東方影響録   作:ナツゴレソ

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44.0 自分勝手と幻想郷コーディネート

 あれから三つ、四つ質問を受けた後、阿求さんはお礼を言って鈴奈庵を去った。

 阿求さんは俺の事をどう思ったのだろうか。少なくとも……良くは思われていないだろう。自分にその意思がないにしろ、数度も人里を危険に陥れているのだから、言い訳のしようがない。まあ、言い訳するつもりがないから、 素直に話したのだが。

 

「霊夢、これを聞いたら怒るだろうなぁ……」

「なら何で素直に話したんだ? 適当な嘘を吐けばよかったじゃないか」

 

 空を飛びながら一人ごちていると、後ろから声が飛んでくる。俺は体の向きだけ反転させ、箒に乗った魔理沙に向き直る。

 魔理沙は器用に箒の上で胡座をかいている。バランスいいな。対抗したわけじゃないが、俺も後ろ向きのまま飛びながら、魔理沙の問いに答える。

 

「俺は異変を起こして里の人に迷惑を掛けたのに、自分の保身のためにそれを隠すなんておかしいじゃないか。迷惑を掛けない様になるのが一番だけど、それが出来ないからせめて……」

 

 そこまで言って言葉を切る。せめて……どうしたかったんだろうな、俺。

 強いて言うなら罪滅ぼしのつもり、なのだろうか。だがそれも自己満足な偽善でしかない。ただ真実を隠す権利は俺にはなくて、俺の判断は里の人がするべきだと思ったのだ。俺が言い淀んでいると、背後からわざとらしい溜息が聞こえる。

 

「……前から言おうと思ってたんだがな」

 

 魔理沙が飛行スピードを上げて、俺の前に出る。そして、横目で俺を見ながら指を突き付けてくる。

 

「お前はもっと自分勝手になっていいと思うぜ。お前は周りの奴らに気を遣い過ぎだ」

「……そう、見える?」

「そうしか見えないぜ。異変なんて起こしまくればいい、迷惑かけてもやりたいことはやっちまえないいんだ、この幻想郷はお前を止める程度造作もない奴らが一杯いるんだから」

 

 ……その考えはどうなのだろうか? 警察がいるから犯罪をしていいなんてことは許されない。取り返しがつかないことになってはもう遅い。里の自殺者を増やした俺は、間接的にとはいえその範疇に入っているのかもしれないが……

 

「だから北斗、私は……迷わないからな」

「魔理沙……?」

「なんでもない!」

 

 一瞬、普段と違う口調で俺は魔理沙を見つめる。しかし、魔理沙は前を向いてさらにスピードを上げて先に行ってしまった。おれも全速力までスピードを上げるが、追いつくことは出来なかった。

 

 

 

 

 

 俺は魔理沙を妖怪の森まで送ったついでに香霖堂に寄ることにした。人里からやや離れているため、里に行くついでに……とは行かないから、霖之助さんに顔を見せるのはかなりご無沙汰だ。入口に降りて暖簾をくぐろうとすると、刀から欠伸を噛み殺しながら火依が出てくる。

 

「……良く寝た。ってここどこ?」

「魔法の森の入口にある香霖堂っていう道具屋。それより火依、寝過ぎだ。その体になって体調でも悪いのか?」

「そういうわけじゃないけど楽だからつい。それより入らないの?」

「入るけど……まあ、いいか」

 

 火依に急かされるがまま俺は店に入る。

 店内には相変わらずお客が一人しかいなかった。常連の赤い翼の女の子は今日も本を読んでいる。この子香霖堂に毎日来ているのだろうか? だとしたら、どう見ても狙いはここの店主だろう。魔理沙、ぼやぼやしてたらライバルに先を越されるぞ。

 俺は読書のふり?を邪魔しない様に後ろを抜けていく。すると、女の子がチラリと顔を上げ、火依を見る。

 

「………………」

「………………」

 

 翼を持つ妖怪同士何か思うところがあるのか、お互いジッと見つめ合っている。なんだか長くなりそうだから放っておくか。

 奥のカウンターまで歩いて行くと、霖之助さんが機械を見て首を傾げているところだった。

 

「こんにちわ霖之助さん、お久しぶりです……って何をしているんですか?」

「ああ、北斗君か、ちょうどよかった! 何、この暑さだから涼を取ろうと思ってね。この扇風機という道具を使おうと思ったのだが……使い方がわからないんだ。そもそも、これでどう涼しくなれるかもさっぱりわからないんだが」

 

 霖之助さんが扇風機の首をがくがくさせながら言う。シュールな光景なのだが、それが通じるのは外来人だけなのだろうな……早苗がこの場にいないことが悔やまれる。

 

「ああ、これは……電気が通ってないと動きませんよ。電源があればここの羽の部分が回転して風を送るんですけど……」

「ああ、また電気か。ここまで通ってないし、どうしようもないな」

 

 霖之助さんがガックリと肩を落とす。多分、幻想郷だと電圧が足りないからまともに動かないと思うが。スマホの電源もソーラーチャージャーで充電してるし、現代の家電は幻想郷では使えないんだよな……

 しかし霖之助さんは気にした様子もなく眼鏡を直してから立ち上がる。

 

「すまないね、せっかく来てくれたのに精々冷たいお茶ぐらいしか出せそうにない」

「いえいえ、お気遣いなく」

 

 俺は霖之助さんに出されたお茶で喉を潤し一息吐く。冷たいお茶を飲む、幻想郷の数少ない涼の取り方だ。しばらくお茶を堪能していると、扇風機を片付けた霖之助さんが微笑を浮かべながら戻ってくる。

 

「魔理沙から聞いているよ。落ち着いた性格の割には、意外とトラベルメイカーみたいだね」

「あー……まあ、はい」

 

 魔理沙……もしかして俺の事を言いふらしてるのか? 霖之助さんだけならいいんだが、絶対それ以外にも話してそうだ。これ以上悪評は広がって欲しくないのだが……

 

「それにしても……見たくもないと言っていた君が、弾幕ごっこをすることになるとはね」

「ええ、まあ。成り行きですけどね」

 

 俺だってあの時はこんなことになるとは思っても見なかった。ただ確かに危険ではあるが、面白いのも分かる。あくまで遊びの範疇であれば、だが。

 

「けど、あれって手痛くやられると結構服もボロボロになって困るだろう?」

「そうなんですよ! 古着をいくつ買ってもひと月過ぎたら買いに行かないといけないほどですよ」

 

 特に俺は霊夢や魔理沙にボコボコにされて頻度が高いからなぁ……アレは多分ストレス発散を兼ねてるに違いない。俺が虚しさと悔しさで顔を伏せていると。霖之助さんがうんうんと頷く。

 

「だろうね。霊夢や魔理沙も異変を終えると服をボロボロにして戻ってくるから、直すのは大変だよ……」

「……え、霖之助さんってそういうこともしてるんですか?」

「何だか誤解のありそうな口振りだが……一応あの服もマジックアイテムで、衝撃の軽減や、防火、撥水、その他もろもろの機能が付いてるんだ。その調整は僕ぐらいしかできないからね」

 

 俺は霖之助さんに三白眼で睨まれ、慌てて両手を挙げてみせた。

 なるほど、そんな便利アイテムだったのか。場合によっては付き合い方を考えようかと思っていたが、杞憂だったようだ。

 

「そういうことなら。結構便利そうですね」

「そこでだ、君も弾幕ごっこをしてると聞いて同じ機能を持った服を作ってみたんだが……買わないかい?」

「えっ……本当ですか!?」

 

 それは助かる。いちいち服を直したり、買ったりするのを億劫に思っていたところだ。聞いた話では高性能みたいだし、興味はある。

 そんな俺の顔を見た霖之助さんは、小さく笑ってまた奥に入っていく。そしてすぐに件の服を持ってきてカウンターに広げた。

 期待を込めてそれを見下ろすが……思わず眉をひそめてしまう。

 

「……えっと、派手じゃないですか?」

「そうかい? これでも君の性格を考慮して、地味にしたんだが……」

 

 和風のデザインだが構造としてはコートに近く、黒をベースに白や青のワンポイントカラーとして入っている。霖之助さんの着ている服をベースにして、動き易いようデザインし直しているのかもしれない。外来人としては奇抜な衣装に思える。幻想郷の人里でも浮くこと必至に違いない。

 そもそもこういう奇抜なファッションは美形だったり、可愛かったりしないと難しいというイメージある。その点に関しては、幻想郷のメンツはレベルが高いからそれに慣れた霖之助さんは、俺の顔を考慮せずにデザインしてそうだ。そもそも霖之助さん自体イケメンだし。

 

「とにかく、寸法を見たいから一度来てみてくれ。ここ入ってすぐ右の部屋を使うといい」

「はぁ、分かりました……」

 

 正直、デザインを見て大分買う気が削がれたんだが……気が進まないながらも、言われた通り試着してみる。ふむ、意外と軽い。そして、風通しがいいのでそこまで蒸し暑く感じない。

 薄手の生地だが結構丈夫そうだ。機能面はバッチリ。寸法も気になるところはない。問題は……着こなせるかどうかだ。

 

「えっと、着てきましたけど……」

 

 俺は浮かない気持ちで店の方へ戻る。すると、ずっと見つめていればよかったものを、火依と本読み妖怪も俺の姿を見に来ていた。三人にジッと見られ、俺は居心地が悪くなる。早く着替えたい……

 

「うむ、寸法は問題ないね。それにしても予想していた以上に似合うじゃないか。うん、我ながらいい仕事をした」

「……うん、カッコいい」

「えっ……」

 

 うんうんと頷く霖之助さんと火依の言葉に耳を疑う。本読み妖怪ちゃんですらパチパチと手を叩いている。あれ……何だこの外堀を埋められてる感覚は。

 

「あ、あの……う、嬉しいですけど……今は持ち合わせがないんで、また今度買いに……」

「いや、これだけ似合っているんだ。今回はツケておくから、着て帰りたまえ」

「えっ!?」

「うん、そうした方がいい。そうするべき」

 

 な、なんだか周りにこれだけ言われると、自分も悪くないと思えて来てしまった。結局、口車に乗せられた俺はそれを着たまま神社に戻ることになった。これ、帰って姿見を見たとききっと後悔するんだろうが……今は考えないでおこう。


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