動じない来人にムカついたゴロツキが肩を怒らせながら、近づき、拳を振り上げる。

 一歩、前に踏みだし、デッキブラシを柄を突き出す。

 もろに胸に命中したゴロツキは後ろへ吹っ飛び、そのまま、舌をベロンと出して、のびる。

「てめぇぇぇ!」

 残っていた沸点の低いゴロツキも来人に襲いかかった。

 デッキブラシで弁慶の泣き所を打ち据え、呻いたところで頭を叩いて、ノックアウト。経験値とポッチは手に入らない。

「おばちゃん、これ、ありがとう」

 清掃用ワゴンにデッキブラシを返す。

 掃除のおばちゃんは唖然として、状況に着いてこれず、何も言えない。

「大丈夫ですか?」

 もう遼は立ち上がって、見た目では怪我がないが、聞いておく。

「心配ない、怪我はしてないから」

 そこへ騒ぎを聞きつけてきた銭形警部と警備隊が駆けつけてきた。

「おや、君は来人君ではないか? 何があったのか説明してもらえるかね」

 来人に気が付いた銭形警部が何が起こったのか尋ねたので、来人と3人は一部始終話す。

 

 

 

「なるほど、よく分かった。最近、こんな輩が増えているな。若いもんが、まったく、嘆かわしい」

 警備隊の一人が、ゴロツキがルパン一味の変装ではないかと確認してみる。面の皮は厚く、変装ではなかった。

「当たり前だ。ルパンはこんなくだらないことはせん。こんな輩は、たっぷりと絞った方がいい。連れて行け」

 命令を受けた警備隊たちはゴロツキを連行していく。

「協力、ご苦労。では、これで」

 敬礼をして、銭形警部も警備隊に続く。

 

 

 

「君、見かけは小っちゃいのに強いね。びっくりしたよ、何か武術とかやっているの?」

 スポーツウーマンである七美は興味津々。

「えっと、物心ついた時から、いろいろ」

 父の部下のクレオからは剣術、バーンからは拳闘。特に居候していたカイ師匠から、棒術を教え込まれた、みっちりと。

 相性も良く、来人はメキメキと腕を上げていく。ある日、カイ師匠は散歩に行くと言って、出かけたきり、帰らなかった。

「すごい、すごいよ、君。ところで歳はいくつ、私たちよりは下と思うけど、その歳であの腕前、本当にすごい」

 矢継ぎ早に質問する七美の肩を、トントン、遼が叩く。そこで初めて、まだ、名乗っていないことに、やっと、気がつく。

「あっと、失礼、ごめんね。私、大津七美だよ」

 落ち着いてから、名前を名乗る。

「ええっと、僕は渡来人(ワタリ クルト)」

 七美も名乗ったので、来人も名乗る。

「オレは小林遼。さっきは助かったよ、ありがとう」

 遼も名乗り、お礼を言ってから、握手を求める。

 握手を受けるが、手袋はしたまま。来人自身、失礼だと自覚はしているが、人前で手袋を外すわけにはいかない。

「あたしは秋穂。赤間秋穂」

 最後に秋穂が名乗る。

 苗字を聞けば彼女が、この船のオーナーの娘であることは明白。

「来人さん。助けてくれたお礼をしたいのだけど、構わないかしら」

 折角のお礼を断るのは失礼だと、来人は誘いを受けることに。

 

 

 

 遼たちのお礼は喫茶店で奢ること。喫茶店とはいっても、流石に豪華客船だけあって、結構な値段。

 遠慮はしないでと、秋穂に言われたので、ベイクドチーズケーキとコーヒーを注文。

 ベイクドチーズケーキには思い出がある。来人が物心がつき始めたころ、父親のテオの戦友の大好物。来人自身、あまり覚えていないが、ベイクドチーズケーキを一斤、丸ごと食べていたのは、幼い来人には、衝撃的で記憶に焼き付いている。

 月日を経て、再会した時も、相変わらず、ベイクドチーズケーキを一斤、丸ごと食べていた。

 

「へー、来人って、自転車で旅しているんだ」

 面白そうだな思いながら話しかける七美。

「でも、お前、中学生だろ、学校はどうしているんだ?」

 当然、感じた疑問を遼はぶつける。

「僕は見た目よりは、年上だよ。少なくても義務教育は終わっている年齢」

 嘘は言ってはいない。

 遼はコーヒーだけを注文していた。七美はアップルパイとアップルティー。秋穂はシナモンロールにダージリン。それぞれの注文の品を楽しむ。

 

「さっきのおじさん、あれ、銭形って人だよな」

 何気なく、先程見た、銭形警部のことを口にする遼。

「でも、あの人って、ルパン3世を追って、世界中飛び回ってるんでしょ。なら、あの噂は本当ってこと?」

 七美の言ったあの噂。それが気に立った来人。

「あの噂って?」

 意味を聞いてみる。

「ルパン3世の予告状が届いたって噂。この戸羽丸にイギリス人の資産家が乗ってて、そいつに届いたんだと」

 疑問に答えてくれる遼。

「ルパン3世か、アルセーヌ・ルパンの孫。私、以前から、一度、お会いしたいと思ってましたのよ」

 秋穂はダージリンを一口飲む。

「ルパン3世……」

 会えるなら、会ってみてもいいかなと、正直に来人は思う。

 

 

 

 VIPルーム。テーブルの上に置かれた箱をイーニアスが開くと、その中には45.50caratのペアー・シェープ・ブリリアント・カットのダイアモンドがあった。これこそが『始皇帝の宝玉』 中心にいくほど金色が濃くなるグラデーション。

 本来、こんな宝石に目がないはずの不二子は『始皇帝の宝玉』を見た途端、何故か禍々しい感じがして、背筋がぞっと凍り付くよな感覚を覚えた。

「不二子」

 忠則に促され、今しがた感じた感覚を捨て去り、白い手袋を嵌めて、ルーペをつけて『始皇帝の宝玉』を鑑定。

 

「本物です」

 好きこそ物の上手なれ、不二子の鑑定眼はしっかりとしたもの。

 そんな不二子の鑑定力を知っている忠則は1枚の黒いカードをテーブルに置いた。モンタギューが手にした機械でカードを調べ、イーニアスの耳元で囁く。

「確認したよ。そちらも本物のようだね。これで取引成立」

 箱に収めた『始皇帝の宝玉』を忠則が取ろうとした時、ドアがノックされ、

「注文のシャンパンをお持ちしました」

 外から、ボーイの声が聞こえてきた。

「そうそう、さっき、取引を祝して、乾杯でもって思ってね。ドン・ペリニヨンを注文しておいたよ」

 入るように指示すると、ドアが開き、ドン・ペリニヨンを入れたワインクーラーの乗るワゴンを押しながらボーイが入って、テーブルの前に来た。

「おまちどうさまー」

 ドン・ペリニヨンの瓶を掴み、いきなり、天井に投げた。

 何をやっているのか! 忠則とイーニアスが怒鳴るよりも早く、瓶が爆発。周囲に大量の泡をまき散らす。

 泡はどんどん増えていき、蔓延し始める。泡に飲み込まれた忠則とイーニアスが、プチなパニック状態に陥っている隙にテーブルの上にあった『始皇帝の宝玉』の入った箱をボーイが掴み取る。

「貴様!」

 怒りを露わにして、泡の中を泳いできた忠則の攻撃をひょいと躱し、ボーイはワゴンの上に飛び乗った。

「貴様、ルパンか!」

 今や、VIPルーム全域に広がった泡の中からイーニアスが叫ぶ。

「ご名答~」

 ボーイの変装を剥がすと、ワゴンに仕掛けておいたエンジンを起動。凄まじい速さでワゴンは爆走、VIPルームを飛び出す。

「モンタギュー、追え!」

 主人の命を受け、泡の中から飛び出したモンタギューがルパン3世を追う。

 

 

 

 赤い絨毯の敷かれた廊下を爆走するワゴン。警備隊が止めようとするが、ことごとく、ワゴンに弾き飛ばされる。

「逮捕だぁぁぁぁぁ、ルパァァァァァァン!」

 手錠を片手に爆走ワゴンを追いかける銭形警部。だが、爆走ワゴンとの距離はどんどんと開いていく。

「あばよ~、銭形のとっぁん」

 『始皇帝の宝玉』を手にルパン3世はワゴンの上から、銭形警部に笑顔で挨拶。

 廊下を堂々と歩いてきた炎輝(イェンフゥイ)は、暴走するワゴンの前に立ち塞がる。

「そこの人、そんなところにいると怪我するよ」

 ルパン3世の警告など、完全に無視して、動こうとはしない。このスピード。爆走ワゴンと正面衝突すれば、疾走するバイクと正面衝突したと同じ衝撃を受けることだろう。

 怪我じゃすまない、最悪の事態もありうる。

 何の躊躇することなく、炎輝は暴走するワゴンを素手で掴む。そのまま、数歩、後方へ押されたが、ワゴンは止まった。

「ウ、ウソでしょ~」

 炎輝の怪力に、ルパン3世も驚きを隠せない。

 ワゴンをひっくり返され、赤い絨毯の上に投げ出されるルパン3世。

「ご協力、感謝——」

 すぐに銭形警部は感謝の意を示そうとしたが、迷彩色の軍服を着ている炎輝の服装に言葉が止まる。

 一番、最初、銭形警部はコスプレかと考えた。が、様子が変。それに背中に青龍刀を背負っている。

 銭形警部の勘が、こいつは犯罪者側の人間だと告げた。

「うぎゃぁ」

 そんな銭形警部を警戒することもせず、炎輝が顔を掴み、持ち上げた。悲鳴を上げるルパン3世。

 さらに、強引に『始皇帝の宝玉』を奪い取った。

 奪い取った『始皇帝の宝玉』を懐にしまうと、乱暴にルパン3世を投げ捨てる。

 豪華客船に敷かれた絨毯だけあって、ルパン3世を優しく受け止めた。それかが幸い、怪我はなし。

「人を空き缶扱いするな!」

 抗議するルパン3世の横をモンタギューが走り抜け、

「キヒャァァァァァァァァァァァァァッ」

 奇声を上げながら、袖の内側に隠しておいた、いかにも切れそうなナイフを抜き、炎輝に襲い掛かる。

 炎輝の反応は早く、青龍刀を引き抜き、ナイフを受け止めた。

 筋肉質の大男と、青白い肌の細身の長身の男が青龍刀とナイフを打ち合い、戦いを始める。

「ルパン、これもお前の仕業か?」

 ルパン3世の横に来た銭形警部が尋ねる。

「あんなターミネーターとゾンビに知り合いはいない!」

 ターミネーターとゾンビ。炎輝とモンタギューを表現する言葉としては、わりと合っている。

 明らかに歓喜の表情を浮かべ、ナイフの攻撃を繰り出すモンタギュー。その攻撃の全てを炎輝は青龍刀で防御。

 そこへ迷彩色の軍服を着た男たちが雪崩れ込んできた。手にはライフルなどの銃器を持っている。

 男たちは、真っ先に炎輝と戦っているモンタギューに銃口を向けた。

 囲まれて不利と判断したモンタギューは、さっさと逃亡。軍服の男たちも追おうとはしない。

「炎輝隊長、お怪我は?」

 軍服の男の一人が、傍に来て、聞く。

「心配無用」

 青龍刀を鞘に納める。

 軍服の男たちのセリフ、姿勢をまっすぐに伸ばした軍服の男たちの姿勢度から、この一団の関係を窺い知ることができる。

 あたりを見回してみれば、軍服の男たちは船内の制圧を始めていた。

「シージャックか……」

 ルパン3世に尋ねたつもりだったのだが、すでにそこにルパン3世の姿はない。

「ムッ、いつの間に」

 まだ、遠くへは行っていないはず。ルパン3世の姿を探している銭形警部の前に炎輝たちがやってくる。

「銭形警部。抵抗は無し、傷つけたくはあらず」

 ライフルを突きつけようとした、部下たちを制し、炎輝が言う。

 この炎輝の振る舞い、銭形警部は相手が犯罪者でも、心は腐っていないことを知る。

 

 

 

 戸羽丸にはいろいろな遊戯施設が設けられている。スロットマシンやコイン落としなどのコインゲームが楽しめる施設。ポーカやブラックジャックなどのカードゲームが楽しめる施設。ゲームセンター等々。

 来人、遼、七美、秋穂はゲームセンターに来ていた。

 

 格闘ゲームで対戦する来人と遼。

 来人が操作しているキャラクターはヘビー級のボクサー。遼が操作しているのはトンファー使いの少年。

 ボクサーの連続パンチをすべてガードして、トンファー使いが26連続コンボを決め、ボクサーを倒す。

 

「また、僕の負け~」

 この負けだけではない、来人の連戦連敗。

 がっくりする来人。ゲームとはいえ、負けるのは悔しい。

「でも、現実で戦ったら、遼ちゃんの負けでしょ」

 激しい七美の突っ込み。ライの強さは七美だけではない、遼、秋穂は目の当たりにしている。

「いいことを思いつきましたわ。来人さん、私のボディガードになっていただきませんか? バイト料ははずみますわよ」

 秋穂からのバイトの誘い。

「そうだね、バイトに困ったときに考えるよ」

 バイトでお金を貯めて、キャンピング車で旅。資金が乏しくなったら、また、バイト。これを繰り返している来人。

 いつもは雑誌や張り紙で決めている。

「さっきから、何だが、外が騒がしくないか?」

 首を傾げる遼。確かに外が騒がしい。

「もしかして、ルパン3世が出てたりして」

 興味半分で、七美が口にしたセリフ。

「ルパン3世。それなら、一目、見せてもらいましょう」

 ゲームセンターの外に出ようとする秋穂。

「辞めたほうがいい、危険だ」

 それを取る遼。

 いきなり、激しい音を立ててドアが開き、ライフルを手にした迷彩色の軍服の男たちが3人入ってきた。

「なんかのイベントか?」

 ゲームセンターにいた船客の一人が言った。こんな豪華客船で旅をしているものなら、最初に、そう考えてしまっても無理はない。

「みんな、伏せるんだ!」

 真っ先に事態を把握した来人が叫ぶ。来人は修羅場を経験している。だから、男たちの手にしている武器が本物だと分かった。

 まだ、完璧に状況を把握し切れてなかったが、来人に従って、遼と七美と秋穂は警告に従い伏せた。

 まだ、他の客は状況を掴み切れておらず。

 男の一人がライフルを天井に向けて撃つ。船客たちにしてみれば、映画やテレビでしか見たことのない情景。

 誰もがパニック状態に陥り、我先にと逃げ出そうとする。

「動くな、その場て大人しくしていろ!」

 迷彩色の軍服の男の怒鳴り声。皆の動きが止まる。

「ま、まさか、これって……」

 伏せた遼は軍服の男たちに聞こえないように、小さな声で話す。

「間違いない、シージャックだね」

 こんな状況にも係わらず、来人は冷静に状況を分析。

「来人さん、あなたの武術で何とかできません?」

 床に伏せたままの体制で秋穂が聞いてくる。

「……」

 正直、来人は何とかできる自身はある。しかし、相手はライフルを持っている限り、油断は出来ない。自分は平気でも、第三者にに被害が及ぶ可能性がある。

「ここは、大人しくしていた方がいいと思う」

 そう判断したのは、軍服の男たちに殺気を感じなかったから。さっきの銃撃も天井に向けての威嚇射撃だけ。

 おそらく、この中で一番強い来人が、そう判断したので、遼も七美も秋穂も従うことにした。

 

 

 

 廊下を進む克巳と部下たち。克己はやや乱暴にVIPルームのドアを開ける。

 忠則もイーニアスも不二子も、すでに状況を把握している。ルパン3世襲撃の残滓の泡は部屋の至る所に残っている。ただ、体に付いた泡は取って、3人とも服は着替えていた。

「目的は何だ金か?」

 高圧な態度て忠則は言う。ライフルを持つ相手に対しても、見下しの態度は崩さない。

「久しぶりだね、赤間忠則」

 そんな忠則に対し、微笑みを浮かべて話しかける克巳。

「久しぶりだと? テロリストなどに知り合いなどいないがな」

 ライフルの銃口を向けられても、臆する態度は見せない。

 対称的にイーニアスの顔は青ざめていた。

「こう言ったら分かるかな、S国親善大使、赤間忠則殿」

 S国親善大使、これを聞いた忠則の顔色が、初めて変わる。

「……何を知っている」

 脅しを交えた発言だが、微かな震えから動揺が見て取れた。

「あんたが、3億ドルの義援金を横領したこと。親善大使として、S国へ赴きながら、表向き、払ったことにして、それを横領。その罪をS国政府に被せて、内乱を誘発させた」

 数年前、日本政府が払ったはずの義援金が消え、S国政府が横領したと決論が出された。本来、義援金が払われるはずだった貧困層に金が支給されず。その件で貧困層の怒りが爆発。結果、内乱が勃発。そして、多くの人命が失われた。

「き、貴様、誰なんだ!」

 過去の悪行か暴露され、動揺が隠せなくなった忠則。

「あの時のNPOだよ。姿は随分、変わっているけど」

 当時、貧困に苦しんでいたS国で活動していたNPOがいた。忠則の記憶が蘇る。確かに一人だけ、国境なき医師団として活躍していた日本人が一人いた。

「ば、馬鹿な、あの時のあいつはお——」

 取り出したベレッタM92Sを撃つ。威嚇射撃、弾はそれて壁にめり込む。

「ボクはあの日のことを忘れたことはない。報いは受けてもらう」

 銃口を忠則に向ける。

「ま、待ってくれ、それじゃ、悪いのは忠則じゃないか、私は取引に来ただけ、関係ない」

 今度は慌てふためくイーニアスにも銃口を向ける。

「あんたがS国に武器を流した。ただ同然で貧困層に武器を与え、クーデターを起こすように唆し、国家には高値で武器を売りつけ、大儲け。あんたも同罪だよ」

 イーニアスも自らの犯した悪事をばらされた。腰を抜かしたように、その場にへたれ込んだ。

「あの、私は……」

 恐る恐る不二子は両手を上げて聞いてみる。顔が自分は関係ないよと、語っていた。

「悪いけど、最後まで、付き合って貰うよ」

 よしんば逃がしてもらえると、考えていたが、それは甘い考え。

 克巳は美人には違いないが、不二子は、妙な違和感を感じていた。

 

 

 

「それで、ルパン。おめおめと逃げてきたのか?」

 呆れたように言う、次元大介。

「仕方ないでしょ、あんなターミネーター(炎輝)1人でも、厄介なのに、ライフル連中まで出てきたんだぜ。逃げるしかないでしょ」

 ルパン3世は青いオーダースーツに袖を通す。

「で、五右エ門。そっちの様子は?」

 ドアの前で外の様子を探っている五右エ門にルパン3世は声を掛けた。

「こちらの見張りは少ないでござる」

 五右エ門の指摘通り、廊下をうろついている見張りは一人。手にはライフルを持っているが。

 見張りの大半は1等船室に行き、2等船室や3等船室の見張りは薄い。

「シージャックか……。ほんと、毎度毎度、トラブルが起こるな」

 いつでも使えるように愛用のスミス&ウエッソンM19 コンバット マグナムの具合を確かめる。

「で、ルパン、奴らの目的はなんと、考えておる?」

 質問しながらも、五右エ門は外の気配を探るのを怠らない。

「そりゃ、1等船室の客を人質に取ってんだから、十中八九、身代金でしょ。ただ、『始皇帝の宝玉』も目当ての品のようだけどさ」

 修学旅行に来ていた赤間学園の生徒たちは運悪く事件に巻き込まれたのではないと、ルパン3世は確信している。連中は生徒たちを狙って、シージャックを仕掛けてきた。お坊ちゃま、お嬢様学校の赤間学園の生徒たち。一人一人の親から、身代金を取ればかなりの額になるはず。

「で、ルパン、どうする。このまま、黙って、ここに籠っているのか?」

 不敵な微笑みを浮かべる次元大介。付き合いの長い彼は、ルパン3世がなんて答えるのか分かっていて、聞いてみた。

「もちろん、取り返すさ。怪盗アルセーヌ・ルパンの孫が得物を横取りされたんだぜ。黙ってるわけないじゃん。それに人質になっている不二子ちゃんを助けないと」

 次元大介と五右エ門は、結局、それか! 声に出すことなく、突っ込む。

 

 

 

 1等船室の乗客たちはホールに集められた。銭形警部もいるが、連携を組まれたらまずいということで、警備隊はばらけて監禁されている。

 監禁とは言っても、警備隊が武器を取り上げられているだけで、拘束されてはいない。

 銭形警部はこの犯人たちの目当ては金だけで、他者に危害を加える気はない。そのことに気が付く。

(やはり、本官の勘感は間違ってはいなかったようだ)

 

 

 銭形警部のような修羅場の経験者以外の監禁された船客たちは、犯人グループが自分たちを傷付けるつもりはないとは分からない。皆にしてみれば、テロリスト以外の何者でもないのだから。

 ホールを徘徊しながら、見張りを続ける犯人たち。

「あなたが、リーダーですね」

 犯人グループの態度から、そう判断し、克己に話しかける秋穂。

 克巳の方は下調べを十分に行っているので、彼女が忠則の娘と言うことは知っている。

「何か?」

 娘だからといって、克巳は秋穂を恨みの対象とは考えていない。悪いのは、あくまで忠則、子供には関係がない。生徒たちは親から金を引き出す、それだけの相手。

「あなた方の目的は何なのです。おっしゃってくださいませんか?」

「金」

 質問に対し、即決で的確な答えを与える。

「やっぱりそうなのですね。金が欲しいのなら、こんなことしなくても、手に入れる方法はいくらでもあるでしょう。恥ずかしいとはお思いになりませんこと?」

 挑発じみた秋穂の発言に周囲の者は青ざめる。1等船室の客たちは、映画やドラマではこんな状況を何度も見ている。

 そして、こんな発言をされた後、犯人は逆上して人質を殺したりする。遼や七美も焦りの色が浮かぶ。

 笑い出す克巳。これもフィクションの悪役のお決まり。この後、ズトンがパターン。両手を合わせて神に祈るものも、ちらほら、出てくる。

「お嬢さん、飢えを訴えて泣く、子供を見たことがあるかい? TVなんかではなく生でね」

 秋穂は言葉に詰まる。彼女は生どころかTV、写真ですら、飢えて泣く子供など見たことはない。どう反論していいか、何もが浮かんでこないのだ。

「泣く力があるだけましだよ」

 思わず、小さな声で呟く来人。そんな小さな声を克巳の耳は捕えた。

「最初、見たとき、お前もお坊ちゃんの匂いがした。だが、お前はただのお坊ちゃんじゃないようだ。少なくとも、ボクと同じものを見たな」

 無言の来人。遠い過去、ロックランドで見た光景。あの町では飢えを訴え、泣く子供の他。泣くことも動くこともできないほど、衰弱したものが、あちらこちらにいた。

 

 そして、銭形警部も察した。ルパン3世を追って世界を飛び回っている銭形警部も、紛争地域や貧困層を何度も見てきた経験がある。

 

 

 一方、別の場所で炎輝は手にした『始皇帝の宝玉』を眺めていた。

 アヘン戦争の時、イギリス軍人に奪われた『始皇帝の宝玉』 祖国に帰すのが先祖の悲願だった。その悲願は父に付き継がれ、そして、今、炎輝は、その悲願を果たした。炎輝の胸中に、感嘆が沸き上がる。

「後は兵馬俑に届ける。使命、果たせる……」

 突如、肉を刺される音と共に、背中から腹にかけて激痛が走る。

 振り返ってみれば、いつの間にか背後に立っていたモンタギューがナイフで背中を貫いていた。使命を果たしたことで気が緩んでいた。そして、モンタギューも気配を悟らせないように、音も立てず忍び寄ってきていたのだ。

「キヒャシャシャシャ」

 いかにも楽しそうに笑う。ナイフを振り上げ、止めを刺そうとしたが、事態に気が付いた部下たちが、駆けつけてきた。

「キヒャァァァァァァァァァァァァァッ」

 奇声を上げると、『始皇帝の宝玉』を奪い。部下たちに飛びかかっていき、何人かを切り裂きながら、逃げていく。人を切り裂くたびにモンタギューは歓喜の表情を浮かべてゆく。

 部下たちはモンタギューを追うよりも、炎輝を助けることを選ぶ。

 膝を付く炎輝の元に集まる部下たち。

「早く、克巳さんを呼んできてくれ!」

 炎輝を見た部下の悲痛な思いのこもった指示。

 指示を受けなくとも、部下は克巳を呼びに行くつもり。

 部下たちは応急処置を行おうとする。

「俺のことより、先に部下たちを……」

 

 

 

 




トラブルの始まり、この先も、さらなるトラブルが巻き起こっていきます。

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