東方影響録   作:ナツゴレソ

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114.0 託された問いと約束の残滓

 無造作に蹴破られた扉をくぐった瞬間、風花にも似た光の残滓が降ってくる。既に大図書館の空は閃光と火の粉に支配されていた。

 床を踏みしめながら急停止。天井辺りを見遣ると、そこでは既に霊夢と魔理沙が鍔迫り合いを繰り広げていた。

 片や霊夢は見覚えのある青い翼を背中から生やしながら、炎の剣を振り回している。対して、魔理沙は黒い本を後生大事そうに握りしめながら戦っている た。

 

「始まってる……!」

 

 俺は乱れた呼吸を整えながら、思わずひとりごちる。

 正直驚いていた。霊夢が火依のスペルを使っているのもそうだが、瞬間移動を使うあの魔理沙と互角以上の戦いが出来るなんて……少なくとも、苦戦は避けられないだろうと思っていた。

 決して霊夢の力を軽んじていた訳じゃない。ただ……

 

「魔理沙の動きが、鈍い……?」

 

 異変を起こす前日、魔理沙が霊夢を倒したあの時より……いや、普段の弾幕ごっこと比べても動きにキレがない様に見えた。魔力の調整も出来ていないみたいだ。

 調子が悪いのか、それとも本気を出せない理由でもあるのか……

 

「どちらにしろ、このままいけば霊夢の勝ちだ」

 

 霊夢が巨大な炎の剣を叩きつける度、魔理沙の顔が苦悶に歪んでいく。そんな彼女の表情を目の当たりにして、心臓が締め付けられる様な息苦しい気持ちになった。

 魔理沙は、霊夢のためにこの異変を起こした。だというのに……霊夢自身がそれを否定しようとしている。親友同士の想いがすれ違う姿は辛いものがあった。

 ……だが、それでも俺は霊夢を止められない。

 異変は絶対に解決する。霊夢のためにも、ここまで俺を辿り着かせてくれた人達のためにも。もう後戻りは出来ないと何度も言い聞かせたはずだ。

 だから、せめてこの戦いの結末を見守ろうと二人の衝突を目に焼き付けていると……

 

「北斗、くん……」

 

 俺を呼ぶ男性の声にハッとさせられる。慌てて辺りを見回すと、すぐに扉近くの壁際に銀髪の男性が背もたれて座っているのを見つけた。

 

「霖之助さんッ!?」

 

 すぐさま霖之助さんの元まで駆け寄って様子を伺う。

 ……意識があるが、体に力が入ってない。それに衣服はボロボロで、トレードマークの眼鏡も掛けていなかった。

 どうやら霊夢の前に霖之助さんが魔理沙と戦っていたみたいだ。頭から血が出ている様で、襟元が血に染まるほど出血している。これは……非常にマズイ。

 

「動かないでください、すぐに止血しますから」

「大丈夫だよ……これでも僕は半人半妖だ。血が出た程度じゃ死にはしないさ。それより聞いてくれ、北斗君……」

 

 患部を確かめようと頭に伸ばした右腕を霖之助さんに取られる。その手は冷たく、掌は血でびっしょりと濡れていた。

 

「魔理沙は、霊夢のために異変を起こしている。霊夢の、命を助けるために……」

 

 その声は微かに震えていて……俺は霖之助さんの必死さを痛感する。

 思わず手を止めて青白い顔を覗き込む。しかし、霖之助さんが気付く様子はなかった。それに淡い色をした瞳は、夢現を彷徨っているかのように焦点が定まっていない。本当に大丈夫なのか……?

 俺は取り乱してしまいそうな心を押し殺して、あくまでゆっくりと静かに言葉を選んでいく。

 

「……知ってます。俺も、早苗から聞きましたから」

「そう、か……それならよかった。知ってなお、ここに来たということなら……君はもう覚悟したのだろうね」

「はい、異変は解決します。魔理沙は……絶対に止めますから」

「そう、か……結局、君達に頼ることになるか。情け無いよ、僕は」

 

 そんなことはない。すぐさま首を振る。今、魔理沙が苦戦しているのはきっと霖之助さんと連戦になっているからだろう。むしろ、何も出来なかった俺の方が……

 と、不意に耳をつんざくような爆発音がして、俺の声は掻き消されてしまう。爆発した上空を向くと、霊夢が全身を焦がしながら落ちてきていた。

 

「霊夢ッ!」

 

 思わず声を上げるが、反応がない。どうやら先の爆発で耳と目を潰されたようだ。それに特殊部隊のような素早さで霊夢に向かって人形が迫りつつあった。あれは……アリスさんが操る人形か!

 すぐさま助けに入ろうと、立ち上がる。が、霖之助さんが右腕を取ったまま離そうとしない。仕方がなく振り払おうとするが……そうする前に、その右手にザラついた金属の感触があてがわれる。

 見ると、俺の手の中には赤く錆びついた柳刃の古刀があった。

 

「霖之助さん、これは……」

「君に……託す、霧雨の剣を」

 

 霖之助さんはそう言いながら、半ば無理やり俺の手に剣を握らせる。そして、それをやりきると糸が切れたように力なく腕を下ろした。

 その姿に恐ろしくなった俺は悲鳴の大声を上げてしまう。

 

「霖之助さんッ!? しっかりしてください!」

「土壇場で……僕は、迷ってしまった。魔理沙が、正しいことをしている様に思えて……剣を止めてしまった」

「霖之助、さん……」

「けれど君なら……大丈夫だ。我ながら、無責任だけど……君に、答えを託したい。魔理沙を、頼んだよ」

 

 それだけ言い残すと、霖之助さんは何も言わなくなってしまう。死んではいないと信じたいが……確かめる時間はない。もう既に霊夢が壁際まで追い込まれて、パチュリーさんの魔法によって足を拘束されていた。

 床を蹴ってすぐさま反転、全力で駆ける。そして霊夢と人形達の間に割って入り、渾身の一閃を放つ。

 

「『剣伎「紫桜閃々」』!」

 

 普段より鈍い感触。だが、確かに斬った。

 霊夢を斬り裂こうとしていた人形達の武器が一斉に床に落ちる。俺はそれを横目に、息を一つ吐く。

 霖之助さんが言う通り、自分が大丈夫かどうかはわからない。だが、託されたからには……俺がやるしかないのだろう。

 託された想いを噛み締めながら……そして霊夢への問いを飲み込みながら、それを顔に出さない様出来るだけ不敵な笑みを霊夢に向ける。

 

「間に合った、よな?」

 

 

 

 

 

 俺は目の前の人形達を目で牽制しながら、右手に握った柳刃の剣の感触を確かめる。

 妖夢から貰った刀と比べたら長さも重さも足りてない。握りは暑布を巻いただけの質素なもので、気を抜けばすっぽ抜けてしまいそうになる。そして肝心の切れ味は……最悪。細い棍棒でも振るっているみたいだった。でも……

 

「凄いな、この剣……」

 

 草薙の剣、あるいは天叢雲剣、霖之助さんはこの剣を『神』そのものだと言っていたが……その理由が今、手に取ってようやくわかる。

 霊気……とは違う。その上位のもの、神気と呼べばいいのか。溢れんばかりの力の胎動を指先の薄皮から感じていた。そして、この件の使い方も……感覚的にわかる。

 剣から溢れ出る神気をじんわりと大気中に放っていくと、徐々に白い霧を形成し始める。

 その最中、つい俺は敵から目を離してしまうほど、赤く錆びた剣を注視してしまう。

 

「なッ!? ボーッとしてないで避けなさい北斗ッ!!」

 

 気付けば人形達が一斉に襲いかかってきていた。すぐさま霊夢が罵声に近い忠言を飛ばしてくるが……その声は尻すぼみに小さくなっていく。まあ、無理もない。俺だって、本当にやれたことに驚いていた。

 人形達の槍や剣が自分自身の身体を通り抜けていく。

 不思議な感覚だった。痛みどころか感触すらない。いや、そもそも呼吸、心臓の鼓動に至るまでまったく感じなかった。ただ、強く自分の身体をイメージしていないとそのまま霧散してしまいそうな恐怖だけが身体を支えていた。

 

「北斗、それは……」

「香霖堂の店主が使っていた妖術……!」

 

 火依とアリスさんがそれぞれ驚きの声を上げる。天井近くで高みの見物をしていた魔理沙も苦い顔をしていた。

 なるほど、霖之助さんと戦った時に霧の中でまったく姿を捉えられなかったのはこういうことか。

 今の俺は全身が霧に溶けてしまっていた。

 確かに霧そのものになってしまえば攻撃は絶対に当たらないだろう。そして……霧が届きさえすれば誰にも気付かれずに、移動出来る。

 

「ッ……逃げなさい魔理沙!」

 

 いち早く気付いたパチュリーさんが声を上げるが、もう遅い。俺は魔理沙の目の前で霧から実体化し、黒い本目掛けて柳刃の剣を斬り下ろす。

 不意打ちは完璧だった。だが結果は本の表紙に僅かな切り傷を付けただけに留まった。剣の切れ味を加味しても、明らかに俺のミスだ。

 おそらく魔理沙の手を切らないよう僅かに踏み込みを緩めたせいだろう。自分の甘さが嫌になるな。

 

「ッ……北斗、お前はッ!」

「全部知ってるッ! 早苗から聞いたッ!」

 

 魔理沙の台詞に被せるように言いながら、空中でよろめく彼女に追撃のお札を投げつける。

 直撃寸前で躱されるが……やはり連戦もあって魔理沙の動きはキレを欠いていた。それに箒がない分、機動力も失われている。弾幕ごっこ巧者の魔理沙でも、この状況なら……!

 間髪入れず近付き、踵を思いっきり振り下ろす。魔理沙は両腕でそれを受け止めるが……衝撃を殺しきれていない。そのまま振り切り下へと吹き飛ばす。

 霧を裂きながら魔理沙が落下していく。だが、それでも悲鳴の様な叫びを止めない。

 

「だったらなんでだよ!? 死ぬんだぞ、霊夢は!」

「その霊夢が選んだからだ! 俺は……霊夢が望むままに、霊夢が泣かない明日が欲しい!」

「……それがおかしいって言ってんだよ!」

 

 魔理沙は自由落下で下へ逃げながら、レーザーを連射してくる。弾幕の密度が高い。防げるか……? いや……それよりも!

 俺は再度身体を霧にしてレーザーをやり過ごす。便利なのこの上ないが、眉間を撃ち抜かれても平気なのは流石に違和感があった。

 落下していく最中、魔理沙がこちらを睨んでくる。霧化して俺の姿が見えないはずなのに、だ。

 

「お前は……お前はッ! ずっと隣に居て欲しくないのか!? 一緒に生きて欲しくないのかよ!? お前の気持ちは……どこにあるんだよ!?」

 

 そう訴えかけてくる魔理沙の顔は今にも泣き出してしまいそうなほど、しわくちゃだった。

 きっと普段なら強がって帽子で表情を隠していただろう。努力や弱さを曝け出すことに人一倍抵抗があるはずの魔理沙が……今、ありのままの弱い自分を晒してでも、俺を止めようとしている。

 それが信じられなくて……信じたくなくて、目を逸らしたくなる。けれど、こういう時に限って絶好の反撃のチャンスが来てしまう。

 俺は歯を食いしばりながら、霧化を解きお札を投げる。

 

「それは……ここにある! だからここにいる! 『現想「夢葬回帰」』!」

 

 七つの否定結界を周囲に展開。その一つを掴み真下へと投げ放つ。

 否定結界なら幻想のモノ……魔法で作られた障壁を貫けると踏んだのだが、否定結界は突然横合いから飛んできた本棚にぶつかり霧散してしまう。

 

「ッ……邪魔だッ!」

 

 思わず悪態を吐く。アリスさんかあるいはパチュリーさんの仕業か……確かめる余裕はない。もう既に巨大な光線が本棚を砕きながら迫ってきていた。

 マスター・スパーク! 霧化は間に合うか分からない。夢葬回帰で相殺する!

 残りの六つの結界を纏めて叩きつけると、真っ白な閃光が辺り一面に弾けた。相殺しきれなかった光線の一部が左肩に突き刺さるが、構ってられない。今は苦痛の声を上げる暇も惜しかった。

 魔理沙の気持ちはわかる。痛いほどわかる。けれど、もう選んだ。俺は……俺の想いじゃなくて霊夢の望みを。もう後戻りは出来ないんだよ!

 

「魔理沙ッ! お前を止めてこの異変を終わらせる! たとえ誰かのためだとしても、これは紛れもなく俺の気持ちだ!」

「わからない、わかんないよ北斗ッ! なんでお前はそれを選んじまったんだよ!? 早苗の言葉は届かなかったのかよッ!?」

「……ッ!」

 

 ……届かなかった訳じゃない。今だって迷いを押し殺している。だから……引っ張り上げようとしてくんな!

 俺は吐露しそうになった言葉を唇の端を噛んで封じ込める。そうして滲んだ血が舌の根を僅かに潤した。

 

「だったら……なんで最初から言ってくれなかったッ!! 頼ってくれなかったんだよ!? 魔理沙が間違ってないなら……こんな手段取る必要なんてない!」

 

 気付けば魔理沙への問いを勝手に口走ってしまっていた。一人で抱えて責任を取ろうとするのは俺の悪癖だと自覚しているのに、だ。

 木っ端と埃の中を無理やり通り抜けると魔理沙が黒の本を広げ待ち構えていた。それを見て、本に気をつけろ、という咲夜さんの助言を思い出す。

 

「これしかないから、こうするんだよ……勝手に諦めて納得して! 間違ってるってわかってるのに突き進んじまうお前に、何を言えばいいってんだよ!」

 

 魔理沙が叫んだ瞬間、左前から目も開けられなくなるような光の奔流が煌めく。先とは比べものにならない程の大規模な破壊の光だ。回避も防御も間に合わない。

 直撃を覚悟して『デミ・リザレクション』を起動させようしたその時、誰かに背中の真ん中を押される。冷たくて、小さな手だ。

 

「北斗が間違ってるって勝手に……」

「アンタが決めないでよッ! 『夢境「二重大結界」』!」

 

 背後から聞こえた声は二つ。振り向く間も無く、俺の首の横から小さな手が前に突き出される。瞬間、周囲に陽炎が立ち昇り、瞬く間に八芒星の結界が張り巡らされた。

 結界は激しい閃光と轟音を立てながら迫り来る光の波濤を受け止める。俺はその結界を両手で支えながら二人の名前を呼ぶ。

 

「……霊夢、火依!」

「止めよう、私達で魔理沙を! 私は誰が正しいかなんてわからないけれど……北斗と霊夢が望むなら、それが私の答えだから!」

 

 そう言いながら火依がグッと俺の肩口を握りしめる。それは息が詰まりそうなほど力強くて……自然と背筋が伸びた。

 火依も、俺と同じように全部知りながら手伝ってくれている。それが心強くて……俯きかけていた思考が上向いていく。

 俺はいつの間にか残り僅かになったお札を掴み、弾丸型の否定結界を作成する。左手のスナップで弾倉を開き、装弾する。そして……息を一つ吐く。

 

「霊夢、俺は……」

「ねえ北斗。私、間違ってるかな」

「………………」

「ううん、間違っててもいいの。だから……約束、守ってね」

 

 掠れるような懇願の言葉尻に、霊夢が柏手を打つ。すると一瞬の内に結界とマスター・スパークが弾け消える。

 ……風花の中でした約束が唇の痺れるような痛みを幻出する。血の味が不快で、それでもつい確かめるように傷を舐めてしまう。

 

「……感傷的になってる場合かよ」

 

 俺はシリンダーを銃身に思いっきり叩き込み、気持ちを切り替える。そして火の粉と光の残滓が舞う中、俺は再度真下に向かって急降下する。

 魔理沙は床に血溜まりを作りながら立っているのがやっとのようで、全く移動してない。距離を詰めて高火力を押し切れば……!

 が、すぐさまパチュリーさんとアリスさんが回り込んでくる。二人とも険しい表情をしていて、道楽なんかじゃなく本気で魔理沙の味方をしているのだと伝わってくる。

 

「これ以上、行かせない。スペル発動、『木符「グリーンストーム」』」

「特に、遅れて来た奴はね! 『注力「トリップワイヤー」』!」

 

 パチュリーさんが風の魔法陣で霧を吹き飛ばすと、アリスさんが空間に幾重もの繰り糸を張り巡らせる。まるで大図書館に巨大な蜘蛛の巣が出来たような光景が広がっていた。

 霧での移動を封じた上での足止めの罠。時間稼ぎを目的とした布陣だ。だからこそ止まるわけにはいかない!

 俺は吹き飛ばされないよう空中で踏ん張りながら、スペルを発動させる。

 

「……無理やり突破する! 『禄存「三界幽鬼」』!」

 

 身体から甲殻が浮き上がり、熱い血脈が駆け巡る。この瞬間、俺はキメラ、吸血鬼、そして無意識の、三つの力を同時に発動させた。

 身体への負担が大きいため僅かな瞬間しか使えないが……キメラの甲殻と吸血鬼のパワーとスピード、そして無意識によるステルス、全て力を同時に振るうことができる!

 

「オオオオッッ!!」

 

 俺は衝動のまま獣の咆哮を放つと、風と繰り糸を引き千切りながら魔理沙に突貫する。それに反応して人形達がレーザーを放ってくるが無視する。あの程度の火力じゃ甲殻を貫けないだろう。そもそも当たるつもりもないが。

 スペルの効果が切れるギリギリのタイミングで、俺は風と繰り糸の領域を突破する。

 変身が解けていく中、俺は残骸と埃を巻き上げながら床に着地する。ちょうど魔理沙の目の前だ。顔を上げると、金色の瞳と視線が交差する。

 

「ッ……魔理沙ァ!!」

「北斗ッ!!」

 

 だが、それも僅かな間でしかない。次の刹那、俺と魔理沙はそれぞれ銃と本を突きつけ合っていた。

 

「『貪狼「一天雨弾」』!」

「『魔砲「ファイナルマスタースパーク・バースト」』!

 

 宣言を聞いたが最後、俺は一面真っ白の無音の世界に降り立った。互いの全力の一撃による衝突が、自分の手元すら見えなくなるほどの光を生み出していた。

 凄まじい衝撃のはずなのに、そんな感覚はあまりない。ただ肌が痺れる様な痛みだけが全身を苛んでいた。特に耳がドクドクと波打つ様に痛い。恐らく鼓膜が破れたのだろう。

 だが、一歩も引かない。死んでも引く気はなかった。もう時間がない。この一撃で繰り返した幾度もの時を終わらせる。そして、全てを終わらせる……!

 

 

 

 

 

 不意に、身体中の痛みが消えた。そして、誰もいるはずもない白い空間の中でそれと対峙する。

 赤黒い髪をなびかせ、爛々と光る目をこちらに向けている。その左手には黒い本。表紙に傷のついた古びた本を持っていた。

 その姿を目の当たりにして、俺は愕然としてしまう。

 まるで恐怖を擬人化したような、とても少女とは呼べない姿をした……悪魔が、目の前で涙を流しながら口が裂けるほどの笑みを浮かべていた。


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