東方影響録   作:ナツゴレソ

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68.5 鬼ごっこか、かくれんぼか

「弾幕ごっこ……?うん、いいよー!」

 

 唐突な申し出だったけれど、こいしは素直に頷いた。私はこいしの心は読めないけれど……我が妹は意外と弾幕ごっこが好きなようだ。つい先日も地上で色んな相手と戦って一躍時の人になった!と当人から嬉々として話されたものだ。

 心を閉ざしているというのに、有名になってみたかったというのはおかしな話しだけれど……こいしが心の底では人間好きだという証拠かもしれないわね。

 

「さとりさん、いいんですかここでやらせて。また地霊殿が壊れてしまいますよ」

 

 なんて思いながら目を細めていると、空中へ浮かび上がるこいしとフランドールさんを指差して、北斗さんが慌てたように聞いてくる。心配性ねぇ……

 一応鬼の作った建物だからそれなりに頑丈には作ってある。広さも十分だし弾幕ごっこくらいはできるでしょう。けれど、北斗さんはフランドールさんの能力を考慮して尋ねてきたようだ。

 

「大丈夫よ」

 

 『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』……確かに危険な能力だとは思う。フランドールさんがやる気満々なのに対して、北斗さんとレミリアさんは不安そうだ。心を読まなくても表情で分かる。けれど……私はそこまで心配はしていなかった。

 

「地霊殿は壊れてもすぐ直せるもの。それに……フランドールさんは自分の力を制御する自信があるみたいよ?」

「フラン……!」

 

 堪えきれなくなったようにレミリアさんが、小さな声で妹さんの名前を呼ぶ。

 ただ心配しているように見えるけれど、レミリアさんの心の内はもっと複雑だ。力を制御する為に努力をしていた妹さんを、一番近くで見ていたレミリアさんの心中は揺れ動いていた。

 姉として誰よりも信じてやりたい気持ちと、いざというときには力づくでも止めないといけないという、覚悟が渦巻いている。長年生きていると言われている吸血鬼だけれど、意外と精神面も見た目通り未成熟なのかしら?意外と愛嬌があるじゃない。

 

「……なんて、偉そうな口出来ないわね」

 

 私だって以前の異変の時に、こいしのことで平常心を保てなかった。今もこいしが怪我しないか心配ではある。ま、非情な姉よりかよっぽどマシなのかもしれない。そう思えるようになったのは、つい最近のことだけれど。

 

「それじゃあ、行くよ!『禁忌「クランベリートラップ」』!」

「さあこーい!『表象「弾幕パラノイア」』!」

 

 二人が同時にスペルを発動させる。四つの魔方陣がこいしを遠巻きに囲んだの対して、フランドールさんの周囲には靄のような光弾がまとわりつく。

 四方から飛んでくる弾幕を空間目一杯使って避けるこいしとは対照的に、フランドールさんの方は大きな動きを封じられて、細やかない動きで弾幕を躱していく。

 対照的な動きを強要されるのスペルカードだけど……私にはそれがどこか似ているように思えた。

 

 『ずっと部屋に閉じこもり孤独だったフランちゃんと、心を閉ざし自ら孤独の道を歩んだこいし……今、その二人が弾幕ごっこをしているというのは感慨深いものがあるな』

 

 ふと心を覗くと北斗さんが心の声が感嘆を漏らしていた。まるで自分が無関係のような言い草だけれど……こいしを助けたのも、おそらくフランドールさんを助けたのも彼だというのに、ね。

 北斗は……人間なのに、他人の心に対して過敏だ。だからこそ、共感する。身体が動いてしまう。北斗が異変に巻き込まれる理由には、彼の能力以上に、彼の性格が関係している気がしてならなかった。

 

 

 

 こいしとフランドールさんの弾幕ごっこは苛烈を極めていくが、危険な様子はない。私は空中を舞う二人から目を離さないようにしながら、隣で心配そうな顔で見ている北斗さんに向けて話しかける。

 

「北斗さん、貴方がここに来たのは二人の案内だけじゃなく、何か聞きたいことがあったのでしょう?」

「え、ええ……そうですけど、今するんですか?」

「早い方がいいと思いまして……ぬえさんの話を聞きたいんですよね」

「その通りです……本当に、話が早くて助かりますよ」

 

 北斗さんは笑いながら頭を掻いた。心の底からそう思っているんだから、本当に面白い人だ。

 大抵の人は心を読まれることに対して抵抗を持つ。例え心を読まれても平気だと思う人でも、変なことを考えてしまって、見透かされてしまうのではないかと不安になったりする。

 事実初めの内は北斗さんもそうだった。それでも何度も来てくれて、心の中で説教してくれるくらいには慣れてくれた。それが嬉しくて、私は……

 

「さとりさん?突然黙ってどうかしましましたか?」

「えっ!?いえ、何でも……」

 

 北斗さんが不思議そうに私の顔を覗き込んでいた。随分顔が近い。しまった、つい黙り込んでしまっていたようだ。ついでに何の話をしていたか忘れかけてしまっていた、私は我ながらワザとらしい咳払いをして取り繕う。

 

「ぬえさんに関しては地底に封印されていた頃しか知らないのですが……精々悪戯をすることがあったくらいで、そこまで目立つような存在ではありませんでした。悪戯なんて旧都では日常の事ですし」

「封印……そういえば、華仙さんがここを流刑地と言っていました」

「ええ、その通りです……ぬえさんが何をしたかは知りませんが……地上で生きることは叶わなかったのでしょうね」

「そう、ですか……」

 

 北斗は肺切れの悪い返事を返すと、再び空中で弾幕ごっこをする二人に目を向ける。

 どうもはぬえさんのことが気になって仕方ないようだ。しかもt 自分に何をしたか、ということよりも彼女の在り方の方に興味を持っているあたり……本当彼らしい。

 そんな興味本位で妖怪にちょっかいを出していると、また厄介事に巻き込まれてしまいそうで心配なのだけれど。

 

「やれやれ……」

 

 北斗さんは自分のトラブル体質を能力のせいだけだと決めつけているみたいだけど……自分の性格もそれに加担していることを自覚したほうがいいわ。ま、口に出して言ってあげないけど。

 

「鬼さんこーちら!手のなる方へ!」

「また消えた!?こうなったら絶対捕まえて見せるんだから!!」

 

 『禁忌「フォーオブアカインド」』で分身したフランドールさんが、無意識を操り現れ隠れするこいしと鬼ごっこをしている。どちらかというとかくれんぼかしら?ま、何にせよ二人とも楽しそうで何よりだけれど。

 

「……きっと、フランドールさんが願った通り、二人は友達になれるでしょうね」

「ええ、そうですね」

 

 私の言葉に北斗さんが心底嬉しそうに頷いた。まるで自分のことのようだ。

 ……北斗さんには感謝している。きっと、昔のままのこいしのままだったら友人も出来はしなかっただろうし、私との仲も変わらなかっただろう。

 けれど……少し不安にも思ってしまう。いつか、お節介が過ぎてしまい、取り返しのつかないことが起きるんじゃないか、と。そして、それすら勝手に背負って、破滅するんじゃないか、と。

 

「……やっぱり北斗さんをペットにする計画を推し進めた方がいいかもしれないわね」

「えっ、何か言いましたか?」

「いえ……何も」

 

 私はつい口を突いてしまった独り言をなんと誤魔化す。問題を起こさないように見張る意味もあるけど……彼は仕事熱心らしいし料理も上手い。

 そして何よりこいしのためにも是非地霊殿に住んでもらいたいわ。私は胸の中で燃え上がる野望を堪えきれず、握りこぶしを作った。


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