ルパン3世&幻想水滸伝『始皇帝の宝玉』   作:マチカネ

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以前、pixivに投稿したのを修正して、投稿いたしました。
この世界で坊ちゃんの名乗っている名前は渡来人(わたりくると)、渡来人をもじっています。


第1章 集合

「行ってしまわれるのですね、坊ちゃん」

 玄関の前に立っていた勇ましさを隠すことなく溢れ出させている女性、クレオが緑色のマントを片手に尋ねる。

 クレオの隣には鍛え上げた筋肉質の大男のバーンが立っている。2人とも寂しさと悲しさを含んだ表情。

 クレオもバーンも、今は亡き、坊ちゃんの父親、百戦百勝将軍と呼ばれたテオ・マクドールの部下だった。

 クレオの差し出したマントを受け取る、可愛さとカッコ良さがバランスよく共存する面立ちの優しそうな少年、坊ちゃん。背が低いので、どこかしら、幼く見える。

 

「うん、ジョンストン都市同盟軍とハイランド王国軍の戦争も終わったし、それに僕が帰ってきていることも噂になり始めているからね」

 

 空には、かってのこの国の名前を懐かしむように少し赤味かがった満月が佇んでいる。それを取り囲むように、たくさんの星々が輝きを放つ。

 その輝きは坊ちゃんの旅立ちを見守っているように見えた。

 

 この時間、首都グレックミンスターの民はほとんど眠っているだろう。だから、出発にこの時間を選んだ。昼の真っ只中なら、大勢の人か押し寄せてくるかもしれない。

 

「しかし、グレミオの料理を食べられ無くなるのは辛いな」

 バーンは旅支度を整えている長身の右頬に十文字傷のある青年に声を掛けた。

「全く、お前は食べることばかりだな」

 クレオは激しく突っ込む。クレオに言われたわけではないが、バーンは急に真剣な表情になる。

「グレミオ、坊ちゃんのこと頼むぞ」

 荷造りを終えた青年、グレミオ。

「勿論です。それが私の誓いですから」

 無意識に頬の十文字傷に触れる、グレミオは、この傷に坊ちゃんを守ると誓いを立てた。彼の愛用の斧の柄にも、その誓いが刻み込まれている。

「さて、そろそろ、行こうか、グレミオ」

 坊ちゃんは自分の荷物を背負う。

「はい、クズグスしていたら、レパントさんが止めに来るかもしれませんしね。坊ちゃん」

 レパントは戦友にして、この国の初代大統領。

「いってらっしゃい、坊ちゃん」

「またな」

 クレオとバーンに見送られた旅立つ、坊ちゃんとグレミオ。一度、振り返った坊ちゃんはわが家を眺める。その胸中には様々な思いが流れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 キャンピング車のペダルを漕ぐ、小柄な少年。頭には緑色のバンダナ、縛っている左端は紫。袖を折りたたんだ白いシャツの上に黄色い縁取りの入った赤いロングベスト、ズボンは茶色。手に革の手袋をはめ、背中には黒いロッドケースを背負う。

 

 風の中に潮の香りが漂ってきた。海が近い証。

 こっちの世界に来て、いろんなところを旅して回った。寒いところ、熱いところ。いつの時代も、世界は新しいものを見せてくれる、だから、飽きない。

「そこの少年、道を尋ねたいのだが」

 声を掛けられたので、ペダルを漕ぐのを辞め、自転車を止める。

 声を掛けてきたのはトレンチコートとソフト帽を被った中年男性。

「本官は怪しいものではない、銭形(ゼニガタ)警部というものだ」

 警戒心を解くために名乗る銭形警部。

「僕は渡、渡来人(ワタリ クルト)」

 相手が名乗ったので、こちらも名乗る。この名前は、こっちの世界で名乗っている名前。ちなみに生まれた世界では坊ちゃんと呼ばれていた。

「すまんが、戸羽丸(トワマル)に乗るには、どの埠頭へ行けばいいか、分からないかね」

 銭形警部は方向音痴ではないが、ここは初めての場所、船に乗るからには遅れるわけにもいかないので尋ねた。

「それなら、ちょうど、僕も戸羽丸に乗るんです。くじ引きに当たって」

 先日、旅に必要な物を買い揃えたところ、福引券をもらったので、ガラガラを回すと、金色の玉が出てきて、戸羽丸の乗船券が当たったのである。

「よかったら、一緒に行きませんか?」

 屈託のない笑顔。土地勘はともかく、長いこと旅をしている来人の方向感覚は研ぎ澄まされている。初めての場所でも、迷うことはあまりない。

「それは助かる。ありがたい」

 

 

 

 目的の豪華客船、戸羽丸の前に来た来人と銭形警部。

 総トン数、50,142トン。全長、240.96メートル。垂線間長、205.0メートル。全幅、29・60メートル。全客室、260室。全体的に白く、船縁は黒く塗装されている。豪華客船の名前に相応しい、戸羽丸の荘厳な姿。

 赤間財閥3代目、赤間忠則(セキマ タダノリ)がオーナー。

 

「ほー、やはり、写真と実物では迫力が違うな」

 戸羽丸を見上げた銭形警部は感心。仕事でもなければ乗る機会などないだろう。

 背後から、がやがやと声が聞こえてきた。何気なく、来人と銭形警部が見てみると、修学旅行の高校生たちが集まってきていた。

 銭形警部の目が学生たちの胸のエンブレムに向く。

「あのエンブレムは船のオーナーが理事長をやっている、赤間学園ものではないか」

 赤間学園、正真正銘のお坊ちゃま、お嬢様学校、着ているブレザーも見るからに高級品。学園の創立者は忠則の祖父。

「では、仕事があるので本官はこれで失礼する。案内、実に助かった。ありがとう」

 お礼を述べてから、銭形警部は乗船口へ向かう。

「僕も行くか」

 戸羽丸の駐車場にキャンピング車を進める。内心、船旅にうきうきしている、それもこんな立派な船で旅が出来るのだから。何歳になっても、子供心は失っていない。

 

 

 

 乗船口に白い髭を生やしたお爺さんと100キロを超える黒い帽子とスーツを着た髭面の巨漢。ゴルフバックを背負った鼻の高いドレッドヘアのサングラスの男の3人組がいた。

「息子たちがのう、儂の88の祝いに船旅をプレゼントしてくれたのじゃ。ありがたやありがたや」

 手を合わせ、お爺さんは拝むように感謝。後ろにいた息子らしい巨漢とサングラスの男は会釈。

 

 

 

 赤間学園の生徒たちも乗船してくる。学園生活でも修学旅行は、最も楽しいイベントの一つ。お坊ちゃま、お嬢様学校の生徒達でもはしゃぐのは無理もない。

 皆、これから始まるであろう楽しい修学旅行に思いをはせていた。

「秋穂のお父さんはすごいよな。こんな船を所有してるなんて」

 腕白坊主が、そのまま大きくなったような高校生、小林遼(コバヤシ リョウ)が船内を見回す。まだ入口なのに宮殿を思わせる豪華な造り。

「パパったら、3代目って言われること気にしていたから、曽祖父や祖父が出来なかったことをやりたいのよ」

 ウェーブのかかった茶髪の絵にかいたようなお嬢様風美少女が口を尖らせる。彼女は赤間忠則の一人娘、赤間秋穂(セキマ アキホ)。お坊ちゃま、お嬢様学校の赤間学園の中でもトップクラスのお嬢様。

「でも、そのおかげで豪華客船で修学旅行なんて、素敵なこと出来るんだから、その点は感謝してるよ」

 秋穂とは対称的にお嬢様らしさをあまり持っていない少女、大津七美(オオツ ナナミ)が言う。七美は陸上で学園代表にも選ばれた根っからのスポーツウーマンで遼の幼馴染み。

「そうかな、遼もそう思ってる?」

 いきなり、話を振られた遼。

「そうだな、楽しかったらいいんんじゃないか」

 別に興味が無いわけではなく、これが遼の正直な感想。

 3人仲良く、雑談しながら、他の生徒たちと一緒に奥に進む。

 

 

 

 赤間学園の生徒たちの後には筋骨隆々の大男。スーツを着ているが、全然、似合っていない。その傍らにはドレス姿の長身のポニーテールの美人が寄り添う。2人は黙々と乗船手続きを取っていた。

 誰も気が付いていないが、2人のの眼差しは、旅行を楽しむ客の目付きではない。

 

 

 

 ロッドケースを背負った来人が廊下を歩く。斜めに担いでいないと、引きずってしまう。

 足の裏に床に敷かれた赤い絨毯の感触が伝わってくる。生まれ育った家やお城の絨毯と感触がよく似ている。

 自分の部屋を探していると、廊下の向こうから、スーツ姿の美女がやってきた。プラチナの髪留めで髪を纏め、赤い縁の眼鏡をかけ、出るところは出て、引っ込むところは引っ引っ込んでいる。

 ナイスバディの美女は手に持っている書類の束に目を通していた。すれ違いざま、そのうちの1枚が、ひらひらと床に落ちる。

 何の気もなしに、来人は書類を拾い、

「これ、落ちましたよ」

 美女に渡す。

「あら、ありがとう。可愛らしい坊や」

 受け取りながら言った一言。かって、ある美女から、同じことを言われたことがある。その美女こそ、故郷に戦争を巻き起こし、滅ぼした要因。

 戦に勝利した側の来人も、あの戦争は忘れられない。

 あの女ほどではないが、目前の美女にも腹に一物があるのを感じ取った来人は礼儀的な挨拶をすると、その場から走りち去る。

 残されて美女は来人の内心に気が付くこともなく、ウブで可愛い坊やとしか思っていない。

 

 

 

 廊下を進む、銭形警部。目の前にVIPルームの扉が見える。

 一度、咳払いしてから、ノック。

「インターポールの銭形警部であります」

 大声で名乗ると、少しの間を置いて、扉が開く。

 一瞬、銭形警部はギョッとした。なぜなら、扉の向こうには190センチもある。青白い顔の細身の大男が立っていたから。

 細身の大男に促され、VIPルームに入ると、そこにダンディな中年を絵にかいたような服装と風貌の日本人と、テーブルを挟んで向かい側に、これも英国人紳士を絵にかいたような男が座って、2人でポーカーを楽しんでいた。

「失礼ですが、赤間忠則殿とイーニアス・ベアード殿でありますか?」

 答えは分かっているのだが、一応、礼儀上尋ねてみた。

「いかにも、私がイーニアス」

 英国人紳士、イーニアス・ベアードが答え。

「ああ」

 興味なさそうに赤間忠則が目を合わせようともせずに答える。彼が秋穂の父親。

「ルパンの予告状が届いたとの知らせを受け、参りました」

 いつも通りの挨拶に敬礼。

 そうだよと、イーニアスは頷く。

「銭形警部、警備隊の指揮を任せる。ルパン3世のことは君が、一番、詳しいんだろ。モンタギュー、銭形警部を案内してあげなさい」

 命令を受けた青白い顔の細身の大男、モンタギューは無言で銭形警部の背後に立つ。

「今一つ、ルパンは何を盗むと予告してきたのですか?」

 ルパン3世からの予告状が届いたとの一報はあったものの、銭形警部は何が狙われているのかは聞かされていない。

「君が知る必要はない。君の仕事はルパン3世を捕えること」

 何がルパン3世に狙われているのか、イーニアスに話す気配すらない。

「しかし、何が狙われているのか、分からないのでは警備に支障をきたします」

 イーニアスが手を上げると、銭形警部は肩をモンタギューに掴まれ、引きずられるようにVIPルームの外に出される。

 外に出されながらも、銭形警部の警官としての鼻が2人とも胡散臭いと、感じ取っていた。

 

 

 

 一番、安い3等船室に筋肉質の大男とポーニーテールの長身の美人はいた。2人とも着慣れないスーツとドレスから、迷彩色の軍服に着替えている。

「炎輝(イェンフゥイ)、あいつらは乗り込んでるのか?」

「無論、後は行動あるのみ。克巳(カツミ)」

 ポーニーテールの美人、克巳が尋ね。大男、炎輝が答えた。

「赤間忠則。報いを受けてもらうぞ」

 何年が経とうと、どれだけの時間が過ぎようとも、克巳はあの時のことを、一日たりとも忘れてはいない。

「私、先祖たちの宿願を果たす」

 100年以上も願い続けた先祖たちの目的を果たすために、炎輝は中国からやってきた。

 行動を起こすのは出港後。

 

 

 

「いいのか、イーニアス、あんなのを乗せて」

 もちろん、あんなのとは銭形警部のこと。

「問題はないだろ、君だって『始皇帝の宝玉』を盗まれたくはないだろ。邪魔だったら、モンタギューに始末させるさ」

 イーニアスは3枚捨てて、3枚引く。

「俺は『始皇帝の宝玉』を買えればそれでいい」

 忠則は2枚のトランプを捨てて、山から2枚引く。

 イーニアスはカードを展開、役はツーペア。続いて忠則がカードを展開。役はフルハウス。今回のゲームは忠則に軍配が上がった。舌打ちするイーニアス。

 扉がノックされ、

「私です」

 と、女性の声が聞こえてきた。

「入れ」

 忠則の許可すると、扉が開く。

「紹介しよう、先日雇った秘書の峰不二子(ミネ フジコ)だ」

 VIPルームにプラチナの髪留めで髪を纏め、赤い縁の眼鏡をかけたスーツ姿の美女が入ってきた。

「峰不二子です、どうぞ、よろしく」

 色気爆発の不二子のスマイル。彼女の腹の内を知らないなら男なら、誰でも魅了されてしまう。

 案の定、イーニアスは口笛を吹く。

 

 

 

「『始皇帝の宝玉』?」

 既に変装を解き、いつもの着物姿に戻った石川五右エ門(イシカワ ゴエモン)は、今回の獲物について尋ねる。肩に当てている斬鉄剣はゴルフバックの中に隠して持ち込んだ。

「かの始皇帝が徐福に命じて、見つけてこさせた45.50carat宝石。アヘン戦争の時、イギリス軍人、ベアードの手に渡り、今はひ孫のイーニアスが所有している。で、この戸羽丸のオーナーの赤間忠則が20億で買い取るんだ」

 白い髭を生やしたお爺さんの仮面を剥がす、ルパン3世。

「始皇帝、中国で初めて、統一国家の秦を作った男でござったな」

「『始皇帝暗殺』に出てた奴だな」

 髭面の変装を解いた次元大介(ジゲン ダイスケ)はネクタイピンの栓を取る。空気が抜け、巨漢から本来の体型に戻る。

「で、ルパン、この仕事、誰が持ってきた?」

 五右エ門が質問。次元大介もそれを聞きたかった。2人とも決して聞きたくない名前が一つある。

「もちろん、不二子ちゃ~ん」

 もっとも聞きたくない名前が出た。

 峰不二子が関わってくると、碌なことがない。今まで、何度も味わった苦い経験。

「悪いがこの仕事、降ろさせてもらうでござる」

 五右エ門が立ち上がった時、出港を告げる汽笛が鳴り響く。

「どうやら、手遅れの様だな」

 こうなったら、覚悟を決めるしかない。それが男の生きざまと、次元大介はお馴染みの帽子を目深に被った。

 ふてくされた様に座る五右エ門。ルパン3世とは目を合わせようとはせず。

 

 

 

 ようやく、船室を見つけた来人。

 部屋で荷物を整理している。グレミオがいた時は、僕がやるといってても、『これは私の仕事です』と、いつも強引にやっていた。

 その時のことを思い出し、自然に頬が緩む。

 右手に違和感を感じる。途端、ほんの一瞬だが、右手の甲が闇色の輝きを放つ。

 何かが起こる予兆、それも凶兆。

 自分の右手を見つめる来人。

「また血が流れ、命が奪われるのか……」

 

 

 

 




今回は登場キャラの顔見世の回になっております。
オリジナルキャラの小林遼は、リオウと名前にしようと思ったのですが、日本人らしくなかったので、遼にしました。

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